最後の龍討
キープの作戦はシンプルだった。
ドラゴンゾンビが光属性に弱いなら光属性で一気に攻めてしまえばいい。
レジーナが神聖龍であり、ブレスは光属性に該当する。
ミラの『輝剣』は浄化の性質を持つ。
キープの『昇天』も光属性に当たる。
アリアの魔法が解除されるなり、それぞれがドラゴンゾンビに向けて技や魔法を放った!!
速度の関係もあり、最初にドラゴンゾンビに到達したのはミラの『輝剣』だ。
輝やく巨大な光の柱がドラゴンゾンビに向かって振り下ろされる!!
意表をつかれたドラゴンゾンビは躱すことも魔法での相殺も出来ず、両翼で身を隠すようにガードした。
ズズン!!
輝く剣閃がドラゴンゾンビを縦一文字に切り裂いた!!
……だが、その巨体を支えるだけあって翼は余程強靭に出来ているようだ。
ミラの『輝剣』はドラゴンゾンビの翼を切り落としたものの、本体にはほとんどダメージが入っていない!
グオォォォォォォォン
痛みからか大きく咆哮するドラゴンゾンビ。
その足元から光の奔流が立ち昇る!!
キープの『昇天』だ!
強大な光の流れに巻き込まれドラゴンゾンビの巨体が焼き尽くされていく……。
光が収まると、青かった体を黒く変貌させ立ち尽くすドラゴンゾンビ姿があった。
体中からプスプスと煙が上がっている。
そこへレジーナから放たれた黄金のブレスが襲い掛かる!!
……ドラゴンゾンビが目玉のない目をカッと見開くと、
ガァァァァァァ!!
呼応する様にドラゴンゾンビも口からブレスを吐きだした!!
どうやらレジーナのブレスを脅威と察知して構えていたようだ。
ドラゴンゾンビから蒼く輝くブレスが吐きだされ黄金のブレスとぶつかり合う!!
しかし、立て続けにダメージを受けて回復する前だったためか、ドラゴンゾンビの蒼いブレスが黄金のブレスに押されていく……。
そして……ドラゴンゾンビのブレスは押し切られ、その体は黄金の流れに飲み込まれていった!!
そして光が収まると……足だけ残して残りを全て吹き飛ばされたドラゴンゾンビの姿があった。
「や、やった!」
「よっしゃ! やったぜ!」
ナシュとクルサが手を取り合ってシャンプして喜ぶ。
アレスに抱きかかえられ助けられたハマルも、
「よ、ようやくですか……まったく……」
弱々しくもホッと息をついている。
その姿は全身焼け焦げていて、白かった肌は黒くなり焼け焦げた蔦が巻き付いている。
美しかった金髪も炎により縮れたり変色している。
「待って下さい。 今回復を……。 神の祝福により御身を穢れなき正しき姿に……輝く慈悲の手にその身を委ねよ。 『大回復』」
駆けつけたマタルがたどたどしくも魔法を唱えるとハマルの傷が治っていく。
カペラも斧を地面に降ろし、ベガとアルタイルは背中合わせで地面にペタリと座り込んだ。
「うまくいって良かったわ……」
アリアも安堵している。
「キープ」
いつの間にか龍人の姿になったのか、レジーナが長い銀髪を翻しながら歩み寄ってくる。
「すまなかった。 本当に……色々助かったのじゃ」
「いえ、僕達こそ助けられましたし……」
そんなキープの言葉に不服そうな顔をすると、
「またお主はそう言う……そんな時は素直に『どういたしまして』とでも言うておけばいいのじゃ!」
そんな時、キープの後ろをミーシャが走っていく!
「?」
何だろうと振り返るキープの目に飛び込んできたものは……。
ボコッボコボコ……。
残った足から再生しようとしているドラゴンゾンビだった!!
「そんな馬鹿な!」
ミラが慌てて剣を構える。
既に足は復活しており、腰を構築しようとしている……驚異的な回復スピードだった!!
キン!!
スカートのクリスタルを取り外し『聖域』を壊すと、ミーシャが『魔の力』を取り込み始めた!
「ミーシャ! 駄目!!」
キープが鋭く叫ぶも、
「大丈夫! 『魔の力』はほとんど吹き飛ばされて、今はほとんど残っていないから!」
ミーシャが両手を突き出して『魔の力』を吸収しながら叫ぶ。
「それに何度やっても復活するならお兄ちゃん達が死んじゃう! 私はそんなの見たくない!!」
「ミーシャ……」
そうして、ミーシャが『魔の力』を取り込んでいくと……ドラゴンゾンビの再生スピードが遅くなっていく……。
そして……首まで再生したところで、遂に再生が止まったのだった……。
「もう大丈夫であろう」
レジーナがドラゴンゾンビを確認してそう告げた。
そしてミーシャの元に歩いていくと、その頭に手を乗せて目を瞑る。
「え? ええ?」
目を白黒させるミーシャに、……しばらくして目を開けると、
「まだ、平気じゃろうが……これ以上『魔の力』を取り込まない事じゃ。 お主だけではない、お主の大好きなキープ達にも影響が出てしまう」
そう言ってミーシャの目を見る……ミーシャの瞳もキープ同様に紅色だったが……少し黒みがかっている。
(今のところはこれぐらいか……しかしこれ以上影響が出ると……)
レジーナはそう思うとキープを見る。
キープはミーシャに『聖域』を掛け直している。
(あとであ奴にも伝えておかねばな……)
そう思った後、キープ達全員に向かい声を上げた。
「みな、本当にすまない。 皆のおかげで先代が世で暴れる事もなく、また龍種の汚点も払うことが出来た。 心から感謝する」
全員に向かって深々と頭を下げる。
「レジーナ、そんなことしないで下さい」
キープが歩み寄ると、レジーナの肩に手を置く。
「レジーナも僕達の大切な仲間です。 仲間を助けるのは当たり前なんですから……」
キープの言葉に、ナシュ達も全員微笑みながら頷く。
「お主等……」
レジーナが顔を上げる……潤んだ金色の瞳から雫が垂れて……地面に落ちる。
「レジーナも泣くのね」
ナシュの言葉に、
「う、うるさいのう! 誇り高き龍でも泣く事ぐらいあるのじゃ!」
顔を赤くして照れるとそっぽを向くレジーナ。
ザザッザー。
急な音に皆が驚いてそっちに目を向けると……ドラゴンゾンビの体が砂と化して崩れていくところだった。
「これで……やっと先代も眠ることが出来た。 先代様すまぬ……余の力不足で……」
崩れ行くドラゴンゾンビを見ながら、レジーナがそっと呟いた。
皆は砂と化した先代に目を閉じて黙祷を捧げたのだった。




