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新たなる命

少しだけ説明回です。


「ッククク、そう怒らないでよ~。 ちょっとした冗談なんだから~」


笑いを堪えようとして堪えきれていない少女をナシュはじろりと睨み、


「あのねぇ~、いきなり初対面の人にする事じゃないでしょ! しかも村長なら!」


そう言うとプイと横を向いた。




先程の部屋とは別の部屋で少女とナシュ達が話をしていた。

すでに穴からは出されており、対面で向かい合っている。


ちなみに椅子などはなく、木の床に藁を敷いた簡易的な座布団みたいなものに座っていた。



「いや、お客人なんて久しぶりでね。 私悪戯が好きなんだけど、村の人達はもう警戒しちゃって引っかかってくれないのよ」


(そりゃそうでしょうね……)

ナシュは今だ口角を上げて体を震わせている少女に視線を戻す。


「えと、エデン森林エルフ群の村長さんで宜しいでしょうか? 私はエルフの森エルフ群の女王エニフの娘マタルと申します」


埒が明かないと踏んだのか、マタルが自己紹介を始める。

それを聞くと少女は笑いをピタリと止めてマタルをまじまじと見ると、


「エニフの娘か……ずいぶん大きくなったものね」


少女が急に大人びた話し方に変わる。


「え、私をご存じなので?」


マタルの言葉に、


「ええ、……まずは私の事を話しした方が良いかしらね」


少女が自己紹介を兼ねて話始める。



「私の名前はルクバと言います。 このエルフの村の村長とは言いましたが、この体に生を受けてからはまだまだ若輩者の身です」


それはそうだろう……ルクバはどう見ても少女の姿だ。


「ただし、私は生前の記憶を持って転生した生まれ変わりです」


「生まれ変わり!!」

マタルが大声で叫んだ。


そんなマタルに視線を向け、

「そう、同じエルフのあなたならご存じだと思いますが、エルフは輪廻転生を主としています。 自然がそうであるように、私達生ある者もそうあるのが自然の姿」


一旦言葉を切って目を閉じると、


「その輪廻転生に深く関わったとされるのが生まれ変わり。 生前の記憶を持ったまま、再度その魂が新しい命に宿る。 完全なる転生の形とされます」


目を開けると、

「私はこの村の前村長です。 その時の記憶を持って転生しました。 そこでこうして生まれかわった後も村長をしているのです」


マタルが興奮して、

「すごいです! 生まれ変わりは自然に愛された選ばれし者であると聞いたことがあります!」


ルクバは微笑む……姿が少女なのでニッコリと、

「ありがとう。 これも自然の恩恵なのでしょうね」

しみじみと呟く……と、



「さて! みなさんは何か買い付けに来たのでしたよね~?」

話題を変えると再度少女の話し方になる。


「え、ええ。 『生命の水』と言う霊薬をいくつか買わせて頂きたいです」

急激な変化に戸惑いながらアルタイルが伝えると、


「ええと、買うのは良いのですが、『いくつか』ですか? 1個でも相当な値段しますけど……」


「それは大丈夫です。 国が立て替えてくれるので……」

アルタイルが懐から契約書を差し出す。


それにサッと目を通すと、ルクバは顔を上げてまた大人の話し方になる。

どうやら真剣な時はこうなるらしい……どっちが地なのかは分からないが。


「確かに……しかし国がこれほどしてくれるとは……。 しかも『生命の水』は1個でも十分な効果があります。 それを複数必要とするなんて……宜しければ理由を訊かせて頂いても?」

鋭く瞳を光らせる、どうやら見極めも兼ねているらしい。



そこでナシュは包み隠さず話すことにした。


大事な仲間のキープが、生命力を魔力に転化して国と自分達を守ってくれた事。

それから目を覚まさない事。

ミモザ王女から提案されてここに来た事。


一通り話を聞き終わるとルクバは目を閉じて腕を組んで考え始めた。



……それから三分程経って、ナシュ達が心配になり声を掛けようとしたところで目を開ける。



そして一言、

「『生命の水』では目を覚まさないかもしれません」


「え?」


「魔力とは何かご存じですね? 自然エネルギーが身体に吸収され溜まった物。 なので吸収しづらかったり、吸収しても蓄えられず放出される様な方は魔力がない……つまり魔法が使えないと見なされます」


それはエニフにも教えてもらった話であった。


「『生命の水』が何かと言うと、ずばり自然エネルギーを凝縮したものなのです。 これを直接取り込むことで魔力に変換できる様調整したものになります」


「えと、つまり?」


「『生命の水』は生命力……つまり生命エネルギーとは別である自然エネルギーだということです」


「じゃ、じゃあ『生命の水』をいくら取り込んでもキープは……」


「……恐らく目を覚まさないと思われます」


ショックを受けるナシュ達に言い辛そうに伝えるルクバ。


「そんな……」

ナシュは視線を膝に落とす……やはりレジーナが戻るのを待つしかないのか?

もう戻ってきてくれれば良いけど……どうなのだろうか?



気落ちするナシュ達にルクバが真剣な表情で問いかけた。


「……危険ではありますが、一つ……恐らくこれなら目を覚ますのではと言う方法があります」


「……え?」


急な提案に全員が顔を上げてルクバを見る。


「先程もお伝えしたようにエルフは輪廻転生を主としてその生を全うしております。 つまり死んだ命はまた命に変わり巡るという事です」


ルクバは言葉を選びつつ話す、恐らくナシュ達にも分かる様に説明してくれているのだろう。


「ここからは憶測や想像も入るのですが……恐らくそのキープさんと言う方は、ご自身の命を……例えば半分使ったような状態ではないかと思われます。 完全に使っていればお亡くなりになっていると思いますが、呼吸などはしてらしているとのことですので」


「命を……半分……」


「そうすると、先ほどの話になるのですがキープさんの使用された半分の命は、転生……新たな命を繋ぐべくそちらに流れたのではないかと考えます」


「ええ! じゃあ半分の命はもう転生に使われちゃったってこと? 取り戻せないんですか?」


ルクバは首を横に振ると、

「使われたかどうかまでは分かりません。 ただ命を使用したというのであれば、その使われた命は生を全うしたと見なされているのではないかと思われます」


「先程も言いましたが……憶測や想像ですが……」と付け加える。



「じゃあ、どうすればキープは目覚めるのですか? 足りない命をどうすれば!」

食いつくようにすがるナシュに、


「そこで今回のお願いになるのです。 危険なお願いに……」


ルクバはナシュ達の顔を見回すと、

「足りなくなった命は命で補うしかないでしょう、その為にもあなた達には転生から外れた命を集めて来てもらうしかありません」


「転生から……外れた命?」


「そうです……つまり」

ルクバは真剣な面持ちで、


「エデン森林に留まる、キャラコの亡霊達を倒して来ていただきます」


そう告げるのだった。



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