新たなる氷狼戦・続
「はぁはぁ……くそっ!」
プサイが肩で息をして膝をつく。
フェンリルは今だ全く衰えていない。
プサイが駆けつけた時こそ炎魔法で押していたものの、今はほぼすべてが相殺され炎も全て消されていた。
「俺を……舐めるなよ!!」
プサイは気力を尽くして立ち上がると、
「『爆炎』!!」
フェンリルを中心に魔力が集まり……フェンリルはそれを察知して素早く移動する!!
魔力が集約し一気に爆発!!!
周りに爆風が吹き荒れ全員を熱風が襲う!!
爆発が収まると、周囲の雪や氷は吹っ飛び地面が露出していた。
フェンリルは……直撃は回避したものの左前脚がズタズタに引き裂かれ血が噴き出している!!
完全に回避は出来なかったようだ。
「ざまぁ見ろってんだ! ハハッ」
それだけ言うとプサイが倒れ掛かる!
「プサイさん!」
傍にいたキープとミューが支えると、
「悔しが……お膳立てはしてやったんだ。 後は何とか……しろよ……」
魔力を使い果たしたのかそのまま気を失ってしまった。
気を失う直前まで上から目線だった。
フェンリルはプサイにやられたのが余程頭に来たようでキープ達に向かって口を開く!
先程から使い始めた風雪によるブレス攻撃だ。
「させないよ!」
カペラが下顎を両手斧で跳ね上げた!!
開いた口が閉じられる!
フェンリルはすぐさま顔を振ってカペラを弾き飛ばした!
再度キープ達に向かってブレスを吐こうとするが、その時にはキープが詠唱を終えていた!
「『神界』」
フェンリルの口から猛吹雪がうねる様に吐き出されキープ達に襲い掛かる!
光の膜で覆われたキープ達を凍えろとばかりに氷点下の風雪がその姿を覆い隠した!
一方で、ブレスを吐いている無防備な身体にナシュ達が襲い掛かる!!
カン!
ガガッ!
弾かれても何度も切りつける!!
「はぁ!!」
ミラの剣が氷と毛を切断して腹部を薄く切り裂き、ロードの剣もようやく氷を貫き後ろの右脚に傷をつけた!
「ナシュ!!」
「分かったわ! スカーレット!!」
ミラの声と共にナシュが剣に炎を宿す!
「てやぁー!」
ミラが切り裂いた場所にスカーレットを差し込んだ!!
フェンリルの腹部から炎が巻き起こる!!
「やった! これで……」
喜ぶナシュをもがき苦しむフェンリルが後ろ脚で薙ぎ払った!!
まるで小石の様に跳ね飛ばされて木に叩きつけられる!
「ナシュ!!」
マタルが駆け寄ると体のあちこちが折れ曲がり、骨が飛び出ている。
ナシュの方も気を失っているようだ。
「『中回復』」
マタルが魔法を掛けるが治りきらない!
そしてその間にも、
「ベガ!!」
ベガをかばったアルタイルが尻尾に叩きつけられる!!
「アルタイル!!」
アルタイルは地面に倒れ伏しておりピクリとも動かない、彼女の下に血だまりが出来ていく……。
一方キープの方は、『神界』のおかげでブレスの直撃は避けたものの、雪や氷がかまくらの様になり動けなくなっていた。
このまま『神界』を解除すると雪に埋もれてしまう。
しかしキープもミューものしかかる雪をどうにかすることが出来ない……。
「プサイ起きて! プサイってば!」
ミューがプサイに呼び掛ける。
確かにプサイの魔法なんとかできるだろうが……。
「そういえば、エーテル持ってる!」
キープが腰の布袋からオレンジ色の液体を取り出す。
試験管の様なガラスの容器に入ったそれはちゃぽちゃぽ音を立てた。
エーテルとは魔力を回復する薬であり、ポーション同様冒険者達の常備薬の様なものである。
ただし目に見えない魔力と言うものを回復するため、どこまで回復できたかは本人しかわからず、また回復量も人ぞれぞれ。
ちなみにキープだとほんの少ししか魔力回復出来ないが、それでもないよりは……と言う感じだった。
「ごめんなさい! それ貰ってもいいでしょうか?」
「もちろんです」
キープがミューにエーテルを渡す、ミューがプサイにそれを飲ませようとするが……。
「駄目……口からこぼれて……」
気を失っているせいか上手く飲ませられないようだ。
「……だったら!」
すると、いきなりミューが薬を飲み始めた!
「ええ!」
驚くキープの前で、ミューがプサイに顔を寄せ……キスをした。
「ん……」
ではなく、口移しでエーテルを飲ませているようだ。
プサイの喉が上下する。
「ぷはぁ!」
一通り流し込むとミューが口を離して大きく息を吸った。
心なしか顔が赤い。
そうして数秒後、
「クッ……ゲホッゴホッ!」
プサイが激しく咳き込むと、うっすら目を開ける。
「ぐっ! ここは?」
顔を歪めながらミューに尋ねる。
「ごめんなさいプサイ! 辛い所悪いんだけど雪に閉じ込められちゃって……」
「……全く……お前らは、俺がいないと何もできないのか?」
頭痛がするのか頭を押さえつつ体を起こすと、
「あまり魔力はなさそうだ……これでどうにか……『四方炎陣』」
膜を覆っている雪を四方から現れた炎が溶かしていく……。
ナシュのスカーレットにより腹部から炎が燃え上がったフェンリル。
熱さと痛さ、苦しさでもがいて地面を転がる!!
それによりロードとミラが巻き込まれて負傷していた……。
ロードは左腕を骨折し、ミラは右脚を折られて剣を支えにしてなんとか立っていた。
マタルはナシュに回復魔法を掛け続けており手が離せない状態になっている。
しかしそれでも、フェンリルがこのまま仕留められれば問題ないはずだった。
「ガルル……ガァァ!」
フェンリルが一声吠えるとフェンリルの真下に魔法陣が現れる!
「また『氷葬』!?」
魔法陣を見てわかるアリアが悲痛な声を上げる……今回はマタルの魔法も間に合いそうになかった。
食らえば全員氷漬けになるだろう……。
しかし、
「ワオォォォォン」
魔法が発動してフェンリルの腹部を覆っていた炎が氷に包まれた!!
ナシュによって傷つけられた箇所ごと炎を氷漬けにしたようだ。
「な、何て奴……」
呟くカペラ達をフェンリルが鋭く睨みつける!
さすがに激おこらしい。
そしてその時、キープ達がようやく閉ざされたかまくらから出て来た。
周りに倒れている仲間達を見て、慌てて魔法を詠唱し、
「『大回復範囲』」
ナシュやアルタイル、ロードやミラの傷が治る……しかし依然としてナシュやアルタイルは気を失っていて動かない。
「キープ! すまない助かった」
ミラがキープの傍に駆け寄ると、お礼を言った後そっと呟く。
「キープ、あいつの動きを止められるか? こうなったら私の『輝剣』を叩きこむしかない」
「分かりました。 止まるか分かりませんが、やるだけやってみます!」
キープとミラは目を合わせて頷いた。




