初めての勇者戦
【勇者パーティから手紙が来て3日後】
勇者達とキープ達はリカオン都市郊外の森の側にいた。
ここは都市からも少し離れており、付近に人がいることもない。
ここが勇者達が指定した場所であった。
勇者シリウスと聖女スピカ、剣聖サルガス、賢者リゲル、そして……、
「ロードさん……」
キープが呼びかける先にロードがいた。
キープの後ろにはアリアとミラがいた。
勇者側にいるロードを抜いても4人対3人、実力もランクも勇者パーティの方が段違いに格上だった。
戦闘になると勝てる見込みがない。
勇者シリウスが一歩前に出る。
「へ~どっかで見たことのあるやつだと思えば、娼婦として売り払ったやつじゃん」
聖女スピカも、
「あら?魔法解けちゃったのね。せっかく痛い思い出も忘れられたのに」
2人の言葉に激高したのがミラだ。
「貴様達、やはり本当に!!」
「なぁに?まだ私達のこと信じてくれていたの? 死にかけていたくせに何てお馬鹿さんなのかしら」
スピカが嘲る。
「ロードさん、大丈夫ですか?」
その横でキープはロードに呼び掛けていた……が、ロードは俯いて反応がない。
「こいつは余程お前らが大事だったみたいだぜ。俺達の仲間になる代わりにお前らを見逃せだとよ」
シリウスが懐から羊皮紙を取り出す。
「『魔法誓約書』これに書かせてまで誓約させてな。しっかり調べてサインしてくれたところ悪いんだが……」
シリウスがニヤリと笑う。
「これ偽物なんだよ。魔力がないこいつには見破れなかったみたいだけどな」
ロードをバカにして大声で下品に笑う。
「ロードさんを騙したのか!? 男の覚悟をそんな偽物で! お前らに誇りはないのか!!」
流石のキープもこれには切れて怒鳴りつけた。
いつもは怒っても全然怖くないキープだが、この時ばかりは可愛さはなりを潜めていた。
シリウス達への恐怖より、ロードの覚悟をバカにしたことが許せなかったのだ。
しかしシリウスは涼しい顔で、
「誇りねぇ~。ないなそんなもんは。それに……」
シリウスの顔が醜く歪む……笑っているのだ
「こいつを取り込んだのは、こいつにショーをしてもらうためだ」
「ショーだと?」
「面白いショーを見せてやるよ! ロード、お前のお友達のキープだ」
ロードが顔を上げる、目がうつろだ。
「シリウス! ロードさんに何をした!」
「ちょっと『ドール(人形)』の魔法を掛けただけさ。これで恐怖なく戦ってくれる戦士の出来上がりだ」
「なっ! よくも! 『マジックブレイク(魔力解除)』」
キープが素早く魔法を発動するが、
「無駄だ、対マジックブレイク用に『レジストマジック(魔法抵抗)』を掛けてある。お前が魔術師なのは魔力で分かっているしな」
キープの魔法はロードに届かない!
「さてと。ロード、お前のお友達のキープを……切り殺せ」
シリウスの声に剣をスラリと抜き放つ。
「ロ、ロードさん……」
うつろな目がキープを捉える。
「そんなことをすれば、お前たちの悪行も公開されるわよ!」
アリアが叫ぶ……冒険者には冒険者同士の殺し合い防止のため、カードに死亡時の音が保存される。
「俺達が何人のゴミを消してきたと思ってるんだ?」
シリウスがバカにしたように答える。
今までの悪行は全てもみ消してきたのだろう。そして今回のこれも……。
ロードが剣を構えた。
刹那キープ目掛け瞬時に間合いを詰めると剣を薙ぎ払う!
キーン!
キープに迫った剣は、ミラの『クラウ・ソラス』が受け止めていた。
「ミラさん!」
「大丈夫か?キープ殿」
ミラはロードから目を逸らさず、後ろのキープに声を掛ける。
「どの?」
シリウスが反応する。
「そいつ男か。なるほどなるほど、娼婦になれなかったんだな。店から追い出されたか」
1人納得したように頷く。
キンッ!
ロードの剣を跳ね飛ばし、ミラが剣の側面で強打しようとした瞬間!
今度はミラの剣が止められる。
「!!」
厳格そうな老人が剣を受け止めている……剣聖サルガスだった。
「サルガス!どけ!」
ミラはサルガスを怒鳴りつけ剣を力で押し切ろうとする。
「……常々お前と戦いたいと思っていた」
サルガスがニヤッと口の端を持ち上げる。
ミラはこの男の笑みを初めて見た。
「くっ、この戦闘狂め!」
サルガスは微妙な力加減で剣を受け流すと、半歩下がりながら剣を繰り出す。
半歩下がったことでサルガスの剣の間合いになり、受けになったミラは何とか剣の根元で斬撃を食い止めた。
「くっ!」
そのまま、サルガスが踏み込んで勢いのまま鍔迫り合いに持ち込む。
その勢いごと、後ろに跳躍しミラが距離を取る。
しかしそのせいでキープとの間に距離が出来てしまう。
「キープ!」
アリアもキープを助ける為魔法を詠唱していたが、
「漆黒の蛇よ、理を超え、牢獄に束縛せー……きゃあ!」
ロードに対して『バインド(束縛)』を唱えていたが、そこに炎の鳥が襲ってきた。
慌てて伏せたアリアの上を炎の鳥が通り過ぎる、それだけでかなりの熱気を感じる。
直撃すればローブごと体が燃え上がるだろう。
「燃え尽きろ!」
賢者リゲルが杖を振りかざす。
2体目の炎の鳥が出現する。
「もう! 邪魔しないで! キープが死んじゃうでしょ!」
アリアが素早く詠唱する。
「空を駆る冷厳なる翼、『アイスクロウ(氷烏)』」
アリアの魔法で創られた氷の烏が炎の鳥に襲い掛かり、お互いに空中戦を始める。
そうしている間にもロードがキープに近付いていく。
ミラはサルガスに、アリアはリゲルに止められている。
「ロードさん! 僕です、キープです! 目を覚まして!!」
声の限りに叫ぶ、魔法で解除できない以上、叫んで心に訴えるしかない。
「?」
一瞬ロードの動きが止まった……が、何事もなかったようにキープに迫ってくる。
ロードが走った! と思った瞬間、目の前にいた。
「ぐあっ!」
杖をぎりぎり剣の軌道に割り込ませたが、杖ごと胴を切り払われた!
わき腹が大きく切り裂かれる。
「『セ、セイントヒール(大回復)』」
苦悶の顔を浮かべて自分を回復する。
杖が無かったら胴体が上下に分かれていただろう。
しかし、その杖は叩き切られて次を防ぐことは出来そうになかった。
「ロードさん! しっかりして!! パーティ組んでくれるんでしょ!!!」
ロードが再び剣を構えてキープの方を向く。
キープの声に一瞬反応はあるが、それでも動作は止まらない。
「ロードさん!! 目を覚まして!! 魔法に負けないで下さい!!!」
あらん限りの声で叫ぶ!
ピクッと再び反応するが、やはり動きは止まらない。
「無駄無駄! そのままお友達の手で切られちゃえよ。 他のやつもすぐ送ってやるから安心しな」
シリウスが楽しそうに言うと、スピカも愉悦の顔で、
「目が覚めた時のロードの顔が目に浮かぶわ。自分で仲間を切り殺したと知ったらどう思うかしら?」
そんな二人の声に構わず、
「ロードさん、お願い! 目を、目を覚まして!!」
言い終わるや否やロードが剣を構えて突っ込んできた。
速度が先ほどより遅い、少しずつ魔法が解けかかっているのだろう。
ここで『何か』大きく感情を揺さぶる一言があれば解けそうだ。
ロードが剣を上段に構える。
(くっ、こうなったら……今だけ我慢してあげます!)
キープは手を組んで目を瞑って叫んだ。
まるで聖女の祈りの様な姿だ。
「ロードさん!」
剣が……
「愛しています!!!」
振り下ろされる!
鮮血が飛び散った!!




