新たなる王国兵
キャンプの後片付けをして旅を再開しようとした時にそれは起こった。
「一旦分かれる?」
予想していなかった言葉にキープが驚いて確認を入れる。
カペラとベガから一時的にパーティ離脱の希望が来たのだ。
「そうなの。 本当にごめんなさい」
カペラが申し訳なさそうにキープに告げる。
「いえ、急な話にちょっと驚いただけなので……。 それに何かしら理由はあると思うので」
「うん、実はね~」
ベガが語り始める。
「昨日の戦闘でアルタイルって弓を駄目にしちゃったらしくて……弦は代わりがあるみたいだけど、弓自体も攻撃を受けすぎて曲がっちゃったり破損したみたいなのね」
傍にいるアルタイルが申し訳なさそうな……困ったような顔をして立っている。
「私も見たけどちょっと修理は難しそうで……。 でも武器もないままだと危険だから、私とカペラで護衛してあげたいの」
元々仲のいいパーティメンバーであり、放っておけないのであろう。
「届け物したらすぐに追いつくから!」
カペラが両手を合わせてお願いする。
「あ、いえいえ。 大丈夫ですよ。 アルタイルさんは僕も心配ですし……ではお願いしますね。 王都で待っていますから」
「ありがとう、キープ」
ホッとしたようなカペラと、
「ごめんなさい。 うちのせいでこんなことに……」
少し気落ちしているアルタイル。
「気になさらないで下さい。 それにアルタイルさんのおかげで馬車の人達も助かったようなものですから」
キープの言葉に「ありがとう」と感謝を述べる。
「じゃあ、王都で待ってますね」
「うん、すぐに追いつくから!」
「気を付けてね」
「そっちも気を付けてね~」
お互いに言い合って、カペラ、ベガ、アルタイルの三人はリカオンへと向けて出発し、キープ達も王都に向けて歩き始めるのだった。
その後は順調に……キープやミーシャがナンパされるもロードに追い払われる……などはあるものの、特に問題なく歩みを進めていく。
そうしてカペラ達と別れて三日目の昼の事だった。
「そこのお前達! ちょっと止まるんだ!」
王都へ向けて旅しているキープ一行を、数名の王国兵が呼び止める。
街道から少し離れた所で簡易テントを張って何かしているようだ。
呼び止められたキープ達がそちらに行く。
「はい? なんでしょう?」
尋ねるキープに、
「今王都は厳戒態勢中だ。 王都に向かうならお前等の武器を確認させろ」
一人の兵士が上から目線で言ってきた。
その物言いにカチンときたのかナシュが、
「何のために武器を確認するっていうのよ? 大体旅しているんだもの身を守る武器を持ってて当然でしょ?」
「何だと貴様! 何だその言い方は!!」
兵士側も怒りだす。
「そっちこそ何様! いくら王国兵でも一般兵士の……」
言い争うとするナシュの前に手を出してロードが止めた。
「何よロード! 止めるっていうの?」
「そうだな、こんなくだらないことで言い争いをする必要はない」
「く、くだらないってあんたどっちの味方……」
ロードの言葉にナシュが反論しようとしたが、ロードは兵士を見ながら話を続ける。
「悪いが武器を見せるのは断る! どこの誰とも知らん馬の骨に見せる気はない!」
ロードは王国兵を睨みつける。
ロードの視線を感じてたじろぎつつも、
「な、何だと貴様。 一体何を……俺達を王国兵と知って……」
スチャ!
ロードが剣を抜き、
「そんな茶番はいらん。 お前らが王国兵でない事は一目瞭然だ」
「なっ!?」
兵士達に動揺が走り、
「え?」
「そうなの?」
キープ達にも動揺が走る。
ロードは続けて、
「お前等の武器からは血の匂いがする……それも人の血だ。 王国兵のやつらがそんな武器を持っている訳ないだろう。 それに王国兵の剣は『王国兵正式帯剣』という特注品だ。 そんななまくらじゃないぜ?」
ロードに言われて王国兵達は、
「くそっ! 大人しくしていれば怪我せずに済んだものを!」
全員武器を抜き放つ!!
その剣は手入れをあまりされておらず薄汚れている……ロードの言葉通りなら血の跡だろう。
「大方王国兵に成りすました盗賊団だな? 武器を回収して脅す予定だったか?」
ロードの言葉に不敵に笑うと、
「ああ、そうだ。 お前達は女ばかりだからな……男のお前さえいなければ、後は高く売れるってもんよ」
口を歪めて笑うと、
「まぁ売る前に味見ぐらいはさせてもらうけどな」
キープやナシュ、ミーシャ達を舐める様に見回す。
キープとナシュは戦闘態勢、ミーシャはキープの背中に隠れた。
「みんな! お客さんだ! 出てこい!」
盗賊の一人が声を出すと、簡易テントからゾロゾロと武器を持った男達が出てくる。
そいつらは王国兵の格好をしていなかった……そこまで準備出来なかったのだろう。
男達は半円状にロードを囲むように位置取りすると、
「男はいらん。 悪いが恨むなら俺達を見破った自分を恨むんだな」
「その言葉返してやるよ。 俺を相手にしたお前等自身を恨むんだな」
ロードは剣と盾を構える。
盗賊達がロードに飛び掛かる寸前、
「『拘束』」
「『束縛』」
「『氷虎』」
キープ、マタル、アリアの魔法が発動する!
盗賊達のうち二人が魔法で動けなくさせられ、別な一人に氷の虎が襲い掛かる!!
完全に浮足立った盗賊達にロードが斬りかかった!
仲間の惨状に目が行っていた盗賊二人の腕を斬り飛ばす!
「うわ!」
「うぎゃ!!」
武器を持っていた腕ごと失い傷口を押さえて地面に倒れる。
「ちっ! こいつ!!」
我に戻った盗賊がロードの左右と正面の三方向から襲い掛かる!!
キン!
ガキン!!
ガン!
ロードの左からの攻撃はナシュが、右からの攻撃はミラが剣で受け止める!
そして正面からの攻撃はロードの盾が防いだ!
「よくも偉そうに!」
ナシュが剣を受け止めたまま前に出る!!
「クッ!」
相手が剣を引きつつ後ろに下がろうとして……。
「!?」
足を下げられずバランスを崩して尻もちをつく!
(な、なにが!)
見ると……。
ナシュは前に出つつ相手の足を踏みつけていた!
これにより相手は下がろうとして……足が下がらず、その場で尻もちをついてしまうこととなった。
そして尻もちの際、両手を地面に着いたことで武器も取り落としており……、
「まだやるの?」
男の首筋に剣を当てると男は首を振って力なく項垂れた。
ミラの方も相手の剣を受け止めると、
鍔迫り合いから力任せに跳ね飛ばす!!
「ぐぉ!」
相手がのけ反りつつ後ろに下がった。
「馬鹿力め!!」
と、言葉を吐き捨てた時には目の前にミラがいた!
「な!?」
『何!』と言う間もなく男の体が宙を舞う……瞬時に間合いを詰められ柄の部分で腹を突かれたのだったが……何があったかも分からなかっただろう。
男が地面に落ちて来た時にはすでに気を失っていた……。
ロードは相手の剣を盾で受け止めてそのまま盾を押し出す!
相手は体勢を崩しながらも剣を振り払ってきた!!
しかしそんな体勢での剣に力強さはなく、ロードはそれを剣で跳ね上げる!!
男の手から剣が離れて飛んでいった……。
武器を失った男はロードに剣を向けられると、その場に力なく崩れ落ちたのだった。
他の男達もキープやマタルの魔法で無力化されていった。
そうして王国兵に成りすました盗賊団は全員縄で縛られて転がされ、巡回に来た本物の王国兵によって連行されたのだった。




