初めての図書館地下
そこはちょっとしたスペースになっており、何十人とかで会議ができそうだ。
鍛錬スペースなのか、サンドバック用の人形などがいくつか置いてある。
これだけ広いのに誰もいなかった。
「ここは?」
「ここは、図書館の知識を実践で練習する練習場です」
キープを振り返りながら職員の女性が説明する。
「剣や槍の型や技、魔法の練習など図書館の本で読んで、ここで試したりして身に付けます」
メガネの女性は、
「あなたはその魔法をおぼえたいのですよね?」
再度確認してきた。
キープは頷きながら、
「そうです。非力な自分だからこそ、少しでも色々な力を身に付けたいです!」
それを聞いた女性は、
「わかりました。では、内緒にして下さいね」
言い終わると、髪を止めているバレッタを外した。
その瞬間!
髪がショートからロングになると同時に、色が黒から緑になる。
体型も中肉中背から細身でスレンダーな姿に変わった。
最後にメガネをはずすと、瞳の色が青から新緑の様な緑になった。
「こ、これは……」
キープが唖然としていると、
「私の名前はシルマ=ポリマと申します。見ての通り……」
キープの目は彼女のある部分を見ていた、……耳が大きく尖っている。
「エルフ族です」
エルフ族……他の種族を嫌い森の奥深くに住んでいると聞いていたが……。
「大抵のエルフはそうです」
キープからそう言われると、その通りだとばかりに頷く。
「ただ私は、そうではありません」
シルマはそう告げると、
「森の一生はまるで輪廻転生です。エルフ族もそれに倣い森の奥深くで一生を繰り返していきます。ですが、森の中でも新しい事が起きます。新種の木や花が生まれ、刻一刻と変わる大地。同じ種類の似ている花はたくさんあっても、決して同じ花などないのです!」
一気にそこまで言うと、一息ついて、
「森が地形に合わせる様に、エルフ族も時代に合わせないといけない。私はそう思うのです」
最後は呟くような声に変わる。
「だからこそ森を出て、色々な風に触れ、多様な水の声を聞き、どうあらねばならないのかを見極めたいのです」
キープが静かに聞いていると、
「ああ~、とまぁ」
熱く語ったことを思い出して顔を赤くすると、
「色々な経験をして色々な人を見るために、森を出てこちらで生活しております」
「そ、そうだったんですね。ですが何故、変装?変身?を?」
「ご存じの通りエルフは極力森から出ません、それ故珍しのか奴隷商などに捕まったりする危険もあります。ですので、この魔法道具のバレッタとメガネで変身しているのです」
「えと、じゃあ、何故自分に正体を?しかもお手伝いまでして下さると」
シルマはどう説明しようか悩んでいた感じだったが、
「そうですね。エルフは魔法に関してすごく敏感なのですが、あなたから非常に惹かれる魔力が伺えるのです。だからでしょうか?」
(惹かれる魔力……)
と言われてもいまいちよく分からない。キープは小首を傾げる。
だが、村で呪いに狙われたり、魔人に狙われたりと、色々狙われていることを思い出した。
デネブからは『美味しそうな魔力』とも言われていた。
(狙われたのは不運ではなく魔力のせい?)
考え込んでいると、
「ところで……」
シルマはキープに向き直り、
「あなたのお名前を教えて頂けますか?」
そこで名乗っていないことを思い出した。
その後、夕方までシルマとの特訓は続いた。
エルフ族は魔法を得意としており、魔法に対しての知識が深い。
そういった事もあり、魔法の感覚や循環など色々な知識を交えて教えてくれた。
「図書館職員のお仕事は?」
「いつも誰も来ないから大丈夫」
とのこと。
それは本当に大丈夫なのかキープは心配だったが、まぁシルマが大丈夫と言うならそうであろうと結論付けた。
シルマの教え方が上手いのか、キープの才能なのか、翌日には覚えようとしていた魔法を、ある程度発現出来るようになった。
「すごいわね……普通の人では2日でここまで来れないわよ」
シルマが感心したように言う。
「適正かしら? やはりあなた普通と違うのかもね」
と言われても周りと比較したことのないキープにはピンとこなかったし、それよりも新しく魔法を覚えられた方が嬉しかった。
そして新しく魔法を覚え、シルマの修業が終わった事で、『ディスペル』調査を再開しようとした時だった。
勇者パーティから手紙が届いたのだった。
キープが宿の人から手紙を受け取って中身を開く。そこには、
・『ディスペル』の魔法をかけてやること
・ロードに久しぶりに会わせてやること
・誓約書により手出しなどはしないこと
が記載されており、会う日時などが指定してあった。
アリアとミラにも手紙を見せる。
「十中八九罠だ(よ)」
二人が同時に声を上げる。
が、キープはロードがどうなっているのか気になっていた。
ロードを助けるのは現段階では不可能に近い。
だが、もし自分たちが行かないとロードは不要と見なされ殺されるのでは?とも思っていた。
そしてキープにも策がないわけではなく、密かに準備もしていた。
その上で、勇者パーティと会うことにしたのだった。
読んで下さる方がいらっしゃると嬉しいですし、力にもなります。
ありがとうございます!




