新たなる声
『静寂世界』
氷系最大範囲を持つ氷結魔法で、『氷葬』ほど氷の深度は深くないが、それでも数秒から数分の間は氷漬けで動けなくすることができる。
使用する魔力量に応じて氷結の時間は変わる……。
アリアの魔法は門に向かってきていた数百人ほどを一瞬にして凍らせた!
また、氷になった人が邪魔で後ろの方は前に進めなくなっているようだ。
フラッ
アリアが倒れ掛かり近くにいたロードが慌てて支える。
「お、おい!」
心配するロードに、
「ごめん……この魔法って魔力ほとんど使っちゃうから……」
ロードに抱きかかえられながら弱々しく告げる。
そして、
「急いで……多分私の魔力だと1分程度しか持たないと思う……」
そこまで一気に伝えると、目をつむり息を吐いてロードに身体を預けた。
どうやら魔力切れで気絶したようだ。
「今のうち! 門を閉めるんだ!」
カペラの声にみんなして門を閉め始める……幾人か氷になった人が邪魔だったが、それをどけつつも門を閉めることが出来た。
ガガン!
巨大な閂を下ろして、ひとまず安堵の息をつく。
数は多くとも基本的には普通の市民レベルの力や武器である、そうそう門は破られないであろう。
「よし、街に入った残りを掃討しましょう!」
ナシュの声にみんな散会してそれぞれが助けに動く。
幸いなことにシャウラが冒険者達をうまくまとめて防衛線を構築していたようで、街の人達への被害はある程度で抑えることが出来ていた。
そこへナシュ達も加わり、徐々に殲滅していくのであった。
「いや! 止めて……死にたくないぃ!!」
大きな叫び声を上げつつ光の膜に触れた少女はその姿を消していった……。
キープの展開する『神界』に次々と突っ込んでくるキャラコの人々。
そして消滅する寸前、誰も彼もが悲痛や懇願、憎悪の声を口にして消えていく。
「お願い消さないで……これを消してぇぇぇ」
「何でお前なんかに殺されなければっ……」
「いやだぁ! 生きたい! 生きたいよぃ」
「……ママ……怖いよ……助けてママ」
数十という単位で人が膜に当たっては消えていく……消える寸前に叫び声を上げる。
「っ!」
キープはただひたすら『神界』を維持していたが……。
ブゥゥン
一瞬光の膜が明暗する……維持が途切れかけた。
「これ、気をしっかり持てキープ!」
レジーナから声が飛ぶ、その声は怒号や悲鳴にかき消されることなくはっきりとキープの耳に届いた。
「うぅ……」
再度集中力を高めようとするも……あまりに多くの人の声……声……声。
ブゥゥゥン
『神界』が消えかける。
「キープ! しっかりせぬか!! お主がしっかりせねば、皆が危ないのじゃぞ!」
「わ、分かっています……ですが……」
キープは「みんなを守りたい」と日頃から言っている様な性格である。
そんなキープにとってこの声は鋭いとげの様に心に突き刺さっていく。
そしてそんな中、二つの声がキープの耳に届いた……。
「……アトリアお姉ちゃん……助けて……」
「アトリアお姉ちゃん……死にたくないよ」
アトリア……キャラコの街の冒険者ギルド受付嬢であり、キープも何度か関わっていた。
キャラコの街が滅んだ時、街に残していた幼い兄弟がいるとのことだったが……。
「アトリアさん……」
アトリアが心配していた兄弟が目の前に現れ……キープの魔法で消滅しそうになっている。
キープの心が乱れ、光の膜が……『神界』がたゆんだ!
「こら!!」
レジーナがぽかりとキープの頭を小突いた!
「痛!」
流石は龍、小突いただけでもかなり痛かった。
「な、何を……」
戸惑うキープの頬を両手で挟むと目と目を合わせる……そして、
「しっかりせぬか! あれらはもう生きてはおらぬ! 言わば亡霊じゃ!」
「えっ? 亡霊……でも触れるけど……」
「戯けが! 亡霊といってもゾンビみたいなものじゃ。 死んだ者の思念や悔恨、生への執着や、生きている物への怨恨。 そう言ったものが魔法により実体を持ったものじゃ」
レジーナは膜に当たっては消えていく人々を冷たく見ては鼻を鳴らす。
「フン、大方どこぞの魔人が仕組んだものじゃろうて……ほんとに悪趣味よな」
レジーナと話をしているうちに、キープの方も落ち着いて来た。
レジーナの声は他のどんな叫び声よりも鮮明にはっきり聞こえて、また、ゆったりと落ち着いた喋りをしてくれていた為、キープも徐々に冷静さを取り戻していった。
再び光の膜が輝きを強める……キープの集中力が戻ってきた為だ。
それを見てレジーナがほっとし、
(まったく……世話のやけるやつじゃのう)
そう心の中でつぶやいた時。
キャラコの亡霊達が……進軍をやめて全員動きを止めたのだった。




