初めての手紙
宿に帰ったキープは自分の部屋でミラを休ませていた。
傷は治っていたが、色々ショックだったらしく心此処に在らずとなっていた。
ロードの事が気がかりではあったが、
(ロードさんは自分よりしっかりしているし、きっと大丈夫)
ミラの事もあり、宿で待っていた。
が、その夜、ロードは戻ってこなかった。
次の日も戻ってこなかった。
そして次の日にロードからの手紙が届いたのだった。
【ロードからの手紙】
すまないが、急にパーティを抜けることになった。力になれずすまない
ミラを頼む、アリアにも理由を話しておいてくれ
それと勇者パーティには手出しできない様にしておいた
しかも『ディスペル』もかけてくれるそうだ
と、魔法誓約書で誓約させたもののいまいち信用がおけない
『ディスペル』は最終手段と思って、他に手がある様ならそちらから試してくれ
画策はしたものの出来れば勇者パーティに会わない方が良いだろう
自分は暫く都市からも離れる
悪いが他でパーティを組むなりして対応してくれ
本当に申し訳ない
願いが叶う様に願っている
(ロードさん!)
キープは気付いた、ロードは勇者パーティに捕まったんだと。
短い付き合いではあるが、ロードはこんな大事な事を手紙で言うような男ではなかった。
また、こんな条件を出させているのだ、引き換えに何らかの条件を受けているのが普通だろう。
(だけど……)
今のキープにはロードを助け出す手がなかった。勇者に仲間がさらわれたと訴えても誰も信じてくれないだろう。
(ひとまず、アリアに相談しよう)
アリアの泊っている宿は聞いていたので、尋ねることにした。
丁度宿から出てくるアリアに出くわし、広場にある公園でアリアに顛末を打ち明けた。
今日は陽が差し込みポカポカと陽気だった。
その為公園で遊ぶ子供や、ベンチで語らっているお年寄り達、芝生でだべっている若者達がちらほら見られる。
天気は陽気なのに暗く深刻な表情で2人は会話をしていた。
アリアは話の顛末を聞くと、急な話にかなり驚いてはいたが、
「うう~ん、流石に勇者と聖女が相手じゃ厳しいわね」
唸りながら眉をひそめる。
眉をひそめても金髪碧眼の美少女はかなり絵になる。
アリアもロードの身を案じているがやはりこれと言う手がなさそうだ。
色々話を続けたかったが、キープとアリアの美少女(?)コンビはかなり周りの目線を集めていた。
その内誰かナンパなどしてきそうだ。
「ここじゃ落ち着いて話が出来ないわね。ちょっとキープの部屋で今後の計画を話しましょう。そのミラさん?も1回会っておきたいし」
ナンパしてきそうな人たちに囲まれる前に公園のベンチを立った。
『雀のお宿』についてキープの部屋に行くとミラがベッドから起き上がっていた。
「あ、ミラさん、大丈夫ですか?」
あれから2日しかたっていないのにミラはかなりやつれていた。
「ああ、キープ殿。すまない。心配かけた」
そう言って深々お辞儀する。
ようやく会話できるようになったようだ。それまでは「ああ……」「うん……」等ばかりで会話にならなかった。
「いえいえ、色々整理してからでいいですからね」
「ところでー……」
ミラが傍らのアリアを見る。キープが紹介をするより早く、
「お初にお目にかかります。アリアと申します。キープさんとはパーティを組ませてもらっております」
アリアがスカートの両端をもってお辞儀する。
どこぞのお嬢様みたいだ。
「ああ、私が貴族の出だからといって、そんなかしこまらなくていい」
ミラが手を振る。
(ええっ! っていうか貴族だったの?)
キープが心の中で驚いていると、
「聖騎士ミラの御高名は轟いておりますので」
アリアがにっこりミラに笑いかける。
笑っているのに何故かちょっと怖い。
ミラもそう感じたのか引き攣った顔で「よろしく」と告げていた。
アリアとしては、キープとミラが部屋で2泊明かしていることや、パーティメンバーの自分抜きで色々行われていることに対しての嫉妬があった。
(健全な男女が……しかも可愛いキープさんをこの聖騎士が狙っているんだわ!)
キープとミラはそんな状況ではなかったのだが……。
アリア、ミラの2人にもロードの手紙を見せ話し合った結果……。
何も思付かなかった……。
世論や国も勇者の味方となるであろうし、実力もとても及ばない。
絡め手も力づくも何もかも通りそうになかった。
「一旦、ロードさん奪還は置いておいて、手紙にある様に他の手段の『ディスペル』を探すのが良いかもね」
とアリアの一言でお開きとなった。
キープとしてはロードの身が心配ではあるが、自分達が奪還を失敗しては助けられない。
今すぐ助けたいのを堪えて、出来る事からしていこうとアリアに同意した形となった。
ちなみにミラはアリアの強い要望で他の部屋を借りることとなった。
キープはミラの容態を心配してはいたが、アリアの「健全な男女が一緒の部屋とは何事ですか!」の言葉に承諾した。
キープは全くそんな風には思ってなかったのだが……言われると赤面して「確かに、周りから見ると……」と慌てていた。
『ディスペル取得の手段を探す』それでやってきたのが図書館であった。
(前は『ディスペル』の他使用者が見つけられなかった。今度こそ見つける)
再度、気合を入れなおし図書館へ入って行った。
前回同様静けさの中、数名の人が頁をめくる音などが聞こえる。
今回は図書館職員を探して声を掛けることにした。
「あの、すみません?」
カウンターには前回助けてくれた、メガネの女性がいた。
相変わらず腕には『図書館職員』の腕章が付けられている。
「『ディスペル』に関する本をお願いしたいのですが……」
「『ディスペル』ですね? 承知いたしました。少々お待ち下さい。」
そう言ってカウンターから席を立ち、本を探しに図書館奥へと消えていった。
それを待つ間、
「えーと、あ、これだ」
前回待っている間に夢中で読んでいた本を見つけると、再度それを読み始めた。
暫く読みふけっていると、
「そちらの内容に興味があるのですか?」
耳元でいきなり声がした。
「!!!!!!」
びっくりしすぎて逆に声が出ず、代わりに読んでいた本を落としてしまった。
バンッ!
本の落下音が図書館に響く。
「あら?すみません。そんなに驚くとは……」
メガネの図書館職員は詫びれもなく謝罪して、キープが落とした本を拾う。
「こちらの内容が気になります?」
再度キープを見つめて訊いてきた。
「ええと、そうですね。可能であればとは思うのですが……」
「なるほど……。ご協力いたしましょうか?」
「は?」
図書館職員がキープの落とした本……魔導書を手に再度尋ねた。
「この魔法を覚えたいのでしたらお手伝いしましょうか?」
キープは困惑しながらも、
「えーと、覚えられるのであれば覚えたいですが、協力とは?いったいどうやって??」
「それではこちらへどうぞ」
図書館職員がついて来いという風にジェスチャーすると歩き出した。
キープも慌てて追いかける。
そして、扉をいくつか抜けて、階段を下り、図書館の地下と思われる場所へ着いた。
お読み下さっている方、ありがとうございます。
拙い文ですが、楽しんで頂けるよう頑張りますね。




