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新たなる異変



カンカンカン……


物見櫓の上から鐘の音が鳴り響く。


人々の叫び声が、逃げ惑う声が、家族を呼ぶ声が飛び交っている。



(ああ……久しぶりに見たわ。 この夢……)


ナシュは炎に包まれるケイナンの街中に立っていた。


周りでは魔人や魔獣達と王国兵の人達が戦っている……。



「ぐあぁ!」

一人の王国兵が魔人の槍に貫かれて絶命する。


「ま、待って! た、たすけ……」

倒れた王国兵の言葉は振り下ろされた凶刃によって遮られた。

頭が割られ血が噴水の様に噴き出す!



しかし、これは夢なのだ。



……ケイナンの街が攻められた時、ナシュは気絶していた。

いや、正確には気絶させられていたのだ。



ケイナンの壁が破壊されてすぐにナシュの家にも魔人が来た。

逃げる時間はなく、ナシュの両親はナシュだけでも助けようと彼女を隠そうとした。


「いや! 私も一緒に!!」


父母に抱き着くナシュを二人が安心させるように微笑んで力強く抱きしめる。


……そこでナシュの記憶は途切れていた。



目が覚めると、そこはクローゼットの中だった……そこから出ると部屋は血にまみれていた。

父と母の姿はなく、屋敷中走って探した……どこにもいなかった。


そうして屋敷の外に出てさまよっている所を奴隷商人に捕まったのだった……。





だから、こんな記憶はない。

街の中での戦いなど知るはずもないのだ。


なのにこの夢を何度も見る……炎に包まれ人が切り裂かれ魔人が笑う。




崩壊した街を走る……(いやだ!そっちには行きたくない!!)


そうしてたどり着く自分の家……(いや、お願い……)


玄関の扉を開けて二階に駆けあがる……(もうやめて! 見たく……)


そして両親の部屋を開ける……(お父さん……お母さん……)


そこには……。




「ナシュ!!!」


大きな声に目を覚ます!


ナシュの顔を心配そうにベガとマタルとミラがのぞき込んでいた。

机の上のランプに照らされてオレンジ色の明かりが部屋を照らしている。


ナシュはバッと上体を起こした……体中汗だくだった。


「大丈夫? かなりうなされていたけど……」


「……う……ん。 ごめん」


荒い息を整えながら返事をする。


「ううん、私達は大丈夫。 これでも飲んで」

ベガが水の入ったグラスを渡してきた。


「ありがとう」

それを受け取り一息に飲む!


「っ! ごほっ! ごほごほ」


「大丈夫ですか? 落ち着いて」

むせてしまったナシュの背をマタルがさする。



むせながらも、

(久しぶりに見た……キープと会ってからはあまり見なかったのに……)

恐らく昼間、ギルドでシャウラにケイナンの事を話したからかもしれない。



「酷い汗だ……身体を拭いた方がいい。 拭くものを準備してくるよ」

ミラが部屋を出ていった。


「ごめんね」

ナシュが弱々しく言うと、


「も~、私達は大丈夫だって、気にしないで」

ベガがそう言ってナシュの手を握った。


(暖かい……)

ナシュも少しずつ落ち着いてくる。


そこへミラが水の張った桶とタオルを持ってきた。

「水ですまないが……」


「ううん、ありがとう」

お礼を言うナシュに、


「じゃあ、ちょっと外に出ているから……」

服を脱いで身体を拭くであろうナシュに声を掛けて三人が出ていく。



上着と下着を脱ぐと、オレンジ色の明かりに照らされ白い肌が浮かび上がる。

小さいがハリのある胸やきめ細かい肌を濡れたタオルで拭っていく。


熱を帯びた体に濡れたタオルが気持ち良い。

手早く拭いて新しい下着と上着を着た時だった。



「ナシュ、すまない。 開けるぞ!」

出ていった三人が急ぐように部屋に入ってくる。


その顔は緊張に満ちている。


「どうしたの? 何かあった?」

ナシュが尋ねると、


「街の様子がおかしい、門の方が騒がしい様だ……」

ミラが答える。


ナシュも窓を開けて街の様子を伺う……確かに街の正門から喧噪が聞こえる。

夜も遅い時間だというのにどういうことだろう。



「とにかく、何があってもいい様に準備しよう」

そう言いつつ手早く武具を身に付ける。


ベガとマタルはそれぞれ他の人達を起こしに行く。


そうして眠そうな……というより半分寝ている様なキープとカペラ達と合流する。



「一体何の騒ぎなのですぅ?」

舟をこぎつつキープが尋ねる……来るので精一杯だったのか、キープだけは寝間着姿だった。


その時、

「すみません、キープさん達はいらっしゃいますか?」


宿の入口から大声が響き渡る。


何事と全員向かうと、私服姿の受付嬢リリンが息を乱している。


キープ達をみるなり駆け寄り、


「す、すみません、こんな真夜中に!」


「構わん! 何があった?」

ミラの言葉に、


「き、緊急案件です! リカオンの街に大勢の人達が攻めて来ていて……」

息絶え絶えにリリンが答える。


「人達だと?」

訊き返すカペラに、


「正確には人の姿をした何かです! すみません、詳しくは私も……」

リリンがそう言って、


「今は冒険者ギルドとガードの人達が正門で食い止めています。 ですが相手の数が多く一人でも冒険者の方に協力をお願いしていて……」


リリンが言っている最中に、


カンカンカン……


非常を知らせる鐘が鳴り響き始めた……



その音に先程の夢が思い出されてナシュが身体をこわばらせる。


やっと目が覚めて来たのかキープが、

「わかりましたぁ。 みんな行きましょう」


まだ少し舌ったらずだが、みんなに告げて門に向かい走り出した!


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