新たなる十字架
「貴様!」
男達がキープを見るなり掴みかかろうとして……。
『ホーリーチェイン(拘束)』二発で男達を大人しくすると、その横を抜けて奥に走った!
通路を抜けた先は……ちょっとした広さになっており、天井も高い。
壁にはいくつもの松明が灯され明るくその惨状を照らしていた……。
広場の中心には横倒しにされた十字架があり、先ほどの女性はそこに手足と首を拘束されている。
そしてその右腕が途中から切断されていた。
しかも肩口を布を強く絞って巻いており止血しながら……つまり死なない様に切り取っていたようだ。
少女はショックで目がうつろになりつつもブツブツ何か呟いている……まだ生きてはいるようだが……。
そして、少女の左腕に血塗られた鋸を当てていたシータが驚愕でこちらを見ていた。
次は左腕を切ろうとしていたようだ。
「どうやって牢を……」
しかしキープの光る杖を目にするや、
「魔術師だったのですね……」
鋸を放り捨て奥にある階段を駆け上って行った!
「『セイントヒール(大回復)』」
少女の傷が治り腕も元の状態に戻る……しかし少女は相変わらずブツブツ呟いている。
そんな少女の拘束を解こうと……。
「キープ? まさかキープなの?」
後ろから声が掛かり振り返ると……。
聖騎士ミラが立てかけてある十字架に磔にされていた!
「み、ミラさん! 待ってて、今!」
ミラに駆け寄るも……。
「う! こ、これは……」
ミラの手首と足の甲には一握りの太さもある釘が打たれて、ミラはその釘だけで磔にされていた。
とてもじゃないがキープの力だけでは抜けそうにない……。
「うぅ、こ、これは!」
更にキープの背後で声がして振り返ると……牢にいたもう一人のメイドがいつの間にか来ていたようで、大量の血の匂いに顔を歪めていた。
切り離した腕などはなくなっていたが、辺り一面には血が飛び散ったままだ。
ちなみにキープの回復魔法は血も補充されるため、流れた分の血量は少女に戻っている。
「あ、あの!」
キープは来ていたメイドに、
「お願いします、この釘を抜くのを手伝ってもらえませんか?」
「え? ……うわ! 何この人! これ大丈夫なの?」
キープに言われてミラに気付いたのか磔のミラに顔を引きつらせている。
「ぬ、抜くって……どうやって? 何か道具とかあれば……」
近くには鋸と……なんか赤黒い水晶玉が血に浸されている。
(何か釘を抜くための何か……)
いくら周りを見ても何もない!
その時、
(そうだ! 試しに!!)
キープはペンダントを外してチェーンの部分を釘に巻き付けた!!
「こ、これを引っ張れば……」
「だ、大丈夫かしら? ま、まぁやってみましょうか」
キープとメイドが二人してチェーンを引こうとしたが……。
「おい、こっちだ!」
「急げ! まだ地下にいるはずだ!」
「逃がすなよ!」
上から複数の足音が聞こえて来た!
そしてシータの声、
「絶対に逃がさぬよう! 何としても捉えなさい!」
逃げたと思ったが、実は援軍を呼んできたようだった。
「くっ! こんな事ならさっさと逃げれば良かった!」
チェーンを引こうとしたメイドが悔しそうに悪態をつく。
「あの人たちは僕が何とかします! ミラさんをお願いします!!」
キープが階段の下まで来ると……上から階段を下ってくる男達。
「『ホーリーチェイン』」
先頭の男に掛けると……そいつが拘束され、そいつが邪魔で後ろの男達が進めなくなった。
「おい、邪魔だ! どけ!!」
「さっさといけ、何止まってるんだ!」
二人目にも『ホーリーチェイン』を掛けようとして……。
「『マジックブレイク(魔力解除)』」
(!?)
キープの魔法が解除され、先頭の男が動き出した!
呼んできた男達の後方に魔術師らしき姿が見える……。
(『オラクル(神託)』を唱える時間が……)
足止めが出来なくなった事で、古代の詠唱時間が無くなってしまう。
「『ブレッシングアロー(祝矢)』」
「『ファイヤーアロー(炎矢)』」
矢同士がぶつかって消滅する!
相手も詠唱が早い……かなりの使い手の様だ。
その間に男達が階段を続け、キープに届きそうな位置まで降りて来た。
(こうなったら……)
「『アセンション(昇天)』」
キープと男達との間に魔法を放つ!!
両者の間に大きな光の柱が沸き上がった!!
思わず足を止める男達。
その間に『オラクル(神託)』の詠唱をし始めた……が、
『ファイヤーアロー』の一本が、『アセンション』を潜り抜けてキープの太ももを貫いた!!
「あぐぅ!」
その場に転倒するキープ!
集中が乱れ『セイクリッド』『アセンション』が掻き消えてしまった……。
手の中から光る十字架の杖も消えていく。
そうして……階段を下りて来た男達にキープは囲まれてしまった。
目の端でミラ達の方を確認したが、メイドが一所懸命引っ張るも釘は抜けていなかった。
そうして、
「やめて! 放しなさいよ!!」
そのメイドも捕まってしまった……。
暴れるメイドの手からペンダントを奪った男の一人が、
「これは? ……なんだ宝石じゃないのか」
まじまじ見た後ペンダントを投げ捨てた。
キープは手足を拘束され転がされる……太ももから血がどんどん流れていく。
血管を傷つけたようだ……。
激痛のおかげでまだ意識はあるが……このままでは非常に危険だ。
「!!」
しかし回復魔法を使う前に猿轡を嵌められてしまう!!
「うーううー」
魔法を使えない様に口を塞いだのだろうが、このままでは……。
と、そこへ……。
「キープ?」
牢の方からコルが恐る恐る歩いて来た。
そして……、
「ひっ!」
血だらけの広場、用心棒の男達、囚われたキープとメイド、そういったものを目にして立ちすくんでしまった。
「貴方も抜け出してきたのですか? 仕方のない子ですね」
男達に紛れて来ていたシータが呆れ気味に、
「あの子も捉えなさい」
男達がコルに視線を向ける。
コルの顔が恐怖に染まった。
「い、いやぁ。 来ないで……来ないでぇ!」
コルが逃げようとして……足を滑らし転んでしまった!!
そして……。
パキン!
軽い何かが壊れる様な音がして……コルから眩しい光が溢れ出した!!




