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新たなる脱出


ドンッ!


男爵の部屋に引きずり込まれ床に叩きつけられる!


「いたっ!」


乱暴に叩きつけられ思わず声が出た。



上半身を起こして周りを見ると……そこでようやく男爵の部屋が全て目に入ってきた。


壁には一面、女性の絵が飾られている……黒っぽい赤毛が少しカールした少女の絵だ。

美人と言うよりは可愛らしく、どの絵もはにかむように微笑んでいた。


「……ミユ・ケーペイだよ」


暗く低い男性の声……。


キープが振り返るとベッドの上に身を起こした男性……ゼータ男爵が壁の絵を見ながら繰り返した。


「ミユ・ケーペイ……。 私の大事な一人娘だ」

この絵の少女がゼータ男爵の娘……シリウスに残酷な目に会わされた少女……。


「私の妻は娘の出産と引き換えに命を落としてね……。 それ以来娘は私の全てだったよ……」


遠い目のままゼータ男爵は口を開く。


「いつかは誰かに恋をして……結婚するだろうと思っていたんだが……」


そこで初めてキープに目を移す。


「このままじゃ娘が報われない。 娘を託した妻にも顔向けできん」


キープを見つめる目が異様な雰囲気を醸し出している。


「シータ……この子も例の部屋に……」


「はい、かしこまりました」


シータが恭しくお辞儀をすると同時にキープがいた場所の床が抜けた!



「!?」


声を出す間もなく落とし穴に落ちていく……。



キープが落ちた後床が閉まると、シータが再度お辞儀をしてゼータ男爵の部屋を出ていく……。


一人取り残されたゼータ男爵はポツリと呟いた。


「ミユ……もう少しだ……もう少しで……」






ドサッ!!


「!!」

固い石床に叩きつけられて痛みが走った!


「いったぁ!」


座った状態だった為か、お尻から落下してしこたまぶつけてしまった。


「うぅ……」

少し涙目になりつつ、周りを見回すと……。


「き、キープ?」

戸惑ったような声……次の瞬間!


「キープ!」

いきなり抱きしめられた!!


「わわっ!」

少し慌てたが……よく見ると、それはナコだった。


余程怖かったのか体中が震えている。


「ナコ先輩、大丈夫でした?」


「怖かったよぉ!」

そのまま大声で泣き始めた。


キープはそのまま優しく抱きしめてあげる。


抱きしめつつも周りの様子を確認した……ここはどうやら牢屋の様だ。


頑丈で太い鉄格子がしっかりはまっており、キープ達の四方を覆っている。


牢屋にはキープとナコ以外に二人ほど捕まっていた。

二人ともメイド服を着ておりキープ達と同じ様な感じらしい。


牢屋の扉の外は通路がありそこには明々と松明が灯っている……それにより光源が確保されている様だった。

奥から伸びた通路の終わりがこの牢になっているようだ。



暫くして落ち着いたのか、ナコがしゃくり上げながらも少し泣き止むと、


「うう……ヒック……き、キープも……ヒック……お、落とされたの?」


紅く目を腫らしキープを見て悲しそうに告げる……怖かったにも関わらず、キープの身を案じているようだ。


「うん、でもナコ先輩が無事で良かったです!」

キープは本心からそう告げる……何かある前で良かった……本当にそう思って安堵していた。


「で、でも……ヒック……と、閉じ込められて……」

閉じ込められて逃げられない事実にナコは不安がなくならないようだ。


「大丈夫です。 きっと何とかなりますよ!」

ひとまずナコを安心させなければ……そう言ってナコの手を強く握る!


「キープ……」

ナコは徐々に泣き止んできた。


しかし……、

「無駄よ、無駄! ここからは出られないし、もう生きて自由にもなれないわ」


捕まっていた二人のうち一人がキープ達に言葉を投げつける。


「……そうよ、私達もう終わりなのよ……」

もう一人も諦めたような口調でそう告げる。



そこへ、


「その通りです。 諦めて大人しくしていなさい」


通路の奥からシータが現れた。


「メイド長!」


キープはシータに駆け寄るが鉄格子に阻まれる。


「ここから出して下さい! 僕達をどうする気ですか?」


「悪いけどそこから出すことは出来ません。ご主人様の願いの為にもあなた達が必要なのです」


「……ゼータ男爵の……願い?」


呟くキープに構わずシータが合図をすると、通路の奥から屈強な男二人が現れる。


「あの子を……」


シータが牢屋の中にいた諦めている様な少女を指差す。



男達は頷くと牢屋を開けて中に入ると、その少女を掴んで引きずり出した。


何もかも諦めたのか少女は特に抵抗なく引き出された……牢が開いている間、シータが入り口を塞いでいる。

この隙に逃げるのは難しそうだ。


少女を連れ出すと再び鍵を掛けて、


「では、引き続きそこで静かにしてなさい」


シータは男二人と少女を連れて出ていった。




それを見ていたナコは再びガタガタ震えてキープにしがみついていた。


(この先……連れていかれてどうなるんだろう?)


もう一人の少女はシータが消えた方向を睨みつけている。



そして……十分程だろうか? 暫くして、


「嫌! 止めて、お願い! 助けて!!」


先程連れていかれた少女の声がして、


「おねがいぃ! だ、だれかぁぁ!!」


悲鳴に変わる。


「痛い! もう嫌! や、やめてぇ! いたいよぉ! おかあさん!!たすけてぇ!」


ナコは真っ青になり今にも卒倒しそうになり……耳を手で塞いでいる。


もう一人の少女も、流石にこれはきついのか耳を塞ぎ目をぎゅっと閉じていた。



そして、もう一人の女性の声……、


「お願いだ、もうやめてくれ。 これ以上少女たちを殺さないでくれ!」


(この声は……ミラ!)

弱々しいが間違いない……ミラの声がする。

必死に哀願して少女を助ける様声を上げている。



(何が起こっているかは分からないが……少女が痛がって……苦しんでいる)

このままでは先程の少女は死ぬかもしれない……これ以上様子見は出来なかった。


ナコから離れて立ち上がる。


そして魔力と自然エネルギーを集めて……、


「『セイクリッド(神聖)』」


キープの手に光り輝く杖が現れる!!


「『ブレッシングアロー(祝矢)』」


光の矢を何本も出現させると、牢屋の扉に狙いを定める!!



頑丈な牢屋でビクともしなそうだったが……十本まとめてぶつけると、


ガガァン!!


大きな音と共に変形した扉が吹っ飛んだ!!



扉が開くと飛び出そうとしたキープの……裾を座り込んだナコが握っていた。


「ナコ先輩、大丈夫です。 必ず助けますから!」


しゃがんでナコにそう告げるとスクッと立ち上がり、


「ここで待っていて下さい! 必ず助けますから!!」


そう言って牢を飛び出す!



飛び出したキープの目に映ったのは、大きな音を聞きつけた先程の男達が、こちらに向かって来る姿だった!



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