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新たなる侵入


「キープ、気をつけてね」

「何があるか分からない。十分注意するのよ」


ベガ、ナシュとキープに声を掛けていく。


今日からキープはゼータ男爵の館に使用人として侵入する事になる。



後日試験の結果が届いたのだが、なんと合格者はキープだけだった。


「じゃあそろそろ時間だから……」


「ミラを頼んだわよ。 無理しないで欲しいけど、なんとか囚われている場所を……」

アリアが心配そうな顔で見送る。


「うん、必ず見つけてくるから」


行こうとしたキープだが、


「ちょっと待つのじゃ」

レジーナだ。


「?」

なんだろうと思うキープに、レジーナは小ぶりなペンダントを渡してきた。

ペンダントの先には乳白色の玉が付いている。


「これを持っていくが良い」


「これは?」


「これはだな……そうじゃの、お主らの言葉でいうと『速駆けの宝珠』とでも言えばよいかの」


レジーナは玉の部分を指しながら、


「もし、緊急の事態などあれはその玉を取り外して地面などで叩き割れ。 すぐに駆けつけてやる」


「え、これって魔法の道具とか?」


「気にするな……それは余が作り出せるものの一つだ。 それにお主にはコレを貰っておるからの」


そう言って嬉しそうに髪を纏めているリボンを持ち上げて見せた。



「ありがとう、レジーナ」


「気にするな。 な、仲間というのはそういうものなんじゃろう?」

少し気恥ずかしいのか顔を赤くしてそっぽを向いた。


「じゃあ、行ってくるね。 なにか分かれば連絡するから……」

みんなに見送られて宿を後にするキープ。


そんなキープをナシュ達は見えなくなるまで見送るのだった。





(ここかな?)

パウス都市内の北側区域、大きな塀に囲まれた館がキープの前に見えている。


キープが近寄っていくと塀と同じくらいの鉄格子状の門が見えて来た。

門の前には門番らしき二人組が見える。



キープが寄ってきたのに気が付くと、

「待て、この先に何用だ?」


「今日から使用人としてお世話になるキープと言います」


「そうか、聞いてはいるが……念の為確認させてもらう」


以前試験会場で、記載した事を質問として訊いてきた。

特に問題なく答えると、


「よし、良いだろう。 ご苦労さん、入って良いぞ」


一人が門を開けてくれる……その間もう一人は周囲に目を配り警戒している。

カペラの言うとおり素人では無さそうだ。



門を通り広い庭を歩く。

門から入り口までは石畳が続いており、その両側には手入れされた庭が広がっている。


綺麗に剪定され花々も咲き誇っている。


花に囲まれた石畳を歩き、真っ白い重厚な扉にたどり着く。

扉には金色の真鍮製ドアノッカーと取っ手が付いている。



扉の前に行ってドアノッカーを鳴らそうと……必死に手を伸ばす。


(な、なんでこんなに高い位置に……)

背伸びをしてなんとか届く……ドアノッカーに指をかけ鳴らそうと……、


「では、行ってまいり……」

ドアがいきなり内側から開いた!


ドン!!


(えっ?)

と、思うまもなくドアに跳ね飛ばさると玄関先を転がる!


「ご、ごめんなさい!」


館の中から出てきたのは、グレーの髪を編み込みにしているメイド姿の少女であった。


「コル! あれほど扉は慎重に開けなさいと……!」


「す、すみません! メイド長」


館の奥から声が掛かるも、少女はキープに駆け寄り助け起こす。


「す、すみません! お怪我はありませんでしたか?」


キープを心配そうに見てくる。


髪と同じグレーの瞳でクリッとしており可愛い感じだ。


「申し訳ございません、お客様。 ……あら? 貴方は……」


コルに続いて館の中から玄関先に出てきたのは、使用人採用試験の時のシータであった。



「大丈夫でしょうか、キープ様」

話に聞いていたのか覚えていたのか、名前を呼びつつキープの全身をサッと確認すると、


「頭を打っているかもしれませんね……コルその方をこちらへ」


「はい、メイド長」


コルと呼ばれた少女はキープを軽々と持ち上げた。


かなりの腕力に驚いていると、いつの間にか部屋の一つに案内され、ベッドに寝かせられた。



「頭痛とか気分が悪いとかは無いでしょうか?」

シータがキープの目を覗き込みながら尋ねる。



ぶつけた場所はまだ痛いものの気分の悪さなどは無かったキープは、

「いえ、大丈夫です。 すみません、ありがとうございました」


「いえ、こちらの手落ちで申し訳ございません」


シータは深々と頭を下げ、それを見たコルも慌てて頭を下げた。


「ひとまず頭を打っていると思いますのでもう暫くお休み下さい。 後ほどまた参ります」


シータの目は気分のおでこを見ている。

キープは気付いていないが、そこには大きなタンコブが出来ていた。


結構大きくて痛々しい。

コルもそれをチラチラ見ながら申し訳なさそうだ。



再度お辞儀をしてシータが部屋を出ていくと、


「本日に申し訳ございません!」


コルが再び頭を下げてきた。


「あ、いえ、事故みたいな物ですし……」

キープが頭を振るが、


「いけ、本当に申し訳ございません!!」

コルがまるで土下座でもしそうなぐらい頭を下げる。


……そこで、キープは気づいた。


コルの体が震えている……。

額に汗の玉も浮かび尋常ではなかった。



「あ、あの……」


キープが声を掛けようとしたが、部屋の外からコルを呼ぶ声がして、


「はい! ただいま!」


キープに一礼をすると大慌てで走っていった……。



声を掛けそこねたキープは、そのままベッドに身体を休めると、

「なんだろう……何かあるのかな?」


思いつつ手でおでこを触る。


(痛い! ……はぁ、いきなりこれだなんて、運が悪いなぁ)

ため息をついて布団をかぶるのであった。

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