初めての冒険者登録
大陸の南端にあるテイル村は魔の影響が少ないせいか、野生の獣はいても魔物や魔獣はほとんどいない。
旅は順調に続き、村を出て数日後にはパウス辺境都市に着いた。
パウス辺境都市は、名前の通り王都などがある大陸中心に比べてかなり南の辺境にある。
農畜産業が主となっており、農作物や牛豚などの交易地としても知られる。
都市を治めているのは一部貴族達だが、辺境にいるような貴族なので成り上がりなどは考えておらず、おおらかでのんびりしている様な者ばかりである。
魔の生き物達は大陸の北側にいる為、こちらでは魔への備えはあまり気にしていない。
都市を囲う外壁もせいぜい3m程度と高くなく、数多くある通行門も全部開放状態となっていた。
あちこちの村から出稼ぎが来るためか、門番はいたものの検査らしい検査もなくそのまま通ることが出来た。
「冒険者になるなら、やっぱり最初に冒険者ギルドにいかなくちゃ」
聖女を探すには大陸中を探すことになるだろう……その為には移動しながら旅費を稼げないといけない。
魔王を倒そうとする勇者と旅をするとも聞く。
冒険者になっていた方が情報も集めやすいかもしれない。
そこでキープはまず冒険者になる為冒険者ギルドに向かっていた。
冒険者ギルドは大抵の都市や町にあり、冒険者登録をすることで冒険者カードを配布され所持が義務付けられる。
カードは各店で割引などの恩恵が受けられるが、都市や町からの依頼をある程度こなさなくてはならない。
冒険者として何もしていないと、最終的にカードを剥奪されてしまうのだ。
都市内をトコトコあるいていく。
今のキープは、ゆったりしたローブに背丈より少し長い杖と旅の荷物が入ったリュックを背負っている格好をしており、ローブは薄茶色で綺麗な物ではなく杖も粗削りな物だった。
4年前より成長したとはいえ、身長は152cmで成長を止めた上、可愛い顔立ちはそのままに育っていた。
薄汚れたローブを着ていても、可愛らしさと小柄で守りたくなる雰囲気が溢れており、それに目を惹かれた人達も数名いたが……キョロキョロ建物を見て歩く本人は全く気付いていなかった……。
しばらく都市を進むと、両開きのドアがあり上に冒険者ギルドの看板が掲げてある建物に着いた。
高さは3階建てぐらいで横幅も大きい、毎日数十人の冒険者が来るので大きいのは当たり前なのだが……。
「おお~大きいかも」
上の看板を見上げつつ独り言をつぶやいた。
村で大きな建物なんて、家よりちょっと広い教会ぐらいだったからなぁ~と思っていると、
「嬢ちゃん、入るのかどくのかどっちかにしてくれないか」
後ろから声を掛けられた。
「す、すみません!」
大慌てで退くと、一見しただけで冒険者と分かるような恰好をした中年男性数名が立っていた。
どうやら声を掛けてきたのは一番前のひげ面の男らしい。
「お、結構可愛い嬢ちゃんじゃねーか、こんな所でなにしているのかなぁ~?」
キープの上に覆いかぶさるように見下ろしてくる。
「あ、え、えと冒険者ギルドに……ちょっと」
キープの方はいきなりのひげ男に目を白黒させつつ何とか答えた。が、
「俺らとちょっと遊ぶかい~?ギルドに来るってこたぁ依頼だろ?俺らが訊いてやってもいいぜぇ」
「ええ~……えーと、ご、ごめんなさい!!」
キープは早口で謝るとギルドに駆け込んだ。
(何々いきなり! 冒険者ギルドに来て早々絡まれた!)
バンッ!
扉を開けてギルドに入ると、いくつかのテーブルに座っていた数名の冒険者が一斉にこっちを向いた。
いきなり全員に見られてキープの頭は真っ白になる。
「……えと、……こんにちは?」
自分でも間抜けっぽいと思いつつ、出てきた言葉だった。
「へへっ」
キープに続いてギルドに入ってきた先ほどの冒険者……ひげ男にキープの両腕が拘束される。
「ええっ、何を!」
「まぁまぁ、いいじゃねーか、まずは一緒に飲もうぜ」
力が皆無なキープはそのまま空いているテーブルまで持っていかれそうになる。
「ちょ、ちょっと! やめて下さい!」
キープは手を動かそうとするもびくともしない。
(ど、どうしよう……どこに連れていかれるの? 都会怖い!)
キープが都会の(?)洗礼を実感していると、
ダンッ!
飛んできたナイフがひげ男の鼻先を掠め壁に刺さった。
「なっ!」
ひげ男や仲間の男たちがナイフの飛んで来た方をみると、ギルドのカウンターで受け付けのお姉さんがニコニコ笑いつつこっちを向いていた。
ただし目は笑っていない様に見える。
「受付嬢、イリーナ……」
男たちが呻くように告げる。
「あなた達は冒険者ギルド内で何をしているのですか?」
笑顔は崩さず、背筋が凍り付くような声にひげ男が慌てて答える。
「い、いや新人が迷っていたから案内とか……交流とかしようと……な、みんな?」
他の仲間に同意を求める。仲間の男たちは首を縦にブンブン振りまくった。
「……はぁ、まぁいいでしょう。その方は私が預かります。良いですね?」
いいえとは言えそうにない空気だった。そのまま僕をお姉さんに送り出すひげ男。
「あ、ありがとうございます」
僕はイリーナと呼ばれた受付嬢にお礼を告げて改めて見てみた。
ショートな黒髪を目にかからない様に髪留めで留めており、目は鋭いものを感じるがかなりの美人だ。
年齢は結構若く見える。僕を見るとイリーナさんはにっこり笑いかけた。
笑うと凄く綺麗で明るく見える……先ほどのあれを見ていなければとても優しそうな人と思うだろう。
「ようこそ、冒険者ギルドへ。 本日はどのようなご用件ですか?」
カウンターの席に座らされ話が始まる。
「ええと、冒険者になりたくて」
「はい、では冒険者の登録という事で宜しいでしょうか?」
「はい、そうです。お願いいたします」
「では、こちらの紙に必要事項をお書き下さい。文字の読み書きできますか?」
「大丈夫です、魔法を覚える為読んだり書いたりしていたので……」
回答しつつペンを走らせる。
一通り埋めて紙をイリーナさんに渡した。
記入漏れなどを確認しつつ、イリーナさんが手の形に凹んだ台座を取り出す。
「この手のくぼみに合うように手を置いて下さい」
(何をするのだろう?)
疑問に思いつつ置くと、
「はい、宜しいですよ。ありがとうございます」
OKが出たので手をどけると、台座をしまい込みカウンターの下で何やらし始めた。
「どうぞ、冒険者カードとなります」
カードを一枚渡された。鈍く銅色に光るカードだ。
「冒険者はランク制で、銅>銀>金>白金>虹 の順序で上がっていきます。キープさんはまずは銅ランクからのスタートとなります。手を置いた台座からステータスなどの情報を読み取り、カードに記載しています。ステータスは【E>D>C>B>A>S】の順で高くなります。定期的に更新に来てくださいね」
イリーナさんが説明してくれた。
カードを見てみると、確かにステータスが記載されていた。
【名前】キープ・カッツ
【適職】回復師
【筋力】E
【敏捷】D
【魔術】A
【幸運】E
【体力】E
【魔力】A
思っていた通り魔法には適性があったが、力や体力は壊滅的、更に運も低かった。
カードをみて一喜一憂している間もイリーナさんの話は続いた。
冒険者としての責任や、カード携帯義務。
カードは身分証明であり、死亡時のタグであること。
魔法による録音機能があり、死亡時にはその1時間前の音声が保存され、それにより人同士のトラブルや殺し合い防止、もしくは死因の特定に役立っていること。
冒険者の冒険中の事故死についてギルドは責任を負わない…………等々。
イリーナさんと事細かく会話をした結果、回復師は冒険者の中でかなり貴重な存在と分かった。
回復魔法を使う人は1000人に1人ぐらいの割合らしく、どこのパーティからも引く手数多らしい。
また、回復師はその能力上、ソロは不向きなのでパーティを組むのが推奨とされる。
(パーティか……どうしようかなぁ? 募集か……声掛けか……う~ん)
キープが考え込んでいるのを見つつ、イリーナも考えていた。
(良かった……せっかく希少な回復師を、ガロン(ひげ男)のやつが食い物にするところだったわ。ただでさえ回復師の数って少ないのに。まったく……。それにしてもキープさんのパーティか……さてと)
イリーナは色々考えながら、パウスギルド所属のパーティを思い浮かべる。
「キープさん、宜しければ私がお勧めするパーティなど如何でしょうか?」
「イリーナさんのお勧めですか?」
「そうです。銀ランクのパーティなのですが、キープさんってクエストとか初めてでしょうし、まずは色々体験してみては如何かと」
「そうですね。それではお願いいたします」
特に当てもないキープはイリーナの提案を受け入れて頭を下げる。
丁寧にぴょこんとお辞儀するキープを見て、
(こんな真面目で素直な可愛い子が、ガロンのバカに取られずに良かった)
再度イリーナは安堵するのだった。