新たなる買出し
次の日
一晩休んで充分に休養をとったキープ達は、借りている四人部屋の一つに集まって朝食を食べていた。
いつもなら『狐のお宿』の食事処で食べるのだが、ゼータ男爵関連の話し合いする為人に聞かれない場所の方が好ましかった。
四人用のテーブルには8人分の朝食として大きな皿に色々なサンドウィッチが並べられおり、バイキングの要領で各自が思い思いのサンドウィッチをとっている。
そうやって朝食を摂りながら本日の予定を話し合っていた。
「ひとまず、ゼータ男爵の情報よね」
「そうだな。 どこにミラ嬢が捕まっているかも分からないし……」
「どんな人物かもだね〜話通じるかどうかとか……?」
「謝罪に来たミラを捕まえるぐらいだから、余程怒りが収まらなかったのか……話をあんまり聞いてくれないのか」
取り敢えず、ゼータ男爵の住居と性格、ミラが居そうな場所、街の人達の評判を手分けして当たる事になった。
「ええと、これと……これも……」
キープはナシュとミーシャの三人で道具屋に来ていた。
前回キープが拉致された為、色々入り用な物が買えていなかった。
そこで改めて買いに来ていたのだった。
他のメンバーはゼータ男爵の情報収集にあたっていた。
砥石、油、ヤスリ、ロープ……必要な物を選んでいく。
包帯、薬草、ポーション……この道具屋には、ポーションなどの薬品も売っていた。
ポーションは薬草を煮詰めて極限まで凝縮して作られる。
手間は掛かるが薬草自体が安価であることから、どの冒険者も買っていく高需要品だ。
しかし劣化が激しく、ガラスの瓶で保管していても2ヶ月ほどで効果がなくなってくる。
店側もそれが分かっているから薄利多売を目的にとして大量に置いてあった。
だからキープ達も常に買い直していた。
店の商品を見て回っていると……、
(ん? これは……)
キープの目に止まったのは、綺麗なルビーを中心に花のレリーフが付いたネックレスであった。
真っ赤な赤い輝きを放つルビーに目を奪われる……何故かそのネックレスが気になった。
(そう言えば……)
ふと、ナシュが以前ネックレスをしていたことを思い出した。
ダビー公爵から預かった魔法のネックレスだが、貴族育ちで美しいナシュによく似合っていた。
(いつも助けてもらっているし……)
ナシュとミーシャは別の棚を見ているようだ……折角だし驚かせてみよう。
キープはそのネックレスを買おうとして……ナシュだけだと色々大変な事になりそうと気付いて、みんなの分を買っていく。
おかげでキープの小遣いはかなり減ったが……、
(綺麗なものがたくさん買えたから良かった……みんな喜んでくれるかなぁ?)
ミーシャを救うために、みんなには数え切れない程助けてもらった。
そしてこの前も、キープの為にセイ達と対決してくれていた。
そこでお礼にと全員分プレゼントを買ったのだ。
キープはローブの内側にプレゼントをしまい込むと、
(ふっふっふっ……サプライズでみんなを驚かしてやろう)
滅多にわかない悪戯心が鎌首を持ち上げる。
買い物を済ますと三人揃って店を出た。
「お兄ちゃん、手繋いで!」
ナシュがキープに寄り添う前に、ミーシャがさりげ無く割り込んで強引に手を繋いだ。
ミーシャの中で一番キープを奪いそうと感じているのがナシュであった。
ミーシャとてナシュが嫌いではない、むしろ好きな方……いや、憧れに近かった。
しっかりした考えや言葉、綺麗な容姿、……この前だってキープを助ける為に必死だったし、不安なミーシャの側にいてくれていた。
でも、だからと言ってキープを渡してあげるかというと……それはまた別問題だった。
ミーシャがキープの手を繋いでいると……。
「!?」
ナシュがキープの反対側の手を握っていた!
(な! い、いつの間に……恐るべきナシュさん!)
ミーシャの防御をかいくぐってのアクティブな行動に、悔しそうな顔を見せるミーシャであった。
そうしてキープはナシュとミーシャに挟まれる形で手を握って歩いている。
キープより両側の二人の方が背が高いので妹を挟んで三姉妹が歩いているかの様だ。
そんなキープ達三人を周りの男性達が目で追いかける。
美人のナシュ、可愛いキープとミーシャの三人に視線が注がれるも、さすがに三人集まると恐れ多いのか声が掛かってこなかった。
と思ったら、
「ねぇねぇ、君たちすっごい可愛いね。 僕達と遊びにいかない?」
三人の青年が前に立ち塞がる!
声をかける勇気が無かった周りの男達は、そんな彼等を羨望の眼差しで見つめた。
……しかし、
「急いでるの、邪魔」
ナシュが一言告げて男達を押し退けていく……。
一瞬の躊躇も無いその仕打ちに膝から崩れ落ちる三人組。
その様子を見て、ゼロに近い可能性を悟った人達は、
(やっぱり声をかけなくて良かった……)
と思ったのだった。
そうしてナシュのおかげで宿までスムーズに帰ることが出来たのであった。




