初めての図書館
翌朝
キープはリカオン都市にある国営の図書館に来ていた。
(『ディスペル』について調べよう・・・ここなら何かつかめるかも)
図書館は貴重な書物もあるためかガードが入り口で警備をしていた。
かなり大きく4階建ての建物で幅も広い。
図書館の大きさに驚いていたキープだったが、中に入ると更に驚いた。
「こんなに本があるの初めて見た…」
中は4階まで吹き抜けになっておりその壁には本棚と言う本棚がびっちり敷き詰められている。
村の教会にあった本棚でも「本がたくさんある」と思っていたぐらいなのに、
ここにはその何百・何千倍という本があり、棚にきちんと納められていた。
本を読むスペースもかなり広く、机がいくつも並べられている。
時間が早いせいか人はまばらで、どの人も静かに本を探したり読んでいたりしており、広い空間に頁をめくる音がやけに大きく聞こえた。
(この中からどうやって探そう? どうやって調べればいいのかなぁ?)
図書館の使用方法が分からずキョロキョロしていると、
「すみません、どうかなさいましたか?」
キープの後ろから声が掛けられた。
振り返るとメガネを掛けた女性がいた。
腕に『図書館職員』と書かれた腕章を嵌めている。
「すみません。図書館の利用が初めてで、本をどう探したら良いかとわからずおりまして」
「なるほど、お探しの本は何というタイトルですか?」
「タイトルはわからないのですが、魔法の『ディスペル』に関する本があれば・・」
「魔法の『ディスペル』に関する書物ですね。お調べいたしますので少々お待ち下さい」
女性はそう言うと少し離れた所にあるカウンターに入って行った
女性を待つ間、キープは適当にそのあたりの本を手に取り捲ってみた。
「お待たせいたしました。」
急に声を掛けられ本から顔を上げる。
夢中になって読んでいた為か、女性が来ていたのに気づかなかったようだ。
「こちらが『ディスペル』関連の書物になります」
女性が本を渡してくる。5.6冊ぐらいだろうか?結構厚い。
「他にもいくつがございますので、こちらの本に該当するものが無ければおっしゃって下さい」
そう言うと女性は本を渡して引き返そうとした。
キープは慌てて、
「ありがとうございます!」
女性は振り返ると、
「『図書館ではお静かに』、ですよ?」
悪戯っぽく微笑むと女性は戻って行った。
空いている席に腰かけ、キープは本を調べていった。
そうして気付くと夕方の閉館前となっていた。
うーんと伸びをするキープに、先ほどの女性職員が声を掛けて来た。
「随分と長い間読んでらっしゃいましたが、疲れてはおりませんか?」
「ありがとうございます。本を読むのは慣れておりますので大丈夫です」
村で魔法を覚える為ひたすら本を読んでいた時を思い出す。
「そうですか、ところでお探しの内容は見つかりましたか?」
「それが、まだ何とも・・」
『ディスペル』の魔法についての考察などはあったが、使用者となるとまず聖女が出てくるし、次に挙がるのが勇者だった。
勇者は多くの魔法を覚えられるらしく、『ディスペル』も対象であるようだ。
ただ……勇者であるシリウスには頼みにいけるはずもないし考えてもいなかった。
あとは伝説上に出てくる、『全ての魔法を覚える天女』や『一遍に数百人生き返らせた大神官』などこの世にいないと思われる者達だった。
(明日は聖女様について調べてみよう。スピカさん以外の聖女もいるかもしれないし)
キープは女性にお礼を言うと図書館を後にした。
日が暮れかかり夜の帳が降り始めているが、晩御飯を求める人たちに、屋台や食堂の店員が声を掛けてかなり賑わっている。
(今日はそこら辺の屋台で買っていこうかな?)
キープは何か美味しそうなものはないか?とあちこち屋台を見て歩いていた。
ドンッ!
「わわっ!」
人にぶつかり尻もちをついてしまった。
ちなみに相手は転ばなかったらしい。
「ご、ごめんなさい。よそ見していまして…」
相手はあの白金ランク冒険者で『蒼龍の牙』パーティのリーダー『セイ』だった。
以前キープをパーティに誘ったものの断られたことで、キープに対して恨みを抱いていた男である。
「大丈夫かな?お嬢さん」
すっと自然に手を差し伸べる。はたから見るとかなり絵になるシーンだ。
それほどセイは美形であった。
キープは相手がセイという事に気づいてなかった……というより覚えていなかった。
「あ、ありがとうございます」
キープは差し出された手を取り立ち上がる。
『お嬢さん』と言われたのはショックではあるが、さすがに慣れてきていたし好意で助けてくれているので、わざわざ訂正はしなかった。
「いや、こんな可愛いお嬢さんを転ばせてしまったのは僕の不注意だ。是非お詫びをさせてほしい」
キープが断る前にキープにひざまづく。
キープがびっくりして、
「いえいえ、そんな。立って下さい。それに悪いのは僕の方ですから!」
「お詫びを受け入れてもらえるまでは立ちません」
「そんな!」
人通りが多い道の真ん中で、男の人をかしづかせている…いやでも好奇の目にさらされてしまう。
「わかった!分かりましたからお願いします。立って下さい」
キープは早々に折れ、セイに懇願する。
「わかりました。ありがとう」
セイは笑顔でスッと立ち上がると、キープの手を取り歩き出す。
「さぁ、行きましょう!」
その顔は喜びにあふれていた……。
(こいつを弄んだら奴隷に売り払ってやるよ。さぞ高値が付くだろうさ)
セイがここでキープにあったのは偶然ではない。
パウス辺境都市からキープがいなくなったことを噂で聞いたセイは、パーティに誘いたいという名目で
冒険者ギルドから宛先を訊いて、リカオンに来たのだった。
冒険者ギルドとしても辛い目にあったキープに白金パーティが付けば……との思いがあり、まさかセイがキープに恨みを持っているとは思ってもいなかったのだ。




