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初めての激白


「……確かに私はキープが好きだし大事よ?」


少し目をそらしてアリアに告げるが……、


「その『好き』じゃないわ……分かるでしょ?」

「……」


そんなナシュの様子に、


「どうして……その想いを伝えないの?」


ナシュが何を言われたかは分からないがキープの旅が終わったのだ、パーティの解散に伴うお別れ的なものだろう。


「キープは私にとって妹みたいなもので……だからこそ大事に思ってて……」


ナシュが俯きながら小さな声でぽつりぽつり言い始める。


「でもキープにしてみれば……大事にはされてるけど、やっぱり私は仲間で……だから旅が終わればそれまでで……」


俯いていたナシュが少し顔をあげてアリアを見る。


「確かにこの感情は恋かもしれないけど、それでもキープだっていつか好きな人が出来て結婚するかもしれない……それを考えると私は……」


そう言うとナシュは再び俯いた。



(これは……キープも含めてじゃないと難しいわね)

アリアはちょっと思案すると、


「ナシュ、ちょっとここで待ってて! いいわね! ここ居なさいよ?」

アリアは村の中に駆けていった。



ナシュはそこで俯いたまま動かなかった。






「キープ!」

教会に戻ると扉を開けるなり大声で叫ぶ!


その声に教会内の人達が全員動きを止めてシーンと静まり返るが……それに構わずキープの元に駆け寄ると、


「キープ! ちょっと来て!」

返事も待たずにキープの腕を引っ張って外に出る。


キープがアリアに引っ張られていくと……ようやく教会内が騒がしさを取り戻す。


「一体なんだろうね?」

ベガの声に他のメンバーも、


「さぁ?」

首を傾げるのだった。




教会から出て村の外れ……ナシュの元に向かう前に、


「キープ」

アリアがキープに向き直る。


訳も分からず連れてこられたキープは、

「な、なに?」

どもりつつ返事をする。


「ズバリ聞くわよ? 貴方ナシュに何て言ったの?」


「あう……、ほ、本当にズバリなんだね」


「いいから! ほら!」


そこでキープはアリアに事情を説明した……ナシュ含めてパーティ全員と別れようと思っている事やナシュが自分を女と思っている以上、恋する相手が出るかもしれないという事、そしてそれに対しての気持ち。


(くっ! 悔しいけどこれは……)

これではまるでキープも……。


首を振って考えを振り払うと、

「ねぇキープ、あなたどうして男って伝えないの? そうすれば貴方も恋の対象になるかもしれないじゃない?」

(というか、なっているというか……)


「……以前ナシュが言ってたんです。 『妹が居たらいいのに』って。 だから僕はナシュを支えると同時に妹として支えてもらう側にも……あいたっ!!」

おでこにデコピンした。


「な、なにするんですか!?」

「違うでしょ? ……本当は?」

「う……」


キープは赤くなったおでこをさすりながら目伏せると、


「こ、怖いんです……ナシュを騙している事が……それを知られる事が」

「全く……なんで素直に言わないかな」

「だ、だって……」

「『だって』じゃありません! 今の私はこのパーティで新参者。 一番言いたいことをずけずけ言えるはずでしょ?」

「うー……」

「『うー』じゃないの! 貴方だってナシュの様子気付いているでしょ? このままでいいと思うの?」

「……」


アリアはキープの手を握ると、

「今なら第三者的な私がいるんだから、何とかしてあげるわ。 だから……正直にナシュに話なさい」

「……」


キープはそれでも迷っていたが……アリアが強く手を握ると、


「……うん」


しっかりとアリアに頷いた。





アリアがキープと共にナシュの元に戻って来ると、ナシュは先程と同じ位置で待っていた。


アリア達の足音に顔を上げたが、キープがいることを知るとまた顔を伏せてしまう。



アリアとキープはナシュの前まで行くと、


「ナシュ、ちょっと確認したいことがあるんだけど……」


ナシュが顔を上げてアリアを見る……「なんだろう?」という感じだ。



「貴方……キープの事を嫌いになる事がある?」


「え……」


意外な質問だったのか、思わず声が漏れる。


「どんなことをされれば……キープの事を嫌いになる?」


再度質問するアリアだが……、ナシュはすぐに首を振った。


「私はキープを嫌いに何てならないよ。 この命も心も救われたんだから……」

そう言ってまっすぐにキープを見つめる。


キープもナシュを見つめ視線が合わさる。



「だ、そうよ? じゃあ、今度はキープの番ね」

「?」


ナシュが「?」を浮かべる中、キープはナシュに一歩踏み出すと……。


「ごめんなさい!!!」


大声で叫ぶとナシュに頭を深々下げる。



「え、え?」

戸惑うナシュに頭を下げたまま、


「僕はっ……ナシュにずっと嘘をついてた! 僕は……僕は……」


何度も言い淀んでいたが……ついに、


「僕は男なんです! ほんとにごめん!!」


頭を下げて目をぎゅっとつぶったままはっきりと告げた。



余りの展開に呆けていたナシュだったが……、


「そう……なんだ……。 キープって男の子なのね……」

「……」


ナシュの気の抜けたような声に返事が出来ない。

『だましていたなんて!』『嫌い!!』……そんな風に言われるのが怖い。


キープはそのままの体勢で目を閉じて体を固くする。


ザッ……ザッ……


ナシュがキープの元にゆっくり歩いてくる。


恐怖で体をこわばらせるキープの背中に手を置き……。



そのままゆっくりと抱きしめる……。


「!?」

驚くキープに、


「バカね……そんなので嫌いにならないわよ」

「……」

「キープに初めて助けて貰った時『どうして死なせてくれないんだろう』と思ったわ。 でも貴方に引き取られて、小さいのにみんなを助けようと努力して無理して……傷ついて……。 それでもその優しさや明るい所は変わらず……そしてそんな貴方に徐々に……」


一旦言葉を切ると、


「貴方が男性だろうと女性だろうと私はキープと言う人が好きなの。 嫌いになんてなるはずがない」

力を込めて抱きしめる。


「だから、お別れなんて言わないでほしい。 お願い……」

震える声でそう告げた。



「ナシュ……」

キープもおずおずとナシュに手を回すと優しく抱きしめる。





抱き合う二人を見ながらアリアは、

(あ~あ、何やってるんだろう私……)


自分のお人好し加減に腹が立つやら呆れるやら……。



(でも、みんながあんな状況は私も嫌だしね……)

キープ達に背中を向けて歩き出す。


(今日のところはナシュに譲ってあげるわ。 でも次からは勝負だからね!)



そんなアリアの先にベガ達が立っていた。


「あら?」


ベガがアリアを見ながら、

「まぁ仲間の事だからね」


心配でみんな見に来ていたようだ。


「師匠ってやっぱり男だったんですね~」

マタルがしみじみと呟く。


「あら?気づいてたの?」

アリアの声に、


「何となく……最初は女の子と思ってましたけど、途中からもしかしてと……」


「まぁ、これでキープの秘密は解禁かな?」

カペラがほっとした様に告げると、


「だね。 やっとキープに迫れるよ」


「!?」

ベガの声に一同が固まる。


「べ、ベガ! あんたってそんなキャラだっけ?」

カペラが震えながら言うと、


「ふっふっふ……ただの大食い天然格闘娘かと思ってた?」

「……」

「え? 本当にそう思ってたの?」


ベガの間の抜けた声に笑いが起きる。



「むー、みんな見てたんですか?」

キープが顔を赤くして歩いて来た……笑い声が聞こえたようだ。


「なんか楽しそう! なんかあった?」

ナシュも少し前と違って晴れやかな顔つきになっている。



「そうねぇ~。 あなた達どっちも覚悟してなさいよってことよ!」


アリアのセリフにキープとナシュ以外の全員が頷く。


「えー、ど、どうして?」

「どうしてもよ! さぁ、戻りましょう。 もしかしたら妹さんも目を覚ましているかもしれないしね」


アリアが促し全員キープの家に向かう。






キープの腕にベガが抱き着き、反対側の腕をマタル、カペラ、レジーナが取り合っている。


そんな姿を見ながらナシュとアリアは歩いていた。



「ありがとう、アリア」

「ん。 ……まぁいいわよ。 でも別にキープを譲った訳じゃないからね」

「え、そうなの?」

「あ、あなたねぇ~……図々しすぎるわ」

「ふふっ、こう見えても元貴族ですから」


再び黙って歩き始める。


「でも、ありがとうね」

「どういたしまして」


お互いにチラリと視線を交わすと、どちらともなく含み笑いを漏らす。


「明日からは勝負だからね」

「全員でね!」


そう言ってナシュとアリアはお互いに手を合わせるのだった。


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