初めての解呪
キープ達が村についた、その日の夕方。
テイル村の全員が教会に集まっていた。
勿論全員は入り切らず、大半は外に集まり各々話をしていた。
教会内の祭壇上にはミーシャが寝かせられており、下半身にはタオルが掛けられている。
ミーシャの体は半分が石となっており、あと少し遅ければ心臓まで石になっていただろう。
(「ここ最近、石化の進行が早まりまして……」)
神父さんの話が思い出される。
前の進行ペースなら石化しても精々太もも辺りと思っていた。
神父さん曰く、『魔の影響、力』そういった物が強くなっているらしい。
(間に合って良かった……本当に)
キープは祭壇上のミーシャを見る。
意識はなく、成長もしていない……まるで時が止まったかのような姿だ。
「あの時から変わらない……」
キープが呟く。
「呪いとは……その者の魂に掛けられる」
呟きが聞こえたのか、横にいたレジーナが話しかけてきた。
「魂……」
「そうじゃ、だから魂が石になっているお陰でかような姿のままなのであろう」
確かに『ディスペル(解呪)』を学ぶ時にも似たような事を言われていた。
魂に錠をかけるようなものだと、舞いで神様に力を借りて解くのだと。
もしかしたら本当にそのとおりなのかも知れない。
「では、始めますね!」
マタルがミーシャを前にして立つと舞を踊り始めた。
キープの両親もナシュ達もキープも、そして村人全員が心配そうに見守る。
「束縛されし魂の牢獄から、祈りをもって解きほどかん。 かの者を救い、安住の地へ。 その為に舞うは、天上への願い」
舞を踊りつつ詠唱を続ける。
いつぞやと違いタイミングもバッチリだった……そして、
「『ディスペル(解呪)』!!」
マタルの魔法にミーシャの体が淡いピンク色に包まれ……そして光が収まる。
「……ど、どうなりました?」
魔法を唱えたマタルが不安そうだ。
キープと両親は緊張の面持ちでミーシャに掛けられたタオルを捲っていく。
すると……、
「あぁ……」
声を上げてラムダの胸にすがりつくエータ、そして泣き始めた。
キープも目の端に涙を浮かべている。
ミーシャの体から……石化が消えていた!
「あぁ……ミーシャ……良かった、本当に良かった!」
キープの目から涙がいくつもこぼれ落ちる。
(やっと……助けることが出来た。 長い間待たせてごめん……)
そんなキープ、そしてエータを抱えてラムダも涙を流していた。
近くにいる神父もほっとした様な表情だ。
その姿に村人達から歓声が上がる!
「やったな!! おめでとう!」
「やっとだな!」
「おめでとう! ラムダ!エータ!」
村の人達が教会になだれ込んで来ると、ラムダやエータを祝福する。
「キープ!」
カインはキープに駆け寄ると涙を流しながら跪いた。
「ありがとう……本当にありがとう!」
「か、カイン……」
「俺のせいで……お前には一生償いきれない程の借りが出来た。 本当にありがとう!」
「い、いいからカイン立ってよ! カインのせいじゃないよ! それに、旅をしたおかげで色々な人達に出会えたし」
それでも泣き止まないカインをなだめるキープ。
そんな二人を村人達が囲み始める……。
「お疲れ様」
「あ、ありがとう。 ナシュ」
「魔法を使ったのはマタルなのにすっかり忘れられているね」
「まぁ、仕方無いですよ。 きっと私でもああなっちゃいます」
「まぁ……ね」
そんなナシュとマタルの様子を見ていたアリアだったが、
「ナシュ……ちょっと良い?」
ナシュに声を掛けて連れ立って教会の外に出ていく。
「何かあったのかな?」
ベガが首を傾げるが、
「そうだな……まだ出会ったばかりのアリアに任せるのもありかもしれん」
カペラはそう言って、教会を出ていく二人を見送るのだった。
外に出ると陽が沈んで闇が迫りつつある。
もう少しすれば完全に夜の帳が降りるだろう。
教会から出て村の外れまで二人して歩く。
お互い始終無言だった。
外れまで来ると、アリアがくるりと振り返りナシュに向き合う。
ナシュの方もそんなアリアを見つめている。
「で? 何があった訳?」
「……」
真っ直ぐ見つめてくるアリアにいたたまれなくてナシュは視線をそらす……が、
パシッ!
アリアがナシュの両頬に手を当てて無理やり顔をアリアに向ける。
そして、
「ナシュ」
驚くほど優しい声。
「言って……今のあなたは消えてしまいそうで怖いのよ。 ……何かあったんでしょ?」
「……」
ナシュは黙ってアリアを見つめている……が、その瞳が揺らいでいるのを感じる。
「キープ絡みでしょ? 旅は終わりとか何とか」
ナシュがビクッと震えると、目が忙しなく泳ぐ……。
「はぁ、全く……あなたもなかなか不器用ね」
アリアはナシュの頬から手をどけると、
「ナシュ。 もう気づいてるでしょうけど、あえて言わせてもらうわ」
真っ直ぐ……ナシュに真剣な眼差しを向けて、
「あなた、キープが好きなんでしょ?」
やっと旅の目的……タイトル回収まで来ました。
ですがまだまだ続きます。
引き続きお楽しみ下さい〜。




