初めての歓迎会
キープ達が声の掛けられた方を見ると、
長い金色の髪を三つ編みおさげにしている少女がいた。
年はキープと同じぐらいだろうか?
澄んだサファイヤの様に青い瞳をしている……金髪碧眼ってやつだ。
服はふわりとした大きめのローブ……特に柄などなくクリーム色の地味な感じだ。
腰にはワンドをぶら下げている。
「あの?」
「ああ!……ごめんなさい」
ジーと見ていて返事がない二人に心配になったようだ。
「僕がキープです。こちらはロードさん」
「ロードだ、よろしくな」
キープとロードがそれぞれ挨拶する。
キープが確認するように尋ねる。
「あなたがアリアさん? シャウラさんからの紹介の」
「そうです、まだ駆け出しの魔術師です。銅ランクでパーティ経験は1回のみです。 パーティを探してギルドに相談していたら紹介をいただきました。」
アリアが物静かに、しかしハキハキと答える。
「僕も銅ランクで駆け出しです。よろしくお願いいたしますね」
キープが少し親近感を覚えて嬉しそうにしている。
(今まで銀とか金ランクの人ばかりだったからなぁ……なんか嬉しい)
「よし、まぁ理想で言えばあと前衛1はほしいが、今はひとまず当てがない……手ごろなクエストでもしつつ他のメンバーを探すか」
ロードが立ち上がる、キープも続いて、
「ですね、さっそくクエスト見てきます」
クエストボードにトコトコ歩いて行った。
歩いていくキープをアリアがぽーっと見ている。
無表情ではあったが……ぽつり「可愛い」と呟いた。
ロードはそんなアリアを見つつ……、
(分かるぜ、その気持ち!)
心の中でガッツポーズをしたロードもアリアに親近感が湧いたのだった。
キープ達はリカオンから少し離れた森に来ていた。
クエストで受けた「フォレストウルフ」の退治である。
ちなみにフォレストウルフは魔物や魔獣ではなく獣の狼である。
商業都市であるリカオンには家畜も運ばれてくる。その家畜を狙ってフォレストウルフたちが襲ってくるらしい。
フォレストウルフは強くはない……ただしリーダーが全体を統率して狡猾に襲ってくるのだ。
例えば……、
「キープとアリアは背中合わせでお互いをカバーしろ!」
ロードがフォレストウルフを剣で切り裂きながら叫ぶ。
森に入ったキープ達だったが、フォレストウルフの速度を活かした動きであっという間に包囲されてしまった。
さらにロードが強いと分かると、ロードをキープ・アリアから切り離しにかかった。
ロードも離れない様にしていたが、波状攻撃により少しずつ離されていた。
「くそっ!」
目の前に飛んできた牙を剣で受けた!
瞬間足を狙って横からかみついてくる。それを蹴飛ばすと深追いをせず離れてロードを包囲する。
完全にヒットアンドアウェイの形……こうやって獲物が弱っていくのを狙っているのだ。
これがフォレストウルフが狡猾と言われる所以だった。
また、全体を統率しているリーダーが戦況を見ながら吠えて指示を出している。
なかなか手ごわい状況だった。
キープは攻撃に関してはほぼ皆無だった。
杖もあくまで護衛用、殴っても大した威力はない。
襲ってくるフォレストウルフを払うので精一杯だった。
「キープさん、大丈夫ですか?」
背中越しにアリアの声が聞こえる。
「はぁ……だ、大丈夫……はぁ……」
全然大丈夫そうに聞こえない返事を返す。
アリアもワンドで牽制するので精一杯な為、魔法を使うタイミングが掴めないようだった。
(どうしよう……こうなったら僕が囮になってアリアに魔法で倒してもらおうか……)
キープが必死に作戦を立てていると、
「キープさん」
再び背後から声が掛けられる。
「はい……はぁ……はぁ……な、なんでしょう?」
「あとで回復をお願いいたしますね」
言い終わるや否やフォレストウルフを払っていた手を止めると魔法の詠唱に入る。
勿論動きの止まった獲物を見逃すフォレストウルフではない、アリア目掛け襲い掛かってきた。
「させない!」
アリアの背後から前に素早く回り込むと杖で飛び掛かってきたフォレストウルフを牽制する。
が、1匹は杖をかいくぐりキープの肩に噛みついた。
「っ!」
キープは振り払おうとするが、その隙に杖を抑え込まれる。
焦るキープに更に噛みつこうとフォレストウルフが挟撃してきた。
(まずい!躱せない!)
一閃!
飛び掛かってきたフォレストウルフ二匹をロードがまとめて叩き切る!
「すまない、遅くなった」
ロードがキープに背中を向けたまま謝罪し、残りのフォレストウルフを睨みつける。
「完成……、生命潰える…静寂広がる無の世界、『コキュートス』(氷葬)」
キープの後ろからアリアの声が響いた。
キープ達を中心に一瞬で周りが凍り付いた。
アリアを中心としたある範囲は範囲外になるようで、キープとロード含む地面などはそのままだ。
20匹程残っていたフォレストウルフはボス含めて全て巻き込まれたようで凍っている。
「はあぁ…すげえな、魔法ってやつは」
ロードが呟いたが、ロードも囲んでいたフォレストウルフ20匹近くを倒してキープ達の元にきたのだ。
さすが金ランク冒険者である。
「お二人ともすごいです」
キープが褒め称えつつ回復魔法を掛ける。
「いえいえ~私なんて詠唱に時間が掛かるのでキープさんが盾になって下さって助かりました」
アリアが手をバタバタ振る。
「ああ、そうだぜ。それにお前の回復魔法があるから俺も安心して突撃できるしな」
ロードもそう返す。
「いえいえ、僕何てまだまだで」
顔を赤くしてローブの裾で顔を隠すキープに、
(ぐはっ!……天使なのか?何のご褒美だよ!)
ロードとアリアが表情は変えずに心の中で狂喜乱舞している。
「でも」
ふと顔を上げたキープが怪訝そうに、
「フォレストウルフがこんなにいるなんて、情報と違いましたね」
「そうだな、確か依頼では20匹程度だったはずだが…」
周りを見渡すと切られたり凍らされたりしたフォレストウルフがあちこちで絶命している。
「ざっとみても50匹近くはいるな」
(フォレストウルフ同士のグループが合流でもしたのだろうか?)
キープ達は少し気にしつつもフォレストウルフの牙を討伐証明として収集し、都市へ引き返したのだった。
「つーわけで、明日明後日は休みにしようと思う」
ロードがキープとアリアに告げる。
『雀のお宿』で晩御飯を食べている時だった。
フォレストウルフの数が多かったこともあり、依頼達成の報酬がかなり増えたので懐はかなり暖かい。アリアの歓迎会も兼ねていつもより飲み食いしていた。
そんな中、今回の戦いを振り返ると、準備不足もあったという事で休み宣言がされたのだ。
キープとアリアも同意する。
「でもアリアさんの魔法ってすごいですよね!」
キープが焼き魚を箸でつつきながら、昼間の魔法についての感想を話すと、
「キープさんの方がすごいですよ。私の場合は集中してから魔力を高めて詠唱をしっかりしないと発動できないので時間もかかりますし…その点キープさんは即詠唱出来ますし。しかも高位の回復も出来るのですよね?」
「高位っていうと『セイントヒール』とか?」
「そうそう、それです。神官様でもあまり使える人はいないのですよ」
「ふっふっふっ・・俺はキープに『セイントヒール』を掛けてもらった事があるんだぜ?」
ロードが不敵な笑みを浮かべてドヤ顔でアリアに胸を逸らす。
「ええ~いいなぁ~、私も『セイントヒール』掛けてもらいたい」
アリアがうらやましそうに言うが、
(掛けるときはかなりの大怪我をした時なんだけどなぁ…掛けないに越したことはないけど)
と思いつつ聞いているキープだった。
ある程度食事も進み、和やかな雰囲気になっていると、
「そういえばキープは明日どうするんだ?」
ロードがジョッキを片手に聞いて来た。
「明日はちょっと調べものをしようかと…ロードさんは?」
「俺は他に良さそうなパーティメンバーがいないか探してみる。やはり前衛が一人だと、今日みたいに後衛を守るのが難しいからな」
ちょっと思い出したのか悔しそうだ。
「私は少しでも上達するように魔法の練習しておきます」
アリアはぐっと握りこぶしをつくり、『ふんす!』と聞こえてきそうな感じで気合を入れている。
そのまま和やかに歓迎会は終了し、夜は更けていったのだった。




