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初めての『ディスペル』


「あ、な、ナシュ」


キープの先にはナシュが立っていた。



「キープ、こちらの方は?」


アリアがキープの手を握ったまま訊いてくる……心なしか握り方が強くなったように感じる。



「僕と一緒に旅をしている仲間のナシュ」


キープの言葉にナシュが、


「どうも、ナシュと言います」


「アリアです。 キープとは以前パーティを組んでいました」


お互いに紹介し合い頭を下げる……なんか微妙な空気が流れている気がする……。



「ところで……」

ナシュがにこやかに、


「いつまで手を?」


アリアはずっとキープの手を握って離さない。


「久しぶりなもので、もう少しこうしていたいなと……」


アリアも微笑んで返す。


お互い微笑んでいるはずなのに……微笑んでるんだよね?

すごい緊張感あるんだけど……。




「あ、そだ。 キープの支えになれるよう、魔法の練度あがったのよ!」


急にアリアがキープに視線を戻すと嬉しそうに笑顔で話しかけてくる。


「今じゃ『コキュートス(氷葬)』も魔法名だけで発動できるのよ!」


「そ、そうなんだ? ありがとう」



そこにいるナシュをそのままに話が進む。


チラリとナシュを見ると……何を言うでもなく黙ってこちらを見ている。


「あ、あの、アリア。 そろそろ僕行かないと……」


「あ、そうなの? 今キープはどこにいるの?」


「どこって?」


「宿よ。 後でまた訪ねたいから……」


「あー……。 今はちょっと訳ありでテントを張ってるんだ。 ごめんだけど、また今度落ち着いたらね」


それを聞いたアリアは少し思案していたが、


「じゃあ、後でテント行くから! どこら辺なの?」


「え、えと。 あそこぐらいかな」


キープが指さした方向を確認すると、


「分かったわ。 また後でね!」


握った手を上下にぶんぶんしてから手を離し、そのまま手を振りながら去っていった。




ナシュがキープのとなりに歩いてきて並ぶと、


「なんか……嵐の様な人ね」


「えと、出会った時はもっと大人しかったような気がするけど……まぁ色々あったのかも?」


「キープとすっごい親し気だったけど?」


ちょっとジト目のナシュ。


「まぁ……パーティ組んでたしね。 それに再会を誓った仲間でもあるし」


「再会って?」


キープはナシュに簡単に説明した。




シリウス達と戦った事と、その後再開を約束して別れた仲間達の事。



話を聞き終わると、


「ふ~ん、その仲間の一人が今のアリアさんって訳ね」


「うん。 魔法詠唱を短くするって修行に行ってたはずだけど、もうリカオンに戻ってきてたんだね」


「後でまた来るって言ってたし、ひとまず私達も戻りましょうか」


「そうだね」


キープがテントに戻りかけるもナシュが動かない。


「……ナシュ? どうしたの?」



ナシュは黙ってキープに手を差し出す。


「?」


「わ、わたしも……」


不思議そうなキープから少し目を逸らすと、


「手を……握りたい」



恥ずかしいのか顔を赤くしてそっぽを向いているナシュの手をそっと握ると、


「あ、ありがとう」


消え入りそうな小声でそっと告げて、キープに目を合わせると、


「じゃあ、もどろっか?」


「うん」



二人して手を握ってテントに戻る。




(いつも僕の事を可愛いっていうけど……ナシュの方が可愛いと思うけどなぁ……)


と思うキープだが、周りからしてみればキープも可愛いと目線を集めており……結果、可愛い姉妹が仲良く手を握って歩いている様にしか見えないのだった。









「で、出来ました!!」


マタルが飛び跳ねて喜ぶと、キープに思いっきり抱き着く!


「わわっ!」


勢いそのままにキープは地面に押し倒されてしまった。




テントに戻ったキープは、マタルがもう少しで『ディスペル』を使えるかもと聞いて様子を見に来ていた。

ちなみにナシュはテントに着くなり手を離して「水汲んでくる!」と走り去っていった。

みんなの前だと恥ずかしく思えたらしい。




地面に倒れたキープに馬乗りになったまま、


「師匠! ついに私出来ました! 『ディスペル(解呪)』」


「う、うん。 ありがとう、そしておめでとう」


感謝とお祝いを述べる。


「師匠のおかげです……」


マタルがそのままキープを見つめてくる……よほど感動したのか目が潤んでいる。


「え、え~と、マタルが諦めず頑張ってくれたからだよ。 僕の為に、そして僕の妹の為に……ありがとう」


マタルは馬乗りになったまま、そのままキープの両肩に手を添える。


「あ、あの? マタル? そろそろ上から……」


どぎまぎするキープにそのまま顔を寄せて行き……。




「おっほん!」


ナシュがわざとらしく咳ばらいをする。


ビクッ!


キープとマタルが固まる。

ギギギギと音がしそうな感じで横に顔を向けると、ナシュが腕組をして立っている。



「な、ナシュ」

「ナシュさん……いつの間に」


「晩御飯出来たから呼びに来てみれば……。 油断も隙もない」


ナシュがじーっとマタルを見る。


「だ、だって頑張ったからご褒美くらい良いかなぁ~と」


「あのねぇ。 キープは褒賞品じゃないのよ?」


「そ、そうですけど~……」


マタルは口を尖らせた。



「あ、え、えと。 マタルには今度何か違うのでお礼するから」

キープが間で取り繕う。


「本当ですか! 師匠~~」


キープの言葉に一転して笑顔を見えると馬乗り状態から抱き着いて来た!



「こらこら、ほら! ご飯だっていったでしょ!?」


ナシュがマタルを引き剥がす。


「ああん、ししょ~……」


残念そうに引き剥がされるマタル。




(はぁ、全く……)

ナシュは心でため息をつくと、寝転んでいるキープに手を伸ばし助け起こす。


「ありがとう!ナシュ」


ぽわぽわした笑顔を見せてくるキープ。



(も~。こんなんだからこの子はー!)

その愛くるしい表情に心がときめくと同時に、無自覚に他の人を引き寄せるその魅力に対して、溜息をつくナシュであった。


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