表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
173/307

初めての双子


キープ達がリカオンに移動しようとしている頃。




【魔王城】


魔王の間には各軍団長が集められていた。


魔王の姿は今はなく、各軍団長も魔王を待っているところだった。


色欲のデネブ

怠惰のエダシク

嫉妬のアケルナル

強欲のベイド


そして……、


「姉様」

「なぁに? ポルックス」

「えへへ、何でもない〜」


魔王の間に似つかわしくない程幼い姉弟。


この双子は……。


「静かにしないか、……カストル、ポルックス」



長い銀髪に白い口髭、精悍な彫りの深い壮年の男性……強欲のベイドが幼い双子を嗜める。


「誇り高い軍団長ともあろうものが、魔王の間で戯れるなど……」

「はぁ、分かりましたわ。 黙って静かにしております」

「ごめんね。 姉様、僕のせいで……」

「ううん、ポルックスは何にも悪くないのよ」


カストルとポルックスはお互いの手を絡めつつ見つめ合う。



そこへ……、急に部屋全体が凍りつく様に冷えついた。


「揃っているな……」


魔王の席には闇に覆われたその主が座っていた。



軍団長全員が一気に体を固くする。


双子ですら手を離すと魔王の前に跪いた。



魔王は軍団長達を見ると、


「色欲のデネブ……お前の策によりキャラコは消失したそうだな。 良くやった」


「勿体ないお言葉! 光栄に存じます」


デネブが更に頭を下げ身を固める。

褒められたはずなのだがより一層緊張してしまう。



「これで忌々しい王都アルファルドの東西の守りは消えた」


王都アルファルドの東にはケイナン、西にはキャラコがあったのだが、どちらも消滅している。



「このまま一気に滅ぼしたいところだが、こちらも軍団長を二人に失い、勇者もまだ二人残っている」


魔王の言葉一つ一つが軍団長に圧をかける……魔王の力の前に言葉だけで押しつぶされそうに感じていた。



「そこでだ……カストル、ポルックス」


「はっ!」

「はい!」


双子が揃って返事する。



「お前達にはケイナン、そしてキャラコの跡地に行ってもらいたい……意味は分かるな?」


「は! 承知いたしました」

うやうやしく頭を下げる。



「そしてデネブ、お前は引き続き増強を進めよ」


「はっ!」



「他は引き続き与えられた使命をこなせ」


エダシク、アケルナル、ベイドが揃って頭を下げた。



「では、行け。 この機を逃すなよ。 何としてでもこの世界を魔の支配下に置くのだ」


全員が頭を下げて、その場から消えていく……。



魔王は消えた軍団長達のいた場所を静かに見つめ続けていた……。







【ケイナン跡地】


今は何も残っていないこの場所に、幼い双子の姿があった。



「どう? ポルックス、ありそう?」


周囲を見回しながらカストルが愛しい弟に声をかける。


「うん、姉様。 これなら充分だよ」


ポルックスが目を閉じ杖を掲げると、


「感じる……感じるよ。 生への執着、固執、悔恨、無念。 そして殺されたことへの憎悪、悪意、厭忌、嫌悪」


目を開けると嬉しそうに、


「これならバッチリだよ、姉様!」

「さすが私の弟。 じゃあいつもの様に……」

「うん、いつもの様に」


「「お人形さんを作りましょう」」







【リカオン商業都市】


「やっと着いた!」

キープが懐かしくリカオンの門を見上げる。


「久しぶりだなぁ……みんな元気にしてるかなぁ?」


ロードやアリア、ミラは旅に出たが、街には冒険者ギルドの受付嬢リリンやシャウラギルド長、図書館にはシルマが居るはずである。



「そう言えば、キープは少しの間ここに居たのよね?」


「うん、……嫌なこともあったけど、でも大事な人たちとの出会いもあったから……」


ナシュの言葉に懐かしそうに目を細める。



「キープ、無事着いたか」


アルファードがキープの元に歩み寄る。


「あ、アルファードさん。 この人達はこのままで?」


「とりあえず、私が代表してリカオンの貴族とギルド長に話をしてこよう。 さすがにそれをしてから出ないと街に入れても……な」


確かに街の方でも色々と準備があるだろう。


「ひとまずそれまでは各冒険者達に護衛してもらい、住民達には街の外でキャンプの形を取ってもらう。 今から急いで話をしてくるよ。 食料品や水が急ぎ必要だろうしな」


「分かりました。 では引き続き僕等もお手伝いいたしますね」


「本当にすまない。 感謝する」



何度もお礼を告げるとアルファードは急ぎ足で街の中へ向かっていった。

ナシュも今の話をみんなに伝えると皆の元に戻っていった。




キープはキャラコの住民達に声を掛けつつ戻ろうかと思っていると……、


「フン! 散々ギルド長の機嫌でも取るんだな」


後から声が掛かり、振り返るとプサイが両腕を組んでキープを見下ろしている。

何事だろうかと思っていると、


「話を聞いた。 何でもキャラコの街を救うため、ギルド長に特命を受けたとか……」


「えと、特命と言うか、頼まれまして……」


「で、失敗したんだろ?」


「……」


「お前みたいなチビのガキじゃなくて、俺みたいな実力のある魔術師に任せてくれれば良かったのにな?」


「……」


心に言葉が突き刺さる……、消失したキャラコの街、そして人々が再び思い返される。


下を向いて泣きそうなキープになおも、


「自分の役立たずさが分かったか? 分かれば……」


「『アイスクロウ(氷鴉)!!』」



急遽声がしたかと思えば、


「うわっ! や、やめろ!」


氷の鴉がプサイの頭を突っつき回している。



突然の出来事にキープが呆然となっていると、


「これに懲りたら、私のキープを悪く言わない事ね!」


キープの後ろから懐かしい声がした。


振り返ると、


「アリア!」


「はぁい、キープも元気そうね」


紫のローブ姿にツバの大きい三角帽子をかぶったアリアがキープに手を上げて応える。


「クソッ! 何なんだお前!」


「キープの仲間よ! これ以上キープを貶す様なら容赦しないわよ!」


「チッ、うるさい! 覚えてろよ!  イテ! こいつ突つくな!」


プサイは舌打ちをすると鴉に追いかけられつつ離れて行った。



「キープ、大丈夫?」


プサイが居なくなると、アリアがキープを覗き込むように見つめてきた。


「うん、ありがとう、アリア」


少し元気になったキープに微笑みながら、


「良かった、久しぶりに会っていきなりだったけど、キープの力になれたのなら……」


キープもアリアに笑顔を見せて、


「僕も……久しぶりにアリアに会えて嬉しい!」


そう言って手を握ってくる。



ただの握手なのだが、アリアは顔を赤らめて、


「う、ううん、こちらこそ……」

(これはただの握手、ただの握手……)


自分に言い聞かせていた。



そこへ、

「キープ、その人は?」


アリアと握手をした状態で振り返ると、ナシュがなにか言いたげな目で二人を見つめていたのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ