初めての三人目の勇者
「お前達はこれからどうするんだ?」
アルファードがキープの顔を見ながら問いかけた。
陽は天近く登り、少し暑く感じる陽射しを浴びせている。
話があるとアルファードに呼ばれて来たところだった。
「えと、アルファードさんはどうするのですか? 街の人たちもいると思うのですが……」
質問に対して質問で返してしまうことになったが、返答次第でどうするか決めようと思っていた。
「俺達はリカオンに行くつもりだ。 そしてそのまま王都に行くよ」
「王都に……」
「ああ……これだけの人数をリカオンだけに滞在させられるか分からないしな」
アルファードは千人近くの人達を見ながら告げた。
「あ、でもリカオンより王都の方が近いんじゃなかった?」
詳しくカペラが尋ねると、
「そうだったんだが……この前の戦いでな」
クイッと指で示す。
そこにはスティープ山脈が雄大な姿を見せていた……この前までは。
今はレジーナのブレスによって山脈の半分が丸く抉られていた。
ナシュ達が一斉にレジーナを見ると、レジーナは目をそらした。
レジーナによるものだが我関せずらしい。
「と、言うわけでな。 山脈の向こう側はリカオンだ。 山脈を迂回する必要がなくなった今、山を抜けた方が早いという訳だ」
「確かに……山脈のせいで大きく回り込む事になっていたのですよね?」
「その通りだ。 ……それにこの人数だ、早めに他の都市に援助してもらいたい」
「じゃあ、僕達もリカオンまでお付き合いいたしますよ」
「ふむ、確かに色々手伝ってもらえると助かるが……」
「ええ、こんな状況ですし、この人数で向かうのなら人手は多いに越したことはないですし。 だからお手伝いいたします」
「……ありがとう。 こんな状況だ、遠慮せずにお願いさせて頂くよ」
軽く頭を下げると、アルファードは今後についてギルド職員と話をするからと移動していった。
この後、どういう風に人数を分担してリカオンまで行くかが決まれば連絡が来るだろう。
キープも今の話を伝える為、仲間達の元へ戻る事にした。
「あ、おかえり。 どうだった?」
戻って来たキープにナシュが声をかける。
「うん、僕達も街の人達と一緒にリカオンに向うよ」
「うん、それが良いかもね。 みんな大変だし、私達も何かお手伝い出来ればね」
「うん……ところで他の人達は?」
テントのある場所にはナシュしかいなかった。
「マタルさんの魔法練習を見に行ってるよ」
マタルの魔法練習とは『ディスペル(解呪)』の練習だ。
進捗としては、詠唱は完璧であと少し舞いと合わされば使えるだろう。
最近は他の人から見てもらい指摘を受けつつ修正していっているようだ。
「たぶんこの後、出発になるし、僕達は準備しておこうか?」
「そうだね〜」
ナシュは剣の手入れをしていたが、その言葉に片付けを始める。
キープもテントをたたみ始めた。
「……リカオンって私が売られようとしていた街だよね?」
ふと、ナシュがキープに尋ねる。
「うん……えと、実は僕も売られちゃって……」
「ええ!? 大丈夫だったの? その……色々と……」
初めて聞く話に驚きつつも心配そうに、でも何故か顔を赤くして聞いてきた。
「うん、たまたま知り合いの人に助けて貰って……」
キープはシリウス達に捕まり痛ぶられた後、魔法をかけられ売られてしまった事……たまたまロードに会えたことで助かった事を話した……。
「そ、そっか。 でも命が助かって良かったわ。 ……その……他にも大事なものとか……」
「?」
安堵しつつも顔を赤くしていたナシュだったが、
「でも勇者ってまともなのがいないわね。 シリウスって奴と言い、ミアプラと言い……」
確かに……勇者と言えば魔王を倒す選ばれた者だが、性格とか人柄は関係ないのだろうか?
「まぁ、でも話によると勇者はまだ居るみたいだし、まともな奴も居るのかしらね?」
「え、そうなの?」
「ええ、貴族として教育を受けてた時に、この時代には三人居るって聞いたわ」
「三人……」
シリウスとミアプラ、あと一人いるってことみたい。
「あと一人はね、え〜と」
名前を思い出そうと腕を組んで考えるナシュ。
しばらくそうしていたが、
「あ、そうだ! 確かアンタレスって名前よ。 『あんたです』みたいな感じで覚えたんだったわ」
「アンタレス……」
初めて聞く名前のはずだが、何故かその名前に何かしらの運命を感じるキープであった……。




