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初めての魔人話

翌朝、迎えに来たロードと『雀のお宿』食堂で朝食を食べながら今後の方針を話し合った。


「ひとまず、冒険者ギルドに行ってメンバーを探そう」

ロードはハムサンドを3口で食べるとそう言った。


値段の割に結構大きめでハムとレタスとチーズがサンドされている人気があるサンドウィッチだ。


(一口がデカい……)


キープはその食べっぷりに目を丸くしていたが、


「メンバーを探すって?」

「俺とキープの2人じゃ、色々クエストするにしても厳しい。前衛と後衛の形は理想だが、単純に人数が少ない」


話しながら次のタマゴサンドに手を伸ばす。

ちなみにキープはツナサラダを食べている。7種類ぐらいの野菜が入っており量も多い。


「今まで僕が組んだパーティだと、僕入れて5人とかでしたけど、5人ぐらいが理想なんですか?」

「そうだな……前衛2名、斥候役が1名、魔術師1名、回復師1名……まぁ理想だな」


気付いたらロードの手からタマゴサンドがなくなっている……次のチキンサンドに手が伸びていた。




朝食後、さっそく二人して冒険者ギルドに向かった。

キープも1回来たが、その時は聖女に会うのに必死で、外見など見る余裕もなかった。


「なんか、白を基調としてオシャレですねーここのギルド」


大きさで言ったらパウス冒険者ギルドと同じぐらいの大きさだったが、リカオンの方は白い外壁に

柱も模様が細工されており貴族の屋敷の様な感じだ。

ただ、入り口の上部にはでかでかと『冒険者ギルド』の看板が飾られている。

看板の枠も波型の模様が入っていて凝っている。


冒険者ギルドに入る。中の配置もパウス冒険者ギルドとほぼ同じような感じだ。


2人は少し行列の出来ているカウンターに向かう。

少ししてキープ達の番になった。


「いらっしゃいませ、リカオン冒険者ギルドへようこそ。ご用件はなんでしょうか?」


受付嬢は明るく元気に話しかける。茶猫の獣人なのか、茶色の猫耳が頭の上でパタパタしている。

見た目もまだ若く、あどけなさが残っている。胸には『受付:研修中 リリン』と書いてあった。


「えっと、これを……」


キープがイリーナに渡された手紙を出す。

ばたばたして出すのがすっかり遅くなってしまった。


「はい? えーと……」


リリンは手紙を受け取り封の印を確認すると、「少しお待ち下さい」と奥の部屋に引っ込んだ。




少ししてリリンが戻ってきた。


「ギルド長が会いたいそうですので、こちらへどうぞ」


カウンター横の通路からギルドの奥へ案内される。そして『ギルド長』と書かれたプレートが貼ってあるドアの前で、


「ギルド長、お連れしました」


「開いている、入ってもらってくれ」


中から女性の声返ってきた。


「では、すみませんが中へお進み下さい。私はこれで……」


リリンが長い尻尾を振りながら戻って行った。




キープとロードは扉を開けて中に入る、書斎机で書類に書き物をしている女性が、

「すまないね、今少し忙しくてね。少々待っていてもらえるか? そこの椅子に座ってくつろいでいてくれ」


こっちを見ずに書類と格闘しながら声を掛ける。

来客用のソファーが置いてあったので、そこに腰かけて待つことにした。



しばらくすると一段落ついたのか、


「お待たせしてすまない……リカオン冒険者ギルド長のシャウラだ」


机からこちらに歩いてくると、紹介をしてお辞儀をする。

キープとロードも立ち上がり名乗りお辞儀をした。

シャウラは二人に手で座るよう促す。


ウェーブの掛かったオレンジの髪を後ろで一束ねにしている。


(オレンジのウェーブの髪……)

亡くなったルマの事が一瞬よぎる……。


しかしシャウラの特徴はその顔だった。

かなりの美女だが、顔の半分近くに刀傷が入っている。

右目の上から顎のあたりまで縦一文字に痕がついていた。

その影響からか右目は閉じられていて……おそらく開かれる事、見る事は叶わないだろう。



キープ達の表情から察してか、人懐っこい笑顔を見せると、


「すげー傷だろう? 昔キマイラとやりあってね。 倒しはしたが代わりにこれをもらっちまってね」


自慢の様に言ったが、ふと寂し気な顔になると、


「おかげで冒険者稼業は引退、今じゃつまらない書類整理さ」


おどけて肩をすくめた。




キープ達が何といえばよいか反応に窮していると、シャウラはキープ達に向かい合ってソファーに座った。


「さて、私のことはいいとして! わざわざ来てもらったのは他でもない。聞きたいことがある」


声を落とすと、真剣な顔つきになる。そこには先ほどの人懐っこい笑顔は微塵もない……緊張が伝わる。


「イリーナの手紙にあった、魔人についてだ……キープだったか?魔人に出会ってからいなくなるまでの事を話してほしい」


キープは頷くとシャウラに話し始めた。ロードも詳細は知らないので食い入るように聞いていた。




一通り話が終わると、


「これは……想像以上にやばいね。」

シャウラが腕を組んで唸った。



「確認なんだが……魔人は……デネブだっけ? 『色欲の魔人』って名乗ったんだね?」

「別れ際に……微かにですが」


シャウラは再度唸ると、


「ロードは知っているかもしれないが……キープは聞いたことが無いだろうから話しておこう。 魔人についてだ」


シャウラは一息つくと、


「魔人は魔王の軍団兵……多分これぐらいは知ってるだろうね?」

キープが頷く。


「で、だ。 軍団兵の名称から分かる様に魔王配下の軍ということだが、軍と言うからには、それぞれ役割があったりする。 例えば魔王の近衛兵団、城の守備兵団、暗殺や戦場や補給など色々だ」


「そして……」シャウラが続ける。

「それぞれの軍団には軍団長がいる。その実力は普通の魔人など比較にもならない。また普通の一兵卒には固有名がないが、軍団長にはある」


キープはデネブの言葉を思い返した。


(固有名……『デネブ』)


シャウラは続けて、

「もし本当に二つ名まで持っているとしたら、間違いなくデネブとやらは軍団長だ」





冒険者ギルドの1階……休憩所の一角にキープとロードがいた。

シャウラとの話が終わり、ここで人を待ちつつ休んでいた。


シャウラから別れ際に、

「そのデネブが軍団長か……魔人なのか……全部予測であり確証がない。だが、あまり話をしないように頼む」

キープ自身も色々巻き込まれるかもしれないし、世間の混乱を招く恐れもある……という事だった。



「しかし、お前も大概だな」

ロードが呆れたような憐れむような感じで深々言った。


「あのですね~僕だって好きでこんな色々巻き込まれてないです! 僕だって普通にパーティ組んで、聖女様を……」

そこで不意に言葉を切る。


(そうだった……聖女スピカさんの代わりを考えないと……)

黙り込んでしまったキープにロードが慌てて、


「いや、年若いのに苦労人だなーって意味だ」


困ったようなロードを見つつ、


(ひとまず、ディスペルについて調べてみよう……ここは都市としても大きいし、図書館や教会も大きいはず)

考えをまとめるとバツが悪そうなロードに、


「まぁ傷つきましたので、あとで屋台の串焼き4本奢って下さいね」

「4本もか!……ううむ、ま、まあいいだろう」


(そういえば前は自分が奢ったような……)

と思っているキープを尻目に、ロードが財布の中身を見ている。



「すみません、ロードさんとキープさんで宜しいですか?」


いつの間に来たのか二人の側に女性が一人立っていた。


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