初めてのキス
ここは……?
キープは闇の中で一人立っていた。
(以前にもこんなことあったな~)
トテトテと闇の中を歩き始める。
歩きながら、
(みんなは無事だっただろうか? 僕は守れたよね?)
最後……もはや魔力は尽きていた。
魔力が尽きると気絶するのは身をもって知っていたが、尽きてからも魔法を維持していたのは、どうやってたんだろう??
なんとか最後まで気絶しなかったけど……。
いくら歩いてもどこにもたどり着かない……。
(もしかして……魔力使い過ぎて死んじゃった……とかじゃないよね?)
ずっと闇の中だからか不安になってくる。
闇の中でちょっと泣きそうになっていると、
「?」
暖かく心が満たされる様な風がどこからか吹き込んでくる……。
(こっちかな?)
そちらにトコトコ歩いていくと……。
パアァァァァ!
急に光が広がった!!
(ん……?)
キープがゆっくり瞼を開く
(眩しい……)
夢とはいえずっと闇の中にいたからか、光が眩しく感じる……。
(……え?)
目が……焦点が合ってくる……。
目の前に知らない女性の顔がある……そして、
「!?!?!?!?!?」
横になっているキープは、……その女性にキスされていた!!
「っっわぁ!」
ゴン!
飛び起きた拍子に女性と頭をぶつける……当たり前だが……。
「ったぁ!!」「い、痛い……」
キープと女性がそれぞれ頭を押さえる。
「お、起きたとたん何するんじゃ!」
「だ、だって……、い、いや、そうじゃなくて! な、な、なにを!!」
お互い涙目になりつつ、キープが真っ赤な顔で女性に……、
「だ、だ、誰ですか! そ、それに僕の……僕の~……」
パニックになっているのとキスの事実に言葉が上手く出ない!!
そこへ、
「キープ! 起きたの!!」
ナシュが飛び込むように入ってきた……今気づいたが、ここはテントの中だった。
「な、ナシュ!!」
先程の事もありナシュが来たことでなんやかんやで……もう……。
「一体どうなってるの!!」
訳が分からな過ぎて、大声で叫んだのだった……。
あれから少しして、キープの前にはナシュ、ベガ、マタル、カペラ、そして……白いドレスを纏った長身な女性。
「えっとね、まずあれからどうなったか話すね」
ナシュが順序だてて話していく。
デビルドラゴンの最後、そして意識を失ったままのキープ。
ナシュがそこまで話したところで、知らない女性が引き継いだ。
「そこからは余が話そう……。 キープとやら、お前は負荷をかけ過ぎたのじゃ」
「負荷?」
「魔力じゃ……お前は自分の限界を超えて魔力を使用した。それがどういうことか分かるか?」
「?」
「はぁ……これだから人間というのは……、つまりだ、足りない魔力を別なもので補った……という事じゃ」
「??」
「お前と言うやつは~……コヤツが馬鹿なのか人間とは察しが悪いのか……。 だから、魔力の代わりに別なもの……つまり命を使ったのじゃ」
「ええ!」
女性はあきれ顔をしていたが、
「やっとわかったか、このドアホウが……」
「む~……、さっきからバカとかアホとか失礼じゃないですか! 大体誰なんですか?」
「き、キープ、この人は……」
ナシュが言いかけるのと制すると、
「ほ~う、まだ気づかなんだか。 この目を見ても気づかないか?」
「目?」
女性の目をじーと見る。
金色に輝く瞳で、見ていると引き込まれそうだ……あれ?最近金色の瞳って見たような……。
「はぁ……、あのな? お前の周囲で自分の事を「余」と呼ぶ奴が他にいたか?」
(自分の事を「余」と呼ぶ偉そうなやつは……っあ)
キープは思い出した……確かにここ最近出会っていた。
「ま、まさかあの白い龍」
「おお、やっと気づきおおたか。 全くもって鈍い奴よの」
キープが女性を改めて見つめる。
白く長い髪……もう少しで足首に届きそうなほど長い。 肌も全部抜ける様に白い。
美人だが気の強そうな顔をしている。 先ほどは悪戯ぽい顔をしていたが……。
細身で背が高く(また女性の方が高い……)胸もお尻も慎ましい。
だが、よく見ると頭から角らしきものが二本出ており、口を開くと牙がズラリと見える。
「あ、あの?」
「なんじゃ?」
「人間になれるのですね」
「たわけが! 人間ではない、獣人みたいなものじゃ……しいて言えば龍人か」
なるほど……確かに獣人もいるのだから、そいうのもあるかもしれない……って、
「なんか口調変わってません?」
「龍だと声ではなく気持ちを伝えてそれをお主等が心で変換しているからの。 実際の口調と違うのも仕方なかろう」
色々分かってきたところで……先ほどの事を思い出した!!
「お、思い出しました! さ、さっきは一体何を……あ」
(し、しまった! ここで訊く質問じゃなかった!!)
この場には女性全員が集まっている。
「さっきって??」
ベガが小首を傾げながら訊いてくる。
「さっき? ああ、あのせっぷん『あ~~~っ』」
キープが声をかぶせてごまかそうとするが……。
「せっぷん?……接吻?? ってええ!!」
ナシュの声を皮切りに、
「そ、そんなキープが……」
「師匠……そんなに大人の女性が好きだったなんて」
「あ、あたいのキープが……」
女性たちから悲鳴が上がる。
そして、ナシュが龍人に
「ちょ、ちょっと!! どういうことなの? キープとキスするなんて!!」
「キスと言うのか? 接吻の方が情緒があっていいのじゃが……」
「そんなことはどうでもいいの!! どうしてキスしたのよ!!」
「じゃから言っただろう? キープに魔力と命を分けると……」
「そ、そうだけど……、もしかしてそれで?」
「そうじゃ、なんで余が理由もなくこやつにセップ……キスしないといけないのじゃ」
「そ、それは……でも、キスなんて知ってたら……」
納得はしていないが不承不承と言う感じで引き下がる
キスは想定外だがキープを助けてくれた手前強くは言えないようだ。
「僕を……助けてくれたんですか?」
「ああ、魔力どころか命まで使用して魔法を維持するなんて普通は出来ない事じゃ……よほど強い意思や気力がなければな」
キープをチラリとみると、
「お主にはそれだけのものがあったのであろうな……それにお主の魔力は少し変わっているからな」
「え?」
以前から言われていた言葉だ。
「ど、どう違うのかわかりますか?」
「そうさな……」
少し思案したが、
「普通人間に溜まる魔力は自然界の力じゃ。しかしお主はその自然界の力と生命力が混在している」
「混在?」
「溶け合っているというか、混ざり合っているというか……だから多くの魔力を行使しても常人より魔力量が大きいように見える。しかし要は……」
「命を使ってる?」
「うむ」
「そ、そんな! じゃあキープが魔法を使えば使うほど……命が?」
ナシュから悲鳴が上がる。
マタルは思った……「第一回魔法お披露目大会」なんてするんじゃなかった……。
「まぁ、いずれはそうなるだろうが……。ひとまずは欠けた分は補っておいた。 問題はないじゃろう」
「あ、ありがとうございます!」
お礼を言うキープに、
「まぁ、お主の底知れぬ魔力には興味があったのでな。 それと余のブレスを防いだ魔法にもな」
「大魔法ですか?」
「おお、『大魔法』というのか? いや~余が生きている中で初めて見たのでな」
なんか活き活きしている……知らないことに貪欲と言うか、こう見ているとただの明るいお姉さんにみえる。
「まぁ、お主たちには同胞の不始末を片付けるのにも一枚協力してくれているからな……それに折角起きだして会いに来てみれば同胞はあ奴だけだったし」
悪戯っぽくこっちをみると、
「余も暫くお主たちの旅に同行してやろう」
「いえ、結構です」
「そうじゃろうそうじゃろう、龍と共に旅ができるなんて……え?」
「いえ、丁重にお断りいたします」
「えええ~~! なんでじゃ! どうしてじゃ!!」
急に立ち上がり信じられないという表情。
「え、だって誇り高い龍と一緒に旅なんて恐れ多いです」
(本音はめんどくさいことになりそうだからだけど…)
「……なんか、そういう風には見えんのじゃが?」
「いえいえ滅相もございません」
疑わしい目で見ていた龍人だが、
「命を助けた者が余を拒むとはなぁ~……」
「うっ!」
そう言われると流石に弱い……というか龍がそんな姑息な事を言ってくるなんて!
「プッ! ククッ……フフ」
この前と全然違う龍の一面につい笑いが出てしまった。
「な、何がおかしいのじゃ!」
顔を真っ赤にする龍人に、
「いえ、すみません。 えと、旅でしたよね? 分かりました! お願いいたします」
「フ、フン! 最初から素直に言えばいいものを! 余の名は……そうじゃな『レジーナ』と呼ぶが良い」
「はい、では、これからよろしくお願いいたします。レジーナさん」
「『さん』はいらん。 レジーナだけでよい」
「では、宜しく。 レジーナ」
ナシュ達も口々に挨拶をする。
「ところで、キャラコの街はどうなりました?」
キープの質問に全員の動きが止まった。
すぐに気絶したキープは街の様相を見ていなかった。
「キープ……」
ナシュがキープの目を見ながら……キープの指に自分の指を絡めて手を握りしめる。
その顔は血の気が引いており、目は真剣そのものだ。
「キャラコの街はね……」
そうして街のことを話し始めた……。
きーぷ「初めてだったのに……」
全員「!? きーぷの初めてがパッとでの新参に!」
れじーな「まぁ、お主を助ける為だからの」
なしゅ「じ、じゃあ人工呼吸みたいなものよね!」
べが「だ、だね! キスとしてはノーカン!」
またる「うんうん、ノーカン!」
かぺら「そ、そうだな! キスはまだだキスは!」
全員「ノーカン! ノーカン!」
れじーな「……きーぷの唇、柔らかかったの」
全員「れじーなのばかぁ!!」
れじーな「ふふっ、みな若いのぅ」




