初めてのデビルドラゴン
「キープ危ない!!」
キーン!
ナシュの剣がワイバーンの鉤爪を受け止める!
キープに滑空してきたワイバーンは、再び宙に舞い上がると旋回して隙を窺い始めた……。
「大丈夫?」
「うん、ありがとう」
「さぁ、行きましょう!」
再び全員で走り出す!
街の門が見えた……門は開け放たれており、街の中が炎に包まれているのが見える。
そこから街の人々が大勢逃げ出してくる。
走るキープ達の足元には多くのガードが折り重なって倒れていた。
ここで防衛ラインを引いていたガード達だろう。
空からの急襲によるものか、あちこちに大きな岩が転がっている。
「ツッ!」
キープは何もしてやれない事に唇を噛んで走り続ける。
「『ウインドスラッシュ(風刃)』」
急降下してきたワイバーンに、マタルが魔法を打ち込む!!
ワイバーンの片翼が幾重にも切り裂かれて墜落する!
「邪魔だぁ!!」
カペラの斧が突っ込んできたワイバーンの首を一刀両断にする!
足は止めない! 急がなくては街の人達が!
門に辿り着くと、生き残ったガードが街の人々を誘導して外に逃していた。
ガード達も怪我を負いつつ、誘導する組と、逃げ出してきた人々を守る二組に別れている。
(本当は回復してあげたい! この人達も……)
キープの気持ちをよんだのか、
「師匠、先に行っていて下さい! ここは私が回復を!」
マタルが門で足を止める!
「じゃあ、私が護衛するよ!」
ベガもマタルに並んだ。
キープは足を止めずに振り返ると、
「頼みます!!」
マタルはキープに頷くと、直ぐにガード達に向き直り、
「『ハイヒール(中回復)』」
怪我をしたガードを癒やしの光が照らしていく……。
街に入ったキープ達は街の中心に向かっていた。
キャラコの街の中心には大聖堂が建てられており、種族の壁を超えて誰でも祈りを捧げられるよう大きな建物となっている。
しかし、キープ達が着いたときには見る影もなく破壊されており、六階建ての造りだった大聖堂は、二階分潰れて四階建ての様になっていた。
「どこで魔法を使うの?」
「あそこです!」
キープの指差す先には大聖堂の鐘があった。
低くなった大聖堂……その上には鐘塔が辛うじて残っている。
あちこち破損はしているが倒れてはいなかった。
(街の中心でなるべく高いところ……)
『ヴァルハラ(神界)』はキープが望む所に発動出来る。
しかし、炎から守る為に魔力を常に流すのであれば結界の中心に居た方が一番良い、また、発動場所はなるべく高い方がより遠くまで覆える。
大聖堂に近づくキープにワイバーンが2匹襲い掛かる!
ヒュンヒュンヒュン……ドガァ!!
キープの後から大斧が回転しながら飛んできてワイバーン一体を壁に貼り付けた!
カペラの両手斧だ!
「はぁ!」
もう一匹のワイバーンにナシュが立ちはだかり袈裟がけに斬り捨てた!
「ありがとう!」
二人に叫びつつ大聖堂内に入ると、鐘塔の階段を目指して奥に走る!
大聖堂内部は逃げてきた人が集まっていたのか多くの死体で溢れていた……。
大聖堂ごと炎で炙られたらしく黒焦げの死体や体中水ぶくれで息絶えている死体もあった。
「うっ……」
余りの惨状に吐き気をこらえつつ階段を駆け上る。
しかしここ迄の全力疾走で遂に足がふらつき転倒した。
息も荒くなっており、立ち上がる事ができない!
キープは四つん這いになって階段登って行った。
キープが鐘の所に辿り着くと丁度ナシュ達も追いついた!
キャラコは元々戸建の平屋が多く、四階建ての高さであっても十分遠くまで街が見渡せた。
デビルドラゴンは街の北東側で冒険者ギルドに炎を浴びせていた!
宙を飛ぶデビルドラゴンやワイバーンに勇猛にも矢や魔法を放っている人達もいる。
それにより数匹のワイバーンが落下するが……その人達に向ってデビルドラゴンが炎を吐くと、矢や魔法が飛んでこなくなった……。
キープが息を整え杖を構えた。
いつもより魔力を高めて……込めて……詠唱を行う。
白いドラゴンより小柄ではあるが、それでもかなりの大きさを誇るデビルドラゴン。
その炎に耐えつつ、街全体を覆う程の『ヴァルハラ(神界)』を発動させなくてはならない。
と……、高まる魔力を察したのか、デビルドラゴンがこちらに向って飛んでくる!
ナシュとカペラが、
「私達が食い止めるからキープは詠唱を!」
二人してキープの前に立ちはだかる。
デビルドラゴンはキープ達のいる鐘塔の前まで来ると、宙に停止してこちらを睨みつけた!
そして、ブレスの予兆である息を大きく吸い込み始め……。
カペラが両手斧をぶん投げた!!
ブレスの準備をしていたデビルドラゴンの胸辺りに命中!
予想外の攻撃と重量のある斧による一撃で、ブレス準備が中断されて空中で少しよろめいた!
残念な事に、鱗がかなり硬いのか傷をつけるには至っていない。
しかし、
「目の前でブレス準備とか、舐め過ぎだっての!」
斧を投げたカペラがニヤリとする、……そして詠唱が完了した!
高めた魔力がキープの体を駆け巡っている!
そして、杖を高く掲げて声高らかに……、
「『ヴァルハラ(神界)』!!!」




