初めてのお店
R15です。
「ううー……ひさしぶりだぜ!どきどきするな」
ロードは一人ベッドの上でそわそわしていた。
クエストを無事完了させて、遠出したついでにこの街の女の子の店……いわゆる風俗に来ていた。
クエスト後で懐は温かいが、金ランク冒険者にも関わらず女っ気がない……男の事情の為にはこういう場所へ来ることもあるのだ。
この店は馴染みで店長とも仲が良い。
今日は新しく入った娘がいるらしく特別に充ててくれるらしかった。
ロードが今か今かと女の子が来るのを待っていると……。
コンコン
ドアがノックされる。
「どうぞー」
どきどきわくわくしながら迎える。
部屋に入ってきた娘はかなりの美少女だった。
真っ白いロングスカート姿で良く映えるが、よく見ると布はボロく安物の様だ。
(今回大当たりじゃねーか!)
予想外の美少女に心が跳ね上がるロードだったが……、
(ん? この髪の色……髪型……瞳の色……身長……)
最近まで恋していた子に非常に似ていた。
まぁ男だったという事で撃沈したのだが……。
(あまりにも似すぎている……)
目の前の娘はぼーっとしている……ロードが惚れた相手……キープにかなり似ていた。
「お前……名前は?」
「……秘密です……」
「いつからここで?」
「……今日……初めて……」
返事はあるが名前などは教えてくれない……店に言われているのだろうか?ぼーっとしつつも一応言う事を聞きはするようだ。
そういえばキープもリカオンに来ているはず……これは偶然だろうか??
(気になる……こうなったら……『男』かどうか確かめるか)
ロードは娘を服の上からまさぐっていく……手が震える……。
(落ち着け俺……おちち……つくんだ……れ、れいせいに……)
いつも(?)なら普通に触ったり脱がしていけるのだが、今回は惚れた人そっくりの、その体を触っていく行為にドキドキが止まらない。
(くそっ、胸触ってもぺたんこで分からん! 胸の薄い娘かもしれないし……こうなったら!)
何度も深呼吸をしつつ、スカートの中に手を入れていく……。
(下着は脱がさず……そのまま……)
手をゆっくり伸ばして……。
ハッと目を見開くと、
「キープ! お前キープだろ? しっかりしろ!? 何があった!?」
娘の……キープの体をグワングワン揺さぶった。
上半身が前後に激しく揺れる。
キープの目に光が戻って来る……。
「あれ? こ……こは?」
「キープしっかりしろ!? 俺が分かるか?」
「あれ?ロードさん……どうして??」
「良かった! 目が覚めたか? 大丈夫か?」
頭が覚醒するに従い、キープの目が見開かれていく……
ロードが半裸、自分はスカート……しかもめくれてて……ベッドのある窓のない部屋……!?
「な……な……!」
「な?」
ロードが首を傾げた瞬間、
「何してるんですか! ロードのばかぁ!!」
『さん』付けも忘れて反射的に叫ぶ!
ロードの顎にキープの拳がさく裂した……はずが、逆にキープが手を抑えて転がる。
キープの力は貧弱で、ロードには蚊ほども痛くなかった。
「痛いぃ~~……」
涙目になっているキープが落ち着くと、この状況を話し合った。
「勇者と聖女がね~……」
ロードは腕を組んでう~んと唸る。
確かに勇者達の良くない噂は聞いたことがあった……一般市民などほとんどの人は知らないであろうが、裏ではそういう噂が出回ってはいた。
しかし……、
「キープ……どうしてお前ここに?」
キープは憤慨しながら、
「分かりませんよ!大体僕男なのに何でスカートはかされて女の子みたいにされているのか!」
ロードが、
「そりゃあ……女の子……みたいだしな」
キッとロードを睨むが、
「しっかし、店側も気づかないもんかね~……風呂とか着替えで気付きそうだけど……」
「おそらく『ドール(人形)』の呪文じゃないでしょうか……言いなりになるので、風呂とか着替えは指示さえすれば勝手にしますし……だから男って分からなかったのかも……、思い出したらまた腹立ってきました!」
(店での最初が俺で良かったよ……他の客ならどうなっていたか)
そう思いつつキープを見ると怒りで握りこぶしをプルプルさせている……が、
(そーいう姿も可愛いんだよなぁ……)
小動物がプルプル震えているようで迫力がない……ロードは何故かほっこりした気持ちになる。
「とにかく……、どうしましょう……お店からも出ないといけないし……何より……」
キープが不意にしゅんと項垂れる。
(ミーシャ……聖女様は……)
そんなキープの頭に手をやり、
「店は俺に任せろ……これでも金ランク冒険者だし、ここの店は馴染みだからな!」
「馴染みになるほど来てるんですか?」
キープにジト目で見られる。
「ま、まぁ、いいじゃねーか、ちょっくら話してきてやるよ」
ロードは部屋を出ていった。
1人になったキープはベッドに腰かけると聖女スピカの事を思い出していた。
(どうしよう……聖女様は頼れない……お願いに行ったらまた捕まるかも)
勇者もセットでいる以上、とてもじゃないがお願いに行く勇気はなかった。
(思い出しただけでも体が震える……)
勇者と聖女にやられたことを思い出すと体が震えだした。
しかし、それよりも妹ミーシャを救う手立ての方が問題だった……聖女に頼れないのだ。
キープの目から雫が1つ、2つと垂れていく……。
(……ミーシャ……ディスペルを……どうしたら……)
「戻ったぞ、店主もお前が男とは思って……」
ロードはキープに声を掛けつつ部屋に開けて入ってきた……が、
ベッドの上で横になって寝ていたキープを見ると口をつぐんだ。
キープの閉じられた瞳には涙が溜まっており、顔に流れた痕を残していた。
(泣きつかれたのか……)
ロードは側に行くとキープを起こさない様にベッドに腰かける。
「ミーシャ……」
キープが小さく呟く……寝言だろう。
「お前も小さいなりに背負っているものがあるんだな……」
ロードがキープを見ながら呟く。
頭を手で撫でてやると表情が少し和らいだように見えた。
(こんなに可愛くていい子なのに……)
キープと付き合いが長いわけではないが、それでもキープが何かしら悪事を働いて勇者に罰せられたとは到底思えなかった。
(だとすると……)
キープを虐待していかがわしい店に魔法をかけて売り飛ばす……勇者達の非道に怒りが湧く。
天使の様な寝顔でスヤスヤ眠るキープの髪を手で梳かし続ける。
(こいつの方が……聖女みたいだな……)
キープが聞いたら『僕は男です』って怒りそうだけど……そう思うとロードの口元に笑みが浮かんだ。
(こいつに失恋した身には辛いんだが……しかたねぇか)
ロードは心の中で決意を新たにした。
「ご、ごめんなさい! ロードさんが交渉に行っているのに寝ちゃうなんて……」
ロードと二人、キープが泊まっている『雀のお宿』に向かいつつキープが頭を下げて来た。
「いや、気にするな……お前も色々あって疲れてたんだろうし」
キープが背負っているものが気にはなるが、それをロードから訊くわけにはいかなかった。
そこまで踏み込むには付き合いが短すぎる……だから、
「キープ、良かったら俺とパーティ組まないか?」
ぽかんとキープがこっちを見上げる。
(くっ……見上げる姿が小動物みたいで可愛いじゃねーか)
「えーと、僕は嬉しいというか助かるのですが……ロードさんのパーティの方にも相談した方が……」
「いや……俺は今一人だよ」
「そうなんですか?」
「色々あってな、パーティの助っ人として動いてるんだよ」
「あ、あとですね、僕と組んだパーティって……」
「知ってるよ、どうなったか」
「それでも良いのでしょうか?」
「ああ……何つーかお前を見てるとほっとけねーんだよな」
頭をかきつつ呟くように答える。
「……ちなみに、『一目ぼれして好きだから』とかじゃないですよね?」
キープがジト目で見てくる。
「あー……まぁ……多分」
「多分って何ですか!」
キープはフンっと顔を逸らしたが……急に嬉しそうに笑い出した。
「あはははは……ロードさんって変わってますよね」
ロードは唖然としていたが……気付いた。
キープの目の端には涙が溜まっている。
「ロードさん、是非お願いいたします。僕にはやらないといけないことがあるんです」
ロードの目を真っ直ぐ見つけて、はっきりと力強く告げる。
「でも一人では到底叶わない……その為にもパーティをお願いしたいです」
その瞳の中の覚悟を見たロードは、決意を誓いに変えて頷く。
「おぅ、任せておけ」
その後は二人とも黙って宿への道へと歩いていたが……キープがふと、
「そういえば……僕お店から解放されたのでしょうか?大丈夫だったのですか?」
「ああ……店主にきっちり話つけて来たから大丈夫だ」
ロードは店主にキープが男であることを話して、店に来た事情なども聞いていた。
店主はキープが男であったことに驚き、男と気づかず客に充てたことを詫び、男女の見分けもつかなかったなんて風評的にも良くないと、ロードに格安で譲ってくれたのだった。
(まぁ……こいつには金で譲ってもらったとは言わないけどな……)
横をトコトコ歩くキープにチラリと目をやった。
「やっと宿だー……なんかすっごい久しぶりな気がする」
ベッドに飛び込むキープ……ベッドが安物の所為かすごく軋む音がする。
ロードは部屋の入り口で立ちながら、
「ひとまず今日は休め……色々ありすぎてボロボロのはずだ。明日また迎えに来る」
「本当にありがとう。ロードさん」
シュパッと素早くベッドの上で正座をしてロードに深々と頭を下げる。
「いいって……お前は俺の命の恩人だしな」
手を横に軽く振る。
「じゃあ、ゆっくり休めよ……おやすみ」
ロードが出ていくとベッドに横になりつつ天井を見つめる。
「聖女様は見つけたけど、とても協力を頂けそうにない……」
1人呟く……。
(こうなったら……他にもいるかわかんないけど……他の聖女様を探そうか……それとも)
ディスペルの魔法は『聖女など一部の特殊な人しか使用出来ない』村の神官から言われた言葉を思い出す。
(聖女様以外の……ディスペルを使える人を探す? 特殊な人ってなんだろう?)
しかし、聖女スピカ以外の手となると、他の聖女様か特殊な人か……どちらかしかなさそうだった。
(明日……また……どうしようか……かんが……えよ……う)
色々考えながらキープは眠りに落ちていった。




