初めての1頁
ちょっとだけ短めです。
「大丈夫ですか? かなり眠そうですけど……」
カペラが朝から何度も欠伸をしているので気になった様だ。
キープがカペラを見上げつつ訊いてくる。
(ゔっ)
昨夜の一件があるまでは平気だったのに、今はキープのあどけない瞳をまともに見れない。
さり気なく目を逸らしつつ、
「大丈夫だ。 二人部屋だからいつもより緊張したのかもな」
「だから、私に代われば良かったのに!」
ナシュがちょっと拗ねて、口を尖らせた。
「まぁまぁ、ナシュさん。 それにカペラさんにアドバイスもらったんでしょ?」
マタルがバターを塗ったパンをナシュに渡しながらなだめる。
「まぁ、そうなんだけどさ」
パンを受け取り口に運ぶ。
食べ始めた事で小言は止んだようだ。
「アドバイスと言う程でも無いよ」
カペラは照れて頭を掻きつつ、
「ナシュの剣は上品なんだ。 貴族としての剣で習ったからなんだろうけど、相手が正々堂々的に捉えていると思う」
「イレギュラーな攻撃に弱いって事?」
「そう、剣だから切るか突く、槍だから突きと払いとか。 頭の中で決めている様な気がする」
「確かにカペラさんが斧を盾代わりにして突っ込んで来るとは思わなかったわ」
「私も〜振り回した斧ごと飛んでくるなんて思わなかったよ」
ベガが6個目のバターロールに手を伸ばす。
(何個食べるのかなぁ?)
キープはまだ1個目のパンを食べている。
会話に混ざると食べるのが更に遅くなるので、専ら食事は聞き専門となる。
「例えばそうだな……槍だったら、槍を支柱にして飛び蹴りをしてきたり、剣だったら刃の腹で殴打したり投げつけたり」
「そんな色々考えてたら難しいよ」
ベガが机に突っ伏した。
「いや、いろんな対応を考える必要は無いよ。 あくまで形式に囚われちゃ駄目って話さ」
カペラはコーヒーを啜る……ある程度目が覚めてきたようだ。
「基本は何も変わらない。 相手の目を見て、全体を視界に入れ、重心に意識を置く。 ………そうすれば相手がしようとしてくることが案外分かるものよ」
カペラが話を終えてカップを置く頃には、みんな食事を終えていた。
……キープ以外は。
「うう、すみません」
キープはパンは突破したものの二番手のサラダに足止めされていた。
「いいよ、ゆっくりで」
ナシュがキープに優しく微笑みかける。
「ところで今日の予定は?」
ベガが全員に聞く。
「あたいは冒険者ギルドだな。 報告もしないといけないし」
「私は短剣を新調しようかと」
「あ、じゃあ私も行っていい? やっぱり素手だと殴れなかったりこっちが痛かったりするし……格闘武器見てみたい」
カペラ、マタル、ベガと答えていく。
「ナシュは?」
キープはまだ食べているからか、先にナシュの方に訊く。
「特にないからキープに付いていく」
「なるほどね。 まぁ街中だし程々にね」
(?)
何が程々に何だろうか?
と、やっと最後のスープを飲み干して食べ終わる。
「す、すみません! お待たせしました」
「も〜、謝らなくて良いって!」
ナシュが笑顔で、
「こういう時間も大切なんだから。 何気なくてもみんながいる、いてくれる、こう言う時間が……さ」
他のみんなも微笑んで頷く。
「そうだね。 何も無くても1頁」
「ですね。 それが積み重なって」
「記憶に、そしてかけがえの無いものに!」
ベガ、マタル、ナシュが目を合わせる……そして、
「では、今日も沢山のページを重ねに行こう!」
「「おーー!」」
ナシュ達の大騒ぎに、他の人達が何事かと見てくるが……。
キープとカペラはそれを幸せそうに眺め、そしてみんなで笑い合うのだった。
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