初めての決勝
ナシュの声と同時に、両者とも地を蹴った!
カペラは両手斧を横薙ぎにして振るう!
ナシュの時と違って短めに持ち、ベガを懐に入れない様にしている。
ベガはそれを見極め大きく跳躍して斧を飛び越えつつ飛び蹴りを放った!
斧を振るった体勢からは避けられず、蹴りを喰らうが……。
蹴りを食らわせたベガはそのまま空中で一回転して着地する。
再び両者構えを取る。
カペラはほぼダメージがない様だ。
(く~、カペラのやつ~。 わざと肩で受けたな!)
ベガの蹴りに肩を合わせてきたカペラ。
咄嗟に腕をたたみ脇を締めたことで、堅く防御壁となってベガの蹴りはほぼ通っていない。
寧ろベガの足の方が少し痛いくらいだった。
(さすが仮にも『紅の三日月』元リーダー兼タンク……さて、どうしよっかなぁ?)
すこしずつ横に動いて斧を支えている腕側に向き合うようにしていく……。
両手斧はその大きさと重量もあって、攻撃前に必ず振りかぶる。
例えナシュの時の様に盾の様にして突っ込んできても、ベガの間合いになるだけで逆にカペラが不利になるだろう。
トンッ!
軽く地面を蹴るなり地を走る!
カペラが斧を大きく振りかぶる!
接近するベガに向けて気合と共に振り下ろす!!
「はぁ!!!」
しかし、直線振り下ろしと軌道が丸わかりで、ベガは横にずれて躱しそのまま突っ込む!
……が、
ザシュ!! ズズゥゥゥン!
渾身の力で振り下ろされた斧が地面を割り、大きく地面が振動した。
さらに地面を割った衝撃で小石を砂が跳ね飛ぶ!
横にかわしたベガの後ろから小石と砂が当たって、ほんの一瞬意識が流れる!
しかも地面の振動により走り寄っていたベガが少しバランスを崩した!
そこを狙いカペラが掴んでいた斧を離し、ベガ目掛けてラリアットの様に腕を大きく振り払った!
しかしその時にはベガも間合いにカペラを捉えていた!!
二人の腕が交差する!
ベガがカペラの腕に吹っ飛ばされて、地面に叩きつけられ転がった。
一方、カペラも左腕と右わき腹にクローによる一撃を喰らっていた。
刃は潰してあるので切れてはいないが、クローによる2本の打撲痕がついている。
ベガが立ち上がる……が、まともに食らったのか、胸を押さえてしゃがみ込む。
カペラは左腕を少し動かし、ケガの具合を確認すると、
「よし!」
再び両腕で大きな両手斧を軽々持ち上げた。
ベガもなんとか立ち上がり、
「うー、さすが筋肉バカ。 攻撃がとおらなすぎ」
「まぁね、これでもベガ達のタンクだったからね」
「そうだけどさぁ~」
ベガが構えを取る。
カペラは斧を腰の後ろにまわし、抜刀の様な構えをとる。
お互いに隙を伺い、様子を見ていたが……カペラが仕掛けた!
抜刀の様に斧を横薙ぎに振りぬき、ベガの前で1回転して、その勢いのまま斧で薙ぎ払う!!
(勢いが乗って、威力も速度も増している!!)
これでは懐に入るのはおろか、カウンターも狙い辛い。
一旦下がって距離を取ろうとして……。
さっきのナシュ戦を思い出す!
しかし、今度はしっかり両手で握っている……やはり先ほどの腕へのダメージがあるのだろう。
勢いもあるから片手では斧を手離しかねない。
(リーチが伸びないなら……)
一歩下がって間合いを躱す。
……ハズが。
下がったベガに斧の刃が迫った!
カペラは手は離さなかった……が、斧の遠心力に身を任せて軸足を浮かせた。
その結果、斧を向けながら……カペラごとベガ目掛けて飛んできた!
(な!?)
急いで距離を取るが間に合わない!!
ベガの腹部に斧が食い込む! と同時に鍛錬場の端まで吹っ飛んで行った!
「わわっ! べ、ベガ!!」
キープが慌ててベガに駆け寄り、『セイントヒール(大回復)』を施す。
怪我は治ったものの、ベガは意識がない様だ。
ベガを持ち上げようとして……持ち上がらなかったので上半身だけ起こして支える。
そこへカペラが申し訳なさそうな顔でやってきて。
「すまない。やり過ぎてしまって……」
「うー、だから気を付けて下さいって言ったのに~」
恨みがましく見てくるキープに、カペラは身を縮こませて、
「申し訳ない!」
「う……。 ま、まぁ次から気を付けて下さいね。」
申し訳なさそうなカペラに、キープの方が申し訳ない気になってしまい話を切り上げる。
「ごめん。私が止めれば良かった……」
ナシュも少々落ち込んでいるようだ。
「……うぅ」
ベガが目を覚ました。
「ベガ! 大丈夫!!」
キープに抱きかかえられ目を覚ます……キープと目が合った。
「!!!!」
ベガの目が見開かれ……そのまま固まってしまった。
傷は治っているはずだが……どこか痛かったのだろうか?
「大丈夫? まだどこか痛い??」
「……」
何か言おうとして口をパクパクするベガ……金魚?いや鯉?
「……き」
「き?」
掠れる声でようやく声が出始めた……というか顔が真っ赤で凄く熱い。
風呂上がりだったし、風邪をひいて熱が出て来たのかもしれない。
だから「じゃんけん」にしてと……。
「……キープ」
真っ赤になって掠れるような子声でキープの名を呼び……。
カクン。
首が力を失って垂れた!!!
「ええっ!! ちょ、ちょっと!! ベガ! しっかり!!」
キープがベガを揺するが……。
「……えへへ」
ベガが意識がないまま笑い始めた!!
……ってこれ寝てる?
「キープ……恐らく気絶して……そのまま夢をみているようだ」
カペラがベガの容態を答えてくれる。
「あう、や、やっぱり。 はぁ、でも大事ないなら良いです」
キープはベガを抱きかかえようとして……やっぱり無理そう。
「あたいが抱えるよ」
カペラが軽々とベガを持ち上げた……っていうか、カペラさんもケガしてたんだった!
「『ヒール(小回復)』」
「おぉ、ありがとう! キープに回復魔法を掛けてもらうのも久しぶりだな」
「あ、そういえばそうですね」
「やっぱり、他の回復師より優れているよ。 すぐ痛くなくなるし」
「そ、そうですか?」
他の回復師と比べた事はないけど、その言葉にちょっと嬉しくて照れるキープ。
ひとまず、ベガの事もあるので、みんなで宿に戻ることにしたのだった。
しかし……、
宿に戻ったキープには地獄が待っていた。
途中から喋らなくなったナシュとマタルだが……。
キープに抱きかかえられるベガがうらやましかったようで、宿についてからずっと「抱っこ」をせがんでくるモードとなり、……断ると拗ねる、二人に取り合いされる、いつぞやのキープ綱引きが始まる……等、散々な事となったのであった
(やっぱり、『第一回」とかつくものってロクなものがないー!)
ナシュとマタルに腕を引っ張られながら、そう思ったキープだった。




