初めてのリカオン
そして、いよいよ出発の日。
冒険者ギルドでイリーナからお土産として弁当をもらい、パウロ辺境都市を出発した。
何故か見送りにはロードも来ており、旅の無事を祈ってくれた。
リカオンまではそれなりに距離があるので、定期馬車を利用することにした。
それでも到着までは4日間掛かる。
定期馬車には従者の方が2人、護衛として銀ランクの冒険者が4名(こちらはそれぞれ馬に乗っている)、客として、キープ、老夫婦、10歳ぐらいの娘さんを連れた母親、商談に行くのか少し肥えた商人、のメンバーだった。
馬車に揺られながらリカオンに向かう、そして3日目のお昼過ぎぐらいであった。
「ゴブリンだ!」
護衛の冒険者が叫ぶ、と飛んできた矢を剣で払った。
道の前に柵が置かれて強行突破が出来ない様になっている。
ゴブリンにしては知恵があるらしい。
停止した馬車を目掛けて草むらからゴブリンの集団が飛び出してきた。
冒険者がそれぞれ殲滅していく……さすが銀ランクと言うべきか、ゴブリンは物の数分で鎮圧された。
「大丈夫ですか?」
キープは馬車をおりて回復魔法を唱えていく。
流石に全く怪我をしていない訳ではなかったので、せめてと治すことにした。
冒険者達の傷が完治していく。
「おお、ありがたい。助かるよ」
リーダーだろうか?、代表してお礼を言われた。
「いえいえ、護衛して頂いてますから」
キープが笑顔で対応してあげると、その笑顔に惹かれた冒険者達から、
「可愛い……」
「惚れそうだ……」
キープは笑顔を張り付かせたまま、複雑な思いで馬車に戻る……と、
回復姿を見ていた女の子から、
「お姉ちゃん、かっこいい~」
と言われ、ますます複雑な心境に陥る。
確かに女の子らしい顔つきだと自覚はあるが、さすがに何度も言われるとショックだった。
しかし相手も悪気がないので、『男です』と言うのもはばかられてしまいなんとも複雑なのだった。
その後は順調に進行し、予定通り5日目の朝には商業都市リカオンに到着することができた。
さすが商業都市……門をくぐると活気あふれる声がそこかしこ響く、街の喧噪も大きく、パウス辺境都市とは全く違う風景を演出していた。
馬車は人の多いマーケット沿いにある停留所で止まった。
馬車を下りて、従者や護衛の方々にお礼を告げて別れると、さっそく冒険者ギルドや宿を探して足を進めた。
人が多く行き交い揉まれそうになるが、キープは小柄な体型を活かして縫うように進んで行った。
マーケットを抜けた先にある広場に案内板があったので位置を確認する。
(まずは荷物を置きたいな……ちょっと重いし)
宿の場所を確認する……この先に、宿屋が集まっている宿屋通りがあるようだ。
さすが商業都市……あちこちから人が来るためだろう。
宿屋通りには色々な宿があるようだ……明らかにボロボロなのもあれば、かなり高級そうなのもある。
キープは見た目が手ごろそうな宿に目を止め入ってみた。
「いらっしゃいませー、『雀のお宿』にようこそ!」
元気な声が響く……扉を開けた先は広めのロビーの様になっており、カウンターからニコニコと
女性がこちらを見ている。
ロビーでは休憩所も兼ねているようで、数名が談笑している。
キープはカウンターの方へ進んで行った。
女性は結構若く20歳前半ぐらいだろうか? 明るく人懐っこそうだ。
キープがカウンターまで行くと、
「いらっしゃいませ、ご宿泊でよろしいですか?」
「はい、お願いいたします」
「おひとり様で宜しいでしょうか?」
「はい、一人です」
「部屋の希望は~……」
やり取りを行い、数泊分の費用を払った後1階奥の部屋へ通される。
「こちらのお部屋でございます」
部屋はこぢんまりとしており、簡易的なベッド、机・椅子、棚などがある。
棚には何もなく、宿泊客が物を置くように出来ているようだ。
「こちら鍵になります。お食事は朝8時から1時間。昼食と夕食については別料金でロビー横の食堂がご利用できます」
案内してくれた女性はキープに鍵を渡すと、
「ごゆっくり」
頭を下げると戻って行った。
「きゅ~」
ずっと馬車にゆられたのもあり疲れていたらしい。
ベッドに倒れこむと、そのまま寝てしまった。
起きた時には日も西に傾き、夕暮れとなっていた。
(しまった……寝過ぎちゃったなぁ……)
冒険者ギルドは明日にしようと思っていると、ロビーがなんだか騒がしいことに気づいた。
(何だろう?)
部屋を出てロビーに行くとかなりの人が入っており、雑談に夢中になっていた。
キープが何気なく見ていると、
「勇者がこの町に来たらしい」
「お供もかなり優秀なメンバーなんだろう?」
「剣聖と聖女様らしいよ?」
「本当に?聖騎士と賢者って聞いたわよ」
話題が飛び交っていたが……、
(聖女!聖女様がいるの!?)
キープの目的である聖女の話が出てそのテーブルに飛びついた。
「あ、あの、すみません! 聖女様がきてらっしゃるんですか?」
いきなり入ってきたキープに、話をしていた数人は驚いてのけぞりつつ、
「って聞いたよ、なんでも勇者パーティにいるらしい」
「そうなんですね!ありがとうございます。ちなみに勇者様達はどちらにいらっしゃるか分かりますか?」
「さっき見た時は冒険者ギルドにいたけど、今もいるかはわかんないぜ?」
「ありがとうございました!」
ぴょこんと頭を下げると、キープは宿を飛び出す。
(やっと聖女様が……もっと時間が掛かると思ったけど、すぐに会えるなんて!)
キープは案内図を思い出しつつ冒険者ギルドを目指し走って行った。
(ミーシャを……ディスペルを……)




