初めての感覚
「ありがとう! あんたらのおかげだよ!」
そう言うと、羊の獣人はキープの手をがっしり握ってきた。
キープ達が復興の為家作りを手伝って二週間ちょっと、遂に家を失っていた村人全員の仮設小屋が完成した。
後は徐々に家を建て直していくらしい。
でもこれで吊橋の修復に掛かってくれるかもしれない……と、キープが思っていたら、
「じゃあ、私達もそろそろ出発しましょうか」
「だね」
「そうですね」
ナシュ達が言い始めた。
「あれ? でもまだ吊橋は……」
ナシュ達三人は揃ってキープを見ると、
「洞窟を抜ければ行けるんでしょ?」
「冒険しようよ!」
「師匠なら行けます!」
何故こんなにも洞窟に対して、やる気と言うか行く気満々なのか……。
「で、でも僕ちょっと洞窟苦手で……」
「暗いとこ怖いの?」
「そうじゃないけど……」
「じゃあ大丈夫! 何が出て来ても守ってあげるから」
そう言ったナシュは、いたずらっぽく、
「怖かったらお姉ちゃんが手を繋いであげるから」
「うぅ、そうじゃないのにぃ〜」
キープはからかわれた事もあり、頬を膨らませて拗ねる。
丁度そこへクルサがやって来た。
「あ、お前達。 丁度良かった」
「何かありました?」
「いや、今日で一応村人全員の住む場所が完成したと聞いてな、お礼を言いたかったんだ」
そう言うと、クルサが頭を下げる。
それを見ていた周りの獣人達も、習って頭を下げてきた。
「いえ、そんな事なさらないで下さい。 僕達こそ皆さんに救われたのですから」
「そうか、そう言ってもらえると助かる」
クルサは頭を上げると、
「そう言えば、もう村を経つと聞いたんだが……やはり洞窟を通るのか?」
「ええ、こちらにも長く滞在させてもらいましたし……」
キープの横にいるナシュが答える。
出発はほぼ確定らしい。
「なるほどな。 一応旅に必要な物は準備させよう」
「お気遣い感謝します」
「今日はある程度日も過ぎている。 出発は明日にして、今日は準備をするがいい。 後で村のものに旅の道具も届けさせよう」
そう告げるとクルサは羊の獣人の元に歩いて行った。
肩を叩いて、何か労っているらしい。
「キープ、私達も準備しましょうか」
「どうしても洞窟を抜けるんだね」
「……やっぱり嫌?」
ナシュが心配げにキープを覗き込む。
「……と、言うよりちょっと辛い思い出があって……」
そう、キープの最初のパーティである、『雷光の刃』の事であった。
初めてのパーティで初めての洞窟。
にも関わらず、あまりにもショッキングな事件に、キープは数日間寝込んだ程だ。
それをナシュに包み隠さず話した。
「そっか、そんな事が……。 ごめんなさい、知らなかったこととはいえ……。えっと、キープが辛いならやめとこっか? クルサさんに頼めば吊橋を優先して直してくれるかもだし」
確かにそうだろうが……よく考えると、家は建ったものの、畑やら水路やら直すのはまだまだ多い。
あまり村の人達の手を煩わせるのも心苦しかった。
かと言って、そこまで手伝うと出発がいつになるか分からなくなるし、クルサ達にも更に気を遣わせてしまう。
ここはやはり出発した方が良い様に思えた。
キープは首を横に振ると、
「ううん、大丈夫。 明日の朝出発しよう」
ナシュは少し心配そうな顔をしつつも、
「キープが大丈夫なら良いけど……」
「二度とあんな事は起こさない……みんなを必ず守る!」
キープが誓う様にナシュに告げる。
ドキッ!
その凛々しい顔に、ナシュの心が落ち着かなくなる。
(あれ? いつも通り可愛い筈なのに……なんか凄く格好よく見えた?)
ナシュが、首を傾げて不思議な感覚に戸惑っていると、
「どうかしたの?」
キープが心配そうに見上げていた。
可愛い顔立ちに綺麗な紅玉の瞳、長くて整った眉に可憐な唇。
いつも通りのキープに、
「なんでもなーい!! 相変わらず可愛いなって!」
そう言ってキープを抱きしめる。
急に抱き締められて、真っ赤になってアタフタするキープを感じながら、
(まぁ、さっきのは何かの気のせいよね)
首を振って、先程の感覚を打ち消したのだった。
いつもありがとうございます!
今回ちょっとだけ短めでした。




