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初めての祈り


「キープ!」


慌ててナシュがキープを引き寄せる。


足首……すね……膝……、徐々に沈んでいく。



「キープ! 絶対離さないから!!!」


必死なナシュに、キープは微塵も不安な表情をせず、


「ナシュ、お願いがあるんだけど……」


「なに? 最後の言葉とかだったら却下だからね!」


「少しの間、僕を支えててもらっていい?」


キープには何か考えがあるのか……そんなことを告げて、ナシュに微笑んだ。


ナシュを心から信用している笑みだった。



「わかった。 あなたは絶対私が死なせない!」

「うん……、お願いね。 ナシュお姉ちゃん」

「!!」



キープはナシュに抱えられながら目を閉じると、


「頭を垂れよ 御心を知る 言霊を紡ぐ

 尊大なる力 寛大なる心 偉大なる姿 ……」


歌うように……詠うように……謳うように……。

大きな声ではないが、可愛く聞き惚れる様な声。


声に合わせて魔力が高まっていく……。





「!?」


影から黒い手が何本も伸びて、キープの体を掴み始めた!

引きずり込む力が強くなる!!


「このぉ! 放しなさい!! 私のキープに気安く触れるなぁ!」


キープを抱きかかえて、必死に引っ張りつつ、黒い手を剣で薙ぎ払うが……すり抜ける。


黒い手は影が変化したものであり、物理攻撃が通らなかった。




キープの腰まで影に沈んでいる……。

しかし、キープは目を閉じて、ナシュに体を預けながら言葉を紡ぐ。


「恐れよ我を 敬え我を 慄け我を

 万人全て  存在全て 導きあれ 」


目を開けた。


胸まで影に沈んでいたが……それに構わず、


「『オラクル(神託)』!!」


言葉高らかに唱えた!




「!?」


キープの周囲にいる炎の使い魔達が地面に這いつくばされて、不可視の力で押さえつけられる!!



そして、メンカルも、


(な、なんだこれは!!)


重くのしかかる重力に膝をつきそうになる……。


「こ、こんなものぉ!!  トリシューラ!!」


倒れそうになる体を、地面から出て来た氷が支える!



(も、もう少し耐えれば、あのキープとやらは影に沈む……そうすれば魔法も解けるはず)


メンカルは永久凍土の氷を次々出して体を支え、重力に抵抗する。





そして、キープもナシュと一緒に沈むのに抵抗していた!


すでに鎖骨部分まで沈み、ナシュは、伸ばしたキープの腕を必死に引っ張っていた。


「ぜ、絶対に死なせない!!」


ナシュは全力で引っ張る!

噛みしめ過ぎた歯が砕けて血が流れる!


それでも……、

(お願いします神様! どうかキープだけは!)


神に祈るなんて考えてもいなかった……それでもキープだけは何としてでも!!



しかし、ずっと引っ張っていた手が赤くなり、力が入らなくなる……。


ズルッ!


ナシュの手が滑って……キープの腕が外れた!!



「キープ!!」


そのキープの腕を、……別な人が掴んだ!



「いかせないよ! キープ」

ベガだ。



炎の使い魔達が動けなくなったため、近寄れるようになったのだ。


次いで、マタルとクルサもキープの腕を掴む!


「「みんな!」」


キープとナシュから同時に声が上がる。


「ほら! 師匠しっかりして下さい!」

「キーちゃん、しっかり掴んで!」


ナシュも再度掴み直すと、


「いくよ! みんな!!」


4人は全員で、


「「「「いっせ~の~せぇ!!」」」」


キープを影から引っ張り上げた!!!





(キープの気配が……影から消えた……)

必死に耐えていたメンカルだったが……、キープが影から脱出したことがわかると、



(この私が、なんて屈辱!! この借りは返すからな! 次は私の全軍団で……)



魔王城へ転移で逃げようとしていた。



その時、


チッ!! ……グサッ!


メンカルの頬を何かがかすめて地面に突き刺さった。


(何だ?)


チラリとみるとナイフの様だ。 

青い刀身に緑の文字が浮き出ている。 



氷の壁は4方向にたっている、真上が開いているので上から降ってきたようだ。



(大方苦し紛れに投げたナイフだろう……)

気にも留めず転移をしようとしたが……。



(転移できない!!)


何故か転移出来なかった。





『オラクル(神託)』の効果には『サイレント(沈黙)』も含まれる。


しかし各軍団長は、無詠唱即発動で転移できるすべを持っていた。

『サイレント』状態ですら転移出来る。



だが、何故かそれが発動しない……、結果として、動けない、魔法は使えない、言葉さえ出せない。



逃げられないと悟ったメンカルに残された道は、ただ地面にひれ伏すだけだった……。



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