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初めての自覚


キープがナシュ達に怒る時は、腰に手を当てて「怒ってます」みたいなポーズをする。


ナシュも何回か見ているし、……本人は真面目だろうが全然怖くない。


寧ろ、小さい生き物が拗ねてるような感覚に見えて可愛く見えてくる程だ。





だが、今のキープは、


(本気で怒ってる……)


ナシュやベガ、マタルが初めて見るキープの表情だった。


いつものキープからは到底想像できない様な威圧感が溢れている。


短期間とはいえ、一緒に過ごした仲間達への仕打ちに、怒りが渦巻いているのが分かる。



しかしそれでも……。


本当にキープなの? ……別人の様に見えてしまい、不安を感じてしまう……。


それはナシュだけではなく、そこにいるみんなもそう感じていたのだった。





「何が『解放』だ……、何が『進化』だ……、何が『許さない』だ!」


メンカルが徐々に声を大きくしていき、最後は叩きつける様に叫んだ。

子供っぽい悪戯好きそうな顔から、顔を真っ赤にして喚き散らす。


それは先程の紳士的な雰囲気とは程遠い、子供の癇癪の様であった。




「このメンカルを、侮るなよ!! 『フレイムダンス(火踊)』」


キープの周りを囲うように、炎が沸き上がり徐々に人の形を成していく。


そして燃え上がる炎の使い魔は6体ほどの姿となると、キープを囲いつつその輪を狭めていく……。



「キープ!」


ナシュが走り寄って剣で切りつけるも、刃は炎の体をすり抜ける!



「無駄だ! 私の使い魔達に物理攻撃は効かない!  そのまま燃えて丸焼きになるがいい!!」



高笑いをするメンカルを尻目に、キープはナシュ達に、


「大丈夫、問題ないから……」


「何?」


メンカルの笑いが止まる。



キープは懐から何かを取り出しばら撒くと、


「『サンクチュアリ(聖域)』」


キープを囲うように結界が現れる!



「な、お前達! 行け!」


炎の使い魔達が一斉に飛び掛かる! ……が、


バン!バン!


全員壁に阻まれてキープに近寄ることが出来なかった!





「『サンクチュアリ』は魔の物を通さない……魔の力で創られた使い魔も勿論通さない!」


そう言うと、


「『ホーリーチェイン(拘束)』!」



今度はメンカルの周囲に光の鎖が出現し、拘束しようとする!



「な! トリシューラ!!」

メンカルが槍を地面に突き立てると、氷柱が地面から何本も沸き出て光の鎖を破壊する!



「……『ホーリーチェイン(拘束)』」


「何度やろうが無駄だ!!」



光の鎖を氷柱が貫き破壊していく!




キープはそれを見ながらも、


「……『ホーリーチェイン(拘束)』」


「無駄だと言っているのがわからないのか!!」


再度、氷柱が地面から伸びると、光の鎖を破壊……出来ない!!


逆に氷柱の方が砕けてしまう!




「!? ……なんだと!!」


そのまま光の鎖がメンカルを囲い……。




「くそっ! トリシューラ!!」


槍を地面に深々と突き刺す!!


今度は氷柱ではなく氷壁が地面からせり上がり、メンカルの4方向を囲んでガードする。


光の鎖は氷壁の上から巻き付いた。




キープは炎の使い魔に囲まれて。

メンカルは氷の壁に囲まれている。



お互いに膠着状態に陥ったようにみえた。






「お前……徐々に魔力を注ぎ増やして鎖を強化してやがったな」

「……」


氷柱を破壊された理由を言い当てるメンカル。

その通りではあったのだが、キープは黙って杖を取り出すと、再び、


「『ホーリーチェイン(拘束)』」


更に鎖が氷壁ごと巻き付く……メンカルの入った氷の箱を、光の鎖ががんじがらめにしていく……。

幾重にも鎖が巻き付き、メンカルはおろか氷の部分さえ覆われて見えなくなる。



「こんな事をしても意味はない! この氷は永久凍土の氷で溶けないし、鋼鉄より硬い!」



メンカルの姿は見えないが、声は響く……まだ余裕があるようだ。




キープは杖を高く掲げると、鎖に魔力を送り込む……。

キープの持つ杖はエルフの女王であるエニフより授かったもので、魔力を高める効果がある。

その為、より多くの魔力が送り込まれていく。



「お前、まさかさっきのを……。 やるだけやればいい! それこそ無駄な魔力だ!」


魔力を感じたのか、メンカルから声がする。

先程の『マウスゲート』を思い出したのだろう。



しかしそれでもメンカルは余裕であった。

この氷は絶対に溶けないし壊れない……何をしても無駄なのだ。




キープは鎖に魔力を注いでいく……、鎖がギリギリと音を立てて氷を締め付けていく。

しかし、やはりメンカルの言う通り壊れそうにはなかった。


……しかし、それでも魔力を、もっと魔力を……。






「……キーちゃん」


弱々しい声が聞こえた。


ハッと顔を上げそちらを見ると、マタルに支えられて、クルサが上半身を起こしていた。


そのクルサの顔を……、いや、他のナシュやベガ、マタルの顔もみな、泣きそうな心配そうな顔でキープをみている。



「キープには……、そんな顔似合わないと思うよ」

ナシュがキープに告げる。



その言葉に急激に頭が冷えていった。

怒りに駆られていた心が少しずつ冷静になっていく。



(僕は……またみんなに心配を……)

みんなの泣きそうな、それでいてキープの事を案じている顔が浮かぶ。



(確かに、こんなの僕らしくなかった……)

強引に魔力で押し切ることを考えていた。



「ふぅ……す~は~」

ふっと息を吐いて深呼吸。


そして、

「うん、大丈夫」


ナシュ達の方を見て笑顔で返すと、

「ありがとう。 メンカルは許せない敵ではあるけど、僕が僕を見失うのは駄目だったよね」



キープの様子に、4名とも少し安堵した様に、


「キープはキープが良いよ」

「だねー。いつも通りで!」

「師匠らしくがいいです」

「いつものキーちゃんが好きかも」


4人の声を受けて、前を向く。



顔は引き締まっているが、ちょっとぽよぽよしてそうないつもの顔になっていた。


(さてと……)

冷静に状況を確認する……。



(僕は囲まれていて、ここから動けない。 『ホーリーチェイン』もこれ以上は意味がない)


周りを見る……、キープの周りには『サンクチュアリ』に遮られつつも炎の使い魔が囲むようにしている、メンカルも氷の壁と光の鎖に閉じ込められた状態だ。



「己が深淵に潜む、その凶暴な牙に食らいつくされるがいい……『シャドウイーター(影喰)』」


メンカルから魔法が発せられる。



「!? あの魔法は!!」


クルサの血の気が引いて真っ青になり、


「駄目! キーちゃん、逃げて!!」

そして叫んだ!



何かを察したのか、ナシュとベガがキープに駆け出す!!


しかし、その前には炎の使い魔が!



「ナシュ!」

「ありがと!」


阿吽の呼吸で返事をすると、


ベガが踏み台となり、ナシュがベガを踏んで跳躍する!!



炎の使い魔を飛び越えてキープの元へ!!



タタッ


二、三歩よろけたが、何とか着地する!



「ナシュ、ありがとう」

「キープ……」


無理をしてでもキープの元にたどり着いたナシュ。

しばらく二人で見つめ合っていたが……。


「キーちゃん! 影に気を付けて!」



クルサが叫ぶと同時に、


ズプンッ!


キープの足が影に沈んだ!


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