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初めての強敵

「パーティを抜ける?」


明日にはパウスに到着するという前の晩、焚き木を囲みキャンプしているみんなの前でキープが告げた言葉。


それがパーティ離脱であった。



4名全員が驚きを口にする……それに構わず、


「すみません。わがままかもしれませんが……」


キープが非常に申し訳なさそうに告げた。




「一応理由を訊いても?」


リーダーのカペラが最初に質問してきたが、


「理由は……多分、僕より皆さんの方がご存じだと思います」


言い辛そうに……しかしきっぱりと告げた言葉にカペラも口をつぐむ。


他の3名も感じてはいるのだろう……口をつぐんでしまった。




それはキープを中心とした4名の仲違いだ。

恋の鞘当てではないが、パーティ内にぎこちない空気が流れる様になったのは全員感じていた。



キープは言葉を選びつつ、

「僕はパーティを組んだ経験は少ないのですが、『紅の三日月』は素晴らしいと思っています」


4名全員がキープを見て話の続きを待っている。


「だから、僕のせいでパーティがこじれたりしてほしくないです」



4名全員が目線をそれぞれ交わす。

そしてカペラが、


「みんなで話し合いたい……あたいも……多分みんなも抜けてほしくないはず。だから話し合って元の『紅の三日月』になる様にしていくから……」

(ぬけないでほしい)目がそう語っていた。



キープも嫌いとか、抜けたくて抜けるわけではない。

「……わかりました。ごめんなさい僕のせいで」



「キープは謝ってばかりだな~ それにこれは本来うちらから言うべき事だった。気を使わせてごめんね」

アルタイルが申し訳なさそうに言うと、


「そうそう、キープはベガ達の為にしてくれてるんだから、謝らないでいいんだよ~」

ベガも続く。



「ありがとう」


キープが頭を下げる。



「じゃあ、あたいらはちょっとガールズトークでもするからキープは寝てなよ」


カペラがおどけて言う。ガールズトークとは言ったが話し合いをするのだろう。




それを察したキープは「おやすみなさい」と告げると自分のテントに戻って行った。


テントに戻ったキープは毛布にくるまりながら考えていた。


(みんなに申し訳ないことをしたなぁ……イリーナさんにもまた謝らないと)

良パーティが足踏み乱れた事も、イリーナに紹介してもらった事も、色々考えると申し訳なくなってくる。


そうして色々考えているうちに、ミーシャの事も思い出していた。

(ミーシャ……色々あるけど僕は前に進む。きっと聖女を連れて行くから……)

ミーシャへの決意を新たに夢の中に落ちていくのだった。





「……プさ……。キープ、ん。キープさん!」


キープは体を揺すられて目を覚ました。

見るとベガがのぞき込んでいる。


「ん~? ベガさん~?  どうしたのですぅ?」

欠伸をしながら体を起こすと、ベガがちょこんと座っている。


「えとですね、話し合いの結果。ベガが最初にキープさんを頂くことになったのですよ」

にっこりするベガだが、


(??  何のこと??)

いまいち目が覚めていないキープに、


「お伝えしないといけないと思って、ちゃんと起こすことにしたのです」

ベガが続ける、


「でも、キープさん抵抗するかもしれないじゃないですか? だからですね……ふっ!」


ベガが鳩尾を狙って拳を繰り出してきた!



「!?」


しかしキープがかろうじて腕を間に割り込ませてガードする……が、


ぼきっ!


腕が折れた。

しかも勢いは止まらず吹き飛ばされてテントを破り、外にまで転がり出た。


「あらあら、気絶させようとおもったですのに」



転がったキープを追う様にテントからベガが出てくる。


敏捷が低いキープでもガードが間に合ったのは奇跡に近い。

ベガにしてはゆっくり殴ったのもあるのだろうが……、


「『ハイヒール』(中回復)」


痛みを堪えて回復をしつつ立ち上がる。



「ベガさん!何を……」

言い切る前にベガが地面を蹴ってキープに走った。


(まずい!)


キープが思った時にはもう目の前だった。

再び気絶を狙って拳が繰り出されるが……、


シュッ!



キープとベガの間に矢が割り込む、


ベガは間一髪後方へ飛びのいて……、


「アルタイル! 邪魔をするな!」

少し離れた所で弓を構えているアルタイルに怒気を込めて叫ぶ、


「ベガこそ、うちのキープになにしてるん?」

アルタイルも怒鳴り返す。


(え、一体どういうこと? どんな話し合いがあってこうなっているの??)

キープは目の前の状況についていけていない。



と、キープの前にかばう様にカペラが現れた。


両手斧を構えている。


「カ、カペラさん、これは一体……!?」


カペラはキープを背にしてアルタイル・ベガの両者を見据える。

そんなカペラにアルタイルとベガが殺気を込めた目線を送る。


3者向かい合って緊迫した状況だ。



「や……やめて下さい! いったい何を話し合ったらこうなるんですか!?」


キープが3者の間に割り込もうとしてカペラに止められる。



「キープ、前に出るな。二人にさらわれるぞ」

「カペラこそ!」


間髪入れずアルタイルが叫ぶ、


「そのままキープを攫おうって思ってるんでしょ?」

「キープ、騙されないで! カペラこそ、あなたを狙っているの」


ベガも言うが、さっきあれだけの事をしておいてそれを言うのはどうなのだろう。



「もういい……二人を殺してキープはあたいのものにする」


カペラから表情が消える、その表情を見てキープの背中が凍り付く。


(本気で二人を殺そうと思ってる)

キープがカペラに縋る。


「カペラさん、待って! 殺すなんて言わないで! きちんと話し合いましょう」

「キープは優しいな……少し待っててくれ。いますぐこの害虫を駆除してやるから」


微笑みながらキープを振り払う。



(一体どうして……何が?)


キープは他の2人を見る……アルタイルは矢をいつでも放てるようにつがえている。


ベガは低く腰を落とし何時でも飛び出せるように……二人とも戦闘態勢に入っている。



(いくら何でもおかしい……)


キープは混乱しつつも、違和感を感じ始めていた。


この短時間で仲間を殺すなんて結論に出ることがあるだろうか?

(しかも相手は同じ死地をくぐってきたパーティメンバー……いくら好きな人が出来たにしても、これはおかしすぎる……)

どう見ても3名ともまともじゃなかった。



「!?」


ハッとキープは気付いた。……デネブはどこに?


先ほどから3人でにらみ合っているが、デネブも話し合いに出ているしキープを狙っている一人だ。


この場にいないのは不自然に思えた。



(……もしかして)


キープは素早く詠唱した。


「『マジックブレイク』(魔力解除)!」


キープから魔力が流れてカペラ、アルタイル、ベガをそれぞれ包み込む……と、


「あ、あれ? あたい……は?」

「うち何を……」

「??」


カペラ・アルタイル・ベガの殺気がなくなり緊迫感が緩む。


「みなさん大丈夫ですか?」


キープがカペラの後ろから3人の間に割って入る形で真ん中に立つ。


「……記憶はある。あたいは仲間になんてことを……」


カペラが頭を抱えると、アルタイルも、


「うちもふたりに矢を向けるなんて……うぅ」


目に涙が溜まっている。


と、ベガがキープの胸に飛び込んできた!


「キープ! ごめん! ごめんね! 痛かったでしょ? ごめんなさい……うわ~ん」


キープの骨を折ったことがかなりショックだったらしく何度も謝りつつ泣き始めた。




「カペラさん、一体何があったのですか? 話し合いから何故こんなことに……みなさんには何らかの魔法が掛かっていたようですが……もしかして」


疑いたくはなかったが、魔法が掛かっていて3人しかいない事から可能性があった。


「デネブさんが?」




キープの言葉にカペラがハッとして、


「そ、そうだ。デネブがキープに残って貰うにはみんなが意識しない様にしたほうがいいからって……平常心でいられる魔法があると……」


カペラが言い終わる前に、


「流石キープ、もう解いちゃったのね」


デネブがみんなから離れた所に姿を現した。


「デネブ!! どういうつもりだ!」


さすがのカペラも怒り心頭らしい、デネブをにらみつけている。

アルタイルとベガも涙は出ていたものの、デネブが現れるとそちらをにらんでいた。


「そんなに睨まないでよ。せっかく愛しのキープを求める様に素直にしてあげたのに」

「だまれ!あと少しであたいは大事な仲間を手にかけるところだった……」

「何かを得るのに何かを失ってもいいじゃない? それに私としてもこの展開は予想外だったしね」

「何!?」

「私が掛けた魔法は『チャーム(魅了)』、キープを挟んで乱交になるようなイメージだったけど……思いの他、みんな独占欲が強いのね」

「貴様……!」


カペラは怒りで顔が真っ赤になっている。


「キープはあたいらの為に身を引いてくれたんだぞ! それをお前がこんな風にして……想いを裏切ってどうする!」


デネブは微笑みを浮かべると、


「私はね……可愛いもの好きなの」

「一体何を……」


いきなり想定外の話を出されて戸惑うカペラに、


「カペラ……アルタイル……ベガ、みんな可愛かったから仲間としてやってきたけど……」


話をいったん切り、キープを見つめる。

キープはデネブに底知れぬものを感じて身震いした。


「キープ、可愛くて……何より魔力が美味しそう」

「……は?」

「別にね……最初じゃなくても良かったのよ。キープと交わりさえすれば……」


言いながらローブの裾をたくし上げる。

キープが慌てて目を逸らす。

白い太ももが艶めかしく映える……と、


「あれは!」


アルタイルの声にキープも目線をデネブに戻すと、


(あれは……魔法の印!)


デネブのへその下あたりに紫色に光る魔法陣が浮かんでいた。


「これはね……『ドレイン(魔力吸収)』の呪印。交わった人の魔力を全て私の力に変えることが出来るの」



ローブを降ろし再び整えると、


「キープ……あなたの魔力を頂こうと思ってね」


熱に浮かされたような顔でキープを見つめて来た。


「そんなの今までなかったはずよ」


アルタイルが言う、キープを襲った時にも確かになかった。


「魔法でいくらでも隠せるしね……でも私これオシャレっぽくて好きなの。ほら……キープ……見て……」



それを遮る様にカペラが立った。


「デネブ……お前はもうパーティメンバーじゃない、捕まえてガードに引き渡させてもらう」


アルタイルとベガも戦闘の体制をとる。




「あらあら……パーティメンバーに振られちゃったわ」

面白おかしく笑うと、


「でも私に構っていいのかしら? 後ろの方は構ってあげないの?」

キープ達がその声に後ろを振り返る。


アルタイルだけはデネブを警戒していて視線を逸らさない。


「うがぁぁぁぁ……」

そこには3mほどの背丈を持った、人間の体に牛の頭を持つミノタウロスが斧を振り上げていた。


「なっ!」


ミノタウロスは怪力で知られ、その力は倒してきたオーガーの比ではない。


魔人の下僕で従者や護衛や、もしくはダンジョンでの番人として知られ、通常金ランクパーティで何とか倒すことが出来る強さを誇る。



『紅の三日月』は銀ランク……しかも、デネブも敵対している状態、どう見てもミノタウロスに勝てそうになかった。



「みんな逃げろ、ここはあたいが……」


カペラがミノタウロスの前に立ちふさがった。


デネブは気になるものの、傍観の姿勢をとっているようだ……なのでアルタイルも目線をミノタウロスに向けると、

「援護するわ」

弓を引き絞り狙いをつける。



キープは気付いた……ここはサンクチュアリの結界内。

結界を壊さず魔物がここに来れるはずがない!


「みなさん、これは『イリュージョン』(幻影)の魔法です! 実際にはミノタウロスはいない!」


キープはそう叫ぶと、


「『マジックブレイク』(魔力解除)!」

ミノタウロスの姿が掻き消えた……。




「くっ……デネブ!」

全員がデネブに目線を向けると……そこには誰もいなかった。



風に乗って声が聞こえる。


「キープ、また今度会いましょうね……今度はちゃんと可愛がってあげる……この私、色欲の魔人デネブがね」


パリン!!


サンクチュアリが破壊される。

デネブが通ったのだろう。


それから声は聞こえなくなった……。



「そんな……デネブ……魔人だったなんて……」

今までパーティを組んでいたカペラ達が茫然としている。



魔人……基本的には大陸の北……魔の領域にしかいないと言われていた。

まさかこんな場所に……人として紛れていたなんて……。



まだ夜は明けていなかったが、4人は荷物をまとめるとパウス辺境都市に急ぐことにした。


魔人がいた……しかも人と変わらない姿……デネブだけとは限らない、急いで知らせる必要があった。


サンクチュアリは魔の生物を通しません。

なので最初から中にいた場合は無効です。


通過を防ぎますが、魔人以上には破られます。

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