初めての奇襲
クルサ達の拠点の外れにある大岩。
その岩の側面に、急に大きな黒い穴の様なものが出現した。
それは黒い渦を巻くような円形状の闇で、まるで吸い込まれそうな闇であった。
そこから、一人……また一人と、白い仮面を着けた黒ずくめの人が現れる。
全員背が高く2m位、白い仮面には目の部分だけ細長く横穴が空けられており、口の部分等は全て仮面で覆われている。
全身は真っ黒で、鎧なのか服なのかも判別しづらい。
ただ、動きはスムーズであり、動作の阻害にはなっていない様だ。
男達は『暴食の魔人 メンカル』配下の魔人であった。
定期的にクルサ達の鉱石を回収に来ており、今日はその回収日であった。
7人目の魔人が出てくる……、魔人達は顔を見合わせ頷くと、クルサの村の方に歩き出す。
その時だった!
彼等が現れた大岩の上からクルサが槍を構えて降ってきた!
槍は一番後ろの魔人に刺さった! ……かと思ったが、ギリギリで躱したらしく、肩と腕を切り裂くのみに留まる。
「チッ! 完全に不意討ちだって言うのに躱しやがるとは!」
着地するなり、傷を負った魔人に槍を繰り出す!
流石の魔人も今度は躱しきれずに胸と腹に一撃ずつ貰うと、地面に倒れ込んだ!
「獣風情が反抗するか!」
他の魔人がそれぞれ武器を構えた!
ところへ四方から獣人、キープ達、コールマイン混成軍が襲いかかる!!
ナシュとベガが双剣の魔人に襲い掛かったが、ナシュの剣は受け止められ、ベガはもう片方の剣で牽制されている。
キープが別の魔人に、
「『ホーリーチェイン(拘束)!!』」
光の鎖が現れる!……が、
「『マジックブレイク(魔力解除)』!」
即座にかき消される!
しかし、その隙をついて、
「『バインド(束縛)!!』」
マタルの魔法が決まり動きを止めた!
瞬間、マタルの短剣が魔人の首を切り裂いた!!
「マタルさん、流石です!」
「いえいえ、師匠の魔法のお陰で決まりましたから!」
そう言いつつも照れるマタル。
そこへ鎌を振りかざした魔人が……、
ガキン!!
金属音がしてクルサが鎌を受け止める!!
「まだ終わってねーぞ二人とも! 油断すんな!」
クルサに叱咤され、二人揃ってシュンとなりつつ……戦況を確認する。
戦況は奇襲を掛けたこちらが優勢ではあったが、敵は残りの5人で円形陣を組んで、互いの背中を庇い合う様にしている。
……と、一人が円陣の内側に入った! 即座に残りの四人が四方をカバーする!
「その6つの眼に映るは地肉、飢えを満たそう、その全てがお前達の獲物だ! 来るがいい、冥府の番犬!」
詠唱に気付いたキープとマタルが、
「『ホーリーチェイン』!」
「『バインド』!」
魔法を放ち拘束したが、いま一歩遅く発動されてしまった!
と、
グシャ!!
何かが潰れる音。
グルルル……。
低い唸り声。
「ひっ! だれっかぁぁぁぁ……」
そして悲鳴!
全ての音は同じ方向から……、彼等が出て来た闇の中からそれは身体半分が出てきていた……。
キープも英雄の冒険譚や、伝承の記述でなら聞いたり見たりしたことがあった。
三つ首を持つ凶犬……ケルベロス。
冥府の番犬と言われ、その牙は捉えた獲物を決して逃さず、その爪は鋼鉄をも切り裂き、動きは俊敏、更には炎のブレスを吐くと言われている。
また、その体はゆうに20mを越え、まるで大きな建物の様である。
口から見え隠れする牙だけでも、キープと同じくらいありそうだ……。
魔人の一部が使役しているとの噂ではあったが……。
闇から出てこようとしているケルベロスの足元には、踏みつけられ潰された王国兵、そして一つの頭が獣人の一人を咥えていた……が、かみ砕かれて上下に分かれた……!
「な、なんてやつだ……」
流石のクルサも厳しそうな表情をしている。
「ぐぁ!!」
ケルベロスに驚いて動きを止めていた王国兵が、魔人に切り裂かれ倒れ込む!
「『セイントヒール(大回復)』!」
キープの魔法で傷は癒えたが気絶している様だ!
獣人・コールマイン連合軍は、ケルベロスと魔人達に挟撃される形となってしまった。
キープがクルサに、
「僕が戦況を何とかしますので、暫くケルベロスを止められますか?」
「任しておけ! 俺様の強さを見せてやるよ!」
そして、
「俺様があのワンコを相手するから、お前等全員魔人を頼むぜ!」
クルサは全体に指示を出すと、地を蹴りケルベロスに走る!
「クルサばかりに良い所は見せられないわ!」
「だねー同意!」
ナシュとベガが魔人に襲い掛かる!
ナシュは低い姿勢で駆け寄り、刺突を放つ!
いつぞやのクルサ戦で見せた動きだ。
鎌を持っていた魔人は、その素早さに反応出来ず胸を穿かれる!
四方の守りであった一角が崩れた事で、魔法で動きを止められていた魔人に、顎・喉・水月の正中線3点にベガが拳を叩き込んだ!
ケルベロスを召喚した魔人を昏倒させたが……。
「還ってくれないか……」
召喚した魔人を倒す事でケルベロスが還ってくれれば良かったが、残念ながら還らない様だ。
クルサは超低姿勢でケルベロスの足元に滑り込むと、その前足に槍を突き立てる!!
「固った!」
刺さりはしたが、かなり浅い!
剛毛のせいで刺しきれない様だ。
だが、一応刺された事で痛みを感じたのか、ケルベロスがクルサを踏み潰そうと前足を振り下ろす!
「っとと!」
それを間一髪避けるが、別な前足でさらに踏みつけて来た!
「!?」
それも転がって避ける!
起き上がりざま後方にジャンプ!と、同時に起き上がった場所が踏みつけられた!
かなり動きが早い……、クルサで無ければ躱せなかっただろう。
しかも……、
「ギャイン!!」
ケルベロスから悲鳴が上がる!!
「へへ、ざまぁ見やがれ!」
クルサがケルベロスにニヤリと笑う。
ケルベロスの前足……その肉球部分に槍が深々と刺さっていた!
起き上がりざま地面に槍を立ててたらしい。
それをケルベロスが踏みつけた事で、自分の肉球を槍で貫いた!
ケルベロスは器用に槍を口で咥えて引き抜くと、槍を噛み砕いた!
「あ〜あ、それ気に入ってたんだけどなぁ」
残念そうに言うクルサにケルベロスが怒りの目を向けた!
その時!!
「『ヴァルハラ(神界)』!!」
詠唱を終えたキープが、高らかに魔法名を叫ぶと、
ケルベロス以外の全員が光の膜に覆われる!
「今です!! ケルベロスは手出しできません! 今の内に魔人達を!」
ケルベロスは唸り声を上げてキープ達を睨んでいるが、手は出して来ないようだ……野生の勘が、この膜が危険な事を告げているのか……。
残りの魔人は三体。
クルサは短剣を持ち出すと、素早く一人に詰め寄り、その胸に短剣を突き立てた!
マタルの『バインド』とナシュ達のコンビネーションでもう一人を、残りを他の兵士達が屠りさった!
魔人達は全て倒した。残るはケルベロス……。
と、ケルベロスが三つ首を全てキープ達に向けると、
「があぁぁぁぁ!!」
咆哮と同時に三つ首全てから炎を吐き出した!!




