初めての願い
「クーちゃん……」
急に現れたクルサに驚きつつも、
(どうか後ろの三人に気付きませんように!)
ナシュ達は、キープより少し後ろを歩いていた。
この暗闇だし、どうにか気付かないでと願うキープだったが……、
「キー……プ、どうしてその三人が一緒にいるんだ?」
口調が変わっている!
(駄目か!)
キープの願いは呆気なく砕けた……元々猫の獣人であるクルサに、暗闇など意味が無かった。
「クルサ……さん、すみません。 僕はあなたを騙していました」
「……」
「彼女らは僕の大切な仲間です。 僕は彼女達を助けに来ました」
「……」
「そして、彼女達が大切に思ってくれて……詠唱無効を解こうとしてくれたのは、僕の為です」
「……全部」
クルサが口を開く。
「全部嘘だったのかよ?」
声は大きくない、そして静かだ……しかし、その声には怒りが含まれている。
「助けを求めたのも、ここで頑張って働いてくれてたのも、みんなと楽しそうにしてたのも……」
言葉を切って、……口調が変わる。
「私の……私の友達になってくれた事も!」
キープは静かに、
「全部が全部、嘘ってわけじゃないよ」
そう告げると、
「みんなと一緒に働いたり笑ったり、クルサとも友達として楽しかった」
クルサが弾かれたように、
「じゃ、じゃあ……」
キープは首を振る。
「でも、ナシュ達も大切な人なんだ……、僕を助けようとして……僕の為に捕まってしまった。 それを放っては置けない」
「……」
クルサは静かに聞いていたが、
「分かった……その三人は…解放するから!」
キープをじっと見つめて、
「だからキープは残って!!」
願うような声。
「せっかく初めてのお友達なのに……初めての出来た友達なのに!」
クルサが見つめてくる中、キープは再度首を振る。
クルサはそれを見て俯いてしまった……。
目を地面に向け震えている。
キープがナシュ達を見ると、なんとも言えない表情で立ちすくんでいた。
ある程度事情は察したのかもしれないが、掛ける言葉が分からない様だ。
キープだって同じ立場ならそうだろう……。
元々、作戦ではクルサを訪ねて、1から事情を話して和解する流れだった。
それが、途中で見つかった為、なし崩し的になってしまった……。
目を伏せていたクルサだが……、
「分かった」
一言呟き、腰の棒三本を槍へと変形させる!
「友達なんて……もう面倒だ!」
口調がまたしても変わっている!
そうして槍を構えると、
「キープ!! お前にとって、そいつらが大事ってんなら、そいつらを消せば、もう行く必要はねーよなぁ?」
槍の先端がナシュを向いた!
「こいつらを殺して、お前にとって大切なのは……居場所はここだけにしてやる!!」
キープはスタスタと歩いてナシュとクルサの間に立ち塞がった!
「な!? どけぇ! キープ!!」
クルサが叫ぶ!
「どかない……僕は誰も見捨てるなんてしない」
「俺達を捨てようとしてるだろーが!!」
「見捨てない! 僕はクルサ達も救う! 魔人を倒してクルサ達を自由にする!」
「う、うるさい! うるさい!!」
クルサは聞きたくないと言うふうに頭を振ると、
「アイツらがいるから!」
キープ越しにナシュを睨みつけた!
そして、クルサの声が……静かに……冷徹になる。
クルサの青い目が細くなりキープを睨みつけた。
「どけ……キープ……じゃないと俺はお前ごと……」
キープはそんなクルサを見て微笑んだ。
「どかないよ? 僕はクルサを信じてる……そんな事をする子じゃないって」
「そうか……どかないと言うなら……」
槍を引く、突撃の構えになる。
キープは両手を広げると、クルサの目を見て、
「クルサに僕を信じてもらいたい、……僕もクルサを信じるから……」
クルサはそれには答えず、
「行くぞ!」
疾風!
クルサが地を蹴り恐るべき速さでキープの前に到達すると!
「はぁ!」
槍を突き出す!!
穂先がキープの胸に突き刺ささった!!




