初めての一騎討ち
鋭い穂先が完全にナシュの中心を捉えている!
ナシュは剣で払い除けると、そのまま前に踏み込み、槍の柄を掴もうとして……、
蹴りが飛んできた!!
堪らず下がって回避する!
その時には槍が再度構えられている! 瞬間!
再度突き出される!
今度は浅く突くと同時に素早く引いて、それを繰り返す……連続して何度も何度も突いてくる!
払い、受け止め、回避し続けるも左腕の横を掠め、赤く鮮血が吹き出る!!
(思ったよりかなり速い!)
勇者ミアプラと同じぐらいだろうか?
かなりの速度をもってナシュを圧倒してくる。
(このままじゃ不味い)
大きく後ろにジャンプして距離を空ける!
「おいおい、大丈夫かよ? 降参してもいいんだぜ? 痛い目を見ないで済む」
槍を構えたまま、クルサは余裕綽々に声を掛ける。
「生憎私はしつこいのよ!」
(と、言いつつも困ったわね……)
ナシュの『剣舞』は惑わす事で効果が出るが、どうやらクルサには効かない様だ。
目が良いのか、フェイントには強いらしい。
(まぁ、もう少し見てみようか……)
ナシュのスタイルは『剣舞』の事もあり、守りからのカウンター狙いである。
今度は仕掛けて挑発してみよう……。
と思うや否や、ナシュは低い前傾姿勢で一気に間合いを詰めた!
そのまま突きを放つ!!
が、クルサはそれに対して冷静に槍を突きだす!
槍の方がリーチが長い。 自然と先に届くのは槍の方になる!
ナシュにもそれは分かっていた……だからこその低い前傾姿勢!
普通に立っていれば、槍の攻撃範囲は頭の先から足先までと広く、非常に守りづらい。
それに対して、この姿勢なら槍は中段から下段に攻撃範囲が絞られ、尚且つ槍の動きも見極めやすい!
しかし、弱点として、顔の位置が中段になるため、敵の攻撃が速く見え、回避するのに高い反射神経が必要になる。
だが、カウンター気味に出された槍にそこまでの早さは伴っておらず、結果。
ナシュの顔を捉えた槍の軌道は、首を傾けることで回避する!
それでも頬を薄く切り裂かれる!
ナシュの突きはクルサの中心を捉えていたが……。
キン!
「!?」
鋭い金属音がしてナシュの剣が下から跳ね上げられた!!
仰け反りつつバックステップで距離を取る!
(一体何が? 完全に捉えたのに!)
ナシュがクルサを見ると……。
三本で一つの槍を構成している、その内の一本が外れている。
石突き側の一本を外して、それで剣を跳ねあげた様だ。
「それ槍じゃないの? 外れるとか聞いてないんだけど」
「槍だけど、別に途中で外してはいけないとは決まってないぜ?」
再度一つの槍に繋がる。
「まぁ、でも今のは流石に危なかったぜ」
そう言って槍を深く構える……。
今度は連続突きではなく、突進してくるようだ。
(良し! 挑発に乗ってくれた!)
これならカウンターを狙いやすい!
「いくぜ!」
叫ぶと同時に突っ込んできた!!
「!?」
突きかと思えば、まずは大降りの薙ぎ払い!
クルサは小柄であり、更に狙いは足元だった。
地面スレスレを払われる!
「くっ!」
跳躍して躱す!
そこへ大振りした状態、石突き側で突きが繰り出される!
回避出来ず、まともに腹に食らい。
後方に倒れこんだ!
そこに再度槍の穂先が繰り出される!!
(ヤバイ! 完全に相手のペース!)
横に転がり直ぐに起き上がって、剣を構える!
その時には胸の中心に槍が迫っていた!
剣先で辛うじて軌道をそらす!
今度は右腕を切り裂かれた!!
(しかし!)
槍を深く繰り出した為に、クルサの懐はがら空きで、槍もナシュの横を通過している。
(好機!!)
ナシュは、そのままクルサの懐に入り、剣を繰り出す!
「ナシュ!!」
ベガの叫びと衝撃が同時だった!
急に背後から衝撃が襲い、「切られた!」と、思った時には地面に倒れていた……。
痛みを堪えてクルサを見上げると、
槍の穂先側の一本が外れている……。
突きと同時に外して、鎌の様な形状に変えて背中を切りつけたらしい。
ナシュには死角からの攻撃となった……。
クルサはナシュに近寄ると、
「お前もなかなか強かったが、まぁ、俺の相手は早かったな。 約束は守ってもらうぞ!」
ナシュも痛みを堪えつつ、
「私の負けよ……」
そう告げると、目の前が暗くなっていく……。
(キープ……ごめんね……)
キープに謝りつつ、ナシュの意識は遠退いていったのだった……。




