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初めての暗闇


深い暗闇……。


何も見通すことが出来ない……。


そこに何がいても分からないだろう……。



キープはそんな暗闇の中を歩いていた。


何もかも闇。



足の裏から歩いているのは伝わる。


ただそれだけ。



方向も、上下も左右も前後も……。


光も音も匂いも何もない。


どれくらい歩いたのか、どれくらい時が経ったのかも分からない。



手を伸ばしてみる……何も触れない。


叫ぼうとした……声がでない。




これが『死』なのだろうか?




歩いている……延々と。


疲れはない。


ただ暗闇の中。



浮遊感?漂っている様だ。


足の裏の感触がなければ、立っているのかどうかすら分からないだろう。




キープはふと既視感を覚える。


何か似たような事がなかっただろうか?





(そういえば……)


大魔法の第一の試練。


延々と『サンクチュアリ(聖域)』を張っていたことを思い出す。




あの時も、全く先の見えない状況だった。


勿論目は見えていたし、今とは全然違うだろうが、それでも似ていると思ってしまった。




あの時はどうしたんだっけ?




(……に……すむ)


何か言葉がよぎった。


大事な言葉だったハズ……。



キープは思い出そうとした。




(……えに……すむ)


もう少し……。


知らないうちに走り出していた。


闇の中をただ走る。


もう少しで思い出せる!



(まえに……すむ)


そうだ、あの時も……、いや、あの時から、


(まえにすすむ)


(前に進む!)


「前に……」

出なかった声が出た。


「進む!」



キープが大きく足下を蹴ってジャンプする!



突如、闇の世界に光が射した!!






眩しい……、


キープは目を開けようとして、その眩しさから目を細める。


(こ、此処は?)


見覚えのある天井……。


ダビー公爵の部屋、そこのベッドに寝かされていたようだ。



目を横に向けると、キープが寝かされているベッドの傍らで、ナシュが座って船を漕いでいる。


目の下に隈が見え、かなり疲労しているのが見えた。



体を起こそうとして、


ズキッ!!


「!?」

腹に鋭い痛みが走り、また布団に横になる。



シーツの擦る音で気が付いたのか、ナシュが目を覚ました。


少し眠け眼だったが、キープと目が合うと、

みるみるうちに目に涙が溜まっていく……。



そして、


「キープッ!!」


抱き締められると同時に、


ズキッ!!!


腹に再度痛みが走り、呻いてしまった。


慌ててナシュがキープから離れる!


「ご、ごめん! 痛かった……よね? ごめんね」


謝ってくる。



キープは、

手を伸ばして……ナシュが察して手を握ると、


「大丈夫……。 それより心配かけてごめんね」

「ううん。 それは気にしないで……、私こそ考えずに抱き締めてしまって……」


ナシュは申し訳なさそうに、そして不安そうな顔のまま、

「キープまで居なくなったらと思うと……凄く怖くて……不安で……」


そう言うと、ポロポロ目から涙をこぼす。


ナシュは家族を失ってから独りになっている、

だから親しい人が居なくなるのを、より恐れているのだろう。



ナシュが落ち着くのを待ってから、


「僕どうなったの?」


キープが聞くと、あれからのことをゆっくり話してくれた。






キープがナイフを腹に受け気絶した後、マタルが来てくれてキープに回復魔法を掛けてくれた。


それによりそのまま死ぬことは避けられた。


しかし、マタルは『ハイヒール(中回復)』までしか使えなかったため、怪我が治りきらず、生死の境をさ迷っていたらしい。


あれから二週間目たっても目を覚まさず、それまで交代でキープに付いていてくれたとの事だった。



「二週間も……」


キープは天井を見ながら呟く……かなりの間眠っていたらしい。



「ナシュ」

キープが呼び掛け、


「何? 何かして欲しいことある?」

ナシュが、身を乗り出してくる。


「ありがとう……心配してくれて」


キープの言葉に首をブンブン振ると、


「ううん、そんな……キープが無事に目を覚ましてくれて、良かった」


再度涙ぐんで鼻をすする。



そうして、

「あ、そうだ、マタルさん達にも伝えないと……」


そう言うと、「ちょっと呼んでくるから」と、部屋を出ていった。



その後、直ぐに誰か入ってきた。


ダビー公爵だ。


「キープ……目を覚ましたと聞いてな」


ダビー公爵は目頭を押さえながら、ベッドの横にある椅子に腰かけた。


目が覚めたことを聞いて、涙が出るのを押さえているらしい。

ダビー公爵にも心配をかけてしまったようだ。


「すみません、ダビー公爵。 色々良くして頂き……」


「気にするな。 未来の妻になろう人だ。 全力を尽くそう」


(この人は……変わらないな)

呆れつつもブレないダビー公爵に、ついつい笑みがこぼれてしまった。


キープから笑みがこぼれたのを見て、喜んでもらえたと思ったのか、

「やはりお前には笑顔が似合う。 俺様の妻にはお前しかいない!」

嬉しそうに断言してきた。



「ダビー公爵」

「何だ?」

「前にも言いましたけど、僕は男なんです。 僕とは結婚できませんからね?」

「分かっている そう言う(テイ)にしておくと言うことだな」


全然分かってない


(もう! ほんとにしつこい!)

キープは心の中でため息をつく。


良い人なんだけどなぁ……。




丁度そこにナシュが、マタルとベガを伴って部屋に入ってきた。



マタルとベガは、目を覚ましているキープを見るなり駆け寄ってくると、


「キープ!」

「師匠!」


心配そうな二人に、キープは安心させるように微笑むと、


「二人ともありがとう。 心配かけてごめんね」


「ううん、目を覚ましてくれて良かった!」


ベガがほっとしたように言う一方で、マタルが申し訳なさそうに、


「すみません師匠。私が『セイントヒール(大回復)』を覚えていれば……」


「いえ、マタルさんが居なければ、僕は死んでたと思いますし……、ありがとうございました」


キープにお礼を言われると、申し訳なさそうか顔から、嬉しそうな顔になる。



その後、少しだけ皆で話をした後、ナシュが、


「そろそろ行きましょう。 キープはまだ病み上がりなんだし、ゆっくり休んで」

「ありがとうございます」


正直ちょっと傷が疼いて痛くなりつつあったのもあり、ナシュの気遣いが嬉しかった。




「お大事にね」

「また後でね!」


みんながぞろぞろ出ていき、キープ一人に部屋に残される。


あれだけ騒がしかったのに急に静かになると、寂しく思えた。




キープはゆっくり目を閉じ深呼吸すると、


「『セイントヒール』!」


発動しない……。



「『ハイヒール』」

「『ヒール』」



発動しない……。



その後、大魔法『ヴァルハラ(神界)』も唱えたが、やはり発動しなかった。


キープは魔力を高めようと瞑想してみる。


魔力は感じる……。


魔力が失くなった訳では無さそうだ。



(一体何が起こっているんだろう……)

ベッドで体勢を変えると、眠ることにする。



疲れているだけかもしれない……何しろ死にかけたのだ。


(ゆっくり休もう……休めば……きっと……)


そのままキープは眠りに落ちていった……。

100話到達です!!


皆様のお陰でモチベも上がり、ここまでこれました!

ありがとうございます!!!


引き続き、皆様に楽しんで頂けるよう頑張ります♪

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