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初めての討伐


オーガー討伐の依頼を受けた『紅の三日月』は、パウス辺境都市から一旦南下……そこから更に西方へ順調に向かっていた。


オーガーはトランキル山岳に住み着いたようで、近くに住む村からの討伐依頼であった。

良質の鉄鉱石が採れる採掘場であったが、オーガーが鉱山夫を襲い数名がなくなったらしい。



パウス辺境都市を出て5日目、ようやくトランキル山岳に着いた。



「す、すみません」


山岳入り口でカペラの背中から降りるキープ。

今回もバテバテで途中からカペラにおんぶしてもらっていた。

男としては非常に恥ずかしくて情けなかったが、通常3日で着くはずが5日掛かっていることもあり、恥を忍んでおぶって貰っていた。


(キープ……軽くて柔くていい匂いがした……)

おぶったカペラ本人は、声にこそ出してはいないが表情は緩みっぱなしで嬉しいのが駄々洩れであり、他3名はそれを羨ましく思っていた。


実際道中は、


「キープ疲れてない?マッサージしようか?」

「お腹すいてない?これ食べる?」

「見てキープ~綺麗なお花でしょ?これあげるねー」

「キープ、ここ風が吹いて気持ち良いよー 座ってみて~」


全員がキープの気を惹こうと色々声を掛けて来た。



流石にキープも、


(みんなどうしてこんなに声を掛けてくるのだろう?)

と思ってはいたものの、


(僕が新入りだし、男で肩身が狭いから気を使ってくれるのかな?)

違う解釈をして4名のアプローチは続いていたのだった。




山岳入り口から中腹に進んだところに採掘場はあった。

つるはしや運搬用の台車が散らばっているが、それより目を引くのはどす黒く汚れた地面……。

犠牲になった人達の血だろう……中には明らかに骨と分かるものも落ちていた。



そして採掘場の真ん中に奴は居た。

オーガー……魔王や魔人に創られた魔物である。

ゴブリンより大きく、力・スピードはともに上であり、体も2mと大きい。


キープ達を見つけると、犠牲者のだろうか……咥えていた骨をしゃぶりつつこちらに歩いて来た。



全員武器を構えて戦闘態勢を取る。

キープ達の前まで来ると、しゃぶっていた骨を地面に吐き捨てた。


そして、


「ウォォォォォォ!!」


吠えると先頭のカペラに回し蹴りを食らわせて来た。


「ふっ」


カペラは斧の腹でそれを防ぎ、受けた勢いを利用して回転しつつ斧で切りつける。

オーガーは後ろに下がったが、カペラの武器は両手斧でリーチが長い。

胸を浅く切り裂いた。


青い血が噴き出すが、それに構わず斧を振り切り隙ができたカペラに再度蹴りをお見舞いする。


「ぐっ!」

今度は受け切れず、数メートル吹き飛んだ。


「カペラ!」

キープがすかさず回復魔法を飛ばす。



カペラが抜けた前衛にベガがすべり込んだ。


「はぁ!」

気合を込めたこぶしと蹴りをオーガーに叩きこむ。


オーガーも力で応戦する……激しい打ち合いだったが、オーガーの蹴りが決まり小柄なベガが吹っ飛ばされる。


オーガーが勝ち誇った隙をついて、復帰したカペラの斧とアルタイルの弓が襲い掛かる。

まともに食らい深手を負いつつも後ろに後退して体制を整えようとするオーガーに、デネブが魔法を飛ばす。


「……血肉を捧げ……宴の糧とせよ……『ブラッドバンケット』(血宴)」


ふらつくオーガーの足元に黒い霧が出た……と思った瞬間、


ぼぎり!


霧に覆われたオーガーの両足が折れた……音としては折れたような摺りつぶされた様な音だった。

霧に覆われた肉体を破壊する……凶悪な魔法であるが詠唱時間が長く魔力も多く使う。

連戦や乱戦、多数な相手には向かないが単体にはかなり有効な魔法である。


「がぁぁっ」


オーガーが悲鳴を上げる。



足が折れたオーガーが倒れると、霧がオーガーの全身を覆っていき、


ごき・ぼき・ごり・ぐしゃ……


形容し難い音がして……霧がなくなった後には全身ばらばらになったオーガーだったものがあった。


周囲を警戒するがオーガーは1匹だけらしい。

ようやく全員が力を抜いた。


「『ハイヒール』(中回復)」

キープが回復魔法をベガにかけている間に、カペラが討伐の証としてオーガーの耳を切り取っていた。



戦闘が終わるとキープが褒め称えた。


「みなさん強いです! 非力な自分からしたら羨ましいです!」


キープも冒険者であり、男である……目の前で繰り広げられた戦闘に大興奮していた。


「いや~、キープの回復魔法こそすごいって……あたいオーガーに蹴り食らってあんなにすぐ戦線に戻れるなんて思わなかったし」


カペラが言うと、ベガも興奮気味に、


「ですよ! 一瞬で痛みとか引きましたし、全然元気ですし」


キープとしては「今度こそパーティを支えられた」との想いから嬉しさや誇らしさ、満足感がごちゃ混ぜになったような気持ちになって、何も言えなくなった。



その後、周辺に生き残った人がいないか調べて、依頼にあった村に討伐完了の報告をしたのだった。



村人からは多大な感謝とささやかな宴会を開いてくれて、キープ達も大いに盛り上がった。


宴会は夜遅くまで続いた為、翌日キープ達が村を立つ時はお昼を回った時間となっていた。



来るときに5日掛かったので、帰りも同様のペースで進んでいた。


そして村を出て2日目の夜、とある事件が起こったのだった。


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