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グラス・ヘキサゴンの虜  作者: 陶ヨウスケ
5/21

瀬尾一樹編 第三回投票

『小泉えりなさんと室伏タイガさんが出ないを選択したため、引き続けグラス・ヘキサゴンで相談をしていただきます。なお瀬尾一樹さんの質問に回答出来なかったので、次回瀬尾一樹さんは2回質問が出来ます』


「・・・・・・」

 一樹は黙ったままだった。

 質問の回数が増えたことはどうでもいい。

 それよりタイガの様子が気になった。

 寛人はなぜ考えを変えたのかタイガに聞こうと、すさまじい勢いでトランシーバーのボタンを押している。

 それに反応してテーブルに放置してあったタイガのトランシーバーのボタンが、ちかちか光っていた。


 基本的にトランシーバーは1回押せば、対応するボタンが数秒は光っているが、連続で押すとそうなるらしい。

 遠目からでも目がちかちかして迷惑この上ない。


 けれど、茫然自失のタイガはなかなかトランシーバーに出ようとしない。

 他に美里も通信を入れているようだったが、それにも出なかった。


 寛人がタイガと話そうとしている間、一樹はえりなに通信を入れる。

 別にタイガに繋がらないから、その間にえりなのいじめの件をどうにかしようとしたわけではない。

 聞くのは先ほどタイガと何を話したのか、だ。

 「出る」を全員で選ばなければ出られない以上、タイガの件はもはや他人事ではない。

 えりなのいじめの件は根が深そうなので、まずはこちらをどうにかしようと一樹は考えた。


【瀬尾君、どうしたの?】

「どうしたのじゃないだろ……」

 えりなののんきな反応に一樹はため息を吐く。

 やはり見た目通り、色々変わった子だなと痛感した。


「なんで小泉さんと話したら、室伏があんな風になったんだ? 話してる姿を見てたけど、とても普通じゃなかったぞ」

【それは……室伏君は多分ショックを受けたんだと思う】

「ショック?」

 一樹は首をかしげた。


【その、私と室伏君はあの時初めて話すぐらい、赤の他人だったんだけど――】

 そう前置きしてからえりなはあの時何があったかを話し始めた。


【最初室伏君から、なんで「出ない」を選んだのかって通信があったの。自分は早くここから出てプロになるための練習をしないといけないんだって。どうせこんな所に長く居ても意味はないし、すぐに投票を変えろって。その言い方があまりに頭ごなしだったから、私言ってしまったの。ここにいる程度の時間じゃたいして違いは出ない、それ以前に10年も寝たきりだった人間がプロになれるわけないって】

「それは……」

 明らかに言いすぎだ。

 ただ正論でもあった。

 おそらくタイガもいずれ自分で気付いた問題だっただろう。

 しかし、今の段階で他人の口から言われるのとでは、ショックの大きさが違う。


「『常識的に考えてなれないだろう』って回答、プロスポーツ選手になれるかどうかの話だったのか……。それであいつとどめを刺されたわけか」

【ごめんなさい、私、昔から気遣いとかそういうことが出来ない人間で。だからいじめられたりもしたんでしょうね……】

「もう起きてしまったことは仕方ない。とにかく俺と寛人でなんとかしてみるよ」

 そう言って一樹は自分から通話を切った。

 えりなとの会話が終わるのと同時に、一樹のトランシーバーに寛人からの連絡が入る。

 一樹はすぐにそれに出た。


「どうだった?」

【駄目だ、繋がらない。ただ一応理由は分かってる。前の通信で、アイツプロになれないかもしれないって、愚痴ってたから。あいつにとってプロになることは夢を通り越して、使命だったからな】

「なんでそこまで?」

【あいつの家って、ぶっちゃけるとかなり貧乏なんだよ。アイツの親父さんは元々日本に出稼ぎに来た外人で、たいして収入がないのにアイツも含めた3人の子供を養っててさ。いちおうおばさんも働いているらしいんだけど、それでも家計は苦しくて。そもそもスポーツ推薦でなければ、高校に入ることさえ出来なかったんだ。だからアイツは高校卒業したらすぐにプロになって、家族を養うんだって】

「苦学生だったのか……」

 一般生の一樹から見ると、スポーツ推薦で入った生徒達は普段から大騒ぎし、勉強もあまりせず、楽に生きてるなあと思っていた。スポーツに打ち込んでいると言っても、その分勉強をしないのだから、とんとんだろうと。

 それにも拘わらず、まさかそんな重い責任を背負って入学した生徒がいたとは、夢にも思っていなかった。


【あのままじゃアイツいじけてずっと「出ない」を選びそうだ。俺もまあ複雑な家庭環境ではあるんだが、正直アゴを説得出来る自信が無い。お前に頼めるか?】

「頼めるかって、俺は室伏のこと全然知らないぞ」

【それでもいいさ。お前は昔から妙に説得が上手かったし、くぐってきた修羅場も違うからな】

「あのなあ……」

【それじゃあ頼んだ。俺はなんかさっきからやたらちかちか光ってる中野の通信に出てるわ】

 トトランシーバーは通信中もボタンは光るので、別の誰かから通信が入っても分かる仕組みだった。


「あ、おい!」

 そして通信は寛人から一方的に切られた。

 一樹はため息を吐く。

 確かに自分は、同世代の人間よりはるかに修羅場をくぐってきたという自負はある。


 今回の植物状態を差し引いても、父親が母親に殺されるなど、普通の人間が体験することではない。


 ただ、それを根拠に話したこともないハーフのアスリートを説得出来るようには思えなかった。


「でもまあやるしかないのかなあ」


 一樹としてはこの施設からとっとと出たい。

 やれるかどうか分からないが、それはやるべき事であった。

 だったらやるしかないのだろう。


 一樹はトランシーバーのタイガのボタンを押す。

 タイガが応答するまで、しばらく時間がかかった。


【・・・・・・】

 しばらくしてタイガは通信に出たが、何も言わなかった。

 それでも見ず知らずの自分の通信に出ただけでもマシかと思い、一樹から話を振る。


「えーと、初めましてでいいんだよな。ヒロ……橋本から聞いてると思うけど、俺が瀬尾だ。その、よろしく」

【・・・・・・】

 またしても無言だった。

 このままでは通信も切られるだろう。

 せめて何か興味にある内容を話さなくては。


 そう考え始めた一樹の脳裏に、先ほどの回答が頭をよぎる。

 あの時はただ聞き流していただけだが、今の状況なら役に立つのではないかと思えた。


「なあ室伏、さっきの回答で納屋のやつを覚えてるか?」

【……え?】

 ようやくタイガが反応を見せる。

 自分の話したいことになんとなく気付いたのかもしれない。

 勉強はできなくとも、勘は悪くないようだ。


「あのときの回答は『1億円』だっただろ?」

【あ、ああ、確かそうだった】

 初めて聞くタイガの声は、その外見通り低く、くぐもっていた。

 テンションが下がっているときはその巨体と相まって、威圧感がすさまじい。

 一樹もここが強化ガラスで仕切られた安全な空間でなかったなら、気圧され口をつぐんでいたかもしれない。

 だが今は向こうが通信を切らない限り、好きなだけ話せた。


「あの1億円って言うのは、俺は賠償金の話だと思ってる。あんな目に遭わされたんだから、絶対にどこかが保証してくれたはずだ。お前の家の状況は悪いけどヒロから聞いた。でも1億もあれば、俺たちが眠っている間どころか、お前が勤めるまで家族も問題なく暮らしていけるだろ?」

 完全な憶測だ。

 保証などどこにもない。

 それは言った一樹本人が良く分かっていた。

 ただ、今タイガを説得する材料になれば、それが事実かどうかなどどうでもよかった。


【1億……】

 タイガはトランシーバーを握りしめながら、考える素振りを見せる。

 一樹はほっと胸をなで下ろした。

 今のタイガに必要なのは、これから生きていくための希望だ。

 生きてさえいれば、たいていにことはどうにかなる。

 実際そうなった一樹は心の底からそう思っていた。


 しかし不意に、再びタイガの顔から生気が消える。


「どうしたんだ? 1億じゃ足りないなら俺の分も貸そうか?」

【いや、そういうことじゃない。問題は金だけじゃないんだ。俺は小さい頃からプロサッカー選手になることだけ考えて生きてきた。それが無理だと分かったら、これからどう生きていけばいいのか分からないんだ……。たとえ大金があったって……】

「うーん」

 この歳――勿論10年前の基準だが――だと、将来に確固たる目標を持って生きている人間の方が少ない。

 確かに強制的に27歳になってしまったが、そこまで真剣……というか悲観的に考える必要は、一樹にはないように思えた。

 その考えを、一樹はそのまま口に出す。


「まあダラダラも生きてたら、そのうちやるべき事も見つかるさ」

【勝手なことを言うな!】

 今日初めて話したタイガに思い切り怒鳴られる。


【今までダラダラと生きてきたお前に、なんで俺の気持ちが分かる!? 俺は物心ついた頃からプロになるためだけに生きてきたんだぞ! プロになれないなら死んだも同じだ!】

「・・・・・・」

 声が割れるほどの大声を送信してきたトランシーバーから、一樹は耳を離す。

 タイガ本人が言う通り、タイガ自身の気持ちなど一樹には分からない。


 しかし、今まで自分が安穏とダラダラ生きていたというのは、完全なタイガの誤解で認められない侮辱だった。

 寛人が言っていた修羅場というのは何も誇張ではない。

 だからといって、ことさらに不幸を自慢するのは一樹が望むところではない。自分の不幸を嘆いたところで、それが過剰に認識されるだけ、更に不幸になるだけだ。


 けれど――


(今回ばかりはしょうがないか……)


 ――一樹はため息を吐きながら、再びトランシーバーに出た。


「室伏、確かに俺は今までスポーツ1本で生きてきたお前の気持ちは分からない。でも、お前が馬鹿にしたダラダラは、なし崩し的になったんじゃなくて、俺が血の滲むような努力の末に手に入れたモノだ」

【どういうことだ!?】

「・・・・・・」

 一樹は無言で病院服の上を脱ぎ、背中をタイガに向ける。

 タイガはそれを見て絶句した。


 一樹の背中には何本も縫った痕があり、大きいものだと脇腹から背中の中央にまで及んでいた。

 その迫力はヤクザの入れ墨をはるかに凌ぐ。

 一樹が修羅場をくぐってきたことは、それだけで誰の目にも明らかだった。


 タイガ以外の人間も突然見せられた一樹の背中に、息を呑んだ。ただ1人、その時の事情を知っている寛人だけが、辛そうに目を逸らす。


「この傷は母親につけられたものだ。とはいえ虐待されてたわけじゃない。母さんが発狂して父さんを殺し、俺まで殺して無理心中しようとしたときにつけられたんだ」

【な、な……】

 あまりにも壮絶な過去を、世間話でもするような感覚で言った一樹に、タイガは絶句した。

 一樹はため息を吐きながら続ける。


「俺は一命をとりとめたけど、生きてるのが不思議ぐらいの怪我だった。実際、向こう1年は満足に身体を動かすことさえ出来なかった。退院しても家族はいないし家もないし、学校に行ったら行ったで人殺しの息子だといじめられるし、本当に散々だったぞ」

 あの時の思い出には碌な物がなく、思い出したくもなかった。


 だが――。


「……それでも俺は、今まで歯を食いしばって生きてきて良かったと思ってる。たとえ10年間植物状態だったとしても、死ななくて本当に良かったと思ってる」

【……なんで】ようやくタイガが口を開く。【……なんでそこまで前向きでいられるんだ?】

 それは神に救いを求めるような、心からの叫びだった。

 一樹はそれを真っ向から受け止める。


「簡単だ。嫌なことからは全部目を逸らして、楽しいことだけ見てきたんだよ」

【なんだって!?】

 その答えはタイガの全く想像していないものだった。

 プロ選手になるという目的のために、嫌なことでも全て真っ正面から受け止め、立ち向かってきたタイガには。


「この世界が嫌なことばかりだと思っている奴は、結局それしか見てないのさ。俺みたいに楽しいことだけ見てれば、そんな気にはならない」

【け、けど、嫌なことから逃げてたらいずれは――!】

「ああ、人間楽しいことばかりではいられないのも事実だ。ただ、その現実と直面するまでは、一切見なければいい。そしてどうしても乗り越えなければならないモノだけ、今まで貯めてきたパワーで全力で立ち向かう。それ以外は無視して楽しくダラダラ生きる。生きてさえいれば楽しいことも、新しい目的も見つかるんだ。そうやって俺は生きてきた。もし俺の話がデマだと思うなら、ヒロに聞けばいい。アイツとは小学校が同じだから、そのあたりのことは良く知ってる」

 一樹はそう言って自分から通信を切り、病院服を羽織る。

 言いたいこと、言えることは言った。

 あとは受け取るタイガ次第だ。


 タイガはしばらく呆然としていた。

 そのタイガのトランシーバーに誰かからの通信が入る。

 寛人だった。

 トランシーバーは通信相手に対応するボタンが光るので、視力と位置次第では通信が始まる前に誰と話しているか分かった。


 タイガは寛人からの通信に出、2人で話し始める。

 一樹はそれを見ながら、上手い具合に話をまとめてくれたらいいなあと思った。

 そんな一樹のトランシーバーにも通信が入る。

 相手はえりなだった。


「もしも――」

【さっきの傷はなんなの!? 大丈夫なの!?】

 一樹が全て言い終わる前に、えりなはまくし立てるように聞いてきた。


【まさか土砂崩れでそんなになってたなんて……】

「ああ違う違う、これは昔付けられた傷さ」

【昔? それっていったい……】

()()()()()、結構込み入った話なんだよ。ま、俺としても必要でないなら、あまり話したくないことだから。興味本位で聞くのは勘弁してくれ」

【ご、ごめんんさい! 私本当にデリカシーがなくて】

「これからはマジで気を付けてくれよ。それじゃ、そういうことで」

 一樹はえりなからの通信を切る。

 ガラス越しのえりなは元から白い顔を更に白くし、かなり申し訳なさそうにしているので、あまり責めるのも可愛そうだ。


 それから一樹はタイガのことは寛人に完全に任せ、2つになった質問について考える。

 幸いにもえりな以外傷について聞いてきた同級生はおらず、思考に集中出来た。

 

「まず問題なのはこのシステムだよなあ」

 一樹は自分に言い聞かせるように言った。

 声は誰にも聞かれないので、ここに来てから考えるときは実際に口に出して考えていた。そちらの方が頭の回転も速くなる。

 とはいえ、元からすぐに口に出るタイプなので、あまり普段と変わりはなかったが。えりなのデリカシー云々についても、あまり言えた義理ではない。


「みんな色々ありそうな感じだし、全員一致って言うのは簡単そうで実は難しいかもしれない。ないかなあ、抜け道的なものが」

 そう言いながらクレアに通信を入れ、いつものコールセンターのような応答を受けた後、


「全員一致の「出る」発言以外で、ここから出る方法ってないかな?」


 と聞いた。

 少ししてクレアの『「全員一致以外で、ここから出る方法はないか?」という質問受理しました』という返事があった。


 それからは椅子に座り、ゆったりしていた。

 この部屋は時間を潰せそうなものがないため、出来る暇つぶしと言えばトランシーバーによる無駄話か人間観察、思考の部屋に閉じこもることぐらいだ。

 一樹は見るともなしに同級生達の様子を見る。


 しばらくすると、ある同級生の一連の行動がやたら気になりだした。

 タイガではない。

 タイガは寛人との通話の後、1人黙って考えている風で、それは予想通りの反応でもあった。


 気になったのは自分との通話が終わった寛人に通信を入れていた春香である。

 一樹がタイガと話している間、春香は身振り手振りを踏まえ、寛人に何かを訴えていた。その大きな動きは嫌でも視界に入ってきた。


 一樹が服を脱いでそれをタイガに見せた時は、一瞬呆然とした後さらに取り乱し、トランシーバーに向かって叫んでいた。

 寛人はそれをうんざりした様子で聞いていた。

 何を話しているか全く想像できなかったが、あまり愉快な内容でないことは明らかだ。


 それから一樹がえりなの通信を受けた頃、通信は寛人によって一方的に切られた。

 春香がトランシーバーに向かって話さず、何度もボタンを押し続けていたのだからそれは間違いない。

 その様子があまりに鬼気迫っていた。

 しかし、寛人はそれを完全に無視し続けた。

 携帯電話と違い、このトランシーバーは発信者のボタンが光るだけなので、無視しても五月蠅くはない。一対一の会話と言いながら、通話出来る環境は携帯電話以下だ。


 春香は寛人に対する通信が不可能だと悟ると、今度は美里に通信を入れた。

 美里は寛人と違い、通信にはしっかり出たが、あまり真面目に聞いている様子ではなかった。朗らかな美少女然とした笑みを湛えていても、その目の冷たさまでは隠しようがない。


 会話においても、一方的に話していたのは春香だ。美里が口を開いた回数はわずかで、あとは適当に頭を振っていた。

 その会話が何かの決め手になったのか、今度は春香の方から通信は切られ、その場にへたり込む。

 その後座りながらおそらくクレアに対する質問をし、今に至る。


 その一連の行動がどうにも一樹には気になった。

 またタイガのように、何か問題を起こす気がしてならなかった。

 さらに美里が全く使えない以上、その解決に自分が駆り出されることも。


 そして、春香の質問も終わる。

 だが今回はいつまで経っても、次回投票が始まらない。


 一樹は首をかしげる。

 やはり質問とは関係なく、時間が決まっているのだろうか。

 春香の様子を見ていると余計不安になってくるので、一樹は気を紛らわすかのように寛人に連絡を入れた。


「なんか始まらないな」

【ああ。これ質問終わったら始まるんじゃなかったのな】

「俺もそう思ってた」

【ちなみにお前は質問したか?】

「したぜ。全員一致以外でここから出る方法は無いかって」

 一樹は質問を隠さずに言った。

 禁止されていなかったし、別段隠す必要もない。


【他には?】

「他?」

 一樹は間抜けに聞き返す。


【いや、お前だけ確か2回質問出来ただろ】

「あ」

【あ、って……】

 寛人が呆れる。

 一樹は少し考えてから、今までのやり取りを完全に無かったことにし、その時頭に浮かんでいた疑問を特に考えずクレアに言った。


「中野さんの様子がおかしいけど、何かあったのか?」

『「中野春香さんの様子がおかしい理由」という質問を受理しました』


 そうクレアからの返事があった数秒後、中央の空間にまたクレアが現れる。

 やはりというか確実に質問が投票開始と関係しているようだ。

 一樹は同級生達の無言の非難を無視し、ただ中央のクレアだけ見ていた。

 都合の悪いことは無視するに限る。


『それでは投票前に、皆さんから頂いた質問の回答を言います。中野春香さん、違います。小泉えりなさん、はい。納屋美里さん、心療内科で処方される一般的な精神安定剤以外は使用していません。橋本寛人さん、死亡しました。室伏タイガさん、可能な限りします。瀬尾一樹さん、最初の質問に対する回答は、ありません、です。2つ目の質問には回答出来ません。よって瀬尾一樹さんは再び次回、2回質問してください』

「え……、あ、ああ、そういう意味か……」

 一瞬何を言われたのか一樹はよく理解できなかったが、すぐに察する。

 最初の質問の答えと次の質問の答えは一緒のようだが、最初の方は「ない」というのが答えらしい。

 とにかく投票以外出る方法がないということは分かった。

 自分で質問しておきながら、一樹は二重の意味でうんざりした。


『それでは皆さんトランシーバーでの口頭投票お願いします』


 回答、投票とスムーズに進んだためかチャイムは鳴らなかった。回答時も鳴らなかったので、おそらく今後鳴ることはないだろう。


 一樹は前回同様「出る」を選んだ。

 警戒心が好奇心を大幅にしのいでいてた。


 やがて同級生の投票も終わる。


『投票を受け付けました。それでは結果をご報告します』


 そして第3回投票の結果発表は始まった――。

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