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グラス・ヘキサゴンの虜  作者: 陶ヨウスケ
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グラス・ヘキサゴンの虜 -瀬尾一樹編 第一回投票-※見取図付き

 真面目な一樹のリハビリは順調に進む。

 体力がある程度戻ると髭もそり、髪も切った。

 未だ走ることは無理だったが、終盤では自分の足でリハビリ室に行けるほどになっていた。


 けれど、医師から退院のゴーサインが出ることはなかった。

 やれ検査だなんだと身体中を弄られまくり、理由をつけては退院を伸ばされた。


 やがて本当に走れるぐらいまで回復し、リハビリ室と言うよりトレーニング室の世話になるべきだろうと思い始めた頃、病室で医師は一樹に言った。


「それでは馴致訓練に移りましょう」

「馴致訓練?」

 一樹は鸚鵡返しをする。

 医師の言葉の意味は、一樹には全く理解出来なかった。

 そんな一樹に医師は続けて説明する。


「はい。瀬尾さんだけでなく、事故に遭われた方たちは文字通り浦島太郎のような状態に陥ってしまいました。それにも拘わらず社会に出た場合、ひどいストレスを受け、二度と社会生活が送れなくなるかもしれません」

「でも先生はそこまで社会は変わっていないって……」

「あれは瀬尾さんを安心させるための方便です。とはいえ、その話自体は間違いではありません。問題は社会のあり方ではなく、世間の目です。皆さんは今や時の人です。望む望まないに拘わらず、多くの人が皆さんの周りに群がるでしょう。その際重要なのは皆さん自身の協力です」

「協力……」

 医師の話の意図が、一樹にはよく分からなかった。

 今まで会わせなかったのに協力とは、いったいどういうことなのだろうか。


「当医院では、相互理解プログラムというものを採用しています。これを瀬尾さんを含めた6人の方に体験してもらい、協力して社会の荒波に立ち向かっていけるよう、皆さんの絆を深めてもらおうと考えています」

「はあ……」

 ここまで聞いても未だ一樹には釈然としなかった。

 病院がすることとは、あまりにかけ離れているような気がしたのだ。

 10年も経つと、医学も色々と変わるのだろうか。そう他人事のように思わないと納得できなかった。


「実は今まで会わないように指示したのも、このプログラムが関係しているのです。まあ私がここでとやかく言うより、実際体験してもらった方が早いかもしれませんね」

「まあ……はい」

 結局一樹は最後まで気のない返事で、医師の言葉を聞いていた。

 そして誘導されるままに病室を出、その相互理解プログラムが行われるという場所へ向かう。


「ここです」

「・・・・・・」

 医師が一樹を連れてきたのは、病院の外れにある扉の前だった。一樹の想像では、この先は屋外に通じているようにしか思えない。

 まさか本当に外だったりしたら。

 そんなことを考えながら、勧められるがまま一樹は中に入った。


 扉の先は案の定外……ではなく、病室と同じような真っ白い部屋だった。


 ――いや完全に白い部屋ではない。


 六角形の部屋は周囲をくもりガラスで囲まれ、部屋の隅には扉つきの白い仕切りがある。

 広さは十畳ほどで、家具はテーブルと椅子だけ。電灯らしきものは見られるが、スイッチはどこにもなかった。

 とりあえず一樹は仕切りの扉を開けてみると、そこには洗面台とトイレがあった。

 蛇口をひねれば水も出る。トイレの水も流せた。

 ただキッチンも風呂も収納もないので、生活するには不十分だ。


 まとめると六角形のかなり殺風景な場所ということになる。


 こんな部屋でいったい何をさせようというのか。

 この部屋に6人いっぺんに閉じ込められたら、相互理解どころか相互不信が起こりそうだ。

 一樹には想像もつかなかった。


『ようこそ、()()()()


 不意にどこからか声が聞こえた。

 スピーカーを探してみたが、それらしき物はどこにも見当たらない。

 その数秒後、突然曇りガラスが一斉に透明になる。

 

 その時、一樹は同じような部屋が蜂の巣状に連結していることを知った。


 自分がいる部屋を合わせて都合7部屋。中央の部屋を中心に、それぞれの部屋が連結している。

 中央の部屋だけには何もなく、他の5部屋は一樹の部屋と同じ構造で、それぞれ部屋の住人もいた。


「納屋さん!」


 その中で一樹は会いたかった顔を中央の部屋を通した向こうに見つけ、思わず叫んだ。


 10年ぶりに会った美里はあの頃と比べると大分痩せていた。それでも、老けたとか、不細工になった様な印象は一切受けず、儚げな美女そのものだった。

 一樹ほど肌の色つやが悪くないことから、多少の化粧をしていることは理解出来たが、患者である以上そこまでしっかりはしていないだろう。

 それであの美貌なのだから、やはり天性の美女と呼べるかもしれない。


 他にも見知った顔が何人……というより、2人を除いて全員見知った顔だと気付く。


 その中の1人、隣の部屋にいた幼なじみが、壁代わりの透明なガラスを、これ見よがしに叩く。

 康大はそんな幼なじみ――橋本寛人の姿に苦笑した。


 やはり顔色は悪そうだが、その色男然とした面影は一切変わっていない。10年前は白皙の美少年と言った風であったが、今の寛人はワイルドなイケメンといった印象を受けた。一樹と違い、髪も髭も切らず無造作に伸ばしていたが、それがよく似合っている。


 他に知っているのは、左斜め前の部屋にいる中野春香だった。

 彼女は元クラスメイトで、学級委員長だった。10年前は三つ編みに野暮ったい黒縁の眼鏡をかけ、いつも不機嫌そうにしていたが、今は髪を編まずに伸ばし、メガネもおしゃれな物に変えている。ただ不機嫌そうな表情は高校時代のままで、この場にいる人間の中では1番年上に見えた。

 もともと顔は悪くないのだから、もっと愛想良くしていればいいのにと、一樹は当時から勿体なく思っていた。それが10年経っても全く変わっていない。


 後は中央の部屋を通して前、美里の左隣にいる縦ロールの病人とは思えない厚化粧をした女性と、寛人の部屋から見て右前にいる、黒人のしゃくれた顎が特徴的な、やつれていても充分良いガタイをしたスポーツマンらしき男性がいた。この2人もどこかで見た記憶はあるが、名前までは思い出せなかった。


『ここに集まっている皆さんはご存知の通り、あの事故に遭われ、今まで眠っていた方々です』


 再び声が聞こえる。

 その声はスピーカーというより、中央の何もない部屋に面しているガラス壁から聞こえた気がした。


 一樹がそう思っていると、今度は中央の部屋の中心辺りがゆらぎだし、1人の日本人かさえ判断が付かない美しい女性が姿を現す。

 ただその女性は半透明で、あまりに顔の造作が整い過ぎ、およそ生きている人間には見えなかった。


『そして私はこのグラス・ヘキサゴンを管理運営する管理AIのクレアです。以後よろしくお願いします』

 そう言って自称管理AIのクレアは、一樹に向かい深々と頭を下げる。

 この場合、普通の人間なら他の人間に対しては尻を向けたことになるが、怪訝な顔をしている人間は1人もない。他はまだしも、好色な寛人あたりがされれば一樹には確実にわかる。

 おそらく、何か特別な技術でそれぞれにお辞儀しているように見えているのだろう。そうでなければ、この状況の説明がつかない。

 すごい技術だなと一樹は内心感心した。


『これから私の口から皆さんの紹介を始めます。最初に、今灯りが灯っている部屋が元3-Aの瀬尾一樹さん』


 クレアがそう言うと、他の部屋は暗くなり一樹の部屋にだけ灯りが灯る。

 こんな事も出来るのかと、一樹は素直に感心した。


『瀬尾一樹さんの部屋から時計回りにご紹介します、元3-A学級委員長の中野春香さん』


 次に春香の部屋が灯り、一樹の部屋は暗くなった。

 逆の立場になると、明るい部屋の人物が見えやすくなっていることに気付く。


『元3-Cの小泉えりなさん』


 次はゴシックロリータをイメージさせる女性の部屋だ。

 一樹は改めて名前を聞いて、「そういえばそんな子がいたような……」と、当時のえりなを思い出す。

 あそこまで目立つ存在なのに覚えていないのは、不思議だった。

 おそらくすぐに学校に来なくなったためだろう。見た目のインパクトがどれほど強くても、話した回数が少ない人間は忘れがちだ。

 一樹がそんなことを考えている間に、説明は続く。


『元3-Aの納屋美里さん』


 暗闇に浮かび上がった美里は、本当に女神のようだった。

 けれど、今の一樹は純粋に彼女の美貌を褒め称える気になどなれなかった……。


『元3-Eの室伏タイガさん』


 最後に黒人の男性の説明をする。完全な外国人だと思っていたらハーフだったらしい。

 そしてE組と言うことはスポーツ推薦組なのだろう。


 孝明台高校は県内でも有数の進学校であるが、スポーツ推薦もあり、彼らは必ずE組に編入され、それは卒業まで変わらなかった。

 社交的な一樹でも、さすがに普段接点のないスポーツ推薦組にはほとんど知り合いはいない。


 タイガは明るい性格なのか、自分の部屋が明るくなるのと同時に上着を脱ぎ、ボディビルダーのようなポーズを取る。

 女性陣は全く反応が無かったが、寛人だけ盛り上がっているのを見ると、ひょっとしたら知り合いなのかもしれない。


 ちなみに現在男性女性問わず、病院服を着ている。

 一樹もパンツ履いているので下は間違いないが、女性陣は(ブラジャー)もしているのか真っ当な成人男性として、かなり気になった。

 寛人あたりなら本人の前ではっきりと「今ノーブラ?」と聞いただろうが。


『元3-Cの橋本寛人さん』


 最後に寛人が紹介され、女性陣に向けてウインクをする。 

 まるでホストだなと、一樹は苦笑した。


『以上が今回のグラス・ヘキサゴンに参加する皆様です。グラス・ヘキサゴンの目的は、短期間の内に相互理解を深め信頼関係を築くことにあります。皆さんは突然この施設に放り込まれ、不安を感じているかもしれません。しかし、ここではリハビリを終えたばかりの皆さんに肉体的な強制をすることは一切ありません。ただ話し合い、決断することでお互いの絆を深めていただきます』

「・・・・・・」


 目的は一樹にも理解出来た。

 だがその手段が皆目見当も付かなかった。

 こんな部屋でどうやって話し合いをするというのか。

 お互いが孤立し、さらに特殊な防音ガラスで遮断され、声さえ届かないというのに。隣の部屋で口を動かしている寛人の声が全く聞こえず、一樹の声も全く届いていない。


『ではなぜこのような設備を作ったのか説明いたします。現代社会において相互理解を最も妨げるもの、それは意志無き同調です。多くの現代人は見えない()()に流され、思ってもいない意見に賛同し、それを自分の意思だと思い込むケースが多々あります。また極度のスマートホン依存により、文字でしか相手の感情が判断できず軋轢が生じてしまうケースもあります。これを防ぐために、まず皆様の通信手段を奪い、個別の部屋に隔離しました』


「なるほど……」

 いつものように一樹は素直に感心した。

 その方法によりどこまで効果があるかは分からないが、その効果を期待して実際にこの施設を完成させたのだから、やはりそれは素晴らしいことなのだろう。

 逆説的にそう思えた。


『ただし、このままでは完全な隔絶になり、話し合いはできません。そこで皆様、テーブルに注目してください』


 クレアがそう言うと、テーブルの一部が開き、そこからプラスチックの四角い何かがせりあがってくる。

 一樹は反射的にそれを手に取った。

 それにはボタンが6つ付いており、そのボタンごとに名前が振られている。

 ただ一樹自身の名前はなく、代わりにクレアの名前があった。


『それはトランシーバーといって、一対一での会話通信に用います。名前の書かれたボタンを押すと、その人に電話のように繋がります。ただし、受信した相手が送信者のボタンを押さなければ、通話は出来ません。なお複数から通信が入ってきた場合は、通信を入れてきた人のボタンすべてが光りますが、会話できるのは1人だけで、その人のボタンを押します。もちろん誰の通信も出ないという選択もできます。またクレアと書かれたボタンは、この後説明する作業に使用します。このトランシーバーを用いることにより、お互いの姿が見え、かつ周囲の雑音が届かず、人はより相手を慮りながら率直な話が出来るようになると考えられます。またたとえ口論に発展しても、相手が絶対に手が出せない状況は安心感を与え、男女の立場も対等にさせ、より率直に話し合いができると考えられています』


「率直……」

 たまに空気が読めないと言われる一樹は、別にこんな物が無くとも素直に話せる自信はあった。同調圧力も受けた記憶がない。というより気づけない。

 とにかくあまり誇れる物が無い一樹も、自己の確立だけは自信を持っていた。

 むしろ子のトランシーバーはただの内緒話専用機にしか見えず、陰口が増えるように思えてならなかった。


 それは一樹以外の参加者にとっても同じらしく、同級生達はあまり感心しているようには見えない。寛人など大仰な仕草で鼻で笑っていた。

 唯一、春香だけは真剣な表情でトランシーバーを見ていたが……。


『以上が皆さんの置かれている状況についての説明です。そしてこれから今回のミッションを皆さんにお伝えします。今回のミッションは簡易版で、終了時間は最短で数分、長くても本日中を予定しています』


 聞いていて随分短いなと、一樹は思った。

 こんな手の込んだ施設を使うぐらいだから、てっきり泊まりがけでの作業をさせられるのではと思っていた。


 ――と思っていると、いきなりトランシーバーが光る。

 よく見ると光っているのは寛人のボタンだった。

 一樹はとりあえずそのボタンを押してみる。


【おー繋がった。なんだろ、スマホと違って新鮮だな】

 暢気な寛人の声がノイズ混じりに聞こえる。

 懐かしいような初めて聞くような親友の声だった。

 実際の人間の方も見てみると、声以上に暢気そうにトランシーバーを耳に当て、手を振っていた。

 一樹は苦笑しながら手を振り返す。


【なんなんだろうな、これ?】

「さあな。頭の良い人間の考えることは良くわかんねえ」

【同感――】

 その会話を最後に、強制的にトランシーバーが切られる。

 その理由は切った本人の口から説明された。


『なおトランシーバーは、聞き間違いや聞き逃し防止の観点から、私が話しているときとこれから言う作業をしているときは、強制的に切断されます。その点はご了承下さい』


「だとさ」

 どこにも繋がっていないトランシーバーに向かって、一樹は皮肉交じりに言った。

 寛人の方もハリウッド映画の役者のような大仰なお手上げのポーズをする。


『それでは作業、およびミッションについて説明します。今から数分後、参加者の皆様には投票をしていただきます。投票の内容はただ一点、この施設から出るか出ないか、それだけです。投票は投票時間開始後トランシーバーで私のボタンを押し、口頭で行っていただきます。投票の結果、全員が出るを選んだ場合、皆さんの絆は充分と判断しミッションは終了、グラス・ヘキサゴンから退去していただきます。ただし1人でも出ないを選んだ場合は、再び投票をしてもらいます』


「投票って……」

 いきなり言われても困る。

 一樹にはまだ出ていいのか出てはいけないのか、その判断が全く付いていない。

 何よりこの部屋に来てから10分も経っていない上、話したのは寛人だけで信頼関係が築けるたとは到底思えない。

 たとえ数分の猶予があったとしても、その程度ではなにもできないだろう。


 いったいどうすればいいのか。


 そんな一樹を取り残すように、クレアは一方的に話を続ける。


『なお、今回の投票で決まらなかった場合、次回からは投票前にある作業していただきます。それで皆さん投票までのわずかな間、じっくりとご相談して下さい』


 その言葉を最後に、クレアの姿が消えた。


 クレアが消えるのと同時に、早速同級生達の相談が始まる。

 寛人あたりがまた自分に連絡するだろうなと思ったが、どうやら別の人間と通信しているようだった。

 おそらく相手はタイガだろう。

 視線を見れば、誰にでもわかることだ。

 他に美里は春香と通信し、唯一えりなだけが1人じっとしていた。


 一樹はこのまま同じように待っているのもつまらないので、ほぼ初対面であるはずのえりなにとりあえず連絡を入れてみる。


 数秒後、ガラス越しのえりなが少し驚きながら通話に出た。


【もしもし……でいいのかな】

 おそらく初めて聞くであろうえりなの声は、見た目と違い大分落ち着いていた。というより少ししゃがれていた。外見から甲高い声をしていると想像していた一樹は、少し面を喰らう。


「えっと、初めまして、で良いのかな……」

【……瀬尾君がそう思うならそれで】

「うーん、そりゃ同じ学校にたんだから、会ったことはあるよね。ごめん」

【え、あ、別にそんなつもりで言ったんじゃ! その、私が一方的に知ってるだけだし……。あ、で、でも、その、ストーカーとかじゃなくて、以前話したことがあって――!】

「ごめん、きれいさっぱり忘れてました」

【え、あ……】

 ガラス越しのえりながひどく残念そうな顔をする。

 一樹は本当に申し訳ない気持ちになった。


【う、ううん、話したといってもせいぜい二言三言だったから……。その、私高校時代友達が少なくて、その程度のことでも印象に残ってて】

「そうだったんか。それで、小泉さんはどうする?」

【どうって?】

「いや、出るかどうかって話。俺には全然判断がつかなくてさ」

【……私は深く考えずに瀬尾君の好きにしたら良いと思う】

「俺の?」

【・・・・・・】

 ガラス越しにえりなは頷いた。


【その、判断材料がないなら直感だけでもいいと思う。多分ここはそういう所だから】

「直感かあ……」

 一樹はあらぬ方向を見ながら、その直感という物を探してみる。

 それは瞬きするまもなくすぐに見つかった。


「そうだな、分かった、それに従ってみるよ。ありがと」

【え、ああ、ううん、どういたしまして】

「あれだね、小泉さんって見た目と違って結構、その、なんというか思慮深いね。あ、見た目と違っては失礼か」

【ううん、そんなことはないよ。自分がどう見られてるかなんて、いやというほど理解させられてきたし】

 そう言いながら、えりなは縦ロールの髪を弄る。

 そんな彼女の行動は、一樹の目にはひどく自信なさげに見えた。


 あまり良い傾向ではないな。

 一樹はそう思ったが、必要以上にプライバシーに首を突っ込んでいる気がして言うのはやめた。

 せめてもう少し話して、お互いのことを理解する必要がある。

 空気が読めないのと、相手の気持ちが量れないのはまた別問題だ。


「ああ、こんな事なら学校が埋る前に、もっと小泉さんと話しておけば良かったかな」

【そんな。私の話なんてマニアックだし、浮き世離れしてるし、きっと合わないよ】

「いやそうでもないよ。うちって本屋で、子供の頃から結構いろんな本読んでて、雑学知識豊富というか浅く広く知ってるから。まあそれが学校の成績には全く反映されてないんだけどね」

【ふふ……】

 えりなが口元に手を当てて笑う。

 笑い顔は歳に合わず可愛いし、病院着から覗く胸は大きいし、多分普通の格好をしてたら美里の次にモてたんだろうなあと、ガラス越しのえりなを見て一樹は思った。


 その時、視界の端に美里の姿が映る。

 禄に話も聞かずに振った彼女が、なぜか不快そうな表情をしている気がした。


 それからえりなとの通信を終え、同じく通話が終わった寛人のトランシーバーにも連絡を入れようとしたとき、チャイムが鳴る。

 その音は学校のチャイムそのものだった。

 そして再びクレアが中央の部屋に姿を見せ、言った。


『それでは口述投票を始めます。みなさん私のボタンを押して、その意志を伝えて下さい。また、投票に関しては一斉に繋げても全て一変に受理します。それでは投票してください』


「・・・・・・」


 一樹はクレアが口を閉じるのと同時にボタンを押した。


 このグラス・ヘキサゴンというシステムは、なかなか興味深い。門外漢である一樹にはいったいどこまで効果があるか分からないが、もしモニターがあったら応募したくなるぐらい惹かれるものがある。


 だが、10年後の世界はそれ以上に興味が尽きない。


 そして一樹は言った――。



                   ※見取図挿絵(By みてみん)

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