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聖騎士ギルダラ

 聖騎士ギルダラが迫る。

 不気味な構え、カッカッカッと地面を打ち付ける切っ先が死のカウントダウンのように耳障りに響く。


 額を嫌な汗が伝う。

 このまま、まともにやりあってしまったら負ける。信じられない事だが、このギルダラという聖騎士の力は底知れない。たった一太刀で分かってしまった事実。あの剣速、あの剣力、これを相手に打ち合い続ければ、俺はそう遠くない内に疲弊して切り殺されるだろう。


 だが、俺には奥の手として、魔法がある。

 俺は、まだこの戦いでは一度も魔法を見せてはいない。恐らくギルダラは、俺が魔法攻撃を使うとは思っていない。警戒しているのは剣での攻撃のみだろう。


 そこに勝機がある。

 タネ明かしは一度きり。ギルダラは強い、俺が魔法を使うと分かれば、あっという間に対策をとった動きを見せる可能性が高い。魔法を使っても確実に仕留められるとは限らない。一瞬の隙を作り出す程度が関の山かもしれないが、そこに賭けるしかない。


 床を打ち付ける音が途絶えた瞬間、ギルダラが動く。


 ヒュッ!


 右から横なぎの一撃。これを後ろに下がって避ける。

 剣が風を切る轟音が響く。まさにフルスイングだ。俺は空振りするギルダラの隙をつこうと、足に力を込めるが、ギルダラの剣は振りぬかれることなく、ピタリと切っ先が俺を向いた所で止まる。何という筋力……。


 シュッ!


 鋭い突きが、俺の頬をかすめる。

 黒い刀身を横目に、俺はギルダラに迫る。懐に潜り込んだ。


 カウンターで突きを繰り出す。

 攻撃して伸びきった奴の身体は隙だらけ、魔法など必要ない。この一撃でケリをつけてや―――


「なっ……!?」


 ギルダラの身体が柳のようにしなって、突きを躱す。

 まるで獣、人の動きではない。傾いた身体はバランスを崩すことなく、半回転。ギルダラの突き放った長い手は、回転する身体に巻き込まれるようにして軌道を描く。それは斬撃となって、空振りした俺の背後に迫る。


「頂きます――!!」


 早い、ヤバイ、不味い!

 咄嗟にギルダラの服を引っ掴んで、倒れこむ。

 もともときわどい姿勢、そこに服を掴まれてはギルダラもさすがにバランスを崩す。死神の一撃は勢いを失って空を舞い、俺とギルダラは地面に倒れこんだ。


 即座に受け身をとり、攻撃の機会を伺う。

 だが、不意打ちだったはずでありながら、ギルダラもしっかり受け身を取って既に臨戦態勢だった。お互いの距離は再び保たれて、戦況は白紙となる。


「獲ったと思ったのですが……。」


 ギルダラは倒れた時に口内を切ったのだろう。親指で血を拭って、不快そうにつぶやいた。


 危なかった。

 対処を間違えていれば、間違いなく殺されていた。最初のフルスイングが隙だらけに見えて、誘いに乗ってしまったが故のピンチだった。ギルダラの動きは常識を超えている、常人の隙が隙となりえていない。やはり、当初の予定通りに、魔法を使って仕留めるほかない。


 問題はどうやるかだ。

 おそらく放出系の魔法で攻撃すれば、即座に見切られてしまう。ついでに言えば、高威力の放出系魔法は発動までに時間がかかる。難度の高い魔法も俺なら数秒で発動させられるが、ギルダラ相手ではその数秒が命取りとなるだろう。


 そう言えば、さっき俺はギルダラの服を掴むことが出来た事を思い出す。

 そして、相手の身体に触れるだけで、相手を吹き飛ばす必殺魔法の存在も。


 バーストバレット。

 敵の身体に魔力を叩きつけ、相手を内部から爆発させるという魔法。もとは、武人が気を練った一撃で、相手の内部を破壊するという技から着想を得たものだと聞く。早い話、魔術師が魔力を使って同じことをしているだけだ。だが、魔力は様々なものに変質する変幻自在な力故に、その威力は絶大。


 有用な技でありながら、知られていない魔法。

 おそらく、単純に難易度が高く、使い手が少ないことが理由だろう。武闘派ではない魔術師にとって敵に触れるという条件は非常に難易度が高い。それでいて、練りこんだ魔法を相手に叩きつけるというのは、高い集中力を必要とする技術で、敵と前線で戦いながら成しえるには相当の練度が必要になる。結果として、使い手が少ない。


 知られていない、使い手が少ない、それは最高の隠れ蓑だ。

 俺は剣士であるが、魔術師でもある。バーストバレットは敵が爆散して、飛沫が降り注ぐので好きな術ではないが、不得手な術ではない。充分に使いこなせるだけの力は持っている。


 触れれば発動させられるという点が秀逸だな。

 おそらく、剣戟の合間に体術を入れれば、そのうちのいくつかをギルダラは素手で受け流すことになるだろう。だが、触った瞬間に奴は爆散する。それでこの勝負は終わりだ。


 ……よし。


「お考えはまとまりましたか?」


 ギルダラが不敵に笑う。

 俺の様子を見て、俺が考えをまとめた事を読み取ったらしい。憎たらしい事に、奴は俺が思案する間、のんびりと構えて様子を伺っていた。その意図は分からないが、完全に舐めきっている。その結果、死ぬことになるとは思ってもいないのだろう。


「ああ、悪いが、お前は死ぬよ。」


「良い顔ですね。貴方は強い、もっとボクを楽しませてくれるのならば、この上ない事です。」


 俺から仕掛ける。

 フェイントをかけて切りつけてみるが、ギルダラは涼しい顔で受け止めた。剣は弾かれ、ギルダラが攻撃に転じる。早く、重く、鋭い攻撃が連続で降り注ぐ。


 キンッキンッガンッキィーーーン!!


 俺は攻めると見せかけて、ほぼ守りに徹している。

 そうすれば、いかにギルダラの攻撃が凄まじくとも、簡単にやられはしない。後は隙を見て、体術を繰り出し、ギルダラに受け流させれば……。


「くっ……」


 だが、隙が無い。

 いや、隙が無いわけではないのだが、ギルダラの攻撃が激しすぎる。とてもではないが、攻撃の一手に出るだけの余裕がない。


 ギルダラの一撃を受ける為に、俺は両手、両足を使って耐え忍んでいる。

 だから、応戦する余裕がないのだ。片手で受ければ剣は力に負けて、身体ごと弾き飛ばされてしまうだろう。片足で受ければ、バランスを崩されて俺が隙をさらしてしまうだろう。


 じゃあ、避けてしまえば良いと思うだろうが、ギルダラの鋭い攻撃はそれを許さない。

 俺がかならず避けられないように攻撃を続けてくる。これはギルダラによって誘導されているのだろうか。このまま行くと疲弊して、そう遠くない内に詰む。


「ほらほらほら―――――! 何か手があるのではなかったのですか!? このままでは、死んでしまいますよ、ハッハッハーッ!」


 くそがっ、調子に乗りやがって。

 ギルダラは楽しそうに、踊るように攻撃を繰り出し続ける。まるで隙だらけだ。撃つたびに隙を見せるギルダラ。そこを攻めたいのだが、俺が体制を整える頃には、既にギルダラが次の一撃を放っている。手が届きそうで届かない絶妙な塩梅にイライラする。しかも、手は痺れてくるし、足腰はガクガクしてきた。


「っるせーな!!」


 溜まらず、後ろに飛んで避ける。

 後退は良い手ではないのは分かるが、これ以上受け続けるのはきつい。


「逃がしませんよ!」


 ギルダラが素早く追従する。

 真っすぐではなく、回り込むようにギルダラが走る。ちゃっかり退路を塞いできやがる。逃げるつもりは無かったが、逃げる選択肢は物理的にとれなくなった。それに、このまま追い込まれれば、背後は壁。そこで俺の命運は尽きる。


 まるでオオカミの様な男だ。

 獰猛でありながら狡猾。したたかに獲物を確実に追い込んでくる。目の前のギルダラは、興奮を隠そうともせずに目を見開いて、薄ら笑いを浮かべている。舌なめずりって感じか。


 もう後がない。

 また剣を受け始めたら、身動きがとれなくなってしまう。

 そうしたら、もう本当に終わる……。


 ここしかない。


 ギルダラのしなやかな体躯から、鋭い一撃が放たれる。

 確実な死への一手。運命に抗う様に、俺は真正面からギルダラの剣に剣をぶつける。

 ギルダラの瞳に勝利の確信が宿り、口角が最大限に吊り上がるのが見える。


 自暴自棄になって、真正面から打ち合ったと思ってるな。このまま、力で押し切って終わりだと思っているな!


 ―――――だがっ!


 カキイイイイーーーーーーンッ!!


「なっにいいいぃ―――ッ!?」


 俺の刀身が輝き、冷気が解き放たれる。

 即座に刀身が凍り付いて巨大な氷塊と貸す。それはギルダラの剣を巻き込み、その腕までもを巻き込んで凍結させた。驚き叫ぶギルダラ。俺は魔法が使えるんだよ!


 ギルダラの動きが止まった。


「死ねえええええっ――――!!」


 右手にありったけの魔力を込めて、バーストバレットを放つ。

 一撃必殺のボディブローが、ギルダラの腹部を間違いなく捉える。爆散して死ね!



 ……ドスン。



「……は?」


 爆発的なエネルギーを秘めた一撃。

 金色に光り輝く拳はギルドラの腹部を間違いなく捉えて、その光を失った。


お読みいただきありがとうございました。

良ければ、ブクマ、評価、感想などよろしくお願いします。


どうぞ引き続きよろしくお願いいたします!



いつも誤字脱字報告ありがとうございます。

ご指摘いただいた箇所、修正させていただきました。

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