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今日はお披露目会だ。

緊張はしているが、それよりも祖父母に会えるのが楽しみだ。


ここ数日は使用人が忙しなく動き回っており、今日は総出で最終準備をしている。


オズワルドもいつもよりもヒラヒラとしたお洋服を着せられ、少し居心地が悪い。


お披露目会はお昼に行われる立食パーティーだ。


オズワルドは最後に会場入りするため見ることはできないが、続々と集まっているらしい。


全員が会場入りしてしばらく。

ついに、開始時間となりお父様が挨拶する。


そして、オズワルドの挨拶だ。

教えて貰った礼儀作法も反復練習の成果により、かなりスムーズに出来るようになった。


決して視線を落とさず堂々と。

動作は焦らず、ゆっくりと優雅に。

喋るときは聞き取りやすい音量と速度を忘れずに。


言葉で説明するのは簡単だが、実行するのは難しい。

しかし、オズワルドは教えられた通りに挨拶を済ませた。


会場からは何処からともなく「ほぅ」と感嘆の息がもれる。


先ずはオズワルドの見た目の美しさに。

そして、5歳とは思えない立ち振舞いに惹き付けられてしまうのだ。



オズワルドは挨拶を終えると両親の横に付き、個別の挨拶を始める。


先ずは前国王夫妻と第一王子だ。

事前に聞いていたとはいえ、初っ端からの大物に緊張する。

しかし、顔には出さない。


「初めまして。

ジャスティス・イシュミラだ。

気軽にお祖父様と呼んでくれ。」


「妻のロゼッタよ。

私もお祖母様と呼んでね。」


「カーティス・イシュミラだ。


ふん。

お前、女みたいなやつだな。

まぁ、いい。

俺は唯一の従兄弟だろ?

仲良くしてやる。」


前国王夫妻からの挨拶までは普通に進んだものの、カーティス殿下の言葉で周りに少し緊張が走る。


チラリとお父様の顔を伺うと少し困ったような顔になっていた。

といっても、社交の場で表情を変えるのは良くないので傍目からはわからない程度だが。


何だか偉そうな言い方だが、こちとら前世ではおばちゃんだったのだ。

小さい子の虚勢なんて微笑ましいぐらいにしか思わない。


『ありがとうございます。

お祖父様、お祖母様。


そして、カーティス殿下、よろしくお願いします。

私のことはオズとでも呼んで下さい。』


笑顔でそう応えると、周りの空間が緩む。

殿下は少し口角を上げて続ける。


「そうか!

俺のこともカートでいいぞ!


同い年だが俺の方が少し早く産まれているからな。

オズは弟みたいなものだから特別だ!」


俺様だが可愛いではないか。

よく見ると少し頬が赤くなっている。


『ふふ。

ありがとうございます、カート様』


カーティス殿下は少しムッとした顔になる。


「様もいらない!

俺たちは同じ瞳を持っているし、顔も少し似ているから本当に兄弟みたいだろ。

兄弟に様を付けるのはおかしい!」


確かにオズワルドとカートは似ている。

カートの髪は見事な金髪で違うものの、2人とも瞳の奥が光加減で別色に瞬く淡いグリーンの瞳だ。

恐らくカートは父親似なのだろう。

お母様に似たオズワルドと似ている部分が多く、本物の兄弟たちより似ている。


まぁ、カートはオズワルドとは違い、女の子に間違われることのないような顔付きではあるが。


『よろしく、カート』


その言葉に満足に頷くと次の人へと譲ってくれた。

俺様だがさすが王子。

所作は綺麗だし、どこか人を惹き付ける魅力を持っていた。


次に前バッハシュタイン公爵夫妻へと挨拶を移す。

前バッハシュタイン公爵はお父様とそっくりだった。

前国王夫妻もそうだったが、前バッハシュタイン公爵夫妻も若く、お父様と並ぶと兄弟にしか見えない。


こちらもお祖父様、お祖母様と呼ぶように言われ、初めて会ったというのに可愛がられた。


そのあとも続々と来る人たちに挨拶を済ませる。

全てが終わったときにはクタクタだったが、勿論表情には出さない。




お披露目会はそんなに長い時間は開かない。

解散してからは夕食まで家族に可愛がられる。


因みに、前バッハシュタイン公爵夫妻は今日と明日泊まって明後日の朝に領地へ向けて出発する予定だ。

現在は旅の疲れを癒すために客室で休んでいる。


今日はお父様が抱っこして離してくれない。

もう5歳だというのに。


疲れているので反抗する気にもならない。


それにお父様に抱っこされるのは好きだ。

がっしりと逞しい身体に包まれると安心できる。

守ってくれる存在だとわかっているからだ。


「オズワルド、よく頑張ったな。

とてもしっかり挨拶できていたぞ。

お父様は誇りに思うよ。」


そう言って、額にキスを落としてくれる。


そのあとも家族からの称賛を受けるが、お父様の腕のなかで緊張が抜け、そのまま寝てしまった。


お昼寝をするのは久しぶりだ。

目を覚ますと自分の部屋のベッドに寝かされていた。

横にはエド兄様。

けれど別に驚かない。

いつの間にか家族の誰かが横に居るのはままあることだ。


ニコニコの笑顔でこちらを見ているエド兄様と目が合う。


「おはよう、オズ。

今日はカッコ良かったよ。

今までの誕生日は学園で夕方にしか帰ってこれなかったからね。

今日はオズと1日一緒に居れて嬉しいよ。


大好きだよ、オズ。」


そう言いながら沢山のキスを降らせてくる。


『ふふ。

くすぐったいよ、エド兄様。

私もエド兄様が大好きです。』


その途端、ギュッと少し強めに抱擁される。

そして、オズワルドの頭にスリスリと顔を擦り付ける。


「はぁ。可愛いエド。

エドは匂いもたまらないな。

可愛すぎる。」


兄様たちの愛は重いが、もう慣れてしまった。

したいようにさせる。



しばらくし、夕食ができたとのことでエド兄様に抱っこされて食堂に向かう。

断ったがしょんぼり顔の兄様には勝てなかった。


夕方には前バッハシュタイン公爵夫妻も居て領地の話をしてくれた。

領都はとても発展しているし、自然も多い。

オズワルドの好きな薬草もあるから遊びにおいでと誘われた。


近いうちに行くことを約束する。

薬草!楽しみだ!


そして、家族からのプレゼントはやっぱり女の子のお洋服。

お祖母様が大絶賛。

絵姿を見ていたので、早く実物を見たかったんだと。

お祖父様も多くは喋らないが、表情を見れば喜んでいることがわかる。


明日は前バッハシュタイン公爵夫妻と一緒に絵を描いてもらうらしい。



前バッハシュタイン公爵夫妻からのプレゼントもあった。

領地から持ってきてくれた薬草だ!


しかも土付きで一つ一つ鉢植えに植えた状態で持ってきてくれた。

オズワルドの好みはバッチリリサーチされていたらしい。


更に、前国王夫妻から研究室をプレゼントされた。

邸宅から少し離れたところに建設してくれたらしい。

しかも、薬草を育てるための温室付き。


さすが前国王夫妻。

規模が違う。


ちょっと引きながらも素直に受けとる。

というか、建設済みだから受け取らざるをえない。



翌日は絵姿を描いてもらい、午後には前バッハシュタイン公爵夫妻とお茶をしてのんびり過ごす。

さらに翌日の朝に予定通り前バッハシュタイン公爵夫妻は旅立って行った。



それからの日々は剣術の稽古が始まり、研究室で化粧水の研究を始めた。

今までは邸宅の一室を使って細々と研究していたが、研究室では色々な器具も揃えてあり、研究

が捗る!

毎日が楽しい!


勿論、その他の日課も忘れずにこなしている。

ヒスイともかなり連携が取れるようになった。


あと、たまにカートが訪ねてくる。

手紙も届く。

意外にマメだ。


そうそう。

お母様からカートについて教えてもらった。


お母様のお兄様である元国王は年回りの合う高位貴族のご令嬢がおらず、結婚するのが遅かった。

結婚してからも中々子宝に恵まれず、諦めムードで側妃を娶る話も出ていたとか。


そんな中、待望の懐妊。

それはもう国を挙げて喜んだ。

そして、周りから甘やかされ俺様になったらしい。


テンプレか?

しかし、救いなのが性格こそ俺様なものの、聡明で努力することが出来るということだ。


まだ短い付き合いだが、俺様だが甘えん坊で可愛い。

憎めない性格だ。


会いに来るときは何かしらのお土産を持ってくる。

そして、ソワソワと褒められるのを待っている。

若干不安そうにしながら。


喜んでお礼を言うと

「俺はセンスがいいからな!

喜ぶのは当然だ!」

と言いながらも、照れ顔になるのだ。

これを可愛いと言わずして何と言う。


確かにセンスがいい。

あまり高価な物ではなく、お菓子や花束、王宮にある貸出本などだ。


一度、少し高価な物を持ってきたときにやんわりお断りした。

それからは持ってこなくなったし、お菓子や花もオズワルドが好きな物を選んでくれているようだ。


そんなわけで順調に友情を築いている。




お披露目会からもうすぐで1ヶ月。

今日は両親と一緒に教会へ出掛ける。

初めての外出だ。


魔馬に引かれる馬車に乗り込む。

かなり揺れることを覚悟していたが、全くといっていいほど揺れない。

ゆっくり走るとはいえ、木と金属で出来た馬車は結構揺れるものだと思っていた。


お父様が優しく教えてくれた。

この馬車は魔道具なんだそうだ。

驚くほど揺れがない時点でそうかなとは思ったが、やはりそうだった。


ファンタジー、便利。



さて、今日の目的である教会で何をするのか。

それは国民登録である。

イシュミラ王国では5歳から6歳の間で教会へ国民登録をするのが義務である。


この登録がなければまともな生活が出来ないので貴族も平民も必ず登録する。


貴族であれば魔力で、平民であれば血で登録魔石という小さな魔石のような魔道具に魔力を登録する。


何故平民は血なのかというと、登録できる程の魔力を放出できないからである。

血は魔力と深い繋がりがあり、魔力は血に含まれ身体を廻っていると云われている。


自分で放出できないので、血に含まれる魔力を使うのだ。


そして、魔力を登録した登録魔石を使って対になるカードが作られる。


このカードが国民カードと云われ、身分証になるのだ。

このカードは優れもので、身体の微量な魔力に反応し、本人でしか表示することができない。

なので偽装は不可能である。


そして、亡くなった場合も必ず申告が必要だ。

基本的に教会で葬儀が行われるため、その時に本人であることを確認する。


本人の確認がとれれば登録魔石は破棄され、国民カードは表示されなくなり、教会に回収される。


もし、教会に来れない場合は教会から人を派遣し、確認を取る。


身内がおらず孤独死した場合は見つけた人が申告する。

身内以外の申告の場合、申告者に多少の金銭が渡されるので放置されることはあまりない。


それでも放置されるものは見回りの騎士が回収する。


金銭欲しさに身内が居るのにも関わらず身内以外の申告があるかというと、滅多にない。

何故なら葬儀が参列者のない簡易葬儀になり、墓もそういった者専用区画になるからだ。

そして、見つかった場合は罰金がある。


況してや、殺人してまで申告し、金銭を得ようという者は先ずいない。

見付かれば犯罪奴隷になる。

犯罪奴隷になれば一生重労働だ。

割りに合わなすぎる。


この国民カードは街の出入りの際は勿論、学園や就職、納税のときなどにも使われる。

カードが使われれば自動的に記録され、5年以上カードの動きがなければ登録は抹消される。

もし、やむを得ない事情があれば事前に申請しておかなければならない。


もし紛失してしまった場合は速やかに再発行手続きを行わなければならず、再発行は有料でそれなりに高いらしい。


ここまでして国民を管理するのは移民、難民対策だ。


イシュミラ王国は大国でとても豊かであり安定している。

そのため、移民、難民が多い。

しかし、全てを受け入れることは不可能。

先ずは自国民を守らなければならない。


移民、難民がイシュミラ国民となるためにはこの国民カードを発行しなければならないが、人数制限があり、更に登録料が必要だ。


国民カードがなければまともな仕事もできない。

冒険者か低賃金の日雇いをするかだ。


国民カードが無くても街には入れる。

お金を払い、仮カードを発行してもらう。

街を出るときに仮カードは回収され、お金は返ってくる。


しかし、この仮カードでは基本的にその日しか滞在できない。

日を跨ぐと罰金だ。


数日滞在する場合は申請が必要だ。

移民、難民には先ず許可されない。


こうして、イシュミラ王国は国民を守っているのだ。



貴族であればこの国民登録だけで終わりになることが殆どだ。


平民は魔力測定も行う。

ここで高い魔力持ちだと判れば、貴族が後ろ楯についたり、貴族の養子になったりして国立学園へ通うことになる。


貴族も希望があれば魔力測定を行う。

貴族の場合はより良い縁談先を探すためだが、魔力は成長と共に増えるので、5歳の時点で測定をする事はあまりない。

因みに貴族は有料だ。



オズワルドも魔力測定することなく、国民カードを発行した。

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