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4歳になった。

誕生日はいつも通りだ。


礼儀作法の訓練が本格的に始まった。


貴族は5歳になるとお披露目会というものを開く。

親族や親しい友人を招き、“我が家にはこんな子どもがいるんですよ”とお披露目するのだ。


このお披露目会で初めて世間と交流する。

それまでは基本的に外に出さない。


そしてこのお披露目会では如何に優秀かというのをアピールする場であるため、親は厳しく礼儀作法を教える。


バッハシュタイン家は公爵家なので、集まる人たちも当然上位貴族が多い。

上位になるほど見る目は厳しくなる。


それだけではない。

バッハシュタイン家が筆頭貴族でありながら、中央の政に縛られず自由に振る舞えるのはそれだけの実力があるからだ。


そのためには礼儀作法は完璧にこなさなければならないのである。


この話を聞いて少し緊張していた。

前世ではただの一般庶民だった自分にできるだろうか?


しかし、思ったよりも容易にできた。

乗馬により元々姿勢は綺麗だし、前世でのバレエや社交ダンスに通じるものがある。

そして、この身体は思った通りに動くし、知識もすいすい吸収していく。


やはりチートなのではないだろうか?





乗馬、体力強化、礼儀作法、座学、魔法の勉強を日々こなしながらも、とある研究を始めた。


基礎化粧品やヘアケア用品だ。


この世界は魔法があるので、地球より発達している部分もあれば、未発達の部分もある。


魔法は便利だ。

清潔を保つ下級のクリーン魔法は比較的多くの人が使える。

侍女や侍従、騎士にとっては必須魔法でもある。


このクリーン魔法は中々の優れもので汚れは落としてくれるが必要な油分はそのままだ。


因みに頑固な汚れ、血や食べこぼしなどは下級のクリーン魔法では落ちない。

中級、場合によっては上級クリーン魔法が必要だが使える者は滅多にいない。

余程大切な物でなければ買い替える。


というわけで、髪や肌はそこそこ健康に保たれる。

しかし、その弊害として基礎化粧品やヘアケア用品はあまり発達していない。

香油があるくらいだ。


そこそこ健康に保たれたとしても、日々の生活で受けるダメージは蓄積され徐々に傷んでいく。


元、女としては気になる。

なら作ってしまえばいいのだ!


前世では好奇心のままに手作り石鹸やら手作り化粧水やらを作っていたし、薬の研究をしていたのだ。

分野は違えど、薬と化粧水の製作は似たような事が多い。


化粧水などはまだこの世界での知識が足りないため、比較的簡単に出来そうなヘアケア用品を作ることにした。


材料になりそうな物を準備し、どれをどのくらいの分量で組み合わせたらいいか試すのだ。

地道な作業だがこういうのは好きだ。

久しぶりの研究に胸がときめく。


数ヶ月の試行錯誤の末、数種類のトリートメントが完成した。

使い方はそのままだ。

お風呂の際に髪に塗り、しっかりとすすげば良い。

すすぎが甘いとベタつくので要注意だ。


因みにお風呂文化はある。

貴族は身体を解すためや、美容のために利用する。

男性や下位貴族はクリーン魔法で済ませることも多いが...


平民はクリーン魔法が使えない者が多い。

なので街人は大衆浴場を利用する。

クリーン魔法が使えるのはお金を持った一部の有力者や冒険者などだ。



早速お母様へプレゼントする。


『お母さま、今よろしいですか?』


お母様は笑みを浮かべ応えてくれる。


「勿論よ。

どうしたのかしら?」


『お母さまのために、これを作ってみたのです。』


トリートメントを手渡すと不思議そうな顔で見ているので、使い方を説明する。

肌に合わない場合は~の注意点も忘れずに伝え、感想を教えてくれるようお願いする。



翌日、朝食の席で興奮気味にお母様が話し掛けてきた。


「オズちゃん!

あれはすごいわ!

トリートメントといったかしら?

早速昨日使ってみたの。

そしたら、髪がサラサラのツヤツヤよ。

オズちゃんには色んな才能があるわね。」


そんなお母様を見て、お父様も会話に加わる。


「ソフィ、トリートメントとは何だい?」


「昨日オズちゃんにプレゼントされたの。

髪を美しくする物でオズちゃんが創り出したのよ。」


「オズからのプレゼントだって?

それは羨ましい。


確かにいつも美しい君が今日は更に輝いて見えるね。」


「えぇ。

これは本当に素晴らしいわ!

社交界でも注目されると思うわ。」


「何?

そんなにすごいのか。


それなら余計な軋みを生み出さないために商品として売り出した方がいいかもしれんな。」


お父様から幾つかの質問を受け、そのうち類似品が出るかもしれないということで、オズワルドの紋章を作り差別化をはかるそうだ。


この件はお父様が動き、オズワルドは表に出ることはないので安心するよう言われる。


売上はバッハシュタイン家に納めてくれとお願いしたが、これはオズワルドが創り出したので売上もオズワルドのものだと押しきられた。


まぁ、オズワルドは五男なのでいずれ家を出ないといけない。

資金はあっても困らないだろうと納得する。



トリートメントは一気に広まり、女性を中心に売れに売れまくった。

かなり強気な値段設定なのだが、女性の美に対する執着はすごい。

値段なんか関係ないとばかりに売れる。


しかし、オズワルドは社交に出ないし、管理はお父様に任せているので気付くことはなかった。


因みに、オズワルドは毎日お風呂に入るし、トリートメントもする。

前世の記憶があるのでお風呂は譲れない。


艶が増すオズワルドの髪に家族も使用人もうっとりするのだった。



それからもオズワルドの研究は続く。

トリートメントの改良や種類を増やす。


化粧水が作れないかの勉強も忘れない。

4歳とは思えない多忙な日々が続くが、オズワルドは充実感を覚えていた。




そんな多忙な日々を過ごすこと数ヶ月。

4歳も残すこと3ヶ月あまり。



エド兄様は王国学園一般部を卒業した。

一般部の卒業は貴族の成人を表し、社交界デビューになるのだ。


無事、卒業&成人式を終えたエド兄様が帰ってきた。

我が家でもお祝いをする。


オズワルドは綺麗にラッピングしてもらったプレゼントを持ってエド兄様に渡す。


『エド兄様、おめでとうございます。

これ、私が作ったのです。

よかったら使って下さい。』


エド兄様は花が咲いたような笑顔を見せてくれる。


「嬉しいよ。

開けてもいいかい?」


『はい。

その、高価かなものではないですが...』


「値段なんて関係ないよ。

オズからのプレゼントというのが重要なんだ!」


包みを開くと出てきたのは押し花の栞だ。

庭の花をもらい、丁寧に押し花にする。

それを魔法ガラスの一種である弾力のあるガラスの中に金細工とともに閉じ込めたものだ。


トリートメントで得たお金で加工してもらった。


魔法ガラスとは工程の途中で魔法を使って作られるもので、魔道具とは異なる。

地球のプラスチックのような感じだ。


エド兄様がオズワルドを抱き上げクルクルと回ると、ギュッと抱きしめてきた。


「ありがとう!

今まで貰ったどのプレゼントよりも嬉しいよ!」


そして沢山のキスが降ってくる。


喜んでくれたようで何よりだ。



エド兄様は高等部魔道具科へ進学する。

しばらくの休日はオズワルドを構い倒すのに使い、名残惜しそうに学園へと戻って行った。





エド兄様が学園へと旅立って数日。

アル兄様から女性を紹介された。


「オズ、こちらアリシア嬢。

婚約者で来年結婚する予定だ。」


アル兄様に続きアリシア嬢も丁寧な所作で挨拶する。

「初めまして。

アリシア・メイフィールドと申します。

よろしくお願いします。」


オズワルドも教わった礼儀作法を思いだしながら挨拶を返す。


『初めまして。

オズワルド・バッハシュタインと申します。


兄ばかりだったので義姉が出来るのがとても嬉しいです。』



「結婚したら離れで暮らすことになる。

時間が許す限りオズに会いに来るから心配しないでおくれ。」


そんなアル兄様の言葉に気を悪くしてないかアリシア嬢を見る。

しかし、アリシア嬢は頬を染めてオズワルドを見ている。


「アルバート様からオズワルド様は天使だと聞かされていたの。

会えるのが楽しみで、楽しみで!


本当に天使は存在するのね。」


オズワルドは何と返していいかわからず、曖昧に微笑んでおく。



アリシア嬢はおっとりとした感じの可愛らしい方だった。

メイフィールド侯爵の長女で18歳。

もうすぐで国立学園高等部淑女科を卒業し、籍を入れることになる。

彼女が卒業するまで待っていたようだ。


アル兄様とは10歳以上離れているが特に珍しくもない。


家族が増えることにワクワクしながら残りの4歳を過ごした。

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