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基礎魔法を発動させて数日。

2歳の誕生日を迎えた。

今回も家族皆で誕生日パーティーだ。


ただ、この1年、他の家族の誕生日パーティーをしていない。

夕食は多少豪華になり誕生日の人の好物が出てくるくらいだ。

不思議に思いお母様に尋ねてみた。


『どちて、おかーちゃまの パーチーはないの?』


母はウフフと優しく笑って答えてくれる。


「普通はそんなに誕生日パーティーはしないの。

お披露目となる5歳、お茶会デビューとなる10歳。

この2回が貴族であれば必ずする誕生日パーティーになるわ。

その誕生日パーティーは沢山の人を招待して開かれるのよ。

その年以外は基本的にパーティーはせず、一言おめでとうと伝えるくらいね。


そして成人後の17歳以降は各家庭によるわね。

人脈を築きたかったり、財力を見せつけるためにパーティーを開くこともある。

その逆の理由で開かないこともあるのよ。


我が家は可愛いオズのために私やお父様、お兄様たちだけでなく、使用人の皆がお祝いをしようと張り切ってしまうの。

だから、パーティーのつもりがなくてもパーティーになってしまうのよ。


だからお母様たちの誕生日パーティーはないのよ。」


なるほど。ビックリである。

普通はパーティーしないのか。

確かにお祝いの言葉を掛けてるのは知っていたし、真似をして言葉を掛けていた。

それだけが普通だったのか。


この日は家族は仕事をお休みするか出来るだけ早く帰ってくる。

遅くとも夕食までには。


そして、それはもうデロッデロに可愛がられるのだ。

今はイアン兄様の膝の上でイアン兄様の手ずからおやつを食べさせてもらっている。


「はい、オズ。

あーんして」

顔は見えないけどその声は蕩けるように甘い。


美味しいおやつをモグモグと咀嚼していると横から手が伸びてくる。

ウィル兄様だ。

ウィル兄様は口の周りについたおやつのクズをそっと払ってくれ、ほっぺにキスを落としてくる。


チュッと軽いリップ音の後離れたウィル兄様の顔は満足そうな笑みを浮かべている。

「本当、オズは可愛いな。

どれだけ見ていても飽きないよ。」


『うぃるにーちゃま ありあと(ありがとう)』


少し照れてしまうけれど、美形の兄様たちに甘やかされるのは至福の一時だ。

初めの頃は慣れずドギマギしてしまったが、慣れてしまえば心地よい。


皆が揃っての夕食はやはり好物ばかりが並ぶ手の込んだものだった。

勿論デザートもある。


夕食後はプレゼントを受けとる。

このプレゼントは去年の反省をもとに、

高価なものは要らない。

皆で一つでいい。

と伝えておいたのだ。


そして、また女の子のお洋服だった。

今年はリボンもついている。

もしかして毎年貰うことになるのだろうか?


それだけではなかった。

エド兄様から「これは僕たち兄弟から」と手渡されたのは綺麗なグリーンの石がついたイヤーカフ。


『ちゃかいものは いりまちぇん』と困った顔で言うオズワルドにアル兄様が笑って説明してくれる。


「これは俺たちの手作りだから高価な物ではないんだよ。

これは守護の魔法を込めた魔道具だ。

エドに作りたいと相談されたんだ。

ウィルが魔物を狩り魔石を手にいれ、イアンが魔方陣を刻み、俺とエドで魔道具にしたものなんだ。


可愛いオズの身を守ってくれるものだから、常に身に付けてくれると嬉しい。」


その言葉に安心し、そして兄様たちの思いが嬉しくて素直に受け取る。

その場でリサに身に付けて貰う。


『にーちゃまたち ありあとー にあう?』


「勿論だ!

とても似合ってるよ。」

とウィル兄様が褒めてくれた。


勿論、次の日には絵師が喚ばれたのだった。




誕生日を終えて2日後。

お父様から執務室へと呼び出された。

普段はお父様から会いに来てくれるため、執務室に入るのは初めてだ。


「よく来たね、オズワルド。

実はね君に家庭教師をつけようと思うんだ。」


『かていきょうち?』


「うん。そうだよ。

普通は家庭教師は5歳頃からつけるんだ。

行儀作法の先生は早くて3歳くらいかな。


でも、オズはとても賢いだろ?

リサからの報告では歴史は殆ど理解しており、魔法の勉強にも意欲的だと聞いている。

このままだと自分の知識では質問に答えることができなくなりそうだと相談されてね。


それに知識の偏りが出来てもいけないしね。

思いきって家庭教師をつけようと思ったのだ。


勿論オズが嫌なら断ってもいいんだ。

オズはどうしたい?」


『うれちい!

おねがいちまちゅ』


願ってもないチャンスだ!

もっともっと沢山の知識が欲しいし、魔法薬についても聞きたいことがある。

家庭教師をつけてくれるのなら効率よく学べるだろう。


そう思っていたら自然と笑顔になり、少し興奮して返事してしまった。


そんなオズワルドを見てお父様も笑顔を深める。


「オズならそう言うと思ったよ。

紹介するのはフレーリヒ伯爵家の者なのだが、彼は少し変わっていてね。

普通の勉強は勿論だが、礼儀作法や魔法のことも教えてくれるはずだよ。

わからないことは彼に聞くといい。

とっても博識なんだ。」


こうやって家庭教師がつくことが決まった次の日。

家庭教師が我が家を訪ね、紹介された。

早い。早すぎる。

流石お父様。

オズワルドが是と答えると思って手配していたに違いない。



「カミール・フレーリヒと申します。」


そう名乗った男性はシャンと伸びた背筋、柔和な笑みを浮かべ、こんな紳士になりたいと思わせるような素敵なおじいちゃん先生だった。


しかも先生は我が家の客室に滞在するのだという。

先生が来てからは午前中に庭などの探索を一緒にし、疑問があればすぐに答えてくれる。

午後は文字を書く練習をして、午前中で知ったことや今まで本などで学習してきた内容の補足だったり豆知識だったりを教えてくれた。


そう。

実は文字は読めるが書けなかったのだ。

しかし、この小さな手では文字を書くということが難しい。

しかも、万年筆で書くのだ。

書きにくいことこの上ない。


するとウィル兄様が魔道具のペンをプレゼントしてくれた。

この世界でペンといえば羽根ペンか万年筆であり、インク壺に浸けて書くのが一般的だ。

平民や一部の下位貴族は羽根ペン。

貴族は万年筆である。

魔道具のペンというのはマイナーな物らしい。


この魔道具のペンは地球で使っていたような書き心地でスラスラと書ける。

しかも、インク詰まりもしないし、インク壺にペン先を浸ければインクを吸い上げ、そのインクが無くなるまで書ける。

ペン本体は半永久的に使い続けることが出来るという優れものなのだ。


なのに何故マイナーなのかというと...

まず、ペン本体が高いらしい。

複雑な複数の魔方陣が必要になり作り手がかなり少ない。

次に魔力が結構必要になってくる。

ペンを書いている間は常に魔力を供給しなければならない。

一度の供給量は微々たるものだが、使い続ければかなりのものとなる。


この魔道具ペンは魔石が付いたものと付いていないものとある。

魔石が付いているものであれば魔力が低い者でも使えるが、コスパが悪すぎる。

ペンに取り付けることを考えると大きい魔石は向かない。

しかし、魔力のあまり籠っていない魔石を取り付けても短い間しか使えない。

必然的に純度の高い小さな魔石となる。

この純度の高い小さな魔石というのは滅多に取れない。

稀少な物で馬鹿高い。


そして、魔石が付いてないものは書き手の魔力を使う。

書けば書くほど魔力が必要になるのだ。

そんなペンを使うぐらいなら万年筆を使う。

あまり書き物をしない人はそもそも必要性を感じず万年筆を使う。


というわけで、魔道具ペンを使うのは高位貴族の一部ぐらいだという。


しかし、オズワルドには丁度いい。

自身の魔力が豊富で書きやすく、長時間使うわけではない。

そんなわけで(オズワルド限定の)弟愛溢れるウィル兄様がプレゼントしてくれたのである。


貰ったときはそんなに高価な物だとは知らず、普通に『ありあと ウィルにーちゃま。うれちい』とギュッと抱き締めるオプション付きで貰ったのだが、そのペンを見た先生が説明してくれた内容にビックリ!


すぐに返しに行った。

しかし、ウィル兄様は悲しい顔になり言ったのだ。


「もうすぐしたら仕事でしばらく帰ってこられないんだ。

だから、オズが俺の事を忘れないように、このペンを見たら思い出して欲しいんだ。

貰ってくれないか?」


そんなことを言われれば返せない。

ましてや、イケメンの悲しい顔である。

効果はバツグンだ。


因みに何故オズワルドが書きにくそうにしていたのかを知っているかというと、仕事から早く帰ってきた日や休日なんかはオズワルドの側に張り付いているからである。


特に邪魔をするわけではなく、微笑ましそうに見ているだけなので放置している。



魔道具ペンを貰ってから2ヶ月ほどしてウィル兄様は旅立った。

何故かオズワルドの枕をお供にして。


ウィル兄様はイシュミラ王国騎士団の特殊師団に勤めている。

王国騎士団は第一師団が王族、第二師団が王宮、第三師団が王都、特殊師団が他国から来た王族貴族をそれぞれ守っている。


王国騎士団になるには王立学園の一般部を卒業後、高等部騎士科へ入学。

最低1年間学んだ後、騎士団への入団試験が受けれる。

入団試験自体は学年末にある。

なので最低でも2年は騎士科に通うことになる。

しかし、2年で卒業するものは稀で、大体が5年程だ。

在学年数に上限はないものの6年以降はかなり少なくなる。

それは、5年励んでも結果が出なければ各領主の騎士団、所謂地方騎士団へ入団するからである。


無事、王国騎士団への試験を合格すれば先ずは配属先の師団にてルールや基礎などを学ぶ。

そして入団2~5年の間で実地訓練のため魔物が多い地方へと3年間配属されるのだ。

これは魔物の間引きと他国への牽制、地方貴族の監視という意味もある。


因みに、王国魔法士団も似たような仕組みである。

魔法士の実地訓練は周囲を巻き込まずに対象物へ魔法を使うことを目的としている。

そのため、期間は最低1年間の最長3年間である。


というわけで、イシュミラ王国の騎士や魔法士は王都でぬくぬくとした形だけの腑抜け者というのはほぼ存在しないのだ。



ウィル兄様は最短の2年で卒業し、トップクラスの実力を誇る第一師団からの勧誘を断り、面白そうだからという理由で特殊師団へ入団。


今回は実地訓練のために3年間地方へと行くのだ。

この3年間は余程のことでなければ帰ってくるのはないのだとか。


「3年間もオズに会えないなんて拷問だよ。

毎日オズのことを思って枕を抱き締めて寝るからね。

オズも俺のことをペンを見て思い出しておくれ。

愛してるよ、オズ」

と目に若干の涙を溜め、きつく抱擁し、沢山のキスを落として、今生の別れの如く旅立って行ったのだ。



ウィル兄様を見送ってから3ヶ月。

今日は厩舎に行くつもりだ。


本当はもっと早く行きたかったのだが、如何せんバッハシュタイン家はとても広い。

邸宅があり、邸宅の周りには庭師に整えられた庭がある。

そして、厩舎は馬の運動ができるように少し離れた場所にあるのだ。

まだ体力が足りない。


仕方なく庭の探索をし、体力強化に勤しんだ。

この庭はお母様の趣味なのか、多種多様な花が咲き誇りとても楽しかった。


今までは庭師の仕事を邪魔しない程度に話を聞いていたが、先生が来てからは好きなだけ疑問をぶつけた。

その結果、思ったいたよりも早く庭の探索が終わったのだ。

隅々まで見てまわったので完璧に把握済みだ。


久しぶりな動物との触れ合いに逸る気持ちを抑え、厩舎へと向かう。

時には庭を走り周りながら探索した成果が現れ、厩舎までの道のりは問題なく、目的地へ到着した。


出迎えてくれた馬丁に挨拶し、早速馬に対面だ!


うま?

青みがかった黒というよりは黒が混じった青というような色で、オズワルドの知っている馬より1回り、いや、2回り近く大きい。

そう思っていたら心の声が漏れてしまったらしい。


目を大きくして『おっちい...』と呟く私に先生がクスっと笑って説明してくれる。


「これは魔馬というのですよ。

魔獣の一種です。」


魔馬とは魔力を持った馬らしい。

そのままだ。

身体強化と風魔力を使い、かなり早く走ることができる。

そして、そこそこ稀少なんだとか。


魔馬を得るには野生のものを捕まえるか、飼っている人から譲り受けるかの2通り。


魔馬は警戒心が強く足が速い。

更に生息地はあまり人が居ない奥地であり、魔物や魔獣が多い。

個人で捕まえるのはほぼ不可能だ。


譲り受けるにしたって、あまり繁殖しない。

これは寿命が長く、逃げ足が速いあまり天敵が居ない為と言われている。


魔馬は魔力の含まれた草を必要とするが、この草も確保するのが大変だ。

森の奥深くや、大量の魔力を込めて人工的に作り出すのだ。


そんな莫大な維持費が必要なのに繁殖は中々しない生き物を繁殖目的で飼う人は居ない。


なので自然と魔馬を得るには莫大なお金がかかるのだ。


しかも、魔馬は乗るだけならば普通の馬と変わらないが、乗りこなすには身体強化や風魔法などが必要だ。

速い分衝撃が身体にくるため、それを緩和させる手段が必要なのだ。


乗れるかもわからないものに莫大なお金は出せない。

なので、王族や高位貴族、騎士団の一部ぐらいしか所有できない、そこそこ稀少な生き物というわけ。


それをバッハシュタイン家は1人1頭所有している。

流石である。


この話を聞いてオズワルドのドキドキは止まらない。

前世でも馬が好きで乗馬は大好きだった。

是非ともこの魔馬に乗りこなしてみたい。


よし!

お父様におねだりしよう!


その日、夕飯の席で初めて見た魔馬について興奮気味に報告する。


『おうまたん かっこよかった

おとーしゃま!

おうまたん のりたい!』


オズワルドの初めてのおねだりにお父様も興奮。

可愛い可愛い息子の願いを叶えてあげたい!


「そうだな。

乗馬は貴族の必須スキルだし、早いうちから慣れるのもいいだろう。

しかし、オズはまだ小さい。

1人での乗馬は禁止だ。

お父様と約束できるね?」


『あい!

やくちょく!』


こうして、無事に乗馬の許可を貰ったのだ。


しかし、前世で経験があるからと嘗めていた。

1時間程、常歩で乗せてもらっただけだが、お尻や太ももが痛くなってしまった。


日課に乗馬を加え、更なる体力強化も平行して行い、日々は穏やかに過ぎていった。

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