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前期休みはバッハシュタイン領に行くことにした。
領地運営について学ぶためだ。
オズワルドが貰う領地はかなり広いが発展状態としては子爵家の上の方といったぐらいだ。
なので、運営もそこまで難しくない。
しかし、港を作ることが出来ればかなり発展するだろう。
そうなったときのために学んでおくのだ。
時間短縮のため、オズワルドとシリルの2人で馬車は使わずに魔馬で向かう。
そう言い出したときに家族から反対されたが、すでに冒険者としてそこそこの実績も残していると説得する。
それでもまだ反対だと言ってくるため、仕方なくバッハシュタイン家の騎士と模擬戦を行う。
隊長格にはまだ勝てないが、その他には勝てた。
魔法勝負であればオズワルドが勝てるだろう。
そうして、「心配だ」「一緒の時間が減る」と騒ぐ家族たちを何とか説き伏せた。
シリルは下位の身体強化は使えるが、長くは保たない。
オズワルドが干渉魔法を使い、シリルの身体強補助する。
そうすることで、魔物が追従できない程の速さで駆けて行く。
アンバーはたまに先行し、様子を見て、肩に戻ってくるというのを繰り返している。
ベリルは落ちないように上着のポケットに入り顔を出しているが、誰も見えていない。
こうして僅か2日でバッハシュタイン領の本邸に到着し、オズワルドはお祖父様、シリルはお祖父様付きの執事から学ぶ。
現在はオズワルドの侍従としてしか仕えていないが、将来的には執事になってもらうつもりだ。
基本的に男性には侍従、女性には侍女が付くことになっているため、リサはオズワルド付きから離れることになる。
現在はたまに家に帰ったときぐらいしかお世話してもらってない。
しかし、来客などの対応に侍女は必要になってくるため、ヴァンシュタインになるときにはリサがついてきてくれるという。
ありがとたいことだ。
バッハシュタイン領には1ヶ月も居られないので詰め込み教育よろしくなキツキツスケジュールでお願いしたが、お祖父様の教え方はわかりやすく、かなり勉強できたと思う。
また後期休みにもお願いして王都へ戻る。
少し余裕を持って3日前に戻ってきたのだが、残りの休みは両親と兄様たちに構い倒された。
お母様とウィル兄様と一緒にお茶の時間を過ごし、お父様とアル兄様からは領地運営について、イアン兄様からは魔法について、エド兄様からは魔道具についてを教えてもらう。
そして、お母様以外と模擬戦を行い、鍛練する。
本当はオズワルドをドロドロに甘やかしたいのにと抱擁されながら呟かれたが、そんな時間はないので無視する。
寝るときはベッドに潜り込んできて抱き締めて寝ているのだからいいではないかと思う。
こうして前期休みが終わる。
その頃にはベリルは自分の名前とオズワルドの名前を認識し、簡単な意志疎通が出来るようになっており、ふよふよと浮くようになっていた。
学園の後期が始まり、シリルとケリーにお願いしていたチャドリスとツシャール嬢についての報告を貰う。
本人から少し聞いていた話と統合すると、チャドリスもツシャール嬢も独り立ちを考えているようだ。
チャドリスは貧乏男爵家の次男。
生活はかなり厳しいようで、質素な暮らしをしている。
現在、奨学金制度を利用して学園に通っており、恐らく進学はできない。
成績は優秀だが奨学金制度を利用して文官になれるほどではない。
従者科に進むとしても、後ろ楯がない。
奨学金制度を使うというのは将来国に返さなければならない。
一般部であればそこまで高くないため、学園卒業が出来れば普通に働いて何十年かで返せる。
しかし、高等部は高額だ。
そのため、国に仕えれる者にしか奨学金制度は適用されない。
国に仕える従者というのはそれなりに身分が必要だ。
男爵がいないわけではないが、それは高位貴族の後ろ楯があるからだ。
あとは代わりにお金を出して貰える程のお金を持っている者に気に入られ、お金を出して貰う代わりにその者に一生仕えるかだ。
どちらにせよ、伝手や媚びが必要だ。
チャドリスの実家に伝手はないし、チャドリス自身も媚びを売らない。
侍従としてはかなり有能なのはわかっている。
しかし、有能だけではなんともならないのが貴族の世界だ。
勿体ないと思う。
ツシャール嬢は政略婚が嫌らしく、そもそも結婚や恋愛に関してもあまり興味がわかない。
なので、親にはその旨を伝えてお断りしているらしい。
貴族の娘としては政略は当たり前であるが、王立学園一般部卒業後は自立することを条件に認めて貰ったという。
そのため、奨学金制度を使って高等部騎士科への進学を目指しているらしい。
なるほど。
優秀なわけだ。
認めて貰ったとのことだが、“王立学園一般部卒業後の自立”が条件ではほぼダメだと言っているようなものである。
一般部卒業後の就職先はあるけれど、それは下位、よくても中位貴族の侍女や家庭教師などだろう。
一般部卒業後で雇うのはお金がない者のため、通いでの雇用になる。
昼食ぐらいは出るだろうが、それ以外はない。
場合によっては週に2~3日しか出勤がないこともある。
掛け持ちすれば自立もできるであろうが、行きなり呼び出されることもある。
他の仕事があるので行けませんが通じればいいが、それが通じない者も少なくない。
有能だと認めて貰えば住込で雇って貰えたりすることもあるだろうが、どちらにせよ卒業後すぐの自立はできない。
学園の一般部卒業でもそれなりに仕事はあるが、卒業後すぐの未熟者を雇いたい者は少ないのだ。
数年かけて評判を上げ、いい仕事を探すのが常である。
それならば高等部に行くしかないが、支援はしないと言われているため、優秀さを示すしかないのだろう。
やはり、2人都も欲しいなと思う。
先ずはチャドリスに声をかける。
『チャドリス、久しぶりだね。』
「オズワルド様、お久しぶりでございます。
いかがなさいましたか?」
寮の自室に招待したため、他の目を気にすることなく話せる。
『うん。
実はね、チャドリスには私に仕えて貰いたいと思ってね。』
「私がオズワルド様にですか?」
チャドリスは驚いているような、戸惑っているような様子だが、表面上はかわらない。
『私が成人後はヴァンシュタイン伯爵になることは知っているだろう?
そのために有能な人材が欲しいんだ。
チャドリスには私の侍従のなって欲しい。
現在の奨学金と、従者科進学についても支援させて貰うよ。』
「私としては喜ばしいことですが...
私でよろしいのでしょうか?」
『チャドリスがいいんだよ。
悪いけど、チャドリスのことは調べさせてもらった。
それに、遠征でチャドリスの有能さも知っている。
媚びを売らないところも好ましく思っているんだ。
是非ともお願いしたい。』
「そこまで言って頂けるとは、至極光栄にございます。
精一杯支えさせていただきます。」
無事、チャドリスからの了承を貰え、次はツシャール嬢へ交渉に向かう。
さすがにツシャール嬢を自室に招く訳にはいかないため、カフェテリアの2階を利用する。
『いきなりごめんね。
実はツシャール嬢にお願いしたい事があってね。』
「いかがなさいましたか?」
『私がヴァンシュタインになった際に仕えて貰いたいと思っているんだけど、どうだろうか?』
「それは...!
願ってもないことです。
よろしくお願いします!」
少し驚いていたが、即決だった。
おもいっきりがいいところもいいね。
『では、騎士科へは支援するから遠慮なく進学して欲しい。』
「ありがとうございます。」
こうして、チャドリスとツシャール嬢からいい返事を貰えたのだった。
後期が半分過ぎた頃、ベリルが妖精であることがわかった。
まだ生まれてから間もないらしいが、妖精の間もないがどれくらいかはよくわからない。
ベリルはすぐに自分の名前なんかを認識できており、2ヶ月程で軽い意思疎通が出来るようになっていた。
初めはベリルが強く思っていることが勝手に流れ込んでくるようなもので、オズワルドの言葉はあまり理解できていなかった。
それが少しずつではあるが、明確に意志疎通が出来るようになって、驚いた。
幼少の頃から絆を結ぶ従魔獣でさえ、こんなに明確に意志疎通は出来ず、お互いにぼんやりとわかる程度だ。
出会ったころからベリルが特殊なのはわかっていたが、完璧に意志疎通ができるようになり、妖精とわかってからは驚きつつも納得であった。
しかし、妖精とは数少ない情報から、小さな人型であるということだったはず。
不思議に思い尋ねてみると、生まれて間もない妖精は人型になれないらしい。
そもそも妖精とは...
知的生命体以外の自然のものが、その役目を満足して終えたとき、その思いが漂い、集まる。
多くが集まって塊となり、清らかな魔力と混じり妖精となる。
この清らかな魔力は自然豊かな所にポツリとある。
人間的に言えば聖域。
その聖域で生まれたての妖精は少しずつ力を蓄える。
ある程度成長してから聖域を出る。
そうしないと消滅してしまう。
妖精には肉体がないため寿命はない。
けれど、力となる清らかな魔力が尽きてしまえば消滅する。
妖精は基本的に似た形の思いと引かれ合う。
多いのは花などの植物や、虫、動物。
珍しいのだと鉱石。
ベリルは動物の妖精だ。
妖精が人型なのは力をつけると姿を変えれるようになり、数少ない人との接触は姿を真似たのだろう。
さて、通常であれば力をつけるまでは聖域から出ない妖精であるが、ベリルは蝶と遊んでいるうちに気付かずに出てしまった。
生まれたての妖精は長い時間聖域外では姿を留めておけず、消滅してしまう。
もうすぐで消滅というところで、清らかな魔力の気配を感じ、必死に呼び掛けた。
それに応えたのがオズワルドというわけだ。
妖精は普段は姿を隠している。
見えないようになっている。
しかし、オズワルドが見つけたときは衰弱していたため、姿を隠すことができなかった。
そのお陰でオズワルドに見つけて貰えたのだが。
そして、オズワルドの魔力を取り込んだことで、オズワルドはハッキリとその姿を認識できるようになったというわけだ。
ようやく他の人が見えなかった理由がわかった。
姿を隠すのを自分で調整できるようになるのはもう少し成長しないとできない。
なので、今は他の人には姿を見せることができないでいる。
姿を見せることができるようになるころに、言葉も操れるようになる。
妖精は魔力の塊のようなものであるが、使う力は魔法とはまた別だ。
妖精は自由な生き物であり、何者にも縛られない。
使うのは癒しの力。
それ以外に使えるかわよくわからない。
それは、使おうと思わないからだ。
因みに清らかな魔力を持つ人というのは少ない。
多かれ少なかれ成長と共に魔力が歪んでいく。
それは人間には感じとれないものらしい。
こうして、ベリルが妖精だとわかり、今まで謎であった妖精のことが少しわかった。
ベリルが妖精であることがわかっても日々はかわらない。
魔力を分け与え、ときに甘えてくるのを可愛がる。
そのうち仲間に紹介したいなとは思うがまだまだ先の話だ。




