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3年生になった。


変わったことといえば、Dクラスに伯爵家のご令嬢が編入してきたらしい。

かなり珍しいことだ。


なんでも、庶子で1年ほど前にわかり、ある程度の勉強をさせて編入してきたらしい。

この学園に入学させたということは、正式に子として迎え入れ、貴族として遇するということだろう。


どうしてこんなことを知っているのかというと、今学園でかなりの噂になっているからだ。


いくら編入前に勉強したとはいえ、1年ではあまり身に付いていない。

行動が平民そのものだ。

恐らく勉学の方に力をいれ、礼儀作法などは後回しにしたのだろう。


学園を卒業しなければ貴族と認められないし、人脈も作れない。

そんなわけで、一先ず勉学を優先したのだろうということはすぐにわかった。


そんな彼女は見た目が可愛らしく、天真爛漫な様子を男性は可愛いと好意的に捉えている。

一方の女性はというと、その貴族らしからぬ行動に嫌悪とまではいかないものの、厭わしく思っているようで遠巻きにしている。


そんな彼女の名前はリリアン嬢。

リリアン・ヘンシャル伯爵令嬢だ。




なぜこんなこと考えていたのかというと、今、ダンスの授業でリリアン嬢のパートナーに充てられたからだ。


ダンスの授業では上手な者が下手な者と組む。

フォローできるようにということだ。


初めて見たリリアン嬢は確かに可愛らしい容姿をしている。


金に近い茶髪に菫色の瞳。

目は大きく潤んでいるように見えるし、口も小さく綺麗なピンク色。

更には小柄で庇護欲をかき立てるのであろう。


しかし、オズワルドはそんなことは気にならない。

それよりも、何度も間違えるステップに、踏まれる足。

これらに疲弊していた。


勿論そんな素振りは見せず、穏やかにエスコートして、ダンスを終える。


通常ダンスを終えれば一礼し、ダンスフロアから離れる際にエスコートをして、終了だ。


けれど、リリアン嬢は違った。

ダンスの際のホールド姿勢から動かず、むしろオズワルドの胸に両手を添え、うるうるさせた瞳で見上げてくる。


「あ、あの!

ごめんなさい。

わたし、ダンスに慣れていなくて...」


頬を染めて言ってくるリリアン嬢。

成る程。

女性が眉をひそめるのもわかる。

令嬢としてのマナーが全く身に付いていない。


しかし、オズワルドが特に気にするほどのことでもない。

今回相手をしたのだから今年はもう回ってこないだろう。


いつもの社交用笑顔を作る。


『いえ。

では、お手をどうぞ。』


そう言って、退場を促す。


リリアン嬢はぽーっとオズワルドの笑顔に見惚れ、言われるがままに手を出し、夢心地のような足取りで退場する。


これでオズワルドの役目は終わりだ。




3年生になってからのオズワルドは以前より更に忙しくなった。


今までは全く必要なかった、領地運営の勉強を始めたからである。

これが意外に奥が深く面白い。


領主になるのだから、発展させたいし、領民には豊かな暮らしをさせたい。


そんな思いで授業は最低限出席し、あとは勉学に鍛練、研究に没頭していたのだが、3日間はお休みだ。


というのも、3年生の前期後半に学園のイベントである遠征に行くのだ。

貴族たるもの戦えねばならない。

前線に立てずとも、自分の身は自分で守らねばならない。


いざというときに足手纏いにならないよう、2泊3日の遠征を行う。


5~6人のグループに分かれ、王家が管理する森で野営する。

王家が管理している森は低ランクの魔物しか出ないし、グループに2人の騎士が付くことになっているため、万が一は起こらない。


しかし、普段はお世話してくれる従者は連れていけないため、自分のことは自分でするか、協力し合わねばならない。


ご令嬢には中々過酷な遠征である。



オズワルドのグループはBクラスの伯爵子息イサールゥ殿、Cクラスの子爵令嬢ツシャール嬢、Dクラスの男爵子息チャドリス殿、Eクラスの男爵令嬢シューコ嬢の5人。

チャドリス殿とシューコ嬢は学園の馬に、他は自分の馬に乗って出発する。


いつもに比べかなりゆっくりと進む。

ヒスイの速さに慣れているため、普通の馬の速さに合わせるとこんなにゆっくりなのかと驚く。


アンバーはゆっくりなのに飽きたのか、器用に揺れるオズワルドの肩にとまって寝ている。


森に入り拠点を決めるとイサールゥ殿がチャドリス殿に命令する。


「おい!

お前は食料を調達してこい!」


チャドリス殿は肩をビクッと震わせる。

彼はとても大人しそうな少年だ。


このメンバーで狩りに向くのは全てを難なくこなすオズワルド、魔法が他より使えるイサールゥ殿、そして剣術が得意なツシャール嬢の3人である。


しかし、そんなことは全く考えていない。

イサールゥ殿は自分よりも下の立場の男というだけで決めたのであろう。

ここまでの道のりでもオズワルドには媚びへつらい、他の者には横柄な態度とる。


ここまであからさまではないものの、貴族であれば普通の態度だ。



『では、私とチャドリス殿で狩りに行きましょう。

皆は拠点を整えて貰っていいだろうか?』


チャドリス殿はホッとした顔で「よろしくお願いします。」と言い、イサールゥ殿は「さすがはオズワルド様。完璧な采配でございます。」とかなんとか言っている。


2人で森を進み、後ろには騎士が1人ついてくる。

少しだけ会話をすると、チャドリスは見た目通り控えめな性格のようで、オズワルドに媚びてくることもない。


戦闘のときはチャドリスがメインでオズワルドが補佐する。

狩った者は血抜きだけしておき、木の実や食べられる草なんかも採集していく。


5人で食べれるには十分な量を確保できたため、拠点に戻る。


まだ拠点は整っておらず、イサールゥ殿が指示を出し、他の2人が動くといった感じで整えているようだが、ツシャール嬢はともかくシューコ嬢は慣れない薪集めに手間取っており、全然進んでいない。


『戻ったよ。

チャドリス殿のおかげで無事に獲物がとれた。

今から解体しようと思うけど、経験者はいるかな?』


皆オズワルドを見るが名乗りでないということは初めてなのだろう。

一応学園で習っているとはいえ、いきなりは難しいだろうということで、オズワルドが手本を見せ、イサールゥ殿とシューコ嬢に残りを頼む。

イサールゥ殿がシューコ嬢に押し付けないように、どちらがどれを解体するかという指示も忘れずにしておく。


その間、拠点を整えて行くのだが、チャドリスが意外にいい働きをすることに気付いた。

細かい所に気が付くのだ。

おかげでそこそこ快適に過ごせるだろう。


持ち込みが許されている食料は硬い黒パンが6つに、塩、乾燥させた野菜、ナッツだ。

もし、獲物が狩れずとも何とかはなる。

しかし、かなりきつい。


オズワルドたちは魔法で石板を作り、加熱して肉を焼き、石の鍋でスープを作って食べる。

普段からフルコースを食べているであろうイサールゥ殿は顔をしかめ、不満を述べながら食べていたが、他の皆はもくもくと食べる。


調理はシューコ嬢が主にし、チャドリスが補佐する形で行われたのだが、慣れないながらも頑張っていたと思う。


肉に薬草を刷り込ませクセがなくなっているし、焼き加減も絶妙だ。

恐らく他のグループよりもかなりいい食事をしているだろうということはイサールゥ殿以外はわかっていた。


今夜の見張りは明日の体力を考え、イサールゥ殿、チャドリス殿、シューコ嬢が交代で行うことにする。


イサールゥ殿が「オズワルド様と私が見張りなど行う必要はない。」と言ってきたが、オズワルドが指示を出した。


イサールゥ殿は1番楽な1日目の初めであるため、不承不承ではあるが引き受けた。


オズワルドとイサールゥ殿以外は疲れきった顔をしていたため、早めの就寝とする。

女性が寝る場所は土を固めた1人が横になれるぐらいのスペースに、クリーン魔法をかけた葉っぱを敷き詰めたものだ。


男性は有事の際にすぐ動けるよう、木にもたれ掛かるように仮眠する。


オズワルドは森に慣れているのでまだ全然疲れていない。

そもそも、魔法が禁止だった冒険者の初心者研修に比べればかなり楽だ。


というわけで、もう少し起きていることにしたのだが、イサールゥ殿が媚びてうるさいため、『ちょっと探索してくる』と言って、拠点が見える位置で薬草採集をする。


辺りは薄暗いが、お祖父様から貰ったゴーグルがあるため視界は良好だ。

夜に採集した方が効能が高い物がある。

普段は門限があるため採集出来ないので、密かに楽しみにしていたのだ。


騎士の2人もまだ仮眠に入らないようで、1人がオズワルドの後をついていく。

しばらく黙々と採集していたのだが、どこからか【おなかすいた たすけて】という声が直接頭に響いてくる。


オズワルドは周りに視線を巡らせ対象を探す。

声が大きくなる方に近付き、木の洞に小さな生き物を見つけた。

しかし、普通の生き物でないことは明らかだ。

薄ぼんやりとして、透けているのだ。


その生き物はテニスボールくらいのサイズで猫のようなアライグマのような見た目だが、全体が白い。

北米で見たカコミスルという動物に似ている。


瞳だけは薄く色付いているが、何色なのかわからない。

暗いせいではなく、目を離す度に色が変わるのだ。

オズワルドが瞬きをすると違う色に変わっている。


その生き物は明らかにグッタリとしていて元気がない。

魔物、魔獣図鑑では見たことのない生き物だが、敵意は見られないので大丈夫だろうと、そっと持ち上げる。


特に抵抗もなく【おなかすいた まりょく】と聞こえてくる。

魔力が欲しいのかと思い、魔力を同調させる。


【おいしい きもちい もっと】

という声が響く。

しばらく同調させていると、不思議と魔力の質がオズワルドと同じものになっていく。

それと同時に段々と姿がハッキリとしてくる。


同調させる必要もなくなり、そのまま魔力を分け与える。


半分程の魔力を分け与えると満足したのか

【ありがとう】という気持ちが伝わってきた。

その頃には真っ白な姿がハッキリと分かるようになっていた。


その生き物はオズワルドの手から肩まで登ってくると顔にスリスリと甘えてくる。

【すき】という気持ちまで伝わってきて、ものすごく可愛い。


その毛は野生だというのに、臭くない。

というか、匂いがない。

かなり柔らか毛でフワフワだ。

綿毛に触れているようで気持ちいい。


『ふふ。

可愛いね。

一緒に来るかい?』


そう声をかけたものの、オズワルドの言葉は理解できないらしく、キョトンとしている。

その姿がこれまた愛らしい。

嫌ならそのうち離れていくだろうと考え、一緒に拠点に戻ることにした。


拠点の焚き火の前にはイサールゥ殿はおらず、チャドリスがいた。

周りを起こさぬように声を潜めて話しかける。


『やあ、チャドリス。

交代には少し早くないかい?』


チャドリスは苦笑いをうかべチラッと別の方向に視線を向けると「まぁ...」と言葉を濁す。

視線の先にはイサールゥ殿がいるのだろう。

オズワルドも苦笑いを浮かべる。


先ほど薬草の採集と一緒に採ってきたハーブでフレッシュハーブティーを淹れると、1つのカップをチャドリスに差し出す。


『飲み慣れない物だと思うけど、よかったらどうぞ。』


チャドリスは恐縮しながらも受け取り、おそるおそる口をつける。


「初めての味ですがスッキリしていて美味しいです。」


そう言って、そのあとは普通に飲んでいる様子を見るに気に入ったようだ。


『よかった。

ハーブティーと言って今採集してきたんだよ。』


「オズワルド様は色々な事が出来るのですね。」


チャドリスは感心したように言い、そのまま少しポツリポツリと会話をする。

少し話したらオズワルドも休むことにした。

チャドリスが今は頭の上にいる白い生き物に全く反応を示さなかったのを少し不思議に思う。





そして、次の日。

イサールゥ殿以外は自然と目覚め、まだ疲れた顔をしているがテキパキと動き出す。


しかし、誰も白い生き物に反応しない。

恐らく見えていないのだろう。

認識阻害系の魔法だろうか?と思うが、白い生き物は意志疎通ができず、よくわからない。

まぁ、害はないしいいかと放っておく。


少し遅れイサールゥ殿が起き、昨日の残りのスープと黒パンを食べたら狩りに行く。

今日は学園に提出するための毛皮を手に入れるのだ。


今回の遠征では自分が狩った獲物を自分で解体して、その毛皮を提出するという課題が出ている。


本当は二手に分かれた方が効率がいい。

しかし、二手に分かれるとなると戦力的にオズワルド率いるシューコ嬢のチームと、イサールゥ殿率いるチャドリス、ツシャール嬢のチームになるだろうが、イサールゥ殿のチームが苦労するのは容易に想像できる。

苦労するのはイサールゥ殿以外の2人だが。


なので5人でローテーションして狩る。

シューコ嬢は少し手間取ったが他は問題なく狩れた。


少し意外だったのがイサールゥ殿よりツシャール嬢の方がスマートに狩れたことだ。

恐らくこの2人が戦っても勝つのはツシャール嬢だろう。

魔力差というのは力の差だ。

それなのにツシャール嬢の方が強いというのは、イサールゥ殿が怠けているというのはあるが、ツシャール嬢が優れているということだろう。


昨日よりは余裕も出てポツポツと会話すると、ツシャール嬢はサバサバとしていて話やすい。


因みにシューコ嬢は少し期待した目でチラチラとオズワルドを見ながら、自分の売込みをしてくる。

普通の令嬢といった感じだ。


そして、チャドリスの有能差もよくわかる。

戦闘は向いてないようだが、それなりにはこなすし、オズワルドに質問してハーブの採集もするようになり、一度教えればその通りにしてくれる。


ツシャール嬢とチャドリス。

欲しいなと思う。

戻ったらシリルとケリーに頼んで2人を調べてもらうおう。



その夜はオズワルドとツシャール嬢が夜の番をする。

チャドリスが「私もします」と言ったが、別にそんなに寝る必要もないオズワルドが断った。


イサールゥ殿とシューコ嬢は夕食後、早々に寝に入った。

イサールゥ殿がツシャール嬢へ

「おい、私が外で寝ていることに対して何も思わないのか?」

と明らかな不機嫌顔で言って、ツシャール嬢の寝床を奪ってしまうということもあったが、尊大な態度はこの2日で慣れてしまい、オズワルドとチャドリスの3人で苦笑いで終わる。


オズワルドが新しいものを作ると言ったが、ツシャール嬢は別になくても問題ないらしく、断られた。


そのあと、チャドリスがハーブティーを入れてくれ、ポツポツと3人で少し話をした。



翌日は帰るだけで楽なもんだ。

イサールゥ殿なんて完全に気が抜けている。


白い生き物は結局誰も見ることができなかったようだ。

たまに【おなかすいた】と響くので魔力をわける。

そして【すき】と甘えてくる。


完全にオズワルドに懐いており、離れる気配がないため、そのまま連れて帰ることにする。

はじめは警戒していたアンバーとヒスイも少し慣れたようだ。

ただ、白い生き物が甘えてくると、“自分も!!”と主張してきて少し大変だ、



無事学園に帰り着き、課題を提出すると解散する。

明日、明後日はお休みだ。


1日目はゆっくりと過ごす。

新しく仲間に加わった白い生き物にはベリルと名付けた。


2日目は冒険者としての活動をして、また日常へと戻る。

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