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カフェテリアのテラス席でのんびりとお茶をしていた。

忙しい日々。

だけど、たまには休息も必要だ。

リラックスするといいアイディアが浮かぶときがある。


Sクラスの人は授業を免除されているが、半分くらいは出席する。

人脈を築くためだ。


バッハシュタイン家はそういったことにあまり関わらないため、オズワルドは殆ど出席しない。


今は授業中で他に人はいない。

天気もよく、絶好のお茶日和だ。

そんなリラックスモードのオズワルドの元に女生徒が近寄ってきた。


「オズワルド様、ごきげんよう。」


『久しぶりだね、クリスティーナ嬢。』


クラークの婚約者であるクリスティーナ嬢だ。

1つ下の彼女とはクラーク経由で何度か会ったことがある。


「ご一緒しても?」


『もちろんだ。

どうぞ』


そういって席を勧める。

すぐにクリスティーナ嬢の侍女がお茶の準備を整える。


クリスティーナ嬢は紅茶を一口飲むと、

「実は相談したいことがございます。」と言って、チラリとオズワルドの後ろに控えたシリルを見る。


意図を察したオズワルドがシリルを見ると、シリルは一礼しスッと離れる。

クリスティーナ嬢の侍女も同様だ。


シリル達が姿は見えるが話は聞こえない位置につくと、クリスティーナ嬢は恥ずかしそうにうつむき、頬を染めながら話し始める。


「オズワルド様はカーティス殿下やギルベアド様の婚約者との仲を取り持ったとお伺いしております。」


『そんな大層なことはしていないよ。』


「いえ、カトリーナ嬢とキンバリー嬢からはオズワルド様のおかげだと伺っております。


そんなオズワルド様にお願いがあります。

どうか、私とクラーク様の仲も取り持っていただけないでしょうか?」


クリスティーナ嬢の顔は真っ赤だ。


『クリスティーナ嬢とクラークの仲はいいでしょう?』


「確かに仲はいいのですが...

どうも、クラーク様は私のことを妹のように思っていらっしゃるようなのです。」


悲しそうに少し目を伏せるクリスティーナ嬢。

確かにクラークがクリスティーナ嬢をエスコートしている姿は、仲は良さそうだが恋人には見えない。


『それは、私が口を挟むよりも、クリスティーナ嬢がクラークにハッキリと好意を告げるべきだと思いますよ。』


「それは...

女の私から好意を告げるなど...

恥知らずな娘だと思われてしまいます。」


『そんなことはないと思います。

クラークは恋愛事には疎いというか、あまり成熟していませんからね。

ハッキリと告げてやらねばわかりません。


告げればきっとクリスティーナ嬢を意識するようになると思いますよ。』


クリスティーナ嬢はしばらく下を向いたまま赤い顔で考え込む。

たまに「そんな...」とか「でも...」とか聞こえてくるので葛藤しているのたであろう。


突然、顔をあげる。

顔は赤いままだったが、しっかりとオズワルドを見る。

決意したようだ。


「わかりました!

私、想いを告げることに致します。

オズワルド様、ありがとうございます。」


そう言って優雅に紅茶を飲み干すと席を立って行った。





後期の交流会。

クリスティーナ嬢をエスコートしているクラークの姿を見かけるが様子が変だ。


クリスティーナ嬢から目を逸らしているのに、チラチラと様子を伺うというよくわからないことをしている。


たまにクリスティーナ嬢と目が合うと慌てて顔を背ける。

その目元は赤くなっている。

クリスティーナ嬢が笑いかけると、ほんのりと赤くなっている。


うん。

間違いない。

これはクリスティーナ嬢を意識している。

クリスティーナ嬢は無事想いを告げることができたのであろう。



後期の長期休みに入ってすぐ、クラークが訪ねてきた。


「なぁ、オズ!

俺、どうしよう!」


頬を染めて話すクラーク。


『落ち着きなよ。

まずは紅茶を飲んで。

私でよければ話を聞くよ。』


クラークは紅茶を飲み、軽く深呼吸して話し始める。


「あの、あのな。

実はクリスから...その、

お、お慕いしておりますって言われて...」


『そうなんだ。

よかったじゃないか。』


「いや、でも、俺、どうしたらいいかわからなくて...

クリスのことをそんな風に考えたこともなかったから...」


『別にどうするもないと思うよ。

クリスティーナ嬢は婚約者なんだから、むしろ仲がいいのはいい事じゃないか。』


「いや、うん、そうなんだけど。

でも、何だか俺、ちょっとおかしくて。

クリスを見るとソワソワしてしまうというか

見続けたいのに恥ずかしくなって目を逸らしたいというか

今まで別に何とも思わなかったのに、クリスの笑顔が眩しく見えるんだ!


おかしいだろう?」


『ふふ。

別におかしくないよ。

それはクラークもクリスティーナ嬢に好意を持っているってことだよ。

クラークの初恋だね。』


「えっ

恋!?」


目を白黒させていたクラークだが、しばらくすると「そうか、これが恋か」と落ち着いた。


「オズ、もっとクリスと仲良くなりたいんだけど、どうしたらいいと思う?」


『女性は手紙とか贈り物とかもらえると嬉しいんじゃないかな?

花とかアクセサリーとか。

それにやっぱりデートかな。

アクセサリーは好みもあるし、デートしながら確かめたらいいんじゃない?』


「そうか!

では早速誘ってみるよ!」


『あとは自分の想いを伝えるのを忘れてはいけないよ。

女性は言葉が欲しいものだからね。』


「えっ

ちょっと待て。

俺がクリスに、その、す、好きだって伝えるのか?

それはハードルが高くないか?」


『でも、クリスティーナ嬢は想いを告げてくれたんだろう?

それならば応えてあげなよ。

女性から告げるのは相当な勇気が必要だったと思うよ。』


「そうだな。

確かに、クリスは今までにないほどに緊張していた。

男である俺が弱気ではいけないな!」


クラークは力強く頷く。

そして、しばらくは好きな女性へのアプローチについての話をして帰っていった。




後日、クリスティーナ嬢から手紙が届いた。

お礼の手紙だ。


思いきって告白したあとはクラークから顔を逸らされたりしたため、受け入れてもらえなかったのかと思った。


しかし、しばらくすると花束と手紙が届く。

デートのお誘いだ。


初めてのデートはお互い緊張していたため、どこかぎこちなかった。

けれど、デートの終わりにイヤリングを渡され、「俺もクリスが好きだ」と言ってもらえた。


それからしばらくデートを重ね、まだ緊張するけれど、初めてのようなぎこちなさはなく、楽しい時間を過ごすことができる。


これも、オズワルドがアドバイスしてくれたおかげだ。


そういった内容のことが沢山の喜びの言葉で飾られ書いてある。

その手紙を読んで、オズワルドも嬉しくなる。





さて、あれから王妃様の様子だが、かなりよくなった。

今のところ副作用などの症状もない。

まだまだ激痛はあるようだが、起き上がれるまでに回復したのだ。

ただし、ベッドからはまだ出ることはできないが。


王妃様にも会いに行った。

まだまだ万全ではないのだからと遠慮したのだが、どうしても直接お礼を言いたいという王妃様の言葉に折れたのだ。


王妃様は未だガリガリで頬は痩けていたものの、その目は希望に溢れた力強いものだった。


「オズちゃん。

あなたが私を救ってくれたのね。

本当にありがとう。


私はね、悲しむ夫やカートのために死んではならないと、それだけを心に必死に命を繋いでいたの。


でもね、薬が出来たと、死ぬ運命から逃れることができたのだと、それを知ってからは生きたいと願ったの。


ありがとうという言葉だけでは表すことができない程に感謝しているの。


オズちゃんに何かあれば力になりたいと思うわ。

遠慮せずに言ってね。

これでも一応王妃をやってるから、何か協力できることがあると思うわ。」


最初は涙をためていたが、最後は茶目っ気のある顔でウインクしてくれた。

こんな素敵な人を救うことができて本当によかったと思う。



そんな王妃様関連でお父様から呼び出されていた。


『爵位に領地ですか?』


「そうだ。

今回、王妃様を救ったこと。

魔封病の薬を開発したこと。

それに、アイテムバッグのこと。

これらを含めて報奨を与えねばならないと王家から言われてな。


伯爵位とこの領地をくれるそうだ。」


そう言ってお父様が地図を指し示す。


『ちょっと待って下さい!

ここは王家が管理する領地の中でもかなり発達している領地ではないですか!


しかも伯爵位ですか!?』


「珍しく動揺しているオズも可愛いな」


デレッとしたお父様を軽く睨み付ける。

お父様はコホンとわざとらしく咳払いをして話を戻す。


「伯爵位も一代限りではなく、世襲できるものだ。

それだけ王家はオズに恩義を感じ、国に貢献したと考えているのであろう。


オズが国を出るつもりがなければ悪い話ではないと思う。

沢山の薬を開発するのが夢であるならば、役に立つだろう。」


確かにと思う。

オズワルドは少し考えてから口を開いた。


『お父様の仰る通りだと思います。

しかし、領地はこちらがいいです。』


そう言ってオズワルドが指し示したのは、広いが田舎の発展していない所だ。

特色といえば海に面していることだ。


「そんな田舎をか?

しかも、ここは難民が多いぞ。」


隣国に接している領地ではないが、かなり近い。

なので、難民が多いのだ。


『だからこそです。

ここには山があり、恐らく薬草も豊富です。

難民が多いのも、私がしようと思っていることの役にたちます。

それに海がありますからね!

港を整備できればと思います。』


オズワルドは人材育成のために学校を作りたいと考えている。

しかし、新しいことに協力してくれる者は少ないだろう。

イシュミラ王国では自国民のスラムというのは殆ど存在しない。


家業を継げる者は家業を継ぐし、国民カードがあれば、最低限の職はある。

お金がなければ国に借金をすればいい。


そんなわけでよくわからない学校に通ってくれる者は少ないだろうと予測したのだ。


それを難民で補う。

領主であれば国民カードがなくとも、学業のために一時滞在の許可は出せる。

もちろん、その者が何かすれば領主が責任をとらねばならないが、そんなことをすれば難民などすぐに切り捨てられる。

滅多なことはないだろう。


うまく軌道に乗れば領民も学校に興味を持ってくれるだろう。


「ふむ。

港か...

確かにここに港を整備できればかなり強味にはなるが、ここは岩場であまり港に向かん。

整備には莫大な費用と魔力が必要だぞ。

まぁ、魔力は問題であろうがな。」


『はい。

わかっております。

港はいずれの話です。』


「さすが賢いオズだ。

わかっているのであればいい。


では、そのように王家には返事をする。

オズはまだ未成年だからな。

実際に爵位を賜るのは成人後になるであろう。

今回は約束だけということになる。


領地はすぐに賜るだろうが、しばらくは代行者が必要だな。

これは私が見繕っておこう。

優秀な者を引き継ぎに向かわせる。」


『ありがとうございます。』




決まってからは早かった。

数日後には王家からの遣いと、王家紋章入りの魔馬がひく豪華な馬車が来訪し、正装したオズワルドは登城する。


叙爵式が行われ、集まった貴族たちは異例ともいえる未成年の叙爵に驚きつつも、【さすがバッハシュタイン家の天才】【不治の病の薬を開発しただけはある】と納得していた。



バッハシュタイン家を2つつくるわけにはいかないため、ヴェンシュタインという家名も賜る。


こうして、オズワルドは成人後、オズワルド・ヴェンシュタイン伯爵と名乗ることになったのであった。


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