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私はふわふわと漂っていた。
自分が死んでしまったということは認識しているのでここは死後の世界なのだと思う。
周りを見ると私のような人が一ヶ所に向かって歩いていく。
歩くというのは語弊があるかもしれない。
飛んでいるような、でも歩いているようにも思える。
そして私も不思議なことにその方向に向かわなければならないと思った。
そう思うと勝手にその方向に向かって進み始めた。
やがて沢山の人や動物などが並んでおり、私も最後尾に並ぶ。
どこに繋がってるかもわからないような長い列。
かなりの時間を並んでいたはずなのだが不思議と疲れることもなく、退屈だと感じることもなく、ただぼんやりと時間が流れた。
そして、この列は一つの建物に続いているということがわかった。
入り口で白い衣を身につけた人が並んでいる人を案内して行く。
ついに私の番が来て白い衣を身につけた人に話しかけられた。
「ほう。すごい輝きの魂ですね。
あなたは最奥の間です。
案内しますのでついてきて下さい」
その言葉に従い建物の中に入る。
とても大きな建物の長い長い廊下を進み一つの部屋に案内された。
白い衣の人が扉を開けると6畳くらいの空間に何の素材でできてるのかわからない机。
机の前に椅子が一つ。
そして、執務椅子に腰かけていたのはこれまた白い衣を身につけた人。
しかし、案内してくれた人よりも少し布の量が多いようだ。
その人は男とも女ともつかない容姿をしており、整った顔立ちではあるのだが何故か平凡に感じる。
案内してくれた人は
「私はここまでです。お入り下さい。」と言い、
私が部屋に入ると扉を閉めて去って行ったようだ。
目の前の人はにこやかに笑いながら言う。
「どうぞ、座って下さい」
私が座るとその人は言葉を続けた。
「私はあなた方の死後、そして来世へと案内をする案内人です。
まぁ、あなたたちの世界でいう役所みたいなところですね。
来世は基本的に同じ世界の生き物になります。
今まで積み上げてきた徳によってかわってきます。
この部屋は特に徳を沢山積んできた方に案内される部屋です。
あなたはこの部屋に相応しい、いや、それ以上の徳を積んできました。
あなたの魂は眩く輝いています。」
『輝く魂?』
疑問が私の口から溢れた。
すると、その人はいつの間にか現れていた書類を見て、顔を上げたかと思うと心持ち熱く語り出した。
「えぇ。
あなたの魂はそれはそれはとてもきれいに輝いておられます。
あなたはそれだけの徳を積んだのです。
あなたが研究されていた病の薬。
その基礎をあなたは築き上げたのです。
そのことにより多くの命が助かりました。
それだけではありませんよ。
あなたが救ったとある人は未来のテクノロジーを築き、ハイテクな義手義足を造り多くの人々に希望をもたらしました。
また別の人は現代社会において問題になっていた孤食問題に取り組み多くのこどもたちの未来を輝かしいものにしました。
また別の人は貧しい人々に最低限の人しての生活を与え豊かにしました。
また別の人は枯渇していく地球のエネルギー問題へと取り組み新エネルギーを見つけ多くの人々が歓喜しました。
今挙げたのはほんの数例ですが、もっともっと多くのことにあなたは貢献したのです。」
『そうなのですか?
私は特別なことはしてませんよ。
それはその人たちの貢献ですよ。』
勢いに少し驚きつつもそう答えると、
その人はちょっと恥ずかしそうに「こほん」と咳払いをして続けた。
「確かにそれぞれの貢献ですが、その元となる人を救ったのはあなたなのです。
あなたが救わなければこの貢献はなかったのです。
先ほど基本的に同じ世界へと言いましたが、強い輝きの魂を持つあなたにお願いしたいことがございます。
世界というものは長い時間をかけて少しずつ淀んでいきます。
その淀みはやがて世界を破滅に導いていきます。
世界が破滅しないよう淀みが溜まってきた世界には別の世界の輝かしい魂を送るのです。
その魂が世界の淀みを調和し、安定させていきます。
あなたにその役目をお願いしたいのです。
お願いしたい世界はあなたたちの世界でいうファンタジー。
剣と魔法の世界です。
今までの世界との違いに戸惑いもあると思いますが、特に使命があるわけではありません。
あえて言うのならばその世界であなたが思うまま、幸せになり天寿を全うして頂きたいのです。
その為の環境に転生させて頂くことと、一つ希望を叶えさせて頂きます。
希望はあくまでオマケのようなものなのでチートな能力は差し上げることは出来ません。
その世界に転生頂けるのであれば魂の浄化が出来ないので、記憶はそのままになります。
もし、断る場合でも安心して下さい。
あなたは今までの徳に見合った環境で地球に生まれ変わるように手配致します。
その場合は魂の浄化を行いますので記憶はなくなります。
出来れば異世界へ転生頂きたいのですが、いかがでしょうか?」
なるほど。
よくわからないけど、わかった。
少し考えて、異世界へ行こうと思う。
もう50歳も目前という年まで生きておいて、やはり魔法というのには憧れがある。
そして、未知のものへの探求心が湧いてくる。
『わかりました。
その話、お受けしようと思います。
希望を叶えて頂けるとのことですが、例えば動物に好かれるということは出来ますか?』
「無条件にということは出来ません。
例えば、もともとの攻撃的な性格であったり、敵対心を持っていたりするものは難しいです。
しかし、それ以外の生き物には好かれるようにすることはできます。
それでもよろしいですか?」
その答えにとても嬉しくなった。
いろんなもふもふとモフモフするのだ!
私は満面の笑みで答える。
『よろしくお願いします!』
こうして私は異世界へと転生することになったのだった。