18
コルが10歳になるのを楽しみにしているオズワルドの元にクラークが訪ねてきた。
いつも元気いっぱいなクラーク。
しかし、今日は明らかに沈んでいるのがわかる。
『久しぶりだね。
何だか元気ないけど、どうしたの?』
「うん。
オズって魔法とか得意だろ?
実は相談したいことがあって...」
そう言ってクラークは語りだした。
簡単に言うと、クラークは上手く魔法の構築が出来ないらしい。
クラークは5歳のときに基礎魔法を発動させた。
これは一般的な早さだ。
そのあと騎士には必須な身体強化魔法の勉強を始めた。
魔法を刻むまでは問題なく出来る。
しかし、いざ発動のために構築すると上手くいかず、発動は出来るものの魔力消費がやたらと多い。
家族に相談したところ「幼いうちは魔力操作が下手なためよくあることだ」と言われ、そのうち上手になると思っていた。
しかし、もう11歳。
学園入学まで2年もない。
一向に上手にならない状況に不安になる。
家族に相談しても「精神力が未熟なせいだ。鍛練あるのみ」との回答しかもらえない。
クラークは普段、あまり努力している姿を表には出さない。
しかし、ずっと魔力操作の練習をしていたのだ。
なのに全く上達しない。
どうしていいかわからずにオズワルドに相談に来たというわけだ。
『うーん。
確かそう言った内容が書かれた書物を読んだことがある気がする。』
オズワルドの言葉にクラークは俯いていた顔をガバッと上げ、詰め寄る。
「本当か!
これ、どうにかなるか?」
『解決法はあったと思う。
けれど、その書物を読んだのがかなり前で詳しく覚えていないんだ。
探してみるから少し時間をくれない?』
「わかった!
頼むよ、オズ!
オズだけが頼りなんだ!」
クラークは何度も「頼むよ」と言って帰っていった。
来たときより顔色が明るくなっていたのでよかった。
クラークから相談されて1週間程でその書物を見つけた。
魔法関連の書物はかなりの数があるため、見つけるのに苦労したのだ。
早速クラークを呼び出す。
「オズ!
見つかったんだって!?」
会うなりそう言って駆け寄ってきた。
『見つかったよ。
慌てすぎだよ、クラーク。』
オズワルドはクスクス笑いながら答える。
『これがその書物なんだ。
ここの部分。』
オズワルドがそう言って書物の一部を指差す。
「...
読めない。
この書物、やたら古くないか?
読める部分もあるけど、古過ぎて理解出来ない。」
クラークがシュンとしてこたえる。
オズワルドはまたクスッと笑って書物の内容を教える。
クラークに起きている現象は魔力が多い者に極稀に起こる現象らしい。
普通の人であれば魔力は魔臓に貯蔵され、貴族でも平民でも血に含まれる魔力量に差はあまりない。
しかし、魔力が多いため、血に含まれる魔力量が多くなってしまうことがある。
そうすると普段から多くの魔力が体中を流れていることになり、上手く魔力を捉えることが出来なくなる。
結果、クラークのように構築する際の魔力操作
が上手くいかなくなるということだ。
そういった者には他の人から魔力の干渉を受け、自分の魔力をしっかりと認識してもらう必要がある。
しかし、これが難しい。
繊細な魔力操作が出来る人でないと対応出来ないのだ。
他人の魔力というのは反発する。
魔力を他人に流す際には肌に触れる必要があるのだが、ただ普通に流しただけでは、受ける側はあまりの気持ち悪さに触っていることが出来ない。
なので、魔力を流す側が相手の魔力に波長を合わせなければならない。
しかし、完全に合わせてしまえば、それは受ける側の魔力と同じになってしまうため不都合が起きる。
先ず、受ける側の魔力と混合し、受ける側は魔力過多でフワフワといった感覚になり、乗り物酔いのように気持ち悪くなる。
次に、同じ魔力のため魔力を捉えることは出来ないのだ。
というわけで、相手と同じではないが、相手が気持ち悪くならない程度の波長にし、それを相手の体全体に巡らせ、相手の魔力を包み込むように操作する必要がある。
ここまで説明して、クラークは顔を青くさせる。
「そんな繊細な魔力操作出来るやつなんて中々居ないんじゃないか!?
王国魔法士の人とかなら出来るかもしれないが、私的なお願いなんてとてもじゃないが出来ないぞ!
俺はこのままじゃ一流の騎士になることは出来ないってことか!?」
『大丈夫だよ。
クラーク。
私が出来る。
リンネアから魔力操作について習ってから毎日練習してきたんだ。
それぐらいの操作は出来るよ。』
クラークは一転して明るい顔を見せる。
「本当か!?
頼む!
やってくれ!!」
『もちろんだよ。
でも、魔力を扱うんだ。
万が一を考えて場所を移そう。』
そう言って鍛練場へ移動する。
ここなら広いし、壁が魔力耐性の魔方陣が組み込まれた巨大な魔道具になっているため問題ない。
早速クラークの手を握って始める。
『もし、気持ち悪くなったらすぐに言ってね。』
「ああ、わかってる。
よろしく頼む。」
クラークの体に魔力を流し、クラークは魔力を捉えようと頑張る。
数時間が経過し、オズワルドは魔力を流すのをやめる。
『今日はここまでにしよう。
焦っても直ぐに出来るものでもないし。』
「そうだな。
でも、自分の魔力が少しわかった気がする。
1人でも練習しておくよ!」
今日はそのままお開きにした。
そして、何度か魔力干渉を繰り返す。
クラークへの魔力干渉も終わりの日がやってきた。
「そろそろ大丈夫そうだ!
構築もかなり楽になった。」
『そうか。
ならよかったよ。
じゃあ、今後は皆と同じように魔力操作の練習だけでよさそうだね。』
「ああ!
本当にありがとうな、オズ。
オズは俺の一番の親友だ!」
そう言って、ギュッと抱き締めてくる。
オズワルドも抱き締め返す。
『ありがとう。
私にとってもクラークはとても大切な親友だよ。
役に立ててよかった。』
オズワルドの言葉にクラークは照れる。
「もし、オズが何か困ったら相談しろよな。
絶対力になるから!」
そう言って帰っていった。
相談しに来たときとは全く違う、晴れ晴れとした笑顔になっていたことに安心するオズワルドなのであった。
今日は冒険者ギルドのやってきた。
コルが10歳になったため、バッジを更新し、依頼を受けてみようと思ったのだ。
別にお金を欲しているわけではないので、混雑している早朝を避けた。
掲示板を確認し、報酬は安めだが興味惹かれる採集依頼を2つ受けることにする。
カウンターへ行き、バッジと依頼札を提示する。
「2人で依頼を受ける。
俺のバッジの更新も頼む。
Eランクになるはずだ。」
コルがそう言うと、受付嬢はバッジがかざされた道具に触れすぐに対応してくれる。
「確認が取れましたので、バッジの更新をさせていただきました。
依頼の手続きをしますので、お連れ様もバッジをかざして下さい。」
オズワルドがバッジをかざし、無事に依頼を受けることができた。
森へと到着し、弱い魔物を無視して奥へと進む。
珍しい木の実と、間違えやすい薬草の採集だが、アンバーの目を借りて木の実を見つけ、薬草マニアといってもいいほどのオズワルドが薬草を見つける。
そして、オズワルドが集中できるように魔物はコルが倒す。
今日は様子見で2つしか受けなかったが、思ったよりも早く終わってしまった。
勿論これはオズワルドが規格外だからなのだけれど。
普通であれば1つの依頼で1日がつぶれる。
他の薬草も採集して、17時頃には帰ってきた。
冒険者ギルドが混雑する少し前の時間のため、依頼完了の受付も思ったより待たされなかった。
帰ろうとしたところに声がかかる。
「オズ!コル!
久しぶりだね。」
セオだ。
『久しぶりだね。
セオも依頼が終わったとこかい?』
「そうなんだ。
今からカウンターに行くんだけど、少し待っててくれない?
ちょっと話したいんだ。」
『いいよ。』
セオは急いでカウンターへと向かう。
そんなに時間がかからず戻ってきた。
「お待たせ。
実はちょっと前にEランクにあがったんだ!」
『そうなんだ。
おめでとう。
セオは実力はあったからね。
場慣れしたらすぐだと思ってたよ。』
オズワルドがそう言うとセオは照れたように笑って続ける。
「ありがとう。
それで、オズたちが良ければ一緒に依頼を受けれないかなって思って。
僕、一緒に依頼を受けれる知り合いがいないんだ。」
冒険者はなるべくパーティーを組むように推奨されている。
しかし、セオは同じ研修を受けた中ではかなり動きがよく、ランクアップが早かったため、知り合いが出来なかったのだろう。
『もちろんいいよ。
しばらくは予定ないからいつでもいいけど、どうしようか?』
「本当?
じゃあ、急だけど明日でも大丈夫?」
『いいよ。』
セオは文字が読めないらしく、オズワルドの判断で受ける依頼を決めていいと言われた。
明日、朝の5時の集合の約束をしてわかれる。
翌朝5時。
冒険者ギルドには沢山の人で溢れていた。
皆少しでも良い条件のものを見つけようと必死だ。
低ランク者では文字を読める者が有利だ。
読み上げるのを待つよりも早く選べるからだ。
ランクが上がるにつれ文字を読めるものが増えるため、取り合いは激しくなる。
オズワルドは昨日の具合から考え、5つの依頼を受けることにする。
依頼札を持って行くとセオが驚いていたが、オズワルドに任せると言ったためか、特に何も言わずに受付を済ませる。
昨日同様、アンバーも手伝いながら依頼をこなしていく。
セオは魔物を前にしてもオドオドすることがかなり減っており、確実に魔物を仕留めて行く。
それに向上心に溢れ、わからないことはオズやコルに聞きにくる。
そんなセオに好感度が増す。
依頼は多かったものの、3人と1羽で協力し、夕方には全て完了した。
報酬を3等分しようとすると、セオが断ってきた。
「僕が一番役に立ててなかったから少なくていい。
それでも、昨日稼いできた分より多くなると思うし...」
しかし、オズワルドもコルも受け入れない。
『魔物の多くはセオが引き受けてくれたじゃないか。
だから私たちが集中して採集できたんだ。
こらからも一緒に依頼を受けたいので、対等でいたい。』
「そうだ。
俺だって初めは教えてもらったんだ。
知らないことは学んで力をつけたらいい。
後々、その力で俺たちを助けてくれればいいさ。」
セオは2人の言葉にようやく遠慮しながらも受けとる。
こうして、セオやシュティ、ステファニーと一緒に依頼を受けたり、たまにお茶会に顔を出す日々を送った。
勿論、勉学、鍛練、研究も忘れない。
いつの間にかセオのメイン武器は槍にかわり、シュティとステファニーとパーティーを組んでいた。
オズワルドは投げナイフ、コルは弓矢を何とか実戦で使えるようになった頃、11歳も終わりを迎える。