17
5日後。
再び冒険者ギルドにやってきた。
カウンターにてバッジを提示し、初心者研修2回目と告げると、前回と同じ部屋へ行くように言われる。
部屋にはオズワルドを含め10人。
しかし、半分は前回居なかった人たちだ。
今回女の子は1人で、前回にも居た子だった。
講師は同じくベス。
ヤル気のない座学が約2時間。
その後には前回向かった平原の奥にある森へ向かう。
今日はFランクの常時依頼であるネズミに似た魔物、マースの討伐だ。
マースは見た目こそネズミだが、サイズは小さめのネコぐらい。
雑食で繁殖力が強く、放っておくと何でも食べてしまう。
身体強化を使った素早い動きと、指ぐらいなら簡単に食いちぎる前歯にさえ気をつければ問題なく倒せる。
身体強化は弱いものなので、慣れればそんなに早くないし、慣れないうちでも魔力切れを待てばいい。
魔力量が少ないのですぐに魔力切れになるのだ。
森へと到着し、ベスが「お前から行け」と先頭を歩いていた14歳くらいの男の子に言う。
男の子はちょっと顔を青くさせ、キョロキョロと森を歩く。
そのすぐ後ろにダルそうに、しかしいつでも攻撃できるように剣に手をかけたベスが続き、少し距離を置いて皆がついていく。
すぐにマースは現れ戦闘になる。
男の子は剣を構えるも腰が引けている。
マースの動きに翻弄され、剣を振るも当たらない。
マースの反撃を転ぶように避ける。
マースの動きが鈍ったところでやっと剣が当たる。
まだ生きてはいたが動けない状態になっており、しっかりと止めを刺す。
男の子はかなり疲れた様子で呼吸が乱れていた。
「グズグズするな。
倒せたらすぐに魔石を回収し、死体を処理しろ。」
ベスがそう言うと慌ててナイフを取り出し、魔石を回収する。
死体は穴を掘り、埋めれば完了だ。
マースは特に使える部分がない。
肉は食べれるがまずいので、基本魔石を回収して処分される。
そのあとベスからのダメ出しがあり、次へと進む。
次も似たようなものだった。
3番目の男の子が戦っているとき、別のマースが現れた。
そのマースに唯一の女の子が戦うように指示される。
女の子は慌てた風でもなく、剣を抜きマースと対峙する。
先に動いたのはマースだ。
向かってきたマースを危なげなく避けると、剣を一振り。
マースはその一振りで倒された。
彼女も剣の心得があったようだ。
「いい動きだった。
マース程度であれば全く問題ないだろう。」
ベスさんからの言葉も誉め言葉だ。
その後はまた相変わらずのぎこちない戦闘を見る。
しばらくしてシュティの番になり、シュティも女の子同様危なげなく討伐する。
コルも言わずもがな。
遂にオズワルドの番がやってきた。
初めての魔物討伐に緊張するかと思っていたがそうでもない。
勿論緊張はしているのだが、無駄に力が入るような緊張ではなくいい感じだ。
今までの戦闘を見てきたのでマースの動きは見極めている。
サクッと終らせる。
マースを処理する際、魔法で穴を掘った方が早いのだが、研修中は基本的に魔法禁止だ。
魔力が使えない状態を知っておかなければならないからだ。
オズワルドも皆と同じく穴を掘り、マースを埋める。
「ふむ。
お前に言うことは特にないな。」
ベスさんはそう言うと、次の人へと移る。
その後も全くの初心者が続く。
時折現れる他の魔物はベスさんが討伐する。
といっても、ここは森のかなり浅い部分。
出てくるのはマースとウサギのようなビットという弱い魔物くらいしか出ない。
すべての人が終わる。
「お前ら4人は特に問題ない。
討伐は他のやつに譲れ。
目の届く範囲で薬草の採集でもしておけ。
戦闘中に現れた魔物なんかは狩ってもいいが、状況判断を間違えるなよ。」
ベスさんがそう言って4人以外の研修を続ける。
4人とは勿論オズワルド、コル、シュティ、そして唯一の女の子だ。
4人は少し後方で研修の後をついていく。
「私、ステファニー。
よろしくね。」
唯一の女の子、ステファニーが話し掛けてきた。
ちょっと勝ち気な感じの子だ。
それぞれ挨拶を返す。
ステファニーもオズワルドと同い年だった。
簡単に挨拶はしたものの森で談笑するわけにもいかない。
各々薬草採集などに勤しむ。
シュティとステファニーは剣の腕前はそこそこだが、森歩きには慣れていないようで手間取っている。
コルも森には慣れていないが2人よりはマシだ。
オズワルドはバッハシュタイン領で慣れているので、特に問題なく薬草採集をする。
自分で使うのが目的だ。
冒険者ギルドに帰ってきたのは16時前。
初めての戦闘、慣れない森で皆はグッタリしている。
オズワルドは少し疲れたものの特に問題はない。
コルも比較的元気な方だ。
魔石も薬草と同じように買い取ってもらう。
魔石にも品質がある。
魔物の種類や個体差も勿論だが、討伐にどれくらい時間がかかったのかも重要だ。
討伐に時間がかかればかかるほど、魔物は魔力を消費する。
魔力を消費した分だけ魔石の価値が下がるのだ。
マースは底辺の魔物。
元より魔石の価値は低い。
魔石1つで銅貨1枚の価値しかない。
それなのに討伐に時間がかかり、更に価値が下がったものは複数個で銅貨1枚になる。
銅貨1枚では硬い黒パンを1つ買える程度だ。
無事換金も終わり、ベスがオズワルドに言葉をかける。
「次回は魔梟も連れてこい。
連係の練習も必要だ。」
そして解散となった。
シュティとステファニーは次回以降、全ての研修にも参加するそうだ。
軽く会話して別れる。
そして3回目の研修は森で採集しながらマースとビット討伐の練習を。
4回目は複数人で連係を取りながら戦う練習を行った。
魔梟であるアンバーは注目を集めていたが、特に絡まれることもなかった。
というのも、オズワルドは殆ど放置され、あまり他の人と関わることがなかったからだ。
シュティから
「わお!
魔梟なんて珍しいもの従えてるんやな。
運いいな!」
と、軽い感じで言われ、
ステファニーから
「すごい!
フワフワだぁ。
いいなぁ。
可愛い...」
と、いつもは少し吊り上がった目尻を下げ、羨ましいがられたくらいだった。
オズワルドとアンバーの連係については、かなり意志疎通ができるようになっているので問題ない。
むしろ、マースやビットでは弱すぎる。
そんな研修も今回が最後だ。
今回は森の少し奥まで進み野営する。
研修参加者は9人。
講師は3人。
3人ずつに分かれ、それぞれに講師が1人つく。
オズワルドはコルと大人しそうなちょっとぽっちゃりな男の子と一緒だ。
講師は逞しい身体で、腕や顔のいたる所に小さな傷がある。
槍を背負い、帯剣してある。
「オレはヴァル。
一応Bランクだ。」
ニヤリと笑いながら講師、ヴァルさんが挨拶する。
それに対し、オズワルドを始めにしてそれぞれ挨拶する。
男の子の名前はセオ。
目をキラキラとさせながらヴァルさんを見ている。
Bランク冒険者といえば一流冒険者だ。
多くはCランクで終わる。
Cランクでも贅沢は出来ないが家族を養えるだけの稼ぎはできる。
Bともなればそこそこ裕福な生活ができるようになる。
因みにDランクは半人前、Eランクが駆け出し、Fランクは駆け出しにもならないお試しといったところだ。
Aランクは一流を超えた超一流だ。
王都にも2人しかいないのだとか。
セオが目をキラキラさせるのもわかる。
オズワルドも尊敬の目を向ける。
今日は座学はない。
他のグループと少し時間をあけて出発する。
オズワルドたちは最後だ。
森に到着し、今まで入ったことのない奥へと足を進める。
セオは少し落ち着きのない様子だ。
この研修は今まで習ったことを全て使わねばならない。
トラブルが起き予定外に野営となった場合を想定しているため、食料や水は最低限だ。
先ずは水の確保、そして食料調達。
薪になる枝集めや野営地の選定もある。
ヴァルさんは特に何もしない。
どうしても危なくなった時だけ手を出すのだ。
今までより少し奥、Eランクになったら入るエリア。
マースやビット以外の魔物も出てくる。
蛇の形をしたスネク、蜘蛛の形のパイーダ。
それらを3人とアンバーで協力して倒しながら進む。
セオはビビっており命中率は高くないものの、当たれば力が強く1発で仕留めている。
今もセオがビットを倒したところだ。
「やった!
ビットを今日の夜ご飯にしよう。
僕、一応捌けるから。」
セオが言う。
『それは助かるよ。
私は知識はあってもやったことはないんだ。』
オズワルドはお礼を述べ、お願いする。
ビットはその場で血抜き、解体。
殺菌効果のある大きな葉っぱ、ラプに包んで持っていく。
運良く湧水を発見した。
「水の確認は私がしましょう。」
そう言ったのはコルだ。
匂いや見た目に問題がないことを確認し、少し口に含む。
味や痺れなど変なとこらがないかを確かめた後飲み込む。
30分程経っても異常なければ飲み水とする。
水場には色々な生き物が近寄ってくるため、水場から少し離れた木々があまり密集していない部分を野営地とした。
食べ物のメインは先ほど狩ったビット。
そして、道中で見つけた小さな木苺のようなものや木の実だ。
これはオズワルドが見つけた。
薪になる枝を拾う。
1人が警戒し、その近くで2人が拾う。
単なる枝拾いと馬鹿にすることなかれ。
きちんと選ばないと火がつかないのだ。
拾った枝を組み、火をつける。
この火をつけるのが大変だった。
習うのと実際にやるのでは全然違う。
火打石と火打金を打ち付け、火種となる火口に火花を飛ばし火をおこす。
消えないうちに素早く組んだ枝へ火をつける。
火が着きやすいよう松ぼっくりに似た実を置いて、そこにつける。
火口とは燃えやすいように細工された小さな布のことである。
3人で何度か試し、オズワルドが火を着けることに成功した。
因みにこの一連の流れが役に立つことは滅多にない。
平民でも小さな火種を起こす基本魔法が使えるからだ。
しかし、魔法が使えない状況になったときに経験がなければ難しいため、研修で一通りできるよう習うのだ。
無事、焚き火も出来たため、肉を枝に刺し、焼いて食べる。
味付けはないので美味しくはないが、まぁ食べれる。
食べ終わった頃には辺りは薄暗くなっていた。
セオはすっかり疲れた顔になっている。
『少し早いですが休みましょうか。
最初にコル、次に私、最後にセオが見張りをしましょう。』
そうオズワルドが提案すると、セオが少しホッとした顔をする。
「ありがとう。
オズが一番キツイと思うけど、よろしくな。
じゃあ、お言葉に甘えて休むよ。」
そう言うと近くの木にもたれ掛かるようにして眠りの体勢になる。
余程疲れていたのだろう。
オズワルドも同じようにもたれ掛かる。
しばらくするとコルに起こされ、見張りをかわり、セオへと引き継ぐ。
何もなく、無事に朝を迎えた。
因みに、時計というのは魔道具のため高価だ。
オズワルドは持っているがコルやセオは持っていない。
なのになぜ時間がわかるのかというと、時間の実というクルミのような小さな実を持っているのだ。
時間の実は4等分に割れ目があり、1区画3時間で色が変わる。
1ヶ月程しか使えないが安価で手に入る。
平民はそうやって時間を確かめるのだ。
朝食は保存食で済ませ、焚き火の処理をして出発する。
「さて、今日はオレについてこい。
警戒を怠るな。
3人まとまって動けよ。」
ヴァルさんにそう言われついて行く。
セオは寝れなかったのか目には隈が出来ていた。
オズワルドとコルもあまり寝れなかったがセオ程疲れた顔はしていない。
それでも先ほどのヴァルさんの指示通り警戒し、足取りはしっかりしている。
ヴァルさんはどんどん森の奥へと進む。
Dランクエリアに入り、魔物も新しいのが出てくる。
それらを3人で相手する。
オズワルドとコルは攻撃できるが、セオは避けるのでいっぱいいっぱいだ。
危ういときはヴァルさんがフォローする。
更に奥のCランクエリアに入り、魔物も強くなる。
セオの顔は青い。
オズワルドとコルもいくら鍛練を積んでいるとはいえ、普段は人を相手にしており、獣型は慣れていない。
魔法の使用も出来ないため、アンバーの雷魔法で出来た隙をつくぐらいしか攻撃できなくなった。
そんな状況でさすがはヴァルさん。
全く余裕そうだ。
Cランクエリアで何度か魔物との戦闘を経験し、帰路へつく。
森を出るとセオがホッと肩の力を抜いた。
すかさずヴァルさんから叱咤が飛んでくる。
「気を抜くな!
いくら魔物が少ないと言えど絶対に気を抜いてはならない。
命を落とすぞ。」
その言葉に慌ててセオは姿勢を正す。
16時前に冒険者ギルドに帰ってきた。
オズワルドたちは2番目だったようだ。
全員集合まで待機するように指示される。
その間にヴァルさんからそれぞれアドバイスをもらった。
「セオは力が強いから槍の方が向いているかもしれん。
オズは素早いから重い武器はやめとけ。
コルは剣よりも格闘が向いているから短剣の方がいいだろう。
どうしても間合いが狭くなるから弓矢を鍛えてもよさそうだ。」
そんな話を聞いているうちに最後のグループが帰ってきた。
皆が集まり、しばらくしてベスさんが話し始める。
「さて、これで初心者研修は終わりだ。
シュタイナー、ステファニー、オズ、コルの4名はEランクスタートとなるので後でバッジの更新をしてもらえ。
コルが更新できるのは10歳になってからだ。
それ以外はFランクだ。
少し慣れてきたころに馬鹿をするやつが出てくる。
自分のランクに見合わない行動をすれば死ぬ。
今日、それを実感したはずだ。
肝に命じておけ。
では解散だ。」
近くにいたセオから声がかかる。
「オズ、すごいね!
いきなりランクアップだなんて!
僕も追い付けるように頑張るよ」
そのまま少し雑談する。
研修中はあまり話せなかったので知らなかったが、セオはオズワルドの2つ上、14歳だった。
大柄なため成人くらいに見えていたので驚いた。
「じゃあ、オズはバッジの更新に行くだろう。
僕のランクが追い付いて、一緒に依頼を受けれたら嬉しいな!
またね。」
『そうだね。
一緒に依頼を受けれるのを楽しみにしているよ。
また会おう。』
セオと別れ、カウンターにてバッジの更新をしてもらう。
すでにシュティとステファニーは更新を終えたようで、2人で話しているのが見える。
オズワルドたちもそこに向かい、雑談に加わる。
「オレたちパーティーを組むことにしたんだ!
オズたちもどう?」
シュティが言う。
「そうね。
オズたちは実力もあるし、いいと思うわ!」
それにステファニーも賛成する。
『誘ってくれてありがとう。
でも、私たちはメインで冒険者をするわけじゃないから、来れないこともあると思う。
遠慮しておくよ。』
「そういえば趣味って言ってたもんな。
残念だけど仕方ないな。」
「そうね。
タイミングが合えば一緒に行きましょう!」
『ありがとう。
そのときはよろしくね。』
そんな会話をして別れる。
コルが10歳になればバッジを更新して依頼をいくつか受けるつもりだ。
異世界の冒険!
ワクワクする!