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いよいよ10歳の誕生日だ。


貴族は10歳からお茶会へ参加するようになる。

なので、10歳の誕生日には出来るだけ沢山の貴族を招待する。

“我が子が10歳になったのでお茶会へ招待して下さいね”とアピールするのだ。

特に長子は。


逆を言うと、下の子程規模が小さくなる。

お金のない貴族はそれが顕著に表れる。

招待客が増えれば増える程お金がかかる。

場合によっては長男だけということもあるほどだ。


だがこれは普通の貴族の話だ。

バッハシュタイン家は違う。

5歳のお披露目会と同様、親族と親しい友人ぐらいしか招待しない。


今回の誕生日にも前回招待した人に加えて、ギル、クラーク、ケリーぐらいしか招待していない。


お父様とオズワルドは挨拶を終え、滞りなくパーティーは進む。

それぞれから挨拶を受けるが、一度挨拶したことがある人ばかりなので楽なものだ。


次はケリーがやってきた。

ケリーの横の人は始めて見るが、ケリーに何となく似ているのでケリーの父だろう。


「やあ、オズ。

10歳、おめでとう!」


ケリーがそう言った後に紹介してくれ、やはりケリーの父だった。


ケリーの父は名乗りの挨拶が終わるとお礼を言ってきた。


「オズワルド様のおかげで助かりました。

私は息子の夢を潰さずに済んだのです。

直接お礼を伝える機会があってよかったです。

本当にありがとうございます。」


『いえ、私は軽く助言しただけです。

頑張ったのは本人ですから。』


ケリーを見る目は優しく、親の愛が表れている。

あのときはちょっと強引だったが、ケリーも明るくなったし、動いてよかったと思う。



さて、その後も挨拶を受けたり談笑して過ごし、夕方前には解散した。



こうして無事、10歳の誕生日パーティーは終わった。

これからしばらくは忙しくなる。


バッハシュタイン家はあまり社交の場へは出ていかないが、出来ませんでは困る。

なので、まだ親同伴の10歳から度々招待を受けることとなる。


オズワルドもこれから届くであろうお茶会への招待に顔を出す。

選び方は適当だ。

悪い噂が多いものは弾くが、あとはババ抜きをするかのように選ぶ。


バッハシュタイン家が社交に出る機会は少ないため、ここぞとばかりに大量の招待状が届くのだ。





いくつかのお茶会へと顔を出したが特に難しいことはなかった。


そもそも前世では50歳手前まで生きた。

その年まで生きれば色々な人と出会う。


笑顔で近付き耳障りのいい言葉を並べ騙すような人もいた。

女性社会ならではのネチネチとしたものも経験済みだ。


貴族社会だってそんなに変わらない。

相手の真意をはかり間違いしなければいい話だ。

それに、相手にするのは殆どが子どもだ。

全く持って問題ない。


そして、思ったよりもすり寄ってくる者は少なかった。

多くの者は頬を染め、チラチラと見ていることはわかる。

しかし、その者が動こうとすると別の者が牽制するような視線を投げる。


たまにすり寄ってくるも、おべっかを延べてくるような者、バッハシュタイン家の威光を借りたい者などと付き合うつもりもない。

口元だけの笑みを浮かべ無言で相手を見ていれば、相手は段々と勢いを失くし離れて行く。


そして、それを見ていた者は気軽に声をかけてこなくなる。


勿論、それだけでは社交と言えないので自分からも声をかける。

しかし、バッハシュタイン公爵家という家名に加え、オズワルドの整った容姿に惹かれる者が多く、中々付き合って行きたいと思うような人は現れない。


別に家名や容姿ではなく自分を見てほしいという青臭いことは思っていない。

それを切っ掛けに徐々に知ってもらえればいいのだが、インパクトが強すぎるのだろうか...

どうしても媚びてくる者ばかりだ。

媚びてくる者が悪いとは言わないが、オズワルドもバッハシュタインを名乗るからには責任が生じる。

それを考えるとお付き合いは出来ないという結論に至るのだ。


それに、招待する側は招待客の家格に合わせて準備しなければならない。

自然とオズワルドが招待されるのは伯爵家以上となる。

中途半端な上位貴族になると上の者に従いつつも、あわよくば取り込み、自分の地位を上げようと考える者も多い。

子どもたちはよくわかっていなくとも、後ろには必ず親がついている。


その親の思惑まで見破らねばならないため安易に近付くことは出来ないのだ。


そんなこんなで、そこそこお茶会へ出席するも友人は増えていなかった。




そんな詰まらないお茶会の日々だったが、今日は楽しい1日になることが決まっている。


今日は気が置けない友人たちが集まる。

つまり、カートにギル、クラークにケリーだ。

全員が集まるのは初めてではないだろうか。


ケリーもそれぞれと面識がある。

勿論オズワルド繋がりだ。

ケリーは明るくなったとはいえ、まだ引っ込み思案な性格のため、まだそれぞれと気安い間柄とはいかない。

けれど、それなりに打ち解けているので時間の問題だろう。



ほぼ同時刻に集まり、客室へと案内する。

お茶とお菓子で雰囲気が緩み、話しも弾む。


話が一段落したときにカートが新しい話題を出す。


「もうすぐ王宮でのお茶会があるな。

オズは婚約者はいないだろう?

色々なところから申し出はあると聞いているが断っているらしいな。

お茶会で群がられるのではないか?」


王宮のお茶会とは10歳の子どもを集めたお茶会だ。

12歳で王立学園と入学する前に交流しましょうというイベントである。

そして、殆どの貴族が参加することから結婚相手を探す出会いの場とも言われている。


『そうなの?

そういった申し出はお父様が管理しているから、私はよく知らないんだ。


知っての通りバッハシュタイン家は政略結婚はしないだろう?

私もお父様からは自分でいいと思える人を連れてくるように言われているよ。

けど、今は全く結婚に興味がわかないから連れて行くつもりはないし、お父様にもそう伝えてる。


ケリーも婚約者はいないだろう?

お茶会で探すの?』



「うーん。

僕も今は結婚に興味ないし、そんなこと考える暇があれば勉強したいしね。


それに、僕は三男だ。

従兄弟が僕のことを引き合いに出して話しているから、有望株ではないことは知れ渡っているし、スキナー家で騎士にならないんじゃ難しいんじゃないかなぁ。


殿下やギルベアド様、クラーク様は婚約者がいるんだよね?」


その問いにいち早く答えたのはクラーク。


「そうだなー。

俺の婚約者は幼馴染みで1つ下だからお茶会には参加しないけどな。」


その次にギルが答える。


「居ますよ。

お茶会にも参加します。


婚約者がいるとお茶会で煩わしい思いをしなくて助かります。」


そのギルの反応に少し思うところがある。

政略なので多少仕方ないとは思うが、便利なもののように扱うのはどうかと...


しかし、それなりの礼儀を持って接しているようだし、多少冷めているのは仕方のないことなのかもしれないと思い、余計なことは言わない。



そして、最後に苦い顔をしながらカートが答えた。


「そうだな。

一応、婚約者はいるし、お茶会にも参加する。」


『どうしたの?

何だか珍しいね?』


いつもは俺様の自信溢れるカートが珍しくて問いかける。

すると、「実はだな...」と歯切れが悪く語りだした。



どうやらカートは婚約者に嫌われているらしい。


カートが婚約したのは7歳のとき。


初めて会った婚約者は可愛らしく、仲良くしたいと思い、手紙やプレゼントを送った。

しかし、どれも反応がいまいち。


ネックレスを贈れば、眉間にシワを寄せながら「カート様に貰った物は着けなければ失礼にあたりますからね。」と仕方なさそうに身につける。


妃教育が大変そうだと思いペースを緩めてはどうかと進言すれば、「このようなことで音を上げるとお思いですか?私が頑張らねば恥をかくのですよ。」と返される。


時間が空いたため会いに行けば、「もっと早くお知らせしてもらわねば困ります。せめて前日までに先触れをお出し下さい。」と嫌そうに迎え入れる。


少しでも会う時間を増やそうとダンスの練習パートナーに登城をお願いすれば、「未だ未熟な私に恥をかかせるのですか?せめて半年はお時間いただかないと...」と断られる。


その後もカートの愚痴は続き、最後に

「段々と会うのが憂鬱なってきた。

お茶会を思うと億劫だ。」と締めくくる。



それを聞きながらオズワルドは思った。

別に嫌われてはいないのでは?

ネックレスだって嫌なら受け取っても着けなければいい。

妃教育ができなければ恥をかくのは婚約者のカートだ。

会いに行ったときも先に教えて欲しいと言っただけだ。

女の身支度には時間がかかる。

それをカートはわかっていないのだろう。

ダンスだって断ったのはまだ下手で嫌がっているわけではないと思う。

半年後ならいいと言っているわけだし。


しかし、実際に会ったこともない人のことを憶測で話すわけにはいかない。


カートの愚痴をただ頷いて聞くことにする。




10歳も残り1ヶ月もない。

今日は王宮でのお茶会だ。


美しい花が咲き誇る庭園にいくつものテーブルが並ぶ。

席はスタート時は位によってわけられているが、殿下が各テーブルを回った後は自由に動いて良い。


そのために余分にテーブルが準備されており、薔薇園内であれば散策も可能になっている。



オズワルドが案内された席は勿論高位貴族の席で、ギルにクラークも同じ席だ。

その他にカートとギルの婚約者、侯爵家の令嬢と子息2人が座っている。


カートは一番にオズワルドのテーブルへやってきた。

普段の俺様を抑え、にこやかな王子様モードだ。

特に深い話もせず、簡単な挨拶だけ済ませるとあとは観察することにする。


カートの婚約者である、カトリーナ公爵令嬢はクリーム色のドレスに淡いグリーンで刺繍がされている。

カートの色だ。

首もとには小ぶりだが上品なネックレスを下げている。

以前話していたカートから贈られたネックレスだろう。


さすがは公爵令嬢という気品ある振る舞いだが、よく観察しているとたまにカートをチラリと見ているようだ。


そこまで観察したところでカートは別の席へと移動する。

カートはカトリーナ嬢へと声をかける。

どうやら一緒に連れて行くようだ。


カトリーナ嬢は

「かしこまりました。

カーティス殿下が仰るのであれば行きましょう。」

とちょっと素っ気ないようにも聞こえる態度で言う。


しかし、その耳はほんのり赤くなっている。



うーん。

やっぱり、カトリーナ嬢はカートのことがすごく好きなんじゃないかな。


表情は変わらないように気をつけているし、言葉もどこか冷たい。

けれど、目線、声色、些細な仕草、そういったものを観察しているとどうもカートを好いているように思える。


言葉は冷たくとも、カートを拒否するような言葉は一度もない。

それに、カートの言動によって耳が赤くなっている。

人間、耳というのは結構わかりやすい。


いくら表情に出さなくとも、耳が赤いというのは照れていたり怒っていたりするときだ。

状況的に照れているのだろう。


あれだ、カトリーナ嬢はツンデレだ。

ツン多めの。

ツンデレと俺様か~

ちょっと相性悪いよな。

ましてやカートは10歳。

まだまだそういったことを理解できない。

良くも悪くも素直で、カトリーナ嬢の言葉をそのまま受け止めているのだろう。


ちょっとおばちゃんがお節介してあげようと思う。

やり過ぎはいけないから、ほんのちょっとだけだけど。



そんな事を考えていると、カートは半分ぐらいの席を回り終えたらしい。

席を移動している人がチラホラと出てきた。


おそらくオズワルド目当てだろう女の子からの視線を複数感じる。

今はお互い牽制しあっているようだが、今日はいつもと違って1人が話し掛けてくれば取り囲まれるだろう。


めんどくさく感じ、逃げれる所はないかと周りを見る。


ちょっと離れた席にケリーを見つけた。

ケリーのテーブルはもう1人男の子が居て話しているようだ。

ケリーの元へ向かうことにする。


ケリーが男の子と話が一段落していることを確認し、話し掛ける。


『やあ、ケリー。

少し話をしないかい?』


「久しぶり、オズ。

いいね。お話しようか。」


了承を貰えたので席につく。



ほんの少し沈黙になる。

こういった状況だと、男の子が席を立つのがマナーであるが立たない。

男の子はケリーを軽く睨み付けるように見る。

ケリーはちょっと困った感じで男の子を紹介してきた。


「オズ、こちらは僕の従兄弟のチョーイ。」


チョーイが挨拶し、オズも返す。

すると、チョーイが話し出す。


話し方こそ丁寧なものの、内容はケリーを落として自分を上げるなものだ。

簡単に言うと

“ケリーはスキナー家にあるまじき体たらくで、鍛練の厳しさに逃げ出し、騎士にはなれない。自分は才能があり、将来の有望株だから、ケリーとつるむよりも自分と居た方がためになる”

といったことを言っている。


オズは口は笑みの形のまま考える。


確かこの従兄弟は現スキナー伯爵当主の弟の子だ。

当主弟は騎士をしていたが怪我で引退。

その際にスキナー家が所有していた子爵の位を賜り、当主補佐ということで、現役騎士として活躍している当主に代わり領主代行をしている。


いくら従兄弟と言えど、ケリーは本家でチョーイは分家だ。

このような態度は如何とは思うが...


聞き流していると、ケリーからチョーイに注意が入る。

しかし、チョーイはケリーを馬鹿にしたように歪めるだけで、そのまま話を続ける。


その行為にオズは少しだけ目を厳しくする。

ようやくチョーイの話が途切れる。


『ふふ。

チョーイ卿は面白い方ですね。

とても鍛えられておいでで、ご自身の考えもしっかりと持っていらっしゃる。


私は友人と歓談しに来たのだが、取り込んでいるようなので失礼するよ。』


オズワルドは冷たい目でチョーイを見ながら言う。

訳すと

“貴族の上下もわからない脳筋野郎。

あなたとは友達になるつもりはない。

ケリーと話をしにきたのに邪魔されたので違うところへ行く。”

となる。


チョーイにもオズワルドが拒絶を示したのがわかったようで、顔を青くさせる。


「いえ、あの、私が失礼させていただきますので、どうぞご歓談下さい。」

というと、そそくさと席を立っていった。



チョーイがいなくなるとすぐにケリーが謝罪する。


「ごめんね、オズ。

チョーイは小さいときから体格が良くて、下の兄とも互角に渡り合える程なんだ。

だから、僕は勝てたことはなくて...

チョーイにとって僕は格下なんだ。」


困った顔でそう言う。


『別にケリーが悪いわけじゃないだろ。

ケリーはちゃんと注意してくれたじゃないか。

あとは本人の問題だ。


ケリーは気にしないで。』


「うん...

ありがとう。」


その後は楽しく過ごすことができ、無事お茶会は終了した。





後日、カートにカトリーナ嬢について話す。


拒否の言葉がなければグイグイ押して大丈夫。

特に耳をチェックすればわかりやすい。

とアドバイスすると、半信半疑ながら確かめてみるとのこと。


カートもこのまま距離が開くのはよくないと思っていたようだ。



その後、カートから手紙が届いた。


オズワルドの言う通り、カトリーナ嬢はカートのことを好いていた。

グイグイ押せばアワアワと顔を赤くさせるカトリーナ嬢がとても可愛い。


といった惚気の手紙だった。


カトリーナ嬢の性質がわかれば俺様カートとの相性は悪くない。

むしろ良いはずだ。


これでカートたちは問題ないだろうと一安心するオズワルドであった。

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